インタビュー
Wi-Fi・5Gのエリアを拡大する「電波散乱シート」や、「時刻が湧き出る蛇口」「宇宙天気予報」など盛り沢山
CEATECでは今年もNICTが出展、見どころは? 担当研究者が直前アピール
2026年10月8日 10:05
「CEATEC 2026」が10月13日~16日、幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催される。4日間の会期中、業界キーパーソンによるコンファレンスや交流イベントなども多数予定されているが、目玉はなんといっても会場展示。出展各社が最新技術を持ち寄り、新ビジネスの創出、事業パートナーとの交流を待ち望む、活気ある場となる。
参加するのは民間企業だけではない。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が、CEATEC主催者企画エリア「X(Transformation)パーク」へ出展。合計11の研究テーマに関する展示を行う(ホール6 ブース番号6H208)。
NICTは、情報通信分野を専門とする公的研究機関としては、国内唯一の存在だ。大学や一般企業が単独では実施できないような規模の研究を、長期的に実施する主体として、存在感を発揮している。本部を構えているのは東京都小金井市だが、研究拠点は京都府精華町、兵庫県神戸市、神奈川県横須賀市など各地に広がっている。
NICTの研究者は、研究室で研究に取り組んだり、あるいはフィールドワークを行ったりするなど、日々さまざまなかたちで活動しているが、その研究内容を発表する場の1つがCEATECである。自らブースに立って説明する時間も多く、CEATECの来場者にとっては専門家中の専門家に話を聞ける、貴重なチャンスだ。
ブースでは、最新の試作品の展示などが行われる。例えば「電波散乱シート」は室内の奥にまで電波を届けるための技術だが、オフィス・工場などの建築関係者はもちろん、一般消費者でも興味のあるところだろう。ほかにも、研究の一端を感じとれるデモンストレーションなどが行われる。
現地に着いてから「どこを見ようかな?」と探すのも一興だが、どんな展示が行われるのか、あらかじめ把握しておいたほうが効率的なのも事実だ。そこで今回は、NICTの具体的な出展内容について、担当研究者8名に直接お話を伺った(研究者の近影はNICT提供)。
電源不要の「電波散乱シート」で、奥まった室内にもWi-Fi・5Gの電波をお届け
通信技術の発展に伴って、電波の利用範囲はますます広がっている。その結果、これまではマイクロ波と呼ばれる周波数帯域の利用シーンが多かったが、近年はミリ波という、より“高い”周波数帯域の出番が増えている。
ただし、高い周波数の電波は、低い周波数の電波と比べて直進性が増す。これが良い部分ではあるのだが、柱や壁などが遮蔽物になって電波の到達が疎外されやすくなる面もある。一例として、5G携帯電話システムではミリ波による基地局運用が一部で始まっているが、複雑な構造の建物内をサービスエリア化する用途には不向きとも言われる。
こうした高周波数電波を、もっと扱いやすくできないか? 電磁波研究所の藤井勝巳氏(電磁波先進・基盤研究センター 電磁環境研究室 上席研究員)が研究を進めている「メタマテリアル電波散乱シート」は、そんなニーズを受けたものだ。文字通りシート状の物質を壁面などに貼り、電波を反射・拡散させ、オフィスや工場などの奥まった部分にも電波を届ける。電源不要で機能するのも大きなメリットだ。
CEATEC会場では、シートの試作品を展示する。0.1mm厚のPETシートに銅をスパッタ成膜するというのが基本的な構造だが、表面の一部に設けたメタマテリアル(メタサーフェス)と呼ばれる特殊構造により、どの周波数帯の電波を散乱させられるかが変わる。
藤井氏は「これまでは28GHz、300GHz帯といったミリ波向けの製品を試作してきたのですが、今まさに電波でお困りの方も多い。そこで今回の出展では、新しくWi-Fi用、5G(Sub6帯)用の電波散乱シート試作品も発表する予定です」と話している。
工場内に電波の不感地帯があると、自律移動式ロボットが室内の特定ポイントを通過したときだけ通信エラーが起きるかもしれない。これでは産業用途レベルの品質としては不十分だ。また、一般住宅でも、今後スマートホーム化がさらに進展するとみられるだけに、電波状況の改善は重要事項だ。藤井氏は、携帯電話キャリアの関係者、ネットワークインフラの構築や保守を行う事業者はもちろん、一般の方まで、多くの方にブースに立ち寄ってほしいと呼び掛けた。
「自然光デジタルホログラフィー」で、ナノメートル級の微細物の厚みを可視化
電磁波研究所の田原樹氏(デジタル光学基盤研究室 主任研究員)が手掛けるのは、単眼(1つのセンサー)で3次元のホログラフィ動画を撮影するための技術だ。
大半のカメラで撮影した写真や動画には、奥行の情報がない。つまり2次元である。奥行を判別し、データ的に付加して3次元とするためには、レーザー光を別途照射するのが一般的だが、NICTでは自然光だけで撮影する技術を磨いてきた。
研究の結果、撮影用デバイスの高機能化・多様化が進み、手のひらサイズの機器などが実現した。一般的な2次元撮影用センサーを3次元撮影に対応させるためのノウハウもあるという。
前回、昨年の「CEATEC 2025」出展の際には、本来なら肉眼では見えないガスを、LED光源でホログラフィ撮影し、可視化させる技術を展示した。その後の研究では、ヒトの細胞のような、200~300nm(ナノメートル)級の超・微細物をホログラフィ撮影し、その厚みを測定することにも成功している。田原氏は「微細な構造を撮影してすぐ測れる技術は、社会的に役立てる部分も多いのではないか」と期待感を示しており、CEATEC会場でも強くアピールする考えだ。
災害発生時でも行政サービスを滞らせない。LGWANが動く分散ネットワーク「NerveNet」
「NerveNet(ナーブネット)」とは、NICTが開発した、分散型ネットワークシステム。メッシュ状にノードを構成し、相互接続することから災害耐性が高い。この強みを活かし、地方自治体において本庁舎と出張所間をセキュアに結ぶネットワークとして、一部ですでに実運用されている。

レジリエントICT研究センターの島野繁弘氏(企画連携推進室 協力研究員)は、NerveNetの特徴の1つとして、ネットワークスライシング機能を挙げる。通常、自治体が住民に行政サービスを提供するには、「LGWAN(Local Government Wide Area Network:総合行政ネットワーク)」という閉域型の情報ネットワーク基盤への接続が事実上必須だ。セキュリティ基準は高く、災害発生時の緊急避難であっても、Starlinkの衛星インターネットそれだけではLGWANに直接接続できない。
だが、NerveNetを介在させてL2層を制御することにより、1つのStarlink回線でLGWANへの接続と避難者向けの無料Wi-Fiを同時提供するといったことが可能になる。
「ほかにも、NerveNetの核となる機器を本庁舎に置いておき、災害が発生したらリュックのようなかたちでNerveNet機器を避難所へ持ち込んで、そこでLGWAN出張所やWi-Fiスポットを構築することができる。会場ではそうした展示を行う予定です」(島野氏)。
将来的な機能拡張に向けた研究も進む。大規模な災害発生時は情報網が寸断されるため、“合同調整所”と呼ばれる拠点が設けられ、そこへ警察や消防関係の情報が集約される。しかし多くの場合、情報を手書きでホワイトボードに記載するというのが実情で、効率的とは言い難い。
同じくレジリエントICT研究センターの大和田泰伯氏(サステナブルICTシステム研究室 研究マネージャー)は、こうした状況を変えたいという。具体的には、NerveNet接続用の小型端末をドローンに搭載して飛行させ、救助現場と後方のNerveNet基地局間の通信をより安定化させる手法を構想しており、CEATECでも関連展示を行う計画だ。
NerveNetは災害対応を多分に意識したサービスではあるが、平常時においては、LGWANの端末を安価かつ容易に配備するための手段になり得る。遠方の市役所・出張所へ足を運ばなければできなかった手続きが、市民の住居により近いスポットで可能になる。その意味でも、自治体関係者に限らず、広く市民の皆さんにもNerveNetの利便性を訴えていきたいと、島野氏、大和田氏は話す。
気象・災害の最新動向をいち早く観測、AIを視野に入れた「リモートセンシング」
球形のスクリーンに立体的な映像を映し出すデジタル地球儀「ダジック・アース」を用いて、地球を中心とする宇宙規模の観測・予測に関する研究発表を行うのは、電磁波研究所の川村誠治氏(リモートセンシング研究室 室長)だ。「リモートセンシング」「地球環境モニタリング」と呼ばれる分野で、電波や光を用いたさまざまなセンサーを活用し、地球温暖化や豪雨にも関わる各種データを収集している。
観測対象は非常に幅広い。合成開口レーダー、略称「SAR」を搭載した航空機では、今年7月に発生した熊本地震に際していち早く観測を行い、地割れ等の状況把握を行った。
雨の観測に関連したレーダーとしては、MP-PAWR(マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダー)がある。国土交通省が現在運用している気象レーダー(XRAIN)は5分間隔で降雨量を計測するのに対し、MP-PAWRは30秒間隔。豪雨被害の予測精度向上などに期待がかかる。
CEATEC会場では、前述のダジック・アースのほか、MP-PAWRや雲観測衛星EarthCAREの模型なども展示予定だ。
川村氏は「我々は沢山の種類のセンサーを持っており、データ量も非常に多いです。これからのAI開発においては、データの豊富さが重要になってくるでしょうから、CEATEC会場でもそこは強く訴えていきたいです」と述べている。
「宇宙天気予報」で何が変わる?衛星測位や航空ルート設計にも影響する太陽フレア問題
電磁波研究所の西塚直人氏(電磁波先進・基盤研究センター 宇宙環境研究室 主任研究員)の研究テーマは「宇宙天気予報」だ。
太陽フレア(太陽表面上の爆発現象)によって電気を帯びたガスの塊などが放出され、それが遠く地球にまで届き、オーロラや磁気嵐を起こすことが知られている。磁気嵐はGNSS(GPSをはじめとした衛星測位システムの総称)の精度、航空機のルート設計にも影響するため、その発生をいち早く予報することの意義は大きい。例えばGNSSの精度低下は、農業における自動運転トラクターのルートエラーを引き起こし、ともすれば収穫量の低減にも繋がる。
西塚氏らは、観測、シミュレーション、AIなどを組み合わせて、宇宙天気予報の高精度化・分かりやすさ向上に取り組んでいる。2025年6月には、宇宙天気イベント通報「SAFIR」をリリース。観測値をそのまま公表するものから、「通信放送分野では使用不可の可能性あり」「衛星運用では注意」「航空機における被ばく量増の懸念なし」など、社会的影響を念頭に置いた情報発表が始まった。あわせて、発表される宇宙天気予報に対してどう行動すべきかをガイドラインとしてもまとめた。
CEATEC会場では、デジタル地球儀「ダジック・アース」によるリアルタイムの太陽の様子などを展示しつつ、こうした取り組みを民間企業などにしっかりアピールしていくが、中でも西塚氏の期待感が高いのは、宇宙天気予報に関するデータをAPIとして外部に配信するサービスだ。宇宙ビジネスの時代が本格到来すれば、宇宙天気予報の重要性、ひいてはAPIによる情報取得迅速化の必要性も高まる。
「航空、測位、あるいは保険といった業界も今後は関わってくるかもしれません。展示を通じて、そうした企業の皆様ともマッチングできれば」(西塚氏)。
高精度な時刻同期は「インフラを支えるインフラ」――「時刻が湧き出る蛇口」を出展
時刻をいかに同期させるか。これはIT時代において、極めて重要な課題だと説明するのは、電磁波研究所の井戸哲也氏(電磁波先進・基盤研究センター 時空標準研究室 室長)。モノとモノの通信、さらにはオンライン商取引に至るまで、多くのデジタルシステムが、時刻が同期していることを前提に動いているからだ。
「放送や電力(送配電)は、正確な時刻を前提としたインフラなので、時刻はある意味で『インフラを支えるインフラ』でもあるんです」(井戸氏)。
例えば自社の建物内などエリア限定で高速無線ネットワークを構築する「ローカル5G」では、機器間での正確な時刻同期が必須とされる。しかしビル内・地下街・トンネルなどでは、時刻取得のためのGNSSアンテナを屋外に出せず、結果としてローカル5G導入をあきらめるケースすらあるという。有事の際には、GNSSへの妨害電波が飛び交ってGNSS機器が機能しない可能性を考慮しなければならない。
井戸氏が室長を務める時空標準研究室は、原子時計をベースとする「日本標準時(JST)」の発生・供給を担う部門である。これに付随して、より高精度な時刻供給を行うための技術開発も行っている。その1つが「分散時刻同期技術」。ある1個の時計だけに頼った時刻供給は、万一の故障・トラブルへの対応力が低い。そこで分散体制にさせたいが、すると同期が課題になる。これを超小型原子時計、無線双方向時刻比較(Wi-Wi)、クラスタクロックといった技術で解決しようというアプローチだ。
光ファイバー網によるJST供給の研究も始めた。一般的に、正確な時刻の取得で最も頼られている手段はGNSSだ。位置を判別するため三角測量が行われるが、そこではどうしても正確な時刻同期が必要になる。とはいえGNSSがシステム全体としてダウンする可能性はあり得る。これが光ファイバーでもJSTを取得できれば、リスク分散効果は大きい。
光ファイバー網によるJST供給機能のイメージを紹介するため、CEATEC会場ではジュースの出る蛇口ならぬ「時刻が湧き出る蛇口」が展示される。蛇口部分にEthernet端子が設けられており、そこからはPTP(Precision Time Protocol)によって時刻を取得できる。
“サイバーセキュリティ自給率”の向上に寄与。産学官で知見を共有する「CYNEXアライアンス」
サイバーセキュリティ研究所の安田真悟氏(サイバーセキュリティネクサス CYNEX研究開発運用室 室長)が紹介するのは、「CYNEXアライアンス」だ。同研究所やアライアンス参画組織で得られた知見、啓発コンテンツなどを集約し、産学官でより一層活用していく取り組みである。
事例の1つに、ダークネット観測システム「NICTER」で得られたデータの共有がある。NICTでは2005年から継続的にサイバー攻撃の観測を行っており、約20年に渡ってデータを蓄積している。CYNEXアライアンスでは、NICTERのダークネットデータを中心とした観測データの提供を行っており、現在は5組織の研究開発に役立てられている。
人材育成関連では、ナショナルサイバートレーニングセンターと連携。学習用コンテンツを参画組織へ提供し、教育機関では授業の教材として活用されているほか、サイバー攻撃対策の訓練・演習をビジネスとして手掛ける企業などにも利用されている。現在は約80の組織が利活用し、年間で2000人程度が関連の講座を受講する規模という。
サイバー攻撃対策は、海外発のサービスでまかなわれるケースが多い。農産品ではないが、言わば“サイバーセキュリティの自給率”が低い状況とも言える。安田氏は「我々の取り組みは、サイバー攻撃の防御に対する自給率の向上にも寄与できるものです。国内の企業、セキュリティベンダーなど、興味がある方はぜひブースに足を運んでいただければ」とアピールする。
CEATEC会場では、アニメ「攻殻機動隊 SAC_2045」の世界観でセキュリティ知識を学べるゲーム型コンテンツ「WarpDrive」関連の展示も実施する。ウェブを通じてすでに無料配布されているサービスで、利用規約への同意が前提とはなるが、AndroidアプリやChromeブラウザーの拡張機能を通じてユーザーの実際の検索履歴や訪問ページを分析。サイトのリダイレクトなどが複雑に絡む、サイバー攻撃の実態をより詳細に観測できるとしている。
このように、NICTのブースは盛り沢山の内容となりそうだ。繰り返しになるが、専門機関による最新研究を目の当たりにする機会はそうそうない。未来はどう変わっていくのか。そのヒントがCEATEC、そしてNICTのブースにはきっとあるはずだ。ぜひ、会場で直接触れてみてほしい。今年は、ピッチ形式の短時間プレゼンも実施される。
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