インタビュー
CEATECで体験できる新概念「インターバース」と「人間拡張」の最前線。会場で食べられる『ダンジョン飯』の再現食から、重さを感じるVRまで
「文字で説明しても伝わらない」展示が目白押し
2026年10月9日 12:25
10月13日~16日に幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催される「CEATEC 2026」。国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)を中核とした「インターバース社会実装推進メタコンソーシアム」と、株式会社NTTドコモが参画している「人間拡張コンソーシアム」の共同出展ブース(ホール6 ブース番号6H242)は、来場者が体験可能な最新技術の展示が目白押しだ。現実世界と仮想空間がつながり、融合する未来の社会である「インターバース」と、人の身体能力や知覚・体験を拡げる「人間拡張」をテーマに、2つのコンソーシアムが取り組んできた研究成果が一堂に展示され、それらを実際に体験できる。
具体的には、ゴルフスイング時の腕の力加減をセンサーで計測し、プロのスイングと比較したり、イルカやアザラシ、恐竜などに触れたときの感覚を、触覚デバイスを通じて体験できたりするほか、3Dフードプリンターを活用した新たなフードテクノロジーの紹介として、人気マンガ/アニメ『ダンジョン飯』に登場する「マンドレイクの甘露煮」が試食できるというレアな体験も用意されている。
食やヘルスケア、スポーツ、まちづくり、地域コミュニティ、遠隔コミュニケーション、触感デザインなど、幅広い分野での体験が可能であり、会期中にぜひ訪れてみたいブースの1つと言える。
「インターバース」は日本の強み。社会実装に向けて、内閣府の国家プロジェクトとも連携
「インターバース社会実装推進メタコンソーシアム」は、内閣府が推進している国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」と連動した取り組みの1つ。SIPは、日本の経済および産業競争力にとって重要な課題として、14の課題を選定。それぞれにプログラムディレクター(PD)を配置し、基礎研究から実用化、事業化までを一気通貫で推進している。現在は第3期の活動に入っており、最終年度に向けて、それぞれ社会実装に向けた取り組みを加速しているところである。
その課題の1つである「バーチャルエコノミー拡大に向けた基盤技術・ルールの整備」は、インターバース産業の発展および世界市場牽引を目指し、インターバース技術に取り組んでいるものだ。社会実装に向けた戦略や戦術の具体化、各ステークホルダーのシナジー創出の場を提供する役割を担っている。
「インターバース」の名付け親であり、SIPではPDを務めている産総研の持丸正明氏(人間社会拡張研究部門付 フェロー)は、「インターバースとは、現実世界である『ユニバース』と、仮想空間である『メタバース』が交わり、価値が相互に循環する新たな世界観を指す。仮想空間での成果をもとに現実世界を動かしたり、仮想空間での価値を現実世界の価値に変えたりといった取り組みを通じて、課題解決と新事業創出につなげ、豊かな暮らしの実現や、フィジカルAIに代表される価値創出を目指すことになる」と語る。
また、「インターバース社会実装推進メタコンソーシアムでは、ユニバースとメタバースをつなぐインターバースの可能性を広げ、その技術の社会実装を目指している。技術やビジネスモデルの創出だけでなく、法整備や標準化、社会受容性、人材育成を含めて市場形成をしていくことになる」という。
インターバースは、航空宇宙・防衛産業・小売業・自動車産業・教育などを対象に市場が形成され、2033年には国内で1.6兆円の規模になると想定されているという。
「日本は、センサーや家電、生産財などのハードウェア、これらから収集するデータ、暗黙知として蓄積されているナレッジなどにポテンシャルがある。仮想空間において、これらの価値を拡大させ、インターバースを実現できれば、世界のなかでも重要なポジションを担うことができるだろう。今話題のフィジカルAIも、インターバースの1つに位置付けることができる」と、インターバースにおける日本の強みを指摘した。
人間拡張基盤「FEEL TECH」をNTTドコモが提供
一方、「人間拡張コンソーシアム」も、SIPの「バーチャルエコノミー拡大に向けた基盤技術・ルールの整備」の一環として発足。人間拡張技術の接続検証や実証実験、国際標準化、情報発信などを通じて、エコシステムの拡大を推進するための活動を行っている。
NTTドコモやトヨタ自動車、住友電気工業、大日本印刷、TOPPAN、セイコーエプソンなど、22社が参画。幹事会リーダーには、産総研の持丸氏が就き、同氏をはじめとして6人の学術専門家が参加している。
NTTドコモの石川博規氏は、「触覚や味嗅覚を研究している企業の力を活用し、ビジネスにつなげることが人間拡張コンソーシアムの目的。これまでにも、相手のサイズや骨格などに合わせて動きを共有する『動作共有』、相手の触覚感度特性に合わせて手触りなどを共有する『触覚共有』、相手の味覚感度特性に合わせて味を共有する『味覚共有』、相手の痛覚感度特性に合わせて痛みを共有する『痛覚共有』での成果がある」と語る。
なかでも「痛覚共有」は、昨年のCEATEC 2025のNTTドコモブースで展示し、来場者から大きな注目を集めたことが記憶に新しい。「CEATEC AWARD 2025」の経済産業大臣賞を受賞している。
「人間拡張コンソーシアム」の取り組みでは、NTTドコモが持つ人間拡張基盤「FEEL TECH」を活用している点も特徴だ。
「他者の動作や感覚を共有しても、人によって感じ方が異なる。例えば、味覚は大人と子どもでは大きく異なるため、大人が受けた感覚を子どもに伝えるには調整しなくてはならない。このような個人差による感じ方の違いを考慮し、変換する必要がある」と前置きし、「データ化し、調整する役割を果たすのが、人間拡張基盤だ。プラットフォームの活用により、事業者が効率的にサービス開発できるような環境を提供することができる。触覚や味嗅覚を感知するデバイスと組み合わせたソリューションの開発により、人の身体能力や知覚、体験を拡張でき、それを業務支援やヘルスケア、コンテンツなどの領域にも活用していくことができる」とする。
“力加減”を見える化する。“食のプリントアウト”。電気クラゲに“触れていないのに、触れている”……「口で説明するだけでは分からない。展示で体験してもらわないと伝わらない」
共同出展ブースは、主催者企画エリアの「X(Transformation)パーク」内にあり、計11テーマの展示をする。
持丸氏が「2つのコンソーシアムが行っていることは、口で説明するだけでは分からないものが多い。体験してもらわないと伝わらない」と語るように、パネル展示にはとどめず、実際に体験できるものばかりを展示するのが特徴だ。持丸氏は「今回の展示を通じて、私たちの成果を体験してほしい」と呼び掛ける。
じつは「バーチャルエコノミー拡大に向けた基盤技術・ルールの整備」に関する研究成果が一堂に展示され、実際に体験できるかたちで一般に広く公開されるのは今回が初めてのことになる。
以下、CEATEC 2026で体験できる展示の中から、いくつか紹介していこう。
見えない“力加減”を見える化する
H2L株式会社が展示するのが、「プロと比べるスイング診断」および「チカラを伝えるフィジカルAI体験」である。
同社は、「BodySharing(ボディシェアリング)」を軸に、次世代インターフェースを開発しているスタートアップ企業だ。BodySharingとは、ヒトの身体情報をコンピュータと相互に伝達することで、キャラクターやロボット、他者と体験を共有する概念と技術、また、そのためのインターフェースを指す。光学式筋変位センサーで身体の動きや力加減を読み取り、スポーツやリハビリ、技能伝承へ活用することを目指しているという。
展示では、前腕に装着したセンサーでゴルフスイング時の見えない力加減を検出して見える化し、プロのお手本と比較。AIによるトレーニングアドバイスを提供する。
また、人の力加減をロボットアームに伝達して操作する展示では、固有感覚をもとにしたロボット操作が可能になり、少ない学習データだけでフィジカルAIを実現することができるという。
H2Lの冨岡万琴氏は「力加減、重量覚や抵抗覚などの固有感覚の伝達技術は、スライドや動画では伝わらず、体験しないと伝わらない。自分の身体で感じて初めて価値が分かる技術である。その成果が、いよいよ人に体験してもらえる段階に到達した」とし、「H2Lでは、『人の身体の情報を、データにして、届ける』をテーマに、身体の動きや力加減を入出力する固有感覚の技術を展示する。これは、AIに足りない最後のピースとも言える人間の身体データを取り出し、インターバースを実現する事例だと言える。H2Lは、『固有感覚をAIに渡す』ことを掲げ、固有感覚をセンサーで取り出し、データからロボットが動作を生成することを目指している。熟練者の手つきがデータとなり、技能が分析され、フィジカルAIを通じて、次世代を担う人や現場のロボットに固有感覚を渡せる様子を見せたい」と述べている。
「テクノガストロノミー」で“食のプリントアウト”
話題を集めそうなのが、山形大学による「やわらかい技術が創る、やさしい未来の食体験」という研究だ。山形大学では、料理や食材に最先端のソフト&ウェットマターテクノロジー(やわらかい技術)を融合した「テクノガストロノミー」という新ジャンルを提唱しており、今回の展示はそれを実現するものになる。
食感データを数値化し、それをもとに食感解析AI「Gel Biter」が、利用者の要望に合わせて仮想空間で料理を作り上げ、3Dフードプリンターで出力。食感や味覚のほか、必要な栄養も取り入れることができる。味と形、栄養素が同じでも、食感を変えることができたり、データを組み合わせて仮想空間で調理すれば、料理が苦手な人でも3Dフードプリンターで現実世界での料理を完成させたりできる。研究成果として、介護食や絶滅種の再現、3Dプリント寿司、宇宙食などの食再現実績があり、これらをパネル展示する。
ユニークなのは、人気マンガ/アニメ『ダンジョン飯』に登場する料理「マンドレイクの甘露煮」を、ほんの一口ではあるが、来場者が試食できるようにすることだ。現実世界には存在せず、誰も食べたことがないものを“調理”することも可能というわけだ。
今回、山形大学と、「蒟蒻畑」で知られるマンナンライフが、それぞれの技術と経験を活かして、それぞれの「マンドレイクの甘露煮」に挑戦。山形大学は3Dフードプリンティング技術で、マンナンライフは商品開発で培ってきた食感・味づくりの技術で取り組み、両者は打ち合わせを何度も重ねながら、作品のイメージにより近い味・色・食感を目指してきた。
来場者には、マンナンライフが手がけた「マンドレイクの甘露煮」の試食サンプル(1cm角)を1日500個配布する予定だという。
一方、山形大学の3Dフードプリンターでの出力は時間がかかるため、1日10個程度にとどまるとのこと。それでもブースでは、3Dフードプリンターが「マンドレイクの甘露煮」をつくり上げていく様子を、実際に目の前で見ることができる。「架空の料理が現実の世界に“出力”される瞬間は、ぜひ会場で確かめてほしい」としている。
介護食という安定市場と、エンターテインメントでの食体験という成長市場の両方を同一技術で狙うことができる点でも注目される。
電気クラゲに“触れていないのに、触れている”
NTTドコモと東京大学が進めているのが、「空中のキャラクターに触れる、新しいインタラクション」である。
東京大学が開発した空中超音波触覚ディスプレイにより、非接触でありながらも、皮膚に振動刺激を与えて、触り心地を体験できる。展示では、エンターテインメント分野での事例を紹介。宙に浮かぶ3Dのバーチャルキャラクターとの触れ合いを体験できる。ゴーグルやグローブを使わずに、装置の前に座るだけで体験が可能だ。
例えば過去に制作したコンテンツとしては、電気クラゲを空中に3D表示し、触るとヌメヌメした触感や電気ショックが伝わる――といった事例がある。また、水中に手を入れていながら、手のひらに雨粒が当たる触感もあるといった、現実世界ではありえない体験も可能だ。将来的には、バーチャルペットの実現にもつなげることができるという。
なお、触感を言葉で記述するための国際規格づくりを主導している点でも、この取り組みは注目されている。
グローブ型リハビリ支援デバイスで“適切な力加減”を提示
“触れる動物園”を実現する触覚デバイス
TOPPANによる展示は「バーチャル空間と触覚を組み合わせた、新しい授業体験」。TOPPANが構築したバーチャル空間において、イルカやアザラシ、恐竜などに触れたときの感覚を、触覚デバイスを通じて体験することができる。
今回の事前取材で筆者も体験してみたが、画像を見ながら触覚デバイスに触れると、まさにイルカやアザラシを触っている感覚があった。筆者が手で触れているデバイスそのものは同じものであるにもかかわらず、イルカの画面とアザラシの画面では触感が変化することを体験できた。これは、FEEL TECHの活用によるもので、体験者の感覚特性に合わせて触覚を変換・提示することで、より直感的で没入感のある学習体験を提供するという。普段の生活では触れることができないような触感を、誰もがその場で体験できる。
NTTドコモの石川氏は、「触れる博物館や、触れる動物園を実現することができる。言葉で伝えるのと、疑似的に触って体験するのでは大きな差がある。触れることで、理解度が高まったり、興味を持ったりすることが裏づけられており、STEM教育にもつなげることができる」としている。
VR空間にある物体に“重さ”がある
株式会社commissureでは、「触って学ぶ、インタラクティブな科学教育」をテーマに、ウェアラブル型ハプティックデバイス「FeelFuse」を活用したデモンストレーションを行う。手首に装着したモジュールや、指先のモジュールを使って、何かを持ったり、撫でたりといった身体表面の感覚を与える「振動刺激」や、皮膚の上を捻るような刺激を与える「回転せん断刺激」により、力の感覚と振動を組み合わせた多様な感覚を体験できる。
この技術も事前取材で体験してみた。VRゴーグルとハプティックデバイスを装着すると、仮想空間にある物体の重さを感じたり、犬にリードで引っ張られたり、鳥が飛んできて腕に止まるときの感覚を体験することができた。まさに不思議な体験だった。
今回の展示では、滑車の動きによる重さの違いなど、理科の教科書に登場するさまざまな題材を、触覚を感じながらインタラクティブに操作できる科学教育コンテンツを体験できるという。
以上のような展示を含め、共同出展ブース(ホール6 ブース番号6H242)では、「インターバース社会実装推進メタコンソーシアム」から7つのテーマで、「人間拡張コンソーシアム」から4つのテーマで、来場者が体験可能な展示を行う予定だ。
コンファレンスで、インターバースや人間拡張のトレンドを解説「フィジカルAI×6G ~次世代インフラがもたらす社会の変革と人間拡張~」に注目
ブース展示に加え、関連するコンファレンスとして3つのセッションが行われる。
- 「サイバーとリアルがつくる次世代経済圏の最新動向と、身体性インターバース技術を活用した未来像」
(10月15日13:30~14:30 展示ホール5 Xステージ) - 「サイバーとリアルがつくる次世代経済圏の最新動向とインターバース活用スマートシティの未来の都市」
(10月16日10:30~11:30 展示ホール5 Xステージ) - 「フィジカルAI×6G ~次世代インフラがもたらす社会の変革と人間拡張~」
(10月16日13:00~14:00 国際会議場2F コンベンションホールA)
なかでも注目されるのが、「フィジカルAI×6G ~次世代インフラがもたらす社会の変革と人間拡張~」だ。
前半は、産総研の持丸氏と、東京大学教授の中尾彰宏氏による講演が行われ、後半はパネルディスカッションが行われる。パネルディスカッションでは、NTTドコモCSOの中村武宏氏がモデレーターとなり、産総研の持丸氏、H2L代表取締役社長の玉城絵美氏が参加するほか、東京大学、トヨタ自動車、日本触媒からも関係者が登壇。インターバースとフィジカルAI、6Gとの組み合わせによってもたらされる、産業や生活の変化を見据える内容となる。
2030年ごろの導入が見込まれる6Gと、最先端技術によるサイバー/フィジカルの融合によって実現する未来像、人間の可能性の広がりであるインターバースや人間拡張のトレンドを紐解く内容となっている。
「インターバース」「人間拡張」は、研究段階から事業化・社会実装へ。CEATEC 2026に来て「手を動かして、触って、食べてほしい」
産総研の持丸氏は「SIPの『バーチャルエコノミー拡大に向けた基盤技術・ルールの整備』での成果が、今後は社会実装の段階に入ることになる。だが、現時点で各プロジェクトが使用しているデバイス、システム、アプリケーション、サービスは全て垂直統合であり、全てを自前で作っている。そのままでは事業化には限界がある。事業化や産業化を目指すのであれば、多くの企業が参入できる環境を作る必要がある。それぞれのレイヤーにおいてパートナーに参加してもらうことで、細い垂直統合のかたちから、太さを持った基盤を作ることができ、事業化に踏み出すことができる」とし、「CEATEC 2026の展示を通じて、デバイスを提供してみたいと思ってもらえたり、一緒に何かできるのではないかと感じてもらえたり、コンソーシアムの成果を活かして別のサービスが創出できるのではないかといった気付きにもつなげてもらいたい。事業化や社会実装に向けた新たなパートナーと共創するきっかけを作りたい」と語る。
NTTドコモの石川氏は「今回の出展は体験してもらうことが目的となる。そこからビジネスにつながるきっかけをつくりたい。人間拡張コンソーシアムの展示では、教育、医療、エンターテインメントといったように用途を明確に示した。実際に体験してもらい、これらの領域においてサービスを提供する人たちの声や、実際に利用する人たちの声を聞き、正しい方向にビジネスを発展させたい。また、新たな発想が生まれることにも期待したい」と語る。
また、H2Lの玉城氏は「展示ブースでは、手を動かして、触って、食べてほしい。現場の技能伝承で困っている人や、うちの仕事は機械にはできないと思っている人、機械による作業が苦手とされている介護や医療、食の現場の人たちにこそ、私たちの成果を体験してほしい」と呼び掛ける。
研究開発成果を次のフェーズに進め、事業としてドライブさせるには「共創」が欠かせない。CEATEC 2026の展示ブースで、多くの人が研究開発成果を体験することで、日本発の新たなビジネスが生まれるかもしれない。
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