KDDIウェブと提携した米Twilio、クラウド電話APIの日本展開を聞く


 株式会社KDDIウェブコミュニケーションズは10月31日、クラウド電話APIサービスを展開する米Twilioと業務提携し、Twilioのサービスの日本での独占販売を行うと発表した。

 Twilioは、クラウド電話APIの分野で15万人の登録開発者を集めるなど、米国でも注目のベンチャー企業だ。KDDIウェブコミュニケーションズも、日本でクラウド電話API「boundio」を展開しており、同じクラウド電話APIを展開するTwilioとは提携に向けた基本合意はしていたが、今回正式に業務提携を発表した形だ。

 両社の業務提携に先立ち、10月にサンフランシスコで開催された「Twilio Conference 2012」の会場で、米Twilio CEOのJeff Lawson氏に話を伺った。

開発者15万人が登録、Twilio自身もクラウドでインフラを構築

TwilioのJeff Lawson CEO

――Twilioの現状について教えて下さい。

Lawson氏:テレコミュニケーションの世界は伝統的にハードウェアの世界で、ソフトウェアは異次元的な存在でした。私は以前、Amazon Web Services(AWS)で仕事をしていましたが、AWSはサーバーというハードウェアをクラウドの世界に、APIの世界に持ってたものです。私たちはこれをコミュニケーションの分野に持って行こうと思いました。

 我々のサービスによって、ソフトウェア開発者が電話を使ったアプリを構築できるようになり、今では15万人の開発者がTwilioを使ってアプリを構築しています。コールセンターのアプリをiPad向けに構築した会社や、パーキングメーターの情報を携帯電話に送るシステムなど、様々なアプリが作られています。

 Twilioは米国で2008年に創業し、2011年には英国で、2012年初めには欧州の17カ国でサービスを提供、現在では世界40カ国でサービスを展開しています。世界展開を進めている理由は2つあり、1つは我々のサービスの利用企業は欧米が中心ですが、そうした企業は世界各国でサービスを展開しているからです。もう1つの理由は、素晴らしい開発者は世界中に散らばっており、そうした開発者にも我々のAPIを使ってもらいたいからです。

――TwilioはAPIという形で、ビジネス向けのサービスにフォーカスしたのはなぜでしょうか。

Lawson氏:Twilioを使えば素晴らしいアプリやサービスが構築できますが、自分たちだけで考えられることには限界があります。それよりも、我々が基盤を作ることで何千万人という開発者に力を与え、アプリやサービスを作ってもらうことの方が適切だと考えています。

 クラウドのパワーは素晴らしいもので、例えばHuluはTwilioでコールセンターを構築しましたが、それまでの計画は多額の設備投資と期間が必要だと言われていたそうです。Twilioを使うことで、システムは2週間で構築できました。

――電話をクラウドサービスとして利用できるのは開発者にとっては便利ですが、一方でその基盤を提供するTwilioには設備投資が必要です。2008年に創業したベンチャー企業であるTwilioが、どうしてここまで短期間に世界にサービスを展開できたのでしょうか。

Lawson氏:その答は、我々自身もクラウドのユーザーだからです。我々のサービスはAWSの上に構築しており、そうであるからこそ短期間で構築ができました。その意味でもやはりクラウドは素晴らしいものです。

――世界的にも音声通話は減少の方向にあると思いますが、Twilioのようなサービスの将来性についてはどうお考えですか。

Lawson氏:昔ながらの電話や通話は世界中で減っていると思いますが、今増えているのは「スマートコミュニケーション」とも言うべき新しい電話や通話です。顧客データベースやCRMと統合された電話のように、エンタープライズでこの分野に使われている金額は2500億ドル規模と言われています。全体で見れば音声通話に使われる額は減っていくとしても、十分に大きい市場です。

――Twilioのような存在は、既存の市場や通信業界を壊してしまう可能性もあると思いますが、業界からの反発はありませんか。

Lawson氏:我々は、AT&Tとも提携しているように、通信キャリアとはパートナーであり、補完的な仕事をしていると考えています。ハードウェアメーカーにとっては、クラウドサービスはライバルということになるでしょうが。

AWSがお手本、APIを使う顧客のことだけを考えてサービスを開発

――Twilioが15万人の開発者に選ばれている理由は何でしょうか? Twilioがやったようにクラウドを使えば、他の企業でもインフラは整えられますし、同様のサービスやAPIを提供することもできそうです。カンファレンス会場の正面にもライバル企業の宣伝トラックが停まっていましたが。

Lawson氏:それはやはり、Twilioならうまくいくからです。我々はとにかく顧客である開発者のことを気にかけており、今回のカンファレンスでも新しいAPIなど7つの新製品を発表しました。開発者が素晴らしいものを構築できるようにすることを常に考えています。これはどの企業にもできることだとは思いません。宣伝用のトラックをレンタルするのは誰にでもできますが(笑)。

 とにかく、顧客の成功にフォーカスを当てることを続けていくことが肝心だと思います。我々はAWSをお手本として捉えており、AWSはクラウドサービスのトップランナーでありながら、常に顧客のために新しいサービスを提供しています。あのようになりたいと考えています。

――KDDIウェブコミュニケーションズを日本での提携相手として選んだ理由は。

Lawson氏:KDDIウェブコミュニケーションズは日本におけるテレフォニーAPIのリーダーであり、日本で彼らが作ったboundioというAPIを展開していたので、話が早く進みました。

 日本にも多くの開発者がいて、法人の顧客も多い。しかし、我々は必ずしも日本の市場をよく理解していないので、パートナーが必要だと考えました。我々は中小企業から大企業までをターゲットとしていますが、KDDIウェブコミュニケーションズのターゲットも同様であり、Twilioの可能性を一緒に考えられる企業です。

――他の国でも今後こうしたパートナーシップを構築していくのでしょうか。

Lawson氏:まだ言える段階ではないですが、ワールドクラスのキャリア、世界中のキャリアと協力していくつもりです。

――Twilioの今後の方向性として、例えばFAXやメールも統合していくという方向も考えられると思いますが、今後も電話にフォーカスしていくのでしょうか。

Lawson氏:顧客の声に耳を傾け、必要としているものであれば提供していきたいと思いますが、現状ではボイスだけでも巨大な市場であり、ボイスの製品を提供していこうと思っています。次の数カ月では、テキストの音声変換を25カ国語に対応させようと思っています。その中には日本語も含まれます。

――最後に、日本の開発者へのメッセージを。

Lawson氏:日本の開発者の皆さんが構築するものを見るのが、今から待ちきれません。

――ありがとうございました。


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(三柳 英樹)

2012/11/1 12:36