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プログラミングの楽しさを伝える、現代の「こんにちはマイコン」目指す――文科省・経産省・総務省が後援、「第2回全国小中学生プログラミング大会」開催
2017年3月14日 17:09
小中学生を対象としたプログラミングコンテスト「第2回全国小中学生プログラミング大会」が開催される。テーマは「こんなのあったらいいな」で、“自分や他人にとってあったら良いと思うもの”を募集する。募集期間は8月1日~9月15日。応募資格は日本在住の6~15歳の小学生・中学生。3人以下までならグループ参加も可能で、作品は1人何点でも応募できる。スマートフォン/タブレット/PC/マイコンボードなどで動作するオリジナルのプログラム(自身による改良を含む)、ソフトウェア、ハードウェアであれば、開発言語およびツールは問わない。なお、審査の判断基準はアイデア、プログラミング、完成度となる。
主催は全国小中学生プログラミング大会実行委員会で、実行委員長は稲見昌彦氏(東京大学先端科学技術研究センター教授)、実行委員は遠藤諭氏(角川アスキー総合研究所取締役主席研究員)、清水亮氏(株式会社UEI社長)、石戸奈々子氏(NPO法人CANVAS理事長)が務める。また、共催は株式会社朝日新聞社、後援は文部科学省、総務省、経済産業省。
文部科学省、経済産業省、総務省連携で大会の活性化へ
2016年に開催された「第1回全国小中学生プログラミング大会」では、「ロボットとわたしたち」がテーマとなり、129点の作品が集まった。学年別では中学1年生が30%と最多。ジャンルは、ゲームが57%、アート/デザインが13%、電子工作が18%、アプリ/ツールが4%。
グランプリを受賞したのは、小学5年生の男子と小学2年生の双子の女子の3人による「ママロボ ハートちゃん」。頭に荷物を乗せて運び音楽を鳴らしながら移動する家事手伝いロボットだ。mbedマイコン「LPC1114FN28」を使って、C言語でプログラミングされている。
実行委員の清水氏は、「これからの時代はさまざま道具を使いこなしていかなければいけない。プログラミングはキーボードやScratchだけでなく、いろんな物の組み合わせをいかに素早く考え、やりたいことを表現できるかにある」と述べ、全国小中学生プログラミング大会では“表現手段としてプログラミング”が主旨になると説明した。また、プログラミングを使いこなす力を磨くことで、AIなど新しい技術を目の前にした場合でも柔軟に対応できる人材を育てることも重要だと説いた。
御厩祐司氏(総務省情報流通行政局情報通信利用促進課長)によると、こういったプログラミング大会に参加する子どもは保護者が熱心である場合が多いという。そこで、「家庭環境に恵まれない子が応募した場合、大賞を取れることがあり得るのか」という疑問を持つと同時に、地域格差や障がい者への機会提供など、解決しなければならない問題が浮上してきた。
国内の相対的貧困率は6人に1人で、標準的な世帯の子どもよりも塾通いや習い事、部活、学校行事などへの活動が制約されるケースが見られるという。また、プログラミング教室の開催地は関東が過半数を占めており、近畿と合わせると7割に上るなど、地方との格差が顕著になっているそうだ。障がいを抱える子どもたちはデジタルデバイドの問題が懸念される。
「これらの格差を乗り越え、すべての子どもたちにプログラミングを通じて飛躍できるチャンスを与えられるようにしていきたい」とし、「今回、文部科学省、経済産業省、総務省の3省で後援できる体制になったため、お互い連携してこの大会を盛り上げていきたい」と語った。
伊藤禎則氏(経済産業省大臣官房参事官兼産業人材政策室長)によると、2030年には79万人のIT人材が不足するといわれており、産業政策の観点からもプログラミング教育が重要なテーマになるという。
「新しい読み書きそろばんとしてプログラミングを身につける必要がある。2020年に向けてしっかりと準備をしていき、日本でプログラミングを操れる子どもたちがこれからの日本の成長を支えてくれるように努力していきたい」と意気込みを語った。
稲見昌彦氏(東京大学先端科学技術研究センター教授)は、学生時代から参加してきた数々のコンテストを通して、普段出会うことのない大学の教授や企業の開発・研究者と話す機会を得て、結果的に自分も東京大学の研究者になったという。
東京大学で2016年度より始まった推薦入試では、全国大会やコンクールなどでの入賞に繋がる活動実績が重視される。推薦入試やAO入試を採用する大学は増えているため、今回のプログラミング大会への参加はこういった枠への受験にも繋がるとしている。
「このコンテストを通して、未来を支える少年少女たちへ恩送りをしていきたい。普段学校では出会うことができない、同じ目標を持つ同士・仲間に出会あえるきっかけになれば」と述べ、日本発で世界で活躍するような若者が育って欲しいとの思いを語った。
プログラミングの楽しさを伝えるためのプロパガンダに
3月10日に行われた記者発表会では、漫画家・小説家で京都精華大学マンガ学部キャラクターデザインコースの教授であるすがやみつる氏をゲストに迎えたトークセミナーも行われた。
すがや氏はマンガの原稿執筆時に眠気覚ましとしてアマチュア無線を楽しんでいたという。この趣味で秋葉原を頻繁に訪れることになり、1970年代後半には秋葉原ラジオ会館の「Bit-INN」に出入りするなど、コンピューターと出会うきっかけができる。その後、マイコン、PC雑誌を読みあさり、BASICやマシン語のプログラミングへ熱中するようになったそうだ。
しかし、プログラミングに熱中するあまり、PCを家族に隠される事態にまで発展。それでも、「PCを仕事にしたら、公にできるのではないか」という発想から、「ゲームセンターあらし」のスピンオフ作品「こんにちはマイコン」の企画を小学館に持ち込んだ。結果的に、両作品は「第28回小学館漫画賞(児童漫画部門)」を受賞することになる。
“新しいタイプの学習マンガ”として評価を得たが、「今振り返ると自分が楽しんでいるものを広めるためのプロパガンダだったと反省している」という。しかし、プログラミングを始めるきっかけになったという反応を今でも読者から得られることから、「楽しさ・思いが伝わったのではないだろうか」と語った。
プログラミングは、エラーと格闘しながら出来上がったときに達成感が得られる楽しさがあるという。また、コミュニティと繋がることでコミュニケーション能力も得られると語る。
遠藤・清水の両氏とも「昔は家電店やホームセンターのPCでプログラミンに触れることができるなど、入り口があった一方で、周りにPCができることを認めたり、ほめてくれる人がいなかった」と語る。
そこで、「テレタイプ端末の使用を許してくれた環境がビル・ゲイツの学校にあったように、環境が人を作る。プログラミング大会では文科省と東大の先生が認めてくれる環境がある」と強調する。
石戸氏は、こんにちはマイコンが80年代の子どもたちへのプロパガンダになったように、「このプログラミング大会が(楽しさを伝える)プロパガンダになれば」と締めくくった。