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伝送距離1kmのWi-Fi普及へ、「802.11ah推進協議会」発足、56の会員企業・団体が参加
多彩なIoTを可能とする通信方式の実現を目指す
2018年11月9日 17:18
920MHz帯を用いたIEEE規格であるIEEE 802.11ahの国内における普及を図る「802.11ah推進協議会」が、56の会員企業・団体の参加により11月7日に発足した。
IEEE 802.11ahは、IoTなど低消費電力ソリューション向けとして2016年に標準化された無線通信規格。「LPWA(Low Power Wide Area)」と総称されるIoT機器向けの通信規格である「LoRaWAN」や「SIGFOX」などと同じ920MHz帯の周波数を用いるもの。IEEE 802.11ahをベースとした認証プログラム「Wi-Fi HaLow」が、2016年1月にWi-Fi Allianceより発表されている。
伝送距離は一般的なWi-Fiの10倍、速度はLPWAの10倍
802.11ah推進協議会の会長に就任した元NTTブロードバンドプラットフォーム株式会社代表取締役社長で、無線LANビジネス推進連絡会の小林忠男氏は、「IoTをネットワークにつなげるとき、すべて無線で基地局につながり、そこからクラウドへ接続される。これから何十億のさまざまな端末が出てくるが、多様なワイヤレスアクセスが必ず必要になり、これなしには本格的なIoT時代はやって来ない」と述べ、「920MHz帯を使った11ahが、少しでも早く日本国内でも使えるようになることを目指したい」とした。
そして、「(同様に920MHz帯を用い)先行しているLoRaWANやSIGFOXは、まだIoTで実際どのくらい使いものになるのかを実験レベルで行っている状況で、多くのデータを集めても必ず発生する回線コストをどう回収するのかなど、商用サービスのビジネスモデルが固まっていない。さらに、さまざまな課題も出てきている」とした。
11ahについて、「最後発とはなるが、デファクトスタンダードのWi-Fiには、自分たちが構築したいネットワークをすぐに作れるメリットがある。フルオープン、IPベースで何でもできるのがとても大きな特徴。端末・アクセスポイント・クラウドまでを自由にネットワークとして構築可能で、さまざまな端末をIPベースで繋げられる」とした
920MHz帯は、一般的なWi-Fiで用いられている2.4/5GHz帯と比較して、壁などの障壁の貫通力に優れるが「11acを10分の1にクロックダウンした仕様で簡単に作れる上、今のWi-Fiと比べて10倍の伝送距離を見込んでいる。およそ1kmまでは飛ぶだろう」とした。
「一軒家を想定したとき、家の外や車庫、門柱にあるものは5GHzの11acでは届かない。リピーターが売れているが、11axと11ahのマルチモードのアクセスポイントができれば、簡単に屋外のデバイスを自分のネットワークに簡単に収容できる」とした。
11ahの本格導入が始まれば、かなり安価に
そして、協議会の参加企業・団体について「まだ10月23日に周知してから2週間ちょっとで56の企業・団体。個人的には30くらいと考えていたので驚いている」と述べた。
協議会立ち上げのタイミングについては、「1年前、台湾や米国のベンダーに11ahの状況を聞いても、11adや11axだけで11ahはまだ影も形もなかったが、米Newracomはじめ、実際に11ah対応チップを作ってモジュールにしているベンダーがいくつか出てきて、ようやく入手できる状況になってきた」とし、「そういう意味でも、この時期に始めるのは、タイミングとして時期を得ていると考えている」と述べた。
さらに「2017年度のWi-Fiチップ出荷数は30億を超えるが、チップベンダーが本気で作れば11acのチップに11ahを組み込める。生産ボリュームはLoRaWANやSIGFOXと比べ、大きなボリューム感になる。本格導入が始まればかなり安いものができるのではないかと思っている」との見通しも示した。
2019年には、台湾のGemtekやAdvanWISEなどが11ah対応のアクセスポイントやゲートウェイを市場に投入予定とのことだ。これを採用した工場自動化、セキュリティ監視など、前向きな動きが日本や中国、台湾など5カ国で出てきているという。
さらに、Wi-Fi HaLowの認証プログラムについて、11ah対応製品間の相互運用性の観点から進められるが、複数のチップベンダーが表れて初めて行われるため、後に続くベンダーが出てきたところで、認証プログラムが開始される流れになる」とした。
協議会ではユースケースを積み重ね、早期の利用開始を目指す
802.11ah推進協議会では、より早期に国内で利用できることを目指し、まずは実験局免許取得を進めて1日も早く実証実験を開始。その後はユースケースや利用にあたっての問題点を取りまとめて情報を公開していくほか、米Nuracomやそのほかのチップベンダー、海外での規制の動向などの情報収集も併せて進めていくという。
協議会の運営委員で東日本電信電話株式会社(NTT東日本)の酒井大雅氏は「LPWAではなく、(11ahが)Wi-Fiそのものである強みを生かし、ユースケースと、どういう課題解決に役立つのかをオープンにして実装していきたい」とした。「諸条件や細かな周波数は今後議論をして決まるが、うまくいけば数Mbpsのスループットが得られる可能性がある」との見通しを示した。
さらに「IoT機器向けのネットワークでは、これまでエリアカバーの限られるWi-Fiと速度の出ないLPWAを組み合わせていた。しかし、11ahが登場すれば、カバーエリアが拡大し、より高いスループットにより画像程度の伝送が行えるほか、ファームウェアのアップデートなども可能になり、よりセキュアでサービスのアップグレードもしやすい」とした。
そして「商用化の促進の点からは、社会実装するに際してのユースケースがしっかり出てくれば、革新的な規格になる可能性がある。IoTのビジネス市場を大きく変えることができるのではないか」と述べた。
米Newracomの評価用キット「NRC7292」を用いた11ahの伝送デモ
IEEE 802.11ahドラフト8.0に対応し、米国では既発売となる米Newracomの評価用キット「NRC7292」を用いたデモも行われた。11ahの規格上の理論値では、最大では16MHzの帯域幅で347Mbpsの速度となるが、Newracomの製品では同4MHz時で5Mbps、同1MHz時で1.5Mbpsとなる。
デモでは、帯域幅1MHz時で1.5Mbpsとした11ahで映像を伝送した場合を、ほかのLPWA規格の平均となる250kbps程度での伝送と比較。解像度はVGA相当ながら、11ahでは左のオリジナルとそん色ない映像だった。なお、法規上の問題で電波を出せないため、アンテナ間を同軸ケーブルでつなぎ、減衰機で1km相当としているという。