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「ビットバレー」再来を目指す渋谷、駅前の大型ビル群建設でオフィスビル不足を解消

渋谷駅周辺の大規模再開発、いつ・どこが・どう変わるのか<1>

 渋谷駅周辺は現在、さまざまな大規模再開発が複数箇所で進行中だ。あまりにいろいろな再開発が行われているので、いつ・どこが・どう変わるか、なかなか全体を把握しきれないほどでもある。

 この再開発、大雑把に分類すると、「大型ビルの建設」「渋谷駅の改良」「歩行者動線の整備」の3つがある。

 本記事ではこのうち、渋谷駅周辺の大型ビルの建設について、概要を解説したい。

大型ビル群の建設で、渋谷のオフィスビル不足を解消

1975年竣工の渋谷クロスタワー。渋谷の大型オフィスビルというと長らくコレだった

 渋谷というと若者の街というイメージがあるが、実はこれ、渋谷の弱点でもある。駅の周辺に大きなオフィスビルが少なく、ビジネス街としての機能が弱かったのだ。

 2000年前後には新興IT産業が渋谷に集う「ビットバレー」ブームが起きたが、IT産業の成長スピードにオフィスフロアの供給が間に合わず、例えば2001年にセルリアンタワーに入ったGoogleの日本法人が2010年に六本木ヒルズへと移転するなど、成長とともに渋谷から脱出する企業が相次いだ。2012年、駅前に広いオフィスフロアを持つ渋谷ヒカリエが完成し、DeNAやLINEといった大IT企業が入居したが、LINEは2017年に新宿に引っ越してしまうなど、まだまだオフィスフロアの供給不足は続いている。

 都内屈指の鉄道アクセスの良さを持ちながら、ビジネスパーソンにとっては乗り継ぎ駅にしかなっていない、という状況が続いている。しかし、ヒカリエ以降に建設される大型ビルのほとんどが広いオフィスフロアを持ち、オフィス不足が解消されようとしている。

東急グループの渋谷再開発情報サイトから、駅周辺の大型ビルなどの再開発地図。東急グループだけでこれだけ多くの大型ビルを手掛けている

 具体的に渋谷ヒカリエ(2012年4月開業)以降、駅前に建てられる大型ビルを挙げると、渋谷ストリーム(2018年9月開業)、渋谷スクランブルスクエア第I期(東棟)(2019年11月開業)、渋谷フクラス(2019年11月開業)、渋谷駅桜丘口地区(2023年竣工予定)、渋谷二丁目17地区市街地再開発事業(2024年度開業予定)、渋谷スクランブルスクエア第II期(中央棟・西棟)(2027年開業予定)などがある。

 実はこれらの駅前ビル、いずれも東急グループが関わっている。東急グループは駅からちょっと離れたところのビルも新しく作っていて、渋谷キャスト(2017年4月開業)、渋谷ブリッジ(2018年9月開業)、渋谷ソラスタ(2019年3月竣工)も東急関連だ。いずれもオフィスフロアを持っていて、特に渋谷ソラスタはほぼオフィス専用ビルともなっている(東急グループが多く入居している)。

画面奥、側面に縞模様が描かれてるのが渋谷ブリッジのA棟。写っていないが右奥にさらに大きなB棟がある。地下化した東急東横線の渋谷~代官山間の跡地に建てられているので、手前の遊歩道含めて細長い
渋谷ストリーム。Googleの日本法人が引っ越してくる予定で、建物の右上にはGoogleのロゴが付いている。延べ床面積はヒカリエの方がだいぶ大きいが、高さはほとんど同じだったりする
渋谷ソラスタ。東急グループが作ったビルだが、東急グループがたくさん入っている。道玄坂を上った先なので、駅からやや離れている。渋谷ブリッジと並んで、撮影しに行くのが面倒だったビルでもある
渋谷スクランブルスクエア第I期(東棟)。地上47階・高さ約230mは渋谷ではダントツトップ。壁面ガラスに映り込んでいるのは渋谷ヒカリエである
渋谷フクラス。手前は渋谷駅西側のバスロータリーだが、現在は地下工事を行なっている模様。工事は最終段階で、周囲の歩道を通行止めにして仕上げにかかっている
こちらは東急グループ関連ではないが、開業間近の渋谷パルコ。中央上部に見えるガラスの構造体も同じ建物。渋谷パルコ自体は10階屋上までで、それより上はオフィスフロアになる模様
渋谷キャスト。これもやや駅から離れているが、カフェやレストランだけでなく、生鮮食品も扱う東急ストアがあり、よくキッチンカーなんかも来てたりして、周囲に勤める人には便利な模様
渋谷駅桜丘口地区の再開発現場。解体作業が大詰め。かなり広いエリアをまとめて再開発している。左奥は渋谷ストリーム、その手前がJR。そのJRの上に改札口ができるものと思われる

 東急グループ以外の大きな再開発計画としては、渋谷区役所新庁舎(2019年1月開業)、渋谷パルコ(2019年11月開業)、渋谷区神宮前六丁目ホテル計画(2020年3月竣工)、宮益坂ビルディング建替計画(2020年7月竣工)、渋谷道玄坂二丁目開発計画(ドンキホーテ主導で2022年4月竣工)などがある。

 これらのほとんど、区役所新庁舎と神宮前六丁目ホテル以外のビルは、オフィスフロアを持っている。また、その多くがデパートなど、もともとオフィスフロアを持たない商業施設の跡地に立つため、再開発前に比べると渋谷駅周辺のオフィスフロアは一気に増えることになる。

 こうした新しい大型ビルには、大手IT企業も多く入居する。例えば、一度は渋谷を脱出したGoogleの日本法人は、年内に渋谷ストリームに戻ってくる予定だ。ほかにもミクシィやサイバーエージェント、GMOインターネットグループなどが、いずれも渋谷駅周辺での引っ越しや増床ではあるが、渋谷スクランブルスクエア第I期(東棟)や渋谷フクラスに入居する。大型IT企業の成長に、ようやく渋谷のオフィス供給が追いついてきたわけだ。スタートアップ起業を支援するアクセラレーターも渋谷に増えていて、「ビットバレー」の再来も期待されている。

再開発で減っていた商業フロアは、2019年末までに一気に復活

 もちろん駅前に増えるのはオフィスフロアだけではなく、再開発の建て替えで一時的に減っていた駅前の商業施設が一気に戻ってくることにもなる。特にこれから2019年末にかけ、広い商業フロアを持つビルが多数開業する。11月開業の渋谷スクランブルスクエア第I期(東棟)と渋谷パルコは、商業フロアに入居予定のテナントを発表済みで、同じく11月開業の渋谷フクラスのテナントは9月11日に発表された。

 このうち渋谷スクランブルスクエア東棟は、フロア数もテナント数もかなりの規模だが、東急ハンズやグッドデザインストアなど、ちょっと変わった店舗も入る。渋谷駅直結(というかほぼ直上)なので、渋谷駅で乗り換えするときにも寄りやすい場所でもある。通勤通学で渋谷を通る人は要チェックだ。

 また、渋谷パルコにはゲーム/マンガ専門のフロアも作られ、国内初の任天堂オフィシャルショップやポケモンセンター、カプコンオフィシャルストア、eスポーツカフェ、ジャンプや刀剣乱舞のオフィシャルストアといったゲーム/マンガ関連のお店が入るほか、ほかのフロアにはRADIO EVA STORE、Ankerストア、iPhoneアクセサリ専門店のUNiCASEなども入居する。

 一方、逆に最後まで駅前での営業を続けていた東急東横店の南館と西館は、2020年3月いっぱいで営業を終了する。跡地には渋谷スクランブルスクエア第II期(中央棟・西棟)が2027年竣工予定だ。

画面中央奥ののっぽのビルが神宮前六丁目ホテル計画のホテル。手前に伸びてきている構造物は新宮下公園で、商業施設が入る

 駅周辺で新しく建てられているビルの一部にはホテルも入っている。渋谷は観光客の多い街でもあるが、ホテルはそんなに多くなかったので、これもオフィス同様、大きな変化となりそうだ。開業済みのところでは、渋谷ストリームにはエクセルホテル東急、渋谷ブリッジにはドミトリーもあるMUSTARD HOTELが営業している。さらに神宮前六丁目ホテル計画は200室程度のホテルが建設される予定で、渋谷道玄坂二丁目開発計画でも上層階は300室程度のホテルとなることが予定されている。

 また、渋谷キャストにはサービスアパートメントが開業しているほか、渋谷駅桜丘口地区にもサービスアパートメントが開業する予定となっている。このほかにも渋谷区役所と渋谷公会堂の再開発では505戸が入る住居向け高層マンション、パークコート渋谷が建ったほか、宮益坂ビルディング建替は大半が住戸となる見込みで、渋谷駅桜丘口地区も一部が住戸となる予定となっている。いずれも価格帯は渋谷の利便性に見合った、お手軽とは言えないものになりそうだが、住環境としての渋谷も再開発の注目ポイントになりそうだ。