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日本は「自宅で効率的に仕事をするのが難しい」44%、従業員の希望は「ハイブリッドワーク」

アトラシアン、5カ国でリモートワークに関する調査

アトラシアンがリモートワークに関する調査を実施(出典:日本企業における課題とチーム・コラボレーションの可能性、アトラシアン)

 SaaS(Software as a Services)による業務ツールを提供する豪Atlassian(アトラシアン)が22日、オンライン記者会見を開催し、5カ国でリモートワークに関する実態を調査した結果を発表した。この調査では、アトラシアンの本社があるオーストラリアに加えて、日本、米国、ドイツ、フランスの5カ国において、約5000人を対象に、リモートワークに対する従業員の意識、自宅における働く環境、企業文化などに関して聞き取り調査などの方法で調査が行なわれた。

 アトラシアンによれば、日本では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大以前からリモートワークをしていた割合が5カ国の平均に比べて低かったほか、日本の従業員の44%が「自宅で効率的に仕事をするのが難しい」と回答しており、5カ国平均の27%に比べて高くなっていることが分かった。このほかにも、日本の従業員では、自分の企業に対しての満足度が5カ国平均に比べて低いことが分かってきたという。

 同社日本法人となるアトラシアン株式会社の代表取締役社長であるスチュアート・ハリントン氏は、「日本企業では旧来型のビジネスオペレーション、ファックスなどの時代遅れのテクノロジー、出勤することが奨励される企業文化、従業員の自宅における働く環境などに課題があり、ITやソフトウェアをもっと上手に使いこなして社員の満足度を上げていく必要がある」と述べ、ビジネスツールなどの変革によってリモートワークの環境を充実させていく必要があることを強調した。

5000人の従業員が「5000のロケーション」で働くアトラシアン

豪Atlassianのワーク・フューチャリスト、ドム・プライス氏

 オーストラリアのシドニーに本拠地を構えるアトラシアンは、「Jira」や「Trello」などのSaaS型のコラボレーションサービスを提供するソフトウェアベンダーだ。同社ワーク・フューチャリストのドム・プライス氏によれば、同社の事業規模は「7カ国にオフィスを構えており、全世界で5000人の従業員が働いている。顧客数は17万4000社で、Fortune 500企業のうち83%に使われており、株式の時価総額は460億ドルになっている」という。

アトラシアンの紹介(出典:働くを再創造する「どこでも働ける勤務形態」を考える、アトラシアン)

 プライス氏は「アトラシアンの中でも働き方が変わりつつある。5000人の従業員が5000のロケーションから働くようになっている。アトラシアンはCOVID-19の状況以前から、家庭でのリモートワークはトップ3に入る働く場所になっていたが、COVID-19の状況が来てからはさらにそれを推進し、『Team Anywhere』と我々が呼んでいる、場所を固定するのではなく好きな場所から働けるようなプロジェクトを推進している」と述べ、アトラシアンの社内でもリモートワークをやりやすいような取り組みを行っていると説明した。

働き方の多様化(出典:働くを再創造する「どこでも働ける勤務形態」を考える、アトラシアン)

時代に適した働き方は「ハイブリッドワーク」、出社と在宅の組み合わせ

 プライス氏によれば、今回の調査は「ペーパージャイアント」という調査会社に依頼して実施。オーストラリア、日本、米国、ドイツ、フランスの5カ国で、述べ5000人にインタビュー、アンケート、そして日記形式の記録を2週間つけてもらうかたちで行なわれたという。日本ではインタビューが6人、日記形式が15人、アンケートが1035人から回答を得たとのこと。

調査の概要(出典:働くを再創造する「どこでも働ける勤務形態」を考える、アトラシアン)

 プライス氏は「こうした調査によって、時代に適した働き方として見えてきたのは、オフィスと自宅の両方を組み合わせたハイブリウッドワークという働き方だ」と述べ、リモートワークでは世帯の複雑さ(介護しているか、子どもはいるか)、役割の複雑さ(チームで働いているか、1人でやっているか)、ソーシャルネットワークの質(同業者との繋がり、コミュニティとの繋がり)などがパラメータとして、従業員がそれぞれ異なる要素を持っており、それらを考慮しながら、それぞの事情に配慮しながらのハイブリッドワークが必要になるとした。

体験の視覚化(出典:働くを再創造する「どこでも働ける勤務形態」を考える、アトラシアン)

「オフィスに戻ることに不安」米国で67%、日本は支給デバイスに不満の声も

 そして、こうした結果は地域によって違いがあるとして、「例えばドイツでは、63%が勤務時間に柔軟性があるとしており、それは5カ国の平均50%を上回っている。フランスではリモートワークが問題なくできているのは36%だけで、5カ国の平均53%より少なくなっている。さらに米国では67%がオフィスに戻ることに不安を感じており、5カ国の平均53%より多くの従業員がオフィスへ戻りたがっていない」と、その違いを紹介した。

ドイツの例(出典:働くを再創造する「どこでも働ける勤務形態」を考える、アトラシアン)
フランスの例(出典:働くを再創造する「どこでも働ける勤務形態」を考える、アトラシアン)
米国の例(出典:働くを再創造する「どこでも働ける勤務形態」を考える、アトラシアン)

 また、日本の調査では、在宅勤務の制度が十分に確立されておらず、「タブレットだけが支給されたが、読み込みが遅く、その間にコーヒー休憩ができてしまうほど」という不満の声が上がっているなど、支給されるIT機器の質への不満の声が多かったとした。

日本からの意見(出典:働くを再創造する「どこでも働ける勤務形態」を考える、アトラシアン)

日本の従業員のリモートワークへの満足度は低い、主要因は判子や紙に代表されるアナログ文化と使えないITツール

 アトラシアン日本法人の代表取締役社長であるスチュアート・ハリントン氏は、日本での調査に関しての説明を行なった。

アトラシアン株式会社代表取締役社長のスチュアート・ハリントン氏

 ハリントン氏は「今回の調査結果では、日本では諸外国と比べるとリモートワークにはあまりポジティブに捉えていないことが分かった。特に企業のリーダーシップに満足しているかという問いには、18%しか満足していなかった」と述べ、日本では従業員のリモートワークへの満足度が低く、管理職のリモートワークへの取り組みへの満足度も低いことが分かったと説明した。ハリントン氏が公開したデータによれば、企業のリーダーシップへの満足度は5カ国の平均では41%だったのに対して、日本ではわずか18%となっており、確かに満足度が低いことは明白に数値として表われている。

調査結果(出典:日本企業における課題とチーム・コラボレーションの可能性、アトラシアン)

 また、リモートワークへの満足度が低いことももう1つの特徴で、ハリントン氏によれば日本の回答者の44%がリモートワークで自宅で効率的に作業を行なうのは難しいと答えており、5カ国の平均27%を大きく上回っているという。こうした点についてハリントン氏は「日本の多くの企業ではCOVID-19の感染拡大前にリモートワークを経験していなかった従業員が多かった。そのまま4月の緊急事態宣言を受けて事実上のロックダウンになり、リモートワークに突入した企業や従業員が多かったのだと推測している」と述べ、平時の準備が十分でなかったことがその要因ではないかと指摘した。

日本では自宅で効率的に作業を行なうのは難しいとの回答が44%(出典:日本企業における課題とチーム・コラボレーションの可能性、アトラシアン)

 そうした日本でのリモートワークの課題に関してハリントン氏は「日本企業では旧来型のビジネスオペレーション、ファックスなどの時代遅れのテクノロジー、出勤することが奨励される企業文化、従業員の自宅における働く環境などに課題があり、IT機器やソフトウェアをもっと上手に使いこなして社員の満足度を上げていく必要がある」と述べ、日本企業のデジタルトランスフォーメーションや企業文化の革新、さらには不十分なIT機器の性能や最新ソフトウェアの未導入など、リモートワークの実現に向けた課題を指摘した。

リモートワークの課題(出典:日本企業における課題とチーム・コラボレーションの可能性、アトラシアン)

在宅ワークと決めつけるのではなく、従業員の要望に応じてオフィスワークも

 ハリントン氏は、日本での今後の働き方に関しては「米国の従業員の多くは完全なリモートワークを希望しているが、日本の回答者の56%はオフィス・自宅のいずれかのハイブリッドワークの働き方を希望しているなどの違いがある。そうした従業員の要望に応えることが重要だ」と述べ、日本では自宅のリモートワークと決めつけるのではなく、従業員の要望に応じてオフィスでも、自宅でもどちらでも快適に仕事をできるような環境が重要だと述べた。

日本では「ハイブリッドワーク」が希望されている(出典:日本企業における課題とチーム・コラボレーションの可能性、アトラシアン)

 その上で「アトラシアンではJiraなどのエントリーレベルのライセンスを無償化しており、利用する企業が増えている。こうしたハイブリッドワークの実現には弊社のようなベンダーが提供しているITツールが役立つと考えている」と述べ、ITツールを上手に活用することで従業員が働きやすいハイブリッドワークの実現が重要だとアピールした。