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おしゃべりだけじゃない! わんちゃん・ねこちゃんのSOSに気付けるプラットフォーム「waneco(ワネコ)」

NECが発表、公式LINEで社内実験開始

「waneco talk」LINE公式アカウントのトーク画面

 日本電気株式会社(NEC)が、愛玩動物コミュニケーションプラットフォームサービス「waneco(ワネコ)」を発表した。

 NECの池田雅之氏(AI・アナリティクス事業部事業部長)は、「ひと言で言えば、わんちゃん、ねこちゃんのためのコラボレーションとコミュニケーションのプラットフォーム。デジタルを活用し、飼い主と事業者が協力することで、人とペットがともに幸せに暮らせるサービス基盤を目指している」と語る。

 これまでのNECのイメージからは、ちょっとかけ離れたサービスだ。

 ちなみに、wanecoの名称には、わんちゃん、ねこちゃんという意味のほか、NECの3文字、エコロジーを意味するECOも組み込まれており、「この事業に関わるNECの社員の思いを反映したものである」と語る。

(写真向かって左から)日本動物高度医療センターの山本誠氏(診療本部事業開発課課長)、日本電気株式会社の池田雅之氏(AI・アナリティクス事業部事業部長)、同じく新見景氏(AI・アナリティクス事業部環境分析事業推進室マネージャー)

お留守番中の「うちの子」と話せるLINE

 wanecoの第1弾サービスとして、LINE公式アカウントを使った「waneco talk」の社内実証が4月から開始される。犬や猫を飼っているNECグループの社員約100人を対象に実施。この成果をもとに、8月からは、一般向けサービスを開始する予定だ。

 waneco talkは、留守番などをしている犬や猫に、LINEを通じて話し掛けると、今の状況に応じた返事をしてくれるというものだ。

「waneco talk」の仕組み

 例えば、「何してる?」と聞くと、ペットからは、「運動してた!」とか、「のんびり~」「起きた~!」といった返事が返ってくる。それによって、ペットの状況が把握できるというわけだ。

ねむねむ……
起きた~
ひとやすみ~
休憩に入りま~す

 NECの新見景氏(AI・アナリティクス事業部環境分析事業推進室マネージャー)は、「74.8%のわんちゃん、ねこちゃんが、平日に2時間以上の留守番をしている。そのうち半分が5時間以上の留守番となっている。waneco talkを通じて、留守番中の様子が、メッセージとして理解できたり、家族の一員であるペットと、楽しい会話ができるようになる」とする。

おしゃべりだけじゃない! 小さなSOSに気付いてあげられる「PLUS CYCLE」

 仕組みはこうだ。

 犬や猫の首輪に「PLUS CYCLE(プラスサイクル)」と呼ばれる犬猫用活動量計を装着。三軸加速度センサーと気圧センサーによって、犬や猫の活動データを収集。これを、NECのAI技術群「NEC the WISE」によって分析し、ふるまいや状態などをもとに、メッセージとして飼い主のLINEに返信したり、自ら送信したりする。

犬猫用活動量計「PLUS CYCLE(プラスサイクル)」

 「今後、学習データを蓄積し、AIの精度を改善することで、より最適で、楽しいやり取りができるようになる」とする。

 ここで注目しておきたいのが、NECが目指しているのは、単にペットと会話をすることを目的にプラットフォームを構築したわけではないという点だ。

 そして、waneco talkで利用されているPLUS CYCLEが、犬猫向けの高度医療を行う動物病院を展開している日本動物高度医療センター(JARMeC)が製品化している点も見逃せない。PLUS CYCLEは、直径2.7cm、厚さ0.9cm、重さ約9gという小型軽量の筐体の中に各種センサーを搭載。活動量やジャンプ回数、休息時間などをデータとして収集。サーバーに蓄積したデータをもとに、同犬種・同猫種との比較を行ったり、各犬猫の活動量の推移をもとに、異常を検知し、最適化したテーラーメード型の予防動物医療につなげることを目的に開発されている。つまり、動物の医療にために開発されたデバイスなのだ。

 JARMeCの山本誠氏(診療本部事業開発課課長)は、「日々の診療の中で、もっと早く気付いてあげられたらという声を聞くことがある。犬や猫は話すことができないため、一緒にいる家族でも、小さなSOSに気がつけないことがある。そうした小さなSOSに気付くことを目的に生まれたのが、PLUS CYCLEである。現在、全国1000病院以上で、PLUS CYCLEに対応した医療が受けられる環境が整っている。これによって、Pet Personal Health Record(PPHR)を実現し、データ駆動型の予防動物医療を確立したり、未病を改善するといったことにつなげたい」とする。

日本動物高度医療センターの山本誠氏(診療本部事業開発課課長)

 PLUS CYCLEは、もととも犬や猫の健康管理のために生まれた機器だが、これを飼い主とのコミュニュケーションに活用するというのが、wanecoの第1弾サービスとなる。

 もちろん、NECもこの仕組みをメッセージのやり取りだけに使おうとはしていない。

 NECの新見氏は、「waneco talkは、飼い主に楽しさや夢を届けるといった要素もあるが、もう1つの重要な要素が、ペットの健康を維持するということである。トーク体験を楽しみながらデータを蓄積し、AIによる分析結果をもとに、健康管理も行っていく。健康管理アプリでペットの健康状態を可視化し、そのデータをもとに、動物病院と連携し、精度の高い診察を実現することもできる。むしろ、wanecoでは、健康管理が付加価値になる」とする。

日本電機株式会社の新見景氏(AI・アナリティクス事業部環境分析事業推進室マネージャー)

 これまでにも、AI技術などを活用して、犬や猫と疑似的に会話できるといったサービスやツールはあったが、wanecoではそうした娯楽的要素だけにとどまらないサービスへと拡張する考えを示す。

動物病院、スクール、ペットサロンなどのデータを連携、カルテに登録

 愛玩動物コミュニケーションプラットフォームサービスと位置付けるwanecoにおいて、waneco talkは1つの入り口にすぎない。

 wanecoでは、ペットに関わるさまざまな事業者を連携し、サービスを高度化し、ペットとの暮らしをより楽しむことを目指すことがゴールになるからだ。

 NECの池田氏は、「新型コロナウイルスの感染拡大とともに、一緒に暮らす動物は家族の一員となって、生活に溶け込み、ステイホームが長引く中で人の心を支える存在となり、癒しや幸福を与えてくれるかけがえのない存在になっている。こうしたペットとのつながりが強化される中で、ペットの健康寿命の延伸や、飼い主の利便性向上からウェルビーイングに貢献したいという背景から生まれたサービスである」とする。

日本電気株式会社の池田雅之氏(AI・アナリティクス事業部事業部長)

 ペットを中心に、飼い主と、ペットサロン、動物病院、スクール、ドッグラン、ホテル/飲食店、ブリーダー、ペットフード会社、製薬会社、保護団体、保険会社などが結び付き、IDを活用しながら、それぞれのサービスやデータを連携することで、ペットの健康を維持したり、ペットとの生活をより楽しんだり、利便性を高めたりすることができるという。

 NECの池田氏は、「ペットを取り巻くサービスは数多く提供されているが、個別にサービスが提供されており、データが連携していないのが現状である。wanecoでは、人とペットとの暮らしにおけるさまざまなサービスを『waneco ID』でつなぎ、飼い主をサポートすることができる」とし、「ペットサロンで、トリマーがケアするときに、病気に気が付くこともある。トリマーが得た情報を獣医とデジタル連携できれば、ペットの健康にも貢献できる。NECが持つ画像技術を活用して皮膚や毛の状態を分析したり、そこに活動量計のデータや、トリマーの情報を組み合わせたりすることで、早期手当や治療のほか、健康増進のためのメニューを提供したりといったように、ウェルビーイングにつなげることができる」とする。

 そして、「IT業界では、Customer Relationship Management(CRM)という言葉があるが、NECでは、新たにPet Relationship Management(PRM)という言葉を用いる。顧客情報を集めて一元的に管理。顧客との関係性を高めながら、顧客満足度を高めていくのがCRMである。PRMは、CRMと同じ仕組みを、ペットや飼い主と、事業者との関係性をデジタルによって強化し、社会に貢献する仕組みになる。さまざまな事業者とつながることで、サービスが広がることになる」とする。

 NECでは、waneco talkは、BtoC型の直接サービスとして展開するが、基本的には、事業者との連携により、プラットフォームを提供するビジネスを主軸に据える。2025年にはwaneco事業で500億円の売上高を目指す。

 現在、JARMeCや、ペットサロンを展開する「Salone de One」がパートナーとして名乗りを上げ、日本ペットサロン協会、酪農学園大学のほか、犬専用の共通プラットフォームである「Parnavi」、ペットライフメディアの「PETOKOTO」、保護団体の「ペットの里」が賛同している。

 今後、パートナーとの連携を進め、ペットサロン向けの無償版アプリやペットサロンにおける施術データと血統種、性別、年齢別の傾向を分析把握するデータ分析サービスを、順次展開する予定だという。アプリにはペットの健康チェックに欠かせない耳、歯、目、皮膚、被毛の状態などを登録し、ペットサロンにおけるカルテ情報のデジタル化をスタートするという。

5年間で600万頭、国内ペットの3分の1の登録を目指す

 NECでは、今後5年間で600万頭の登録を目指す。これは、日本国内でペットとして飼育されている犬猫の総数が1800万頭とされることから逆算すると、その3分の1を占めるという意欲的な数字だ。

(写真向かって左から)日本動物高度医療センターの山本誠氏(診療本部事業開発課課長)、日本電気株式会社の池田雅之氏(AI・アナリティクス事業部事業部長)、同じく新見景氏(AI・アナリティクス事業部環境分析事業推進室マネージャー)

 「ペットの健康を維持したり、さまざまなサービスを利用する点で、wanecoは、必要不可欠なサービスになる。NECは、ペットとともに人の幸せを目指す、共生できる社会こそが幸せな社会だと考えている。多くの事業者と連携し、先行してシェアを獲得したい」(NECの池田氏)とする。

 NECは2020年10月、環境分析事業推進室を設置した。ウェルビーイングを目指した環境事業を推進する専門組織と位置付け、AIやDXの技術を社会環境や生活環境の分析に生かし、さまざまな課題解決に取り組む組織となる。wanecoを担当するのも、環境分析事業推進室である。

 「環境分析事業推進室は、本業が別にある社員ばかりである。この組織の趣旨に賛同した社員が集まっている」という。

 「社員に聞くと、コロナ禍になって、孤独感が増したという声が多く上がっている。これ以外にもコロナ禍において、さまざまな課題が生まれている。そうした課題に対して、NECとして、何をすべきかを考えた。ステイホームの中で役立つこと、幸福感を高めること、人を支えることは何かを考えて、wanecoのサービスにたどり着いた。昨年のゴールデンウイークには、役員から連絡があり、この事業をやるべきだという意見が出た。普段は、AIを活用してデータを分析し、マネーロンダリングの発見やプラントの故障予兆などを行っているが、人間の心に直結した分析をやるべきと考えてスタートした事業がwanecoである。社会も豊かにできるが、NECの社員のための事業にもなる」とした。

 単にペットと会話をすることを目的に作られたサービスではなく、大義を持ったサービスを提供するプラットフォームを目指しているのが、wanecoというわけだ。