ニュース

五輪開催中の通勤・出社はどうする? 首都圏のテレワーク導入企業、働き方の現状は?

TDMテレワーク実行委員会が7月15日、テレワークに関する意見交換会を開催した

 首都圏に本社や事業所を構える企業有志と地方自治体によって構成されるTDMテレワーク実行委員会が7月15日、オリンピック・パラリンピックの東京2020大会やコロナ禍を踏まえた「企業の働き方意見交換会」を開催。同委員会に所属する企業が参加し、それぞれのテレワーク推進施策や円滑実施のためのポイントについて共有・議論を行った。

 TDMテレワーク実行委員会は2019年7月、テレワークの先進企業23社が集まり、主に2020年夏の交通混雑緩和を目指してテレワークの普及に向けて社会啓発をすることを目的に創設された(TDMは「Transportation Demand Management:交通需要マネジメント」の略)。

 その後、東京都による「スムーズビズ推進大賞」の推進賞を受賞し、テレワークに関する講演会などで普及啓発活動に取り組んできた。当初は2020年夏に開催予定だった東京2020大会を見据えての取り組みとしてスタートしたが、コロナ禍においてテレワークを実施する企業が急増する中、テレワークに関する相談会なども開催。これをきっかけに新たに実行委員会に参加する企業も増加し、現在は民間企業24社と地方自治体22団体の計46社・団体が参加している。

 今回行われた意見交換会の冒頭では、委員長を務めるアステリア株式会社の長沼史宏氏があいさつした。「TDMテレワーク実行委員会は、もともとオリンピックに向けてスタートしたのですが、コロナ禍でいろいろと活動が変化してきており、今では働き方を考える委員会へと進化してきています。本日は新常態での働き方も含めて、幅広く意見交換したいと思います」(長沼氏)。

アステリア株式会社の長沼史宏氏

テレワーク効果で、求人倍率が32倍に増加した企業も

 続いて、実行委員会メンバー企業各社の取り組みの発表および意見交換が行われ、各社のテレワークやワーケーションの推奨施策や、取り組みを円滑に実施するためのポイントについて共有が行われた。発表内容は以下の通り。

TDMテレワーク実行委員会の参加企業各社が意見を交換した

テレワーク実施率9割が常態化――アステリア株式会社

 東日本大震災をきっかけに全社でテレワークを導入し、コロナ禍による感染予防対策として2020年2月からはほぼ全社員が常時テレワークの状態にスムーズに移行した。現在ではテレワーク実施率9割が常態化し、本社オフィスのスペースを削減している。2021年6月の株主総会では会場に株主が1人も来ないバーチャルオンリーの株主総会を実現した。大会期間中も引き続きテレワークを推奨する方針で、今後はワーケーションの実施やコワーキングスペースの活用、バーチャルオフィスの運用により、必要に応じて必要な人が集まれる働き方を推進する。

五輪期間中は出張業務など一時停止――e-Janネットワークス株式会社

 2020年6月以降、テレワークを前提とした働き方に移行し、サービス提供に関連する物流センターを高知の拠点に移すなどの取り組みを推進するとともに、在宅勤務の環境改善のためのテレワーク手当を支給するなど、社員個人の業務環境の向上にも取り組んでいる。大会期間中は出張業務などを一時停止し、在宅勤務を実施する予定で、終了後は地方でのワーケーション実施や拠点間の社員交流を再開する予定。

寺の宿坊で密回避・黙食のワーケーション合宿も――株式会社ガイアックス

 YouTube Live配信によるオンライン社員総会を開催。メンバー居住エリアでの10名以下の合同テレワークを毎月開催しており、寺の宿坊で、密回避・黙食などのワーケーション合宿を行っている。大会期間中もテレワークを推奨しており、今後も密回避のワーケーション合宿を行う予定。

五輪やコロナに関係なく柔軟な働き方を推進――かっこ株式会社

 2018年より段階的に社内制度を整えており、現在は社員やアルバイト、インターン生を含め全社でテレワークを実施している。東京2020大会の開催やコロナに関係なく、継続して柔軟な働き方を推進していく方針。テレワークの効果として、通勤時間がテレワーク移行時の6分の1に削減したことに加えて、インターン生の応募増加により求人倍率が32倍に増加した。

「オフィスに通える」との会社規程を削除――株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ

 以前からテレワーク制度を導入しており、コロナ禍で全社員がテレワークでの業務に移行し、1年以上継続している。大会後にコロナの感染状況が落ち着いても、現在の状態を継続する予定で、最近では地方・郊外へ移住する社員が増えてきた。今後は郊外で少人数が集まれるオフィスを検討中で、オフィス拠点に関係なく人材採用する方針。採用面接も完全オンラインで行っており、会社の規定から「オフィスに通える」という項目も削除した。

2016年夏よりフルリモート――シックス・アパート株式会社

 自由度の高い働き方によるQOL向上を目的に、2016年夏よりフルリモートで業務を行っている。コロナ禍ではオフィスクローズとなり、月に1回のリアルコミュニケーションの場であった全社集会の機会が失われたことが課題となっている。大会期間中は緊急事態宣言下でもあるため、 集まる機会は必要最小限にとどめて、宣言解除後は状況を見つつ、まずは少人数のチームでの対面ミーティングの再開を検討する。

オフィスを50%削減、バーチャルオフィスも導入――株式会社シノプス

 大阪本社と東京拠点はいずれも2020年3月から全社がフルリモート体制で、大会期間中は特に東京メンバーの在宅勤務を推奨している。大会期間後は状況に応じて判断しながら継続実施の方針。エンジニアだけでなく、営業において顧客とのミーティングについても良い結果が出ており、現在はオフィスを50%削減して、バーチャルオフィスも導入している。

「オンライン観戦」などのコミュニケーションも予定――株式会社リンクバル

 コロナ禍前から一部の社員を対象にテレワークを実施していたが、2020年3月末からフルリモートに移行。2021年4月には本社を移転し、約80名の社員数に対して席数20席にしてオフィスのスペースを大幅に削減できた。現在は出社率約7%となっている。大会期間中は引き続き全社員のテレワークを続ける方針で、オンライン観戦など、今しかできないコミュニケーションの場も作る予定。宣言解除後もフルリモートを継続する一方で、リアルな社員同士のコミュニケーションの場として新オフィスを活用する。

地方でも「全国テレワーク」で人材獲得――楯の川酒造株式会社

 2007年より都心部にて営業・マーケティング関連職のテレワークを開始、現在15名前後が全国各地でテレワークを行っており、そのうち都心近郊は10名前後がテレワークを行っている。大会期間中は本社から通常お盆時期に行う社内向けの配送物の先出しを行うほか、自宅におけるテレワークを推奨する。宣言解除後は引き続きテレワークを実施し、これによりIT人材やファイナンス人材など、地方で獲得しにくい人材の獲得していく方針。

重要性が増す「対面の機会」、求められる「選択肢の多い働き方」

 上記のような取り組みのまとめとして、シックス・アパート株式会社の壽かおり氏が、大会期間中および新常態における働き方への提言を発表した。

シックス・アパート株式会社の壽かおり氏

 1つ目は、この日に登壇した9社の話全てに共通したこととして、多くの個人・企業がテレワークのメリットを実感したことを挙げた。テレワークの導入により、個人のQOL向上や企業への求人応募の増加、生産性向上およびイノベーション、社外とのコラボレーションやコミュニティ活動の増加など、多くの企業がさまざまなメリットを感じていると語った。

 2つ目は、対面の機会は、頻度は減っているものの重要性が増しており、密に配慮しつつ集まる場を作ることの大切さを挙げた。例えば新人教育やチームビルディング時には最初の1週間は集中的に出社したり、チーム合宿や交流重視のイベントを行ったりすることの必要性についても指摘した。また、オフィスで集まるのではなく、地方拠点や寺院など、場所を変える機会も今後は増えていくのではないかと語った。

 3つ目として、大会終了後そして緊急事態宣言の解除後は、地方自治体などと連携し、より柔軟でサステナブルな、選択肢の多い働き方を作ることを呼び掛けた。住む場所を問わない採用や、ワーケーションによる地方の人との交流、首都圏企業勤務者の地方移住、地方拠点の活用などの事例が今後増えていくことが予想され、このような動きは、個人がどこに住み、どのように暮らして、どのように働くかを見つめ直すきっかけとなる。

働き方への3つの提言

 壽氏は「TDMテレワークとしては今後、この3つを重視したメッセージを発信していければと思います」と締めくくった。