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「Slack GPT」で何ができる? 同社CEO/CTOが詳細を語る――新Slackは会話の要約や文書の自動作成をしてくれる

Salesforceとの統合を一段階引き上げる「Slack Sales Elevate」も発表

Slackが導入を計画している「Slack GPT」。Chat GPTのようなチャットボットをSlackに実装するのではなく、LLMを利用した新機能(文章要約と文章自動作成機能)が実現される

 米Salesforceの日本法人となる株式会社セールスフォース・ジャパンは、同社のプライベートカンファレンス「Salesforce World Tour Tokyo」を7月20日・21日に東京都内で開催した。カンファレンスには、同社が2021年に買収して子会社化したSlack Technologiesも参加しており、7月20日午後にはSlackによる基調講演が行なわれた。

 この中でSlackのCEOであるリディアニ・ジョーンズ氏は、Slackが先日発表した、大規模言語モデル(LLM)を活用した生成AIサービスをSlackに統合する「Slack GPT」に関する説明に時間を割いたほか、新しいサービスとしてSalesforce上にあるデータを共有できる「Slack Sales Elevate」をグローバル発表に先駆けて日本で発表した。

 また、Slack共同創業者兼CTOであるカル・ヘンダーソン氏は「Slack GPTの学習データはコンプライアンス的にクリアされたものだけを利用しており、顧客のデータは顧客の組織のSlack内でだけ利用される」と述べ、エンタープライズにとっての生成AIを活用する際の懸念点である学習データの法的問題やデータ保護に関してはクリアしていると強調した。

Salesforceに買収されて2年が経過したSlack、日本は今でも2番目に大きな市場

 コロナ禍におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するツールとして注目を集めたSlackだが、2020年末、CRMのSaaSツールを提供するベンダーとして知られるSalesforceに買収されることが明らかにされ、2021年の半ばにSalesforceの100%子会社となって新体制がスタートした。

 2022年になって、Slackの創業者でCEOを務めてきたスチュワート・バターフィールド氏が辞任したのち、同年末に新しいSlackのCEOに就任したのがリディアニ・ジョーンズ氏だ。ジョーンズ氏は、SlackのCEOに就任する前はSalesforceでEVP兼Salesforce Digital Experiences事業部長としてSalesforceの経営陣の1人として活躍してきた人材だ。今回、日本向けのイベントでは初めて登壇し、Slackの戦略に関しての説明を行なった。

Slack TechnologiesのCEO、リディアニ・ジョーンズ氏

 ジョーンズ氏は「Slackにとって日本は極めて重要な市場だ。というのも、日本は米国についで2番目に大きな市場だからだ」と述べ、以前からそうであったように、Slackにとって日本は重要な市場であり、米国に次いで2番目に大きなマーケットであるため、日本のユーザーを重視していることを表明した。

 ジョーンズ氏は「すでにSlackには日々50億以上のアクションが発生し、1日に250万のワークフローが起動され、さらに日常的に使うユーザーは150以上の国々にいる。また、すぐに使えるSlackのアプリは2600に上り、ユーザーがプロセスの自動化で26%の時間を節約できるようになっており、ローコード/ノーコードで利用できるSlackワークフローを利用する非技術系のユーザーは80%になっている」と述べ、Slackがユーザーの生産性向上に貢献していることをアピールした。

Slackの現状

 その具体的な例として、Slackが2022年9月に発表した「Slack Canvas」について言及。Slack Canvasを活用することで複数のチャンネルにまたがる情報を整理・集約して表示することが可能になり、情報の構造化が可能になることで、ユーザーの生産性向上に貢献していると強調した。

2022年に発表された「Slack Canvas」

「Slack GPT」導入により強力な自動化機能を提供、会話の自動要約機能や文章の自動作成など

 講演の中でSlackは、家庭用・業務用の計量器(体重計や体組成計など)を製造・販売している株式会社タニタの代表取締役社長である谷田千里氏をステージに呼び、近年、Slackを導入してDXを推進しているという同社のSlack導入効果に関して説明を行なった。

株式会社タニタ代表取締役社長の谷田千里氏。谷田氏の左にあるのが、ゲームができるヘルスメーターのPoC
株式会社セールスフォース・ジャパン常務執行役員Slack事業統括本部長の佐々木聖治氏

 Slackの国内事業を統括する株式会社セールスフォース・ジャパン常務執行役員Slack事業統括本部長の佐々木聖治氏と一緒に壇上に上がった谷田氏は、タニタがSNKと共同で開発した、SNKのゲームタイトル「ザ・キング・オブ・ファイターズ」を遊べるようにしたヘルスメーターのPoC(Proof of Concept:実証試作)を公開し、実際にゲームがヘルスメーター上で動く様子をデモした。

「ザ・キング・オブ・ファイターズ」がタニタのヘルスメーター上で動作しているPoC

 谷田氏によれば、このSNKとの協業は、タニタ社内のSlackで谷田氏が「SNKに行くけれど何か良いアイデアある人いる?」と募集したところ出てきたアイデアだそうで、「Slack導入前は情報が細分化していたが、Slackを導入したことでフラットになり、社内で何が起きているかを容易に把握できるようになった」と述べ、経営者としてもSlackが導入されることで社業全体を把握することが容易になり生産性が向上したと説明した。

タニタ社内のSlack

 壇上に戻ったジョーンズ氏は、Slackが2023年に入って発表したOpenAIとの協業で実現された「Slack GPT」に関しても説明を行なった。

 Slack GPTは、OpenAIのChatGPTに採用されているLLM(大規模言語モデル)を活用して、Slackに新しい生成AI機能を提供するサービスとなる。ジョーンズ氏は「Slack GPTは、Slackにおける生成AIの未来だ。Slackに深く統合され、いくつかの新しい機能を提供する」と述べ、Slack GPTを利用することでSlackチャンネル内の会話を自動的に要約してくれるサマリーの自動作成、さらには顧客向けに提供する文書の自動作成機能など、以前からSlackがワークフローなどで提供してきた自動化機能をさらに拡張し、自動化機能をよりインテリジェントにするものだと説明した。

「Slack GPT」の機能
ワークフローにも「Slack GPT」を利用した自動化を実現

 また、Salesforceのサービスとの統合を進める「Slack Sales Elevate」をグローバルに先駆けて発表。より効率よくSalesforceのデータをSlackから利用できるようにすることを明らかにした。ジョーンズ氏は「すでにCustomer 360との統合を進めてきたが、Slack Sales Elevateでは、Salesforceの営業先の情報などが自動でアップデートされていく。SlackやSlackのサービスなどからSalesforceのデータを効率よく利用することが可能になり、SalesforceとSlackの両方を使っている企業の生産性向上を実現していく」と述べ、SlackとSalesforceの融合をさらに前に進めることで、両方のサービスを同時に利用している企業の利便性を向上させていくと強調した。

「Slack Sales Elevate」

「Slack GPT」は信頼されるAIを実現。学習データはコンプライアンス準拠、LLMが活用するデータは保護

 基調講演の終了後、Slack共同創業者兼CTOのカル・ヘンダーソン氏が本誌との質疑応答に応じ、Slack GPTに関しての詳細を説明した。

Slack Technologies共同創業者兼CTOのカル・ヘンダーソン氏

 ヘンダーソン氏によれば、「Slack GPTは現状では2つの機能がある。それが要約自動生成と文章自動生成機能だ。ChatGPTのようなチャットボットの機能を実装するわけではなく、LLMを利用して新しいインテリジェントな機能をSlackに実装するためのサービスとなる。また、ローコード/ノーコードで新しい機能を作成できるSlackワークフローにもSlack GPTの機能を実装する予定で、生成AIのパワーを活用して新しいワークフローを作成することが可能になる」とのこと。Slack GPTという名前だけを聞くと、ChatGPTのようなチャットボット機能がSlackに統合されるイメージを持たれるが、実際にはLLMを利用した、より生産性を高めるツールをSlackに実装していくかたちになるという。また、将来的にはAPIからもSlack GPTを利用できるようにする計画で、サードパーティが作成するアドオンアプリからもSlack GPTを利用することが可能になる見通しだとヘンダーソン氏は説明した。

 具体的にどのようなことができるかと言えば、あるチャンネルで議論されている会話の内容を、Slack GPTがLLMを利用して要約を作成してくれるなどが実現される。例えば、自分の業務に関わる内容であれば、そのチャンネルの内容を常に追いかけておいて把握することは当たり前だが、経営層などが全てのチャンネルを見て把握するというのは非常に時間がかかる作業になってしまう。そこで、Slack GPTを利用して自動要約機能を活用すると、要約に目を通して詳細を確認する必要がありそうだと思ったらチャンネルの全部のやり取りを見に行く、あるいは要約でまとめられていた部分を見に行くといった使い方が可能になる。

 ただ、エンタープライズとして気になるのは、そうしたLLMの学習に利用されているデータが他社の著作権や知的所有権を侵害していないかという問題への対応や、同時にLLMが自社のSlackデータにアクセスすることで情報漏えいが起きないのかという、生成AIで懸念されているコンプライアンスやデータ保護の問題だろう。

 ヘンダーソン氏は「その点は多くのエンタープライズが懸念していることは理解している。そのため、Slack GPTが学習に利用しているデータは全て法的な処理が適切に行なわれていることを弊社が確認したデータであり、かつ、顧客のデータの活用はあくまで顧客のSlack GPTでだけ利用される」と説明。現状のエンタープライズ向けのSlackなどで実現されているエンタープライズデータの取り扱いに準拠しており、そうした心配は当たらないと述べた。なお、Slack Connectで複数の企業がデータのやり取りを行なう場合も同様で、あらかじめIT管理者が設定したデータ利活用のポリシーに準拠することになるとヘンダーソン氏は説明した。

 現時点でSlack GPTはアルファテストの段階で、社内および限られた顧客だけに提供されており、より広範なテストは今後行なわれる計画だということだった。

 また、今回のSalesforce World Tour Tokyoにおいて日本先行で発表され、今後グローバルに発表される計画のSlack Sales Elevateに関しては「Slack Sales Elevateは、SalesforceとSlackの統合がもう一段階上がったことを示す新機能だ。すでにSlack社内のユーザーがカスタマーゼロ(社内のユーザーが最初のユーザーになること)として利用しており、非常に好評を得ている」と述べ、間もなく社外のユーザーなどに展開を開始する計画だと説明した。