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飲食店に大型スクリーンを導入し、体験型PRメディアにする「ミセメディア」、ぐるなびとエプソンが提供

復興支援として石川県の企業とタイアップし、首都圏の飲食店で展開

内覧会を行った東京・麻布十番の「博多ほたる麻布十番店」でのデモストレーションの様子

 ぐるなびとエプソン販売は、飲食店で新たな体験を提供する新サービス「ミセメディア」を本格的にスタートした。第1弾として、1月15日から、石川県などと連携したサービスの提供を開始する。

 ミセメディアは、プロジェクターなどの大型スクリーンを飲食店内に設置し、大画面の映像を活用して、来店客に視覚で訴求。提供メニューやさまざまなコンテンツの表示ができる。映像の視覚情報だけでなく、関連したメニューの提供や店員とのコミュニケーションといった、店舗でのさまざまな体験も提供することによる「来店客の五感に訴える体験型の新しいメディア」と位置づけている。

 店内の大型スクリーンには、タイアップした企業や自治体の商品を使用したメニューを表示。同時に商品に対するこだわりや特徴などを分かりやすく説明する。

石川県の2つの食品・飲料メーカーとタイアップ

 今回は石川県と連携し、石川県に本社を持つ株式会社まつや、および、NTG(エヌティージー)とタイアップする。

 まつやは、地元で人気の調味味噌「とり野菜みそ」などを取り扱う食品メーカー。NTGは「のとジン」「のとトニック」など蒸留酒や炭酸飲料を取り扱う個人事業。タイアップでは、「とり野菜みそ」を使って新たに開発したスペシャルメニューや「のとジン」を映像で紹介し、店舗で注文できるようにする。

 大画面の迫力やシズル感のある映像演出を活用した、注文したくなるコンテンツを放映でき、映像を見て気になった利用者は、店内のスタッフに質問して、より詳しい説明を聞くことも可能になる。

 さらに、石川県の観光名所や特産品の映像を投影し、来店客に石川県の魅力を届けることで、飲食時の話題づくりにも貢献するほか、石川県から遠く離れた飲食店の利用者に「石川県に旅行に行きたい」、「石川県の特産品を食べたい」と思ってもらうきっかけにつなげる。

 店舗というリアル空間を活用することで、食材を知って、見て、接客を受けて、匂いを感じて、食べて、味わって、会話が生まれ、来店客の印象に残る体験価値を得られるという。

 第1弾のタイアップは、2月16日までの期間限定で実施。都内や横浜エリアなどで32店舗が参加し、そのうち20店舗で映像コンテンツと連動したメニューの提供などを行う。

参加店舗のラインアップ

 3カ月ごとに連携する企業や自治体が変わり、参加店舗はそれにあわせたメニュー開発などを行い、店舗向けコンテンツに組み込んで、販売の拡大を図る。

 また、来店客へのアンケート収集機能や、会員登録機能なども提供。店舗のマーケティング活動につなげることができる。なお、ミセメディアでは、店舗が持つ独自のコンテンツを放映することも可能だ。

飲食店の滞在時間の長さに注目し、「偶発的な出会い」を創出

 実証実験によると、ミセメディアの平均視認率は68.4%となり、5分以上の視聴者が65.6%に達し、そのうち15分以上を視聴した人が約20%を占めたという。また、映像を見て70%の人が行動を変容したという結果が出ている。

 ぐるなび 飲食店支援事業部法人営業部長の大塚史也氏は、「企業や地域の本当の魅力を届けるために誕生したのがミセメディアである。新たな顧客への偶発的な出会いを演出し、行動を変容させることができ、体験価値を高めることができる。飲食店が持つ場所やスキルを活用して食べる、飲む以外の新たな売上づくりにも貢献できる。日本の企業や地域の価値を届ける仕組みとして、広げていきたい」と抱負を語る。

ぐるなび 飲食店支援事業部法人営業部長の大塚史也氏

 たとえば、日本酒には苦手意識があったが、飲食店でその日本酒に関するストーリーを聞き、それ以来、日本酒にはまってしまったり、薄いグラスで飲むビールのおいしさを飲食店で体験して、家でも同じグラスを購入したりといったように、飲食店がきっかけとなって嗜好が変わるといったことがある。

 「知れば、誰かに話したくなるストーリーはたくさんある。だが、企業や地域が伝えたいことが多いのにも関わらず、その思いが届いていない。ミセメディアのコンテンツを活用することで、偶発的な出会いを生み、行動を変容させることができる」としている。

 飲食店は、ほかの店舗に比べて、約120分という圧倒的な滞在時間の長さがあり、大型スクリーンを活用し、多くの人に対して、魅力やストーリーを伝えられる訴求効果が大きい点も強調する。また、店員との会話を通じて、注文してみるといった行動変容が起きやすいため、新たなメニューや食材の提案にも飲食店は適しているという。

飲食店でには「圧倒的な滞在時間の長さ」がある

 一方で、SNSなどで起こるとされるフィルターバブル現象(ユーザーの価値観に合った情報が優先的に表示される一方で、新しい情報に触れる機会が失われる減少)により、新たな出会いが少なくなっていることも指摘。「ターゲティングの進化により、興味がある情報だけが届くという状況にある。また、ある菓子メーカーの調査では、90%の人が商品を知っているのに、食べたことがある人はわずか20%に留まっているといったデータもある。デジタル化によって認知度は高めやすくなったが、食べること、使ってもらうことが減っている。体験機会の減少により、価値が伝わりにくくなり、価格競争を生むことになっている。飲食店での体験は、そうした課題を解決できる場にもなり得る」と述べた。

 さらに、映像をきっかけに飲食店での話題が増えることにも着目。第1弾のサービスでは、連携している石川県の映像を流すことで、飲食中に石川県の話題が広がり、地域に関心を持ってもらうこともでき、飲食店での新たな体験価値を広げることができるとしている。

 サイネージを活用した訴求は、電車やタクシー、コンビニエンスストア、美容室、エレベータ、トイレなどさまざまな場面にも広がっているが、飲食店での普及は遅れていた。その背景には、飲食店の約70%が個人経営であり、国内のトップ5のチェーン店を合計しても約10%に留まり、デジタル広告による訴求の横展開が難しいという点が見逃せない。これを、ぐるなびが持つ飲食店のネットワークを活用することで解決できるという点も特徴のひとつにあげた。

企業や地域の魅力を、伝えるだけでなく「体験」してもらうメディア

 石川県総務部知事室戦略広報課広聴グループリーダーの中崎竜慶氏は、「能登半島地震および豪雨災害で被災した能登の復興支援として、ぐるなびとエプソン販売から提案をもらい、ミセメディア初のサービス提供に、石川県の食材を使用してもらうことになった。石川県の食材を食べていただく応援消費はありがたい。作り手の心が折れてしまうという場合もあるが、『おいしかった』、『もう一度注文してみたい』と言ってもらえることが励みになる。石川県の食材を食べていただき、復興が進んだら、ぜひ石川県に来てほしい」と語った。

(右から)石川県総務部知事室戦略広報課広聴グループリーダーの中崎竜慶氏、まつや社長の佐田啓子氏、NTGの松田行正氏

 まつやの佐田啓子氏は「石川県で鍋といえば『とり野菜みそ』と名前があがるほど、ご愛顧いただいている。ミセメディアは、鍋のおいしさとともに、それ以外の活用方法を知ってもらえる機会になる。『とり野菜みそ』のとりは、鶏肉のとりではなく、野菜や栄養がたっぷり取れるという意味でのとりである。こうした商品に込めた思いやストーリーを、ミセメディアを通じて伝えることができ、同時に、食べて、体験してもらうことができる。直接意見をもらえる場でもあり、飲食店に『とり野菜みそ』のオリジナルメニューを開発してもらえる場にもなる」と期待を寄せた。

 NTGの松田行正氏は「『のとジン』は、小さなブランドであり、お客様を増やすことに苦労している。思いを伝えたいと思っても空回りしているのが実態である。飲食店に置いてもらえるチャネルがなく、年間43回の商談会に参加しても、なかなか成果につながらない。ミセメディアは、映像を通じて、『のとジン』を知り、体験してもらい、伝えたいことを的確に伝えられる。一度体験してもらえばわかってもらえる商品であれば、最高のパフォーマンスを発揮できるメディアである。優れていても、表舞台には出ることがない地方の商品にスポットライトを当ててもらえる」と語った。

 ぐるなび 専務執行役員 飲食店支援事業部長の齊藤美保氏は、「飲食店に行くことで、気持ちが高揚し、気軽に非日常な体験ができる。また、コミュニケーションのための重要な場でもある。この強みを活用するとともに、集客以外でもぐるなびが貢献できることを模索した結果、ミセメディアにたどり着いた」と説明した。

 続けて、エプソン販売 取締役 販売推進本部長の豊田誠氏は、「エプソンは、会議を変えたいという狙いからプロジェクターを世の中に送り出し、その後、学校の授業で活用するための提案を行ってきた。今回は、飲食店の経営者を支援する取り組みになる。エプソンは、顧客課題を起点とした新たなビジネスモデルを模索しており、ミセメディアはお客様に貢献できるという点で相性が良いサービスだといえる。プロジェクターと店舗ソリューションを組み合わせた提案が可能になり、自治体や地方の活性化にも貢献できると考えている」と述べた。

 エプソン販売にとっては、これまでは手付かずだった飲食店市場に向けたプロジェクターの販売拡大と、ソリューションを組みあわせたパッケージ化を推進でき、付加価値型のビジネスを加速する考えだ。

ぐるなび 専務執行役員 飲食店支援事業部長の齊藤美保氏
エプソン販売 取締役 販売推進本部長の豊田誠氏
スイッチオンセレモニーでサービス開始のスイッチを押す齊藤氏と豊田氏