イベントレポート

CEATEC JAPANで見た 日本の新技術・謎技術

説明も解説もない謎のミラーデバイス

喜多充成の“虫の眼”レポート #1

例年は10月初旬のノーベル賞ウィークと会期の重なる総合展示会「CEATEC JAPAN」だが、今年はもう少し秋の深まった10月16日から4日間の日程で開催された。来場者は昨年実績を少し上回り15万6063人。ここ数年、IoT、AI、Society 5.0とビジネス界の新語流行語を前面に押し出し、新規出展者を積極的に取り込み、新陳代謝を積極的に図ってきた成果なのだろう。本稿では今年のテーマ「つながる社会、共創する未来」から意識的に遠ざかり、この展示会を過去数年にわたり観測してきた“虫の眼”で、ツッコミを入れつつ振り返ってみたい。

 スタンレー電気といえばLEDデバイスや車載電装品などを手がける専門メーカー。そのブースの入り口には、「世界で一番美しいのは誰か?」と問えば答えてくれそうなたたずまいの鏡が置かれていた。覗き込むと、正方形の四辺を縁取りするLEDライトが奥まで連なって見える。それだけなら合わせ鏡を使った空間演出にすぎないが、この展示をスルーできなかったのは、そのLEDの光列が「鏡の奥に向かって伸びていく」ように見えたからだ。

 考えてみて欲しい。ただの合わせ鏡ならすべてのLEDは同じタイミングで点灯・消灯するはず。なぜ手前から奥に、まさにタイムトラベルせんとするデロリアン(バック・トゥー・ザ・フューチャー)の助走路のように、光の道が伸びていくのか? まさか鏡の向こう側で、光の速度を自在にコントロールできているわけでもなかろうに。

 この展示品、解説文はおろか名称すら見当たらず、説明員が立っているわけでもない。ただあるのは「お手を触れないで下さい」との注意書きのみ。私が引っかかる以前から、立ち止まって首をひねっていた方に聞くと、やはりそこが不思議だという。名札をチラ見すると、光学デバイスを手がける大企業の方のよう。この方と話をしてたどりついた結論が、「反射率が可変の鏡を使っているから」というもの。

 鏡の中のLEDライトは、何度も反射を繰り返すので、遠くのものほど暗く見える。その見かけの明るさが、人の眼が検知できる閾値以下なら、消えて見える。このとき「反射率を変えられる鏡」があれば、見える/見えないの境目を奥行方向に動かすことができる――。ブース奥にいたスタンレー電気社員をつかまえて聞いたところ「だいたい合ってます」とニヤニヤしながら答えてくれた。飛んで火にいる夏の虫、だったのだろうか。

名称未設定なこのデバイスの仮称は「奥行可変照明デジタルサイネージ」。厚さ4cmで奥行き感を演出する、対角23.5インチのミラーLCDを使ったディスプレイ。解説文も説明員も配置せず、ただこれのみを展示したことで、かえって人の足が止まっていた。スタンレー電気株式会社の川瀬康さん(照明応用事業部第一営業部営業二課 課責長)、この謎デバイスの背景をちょっとだけ説明してくれた。

喜多 充成

1964年石川県生まれ。科学技術ライター。週刊誌のニュースから子ども向けの科学系ウェブサイトまで幅広く手がける。産業技術や先端技術・宇宙開発についての知識をバックグラウンドとし、難解なテーマを面白く解きほぐして伝えることに情熱を燃やす。宇宙航空研究開発機構機関誌「JAXA's」編集委員(2009~2014年)、共著書に『私たちの「はやぶさ」その時管制室で、彼らは何を思い、どう動いたか』(毎日新聞社)ほか。「インターネットマガジン」の創刊から休刊まで見届けたほか、「INTERNET Watch」では、「あるウイルス感染者の告白」「光売りの人々」など短期集中連載。