イベントレポート

CEATEC JAPANで見た 日本の新技術・謎技術

24GHz帯レーダー搭載のプレミアム便座

喜多充成の“虫の眼”レポート #10

千葉・幕張メッセで10月16日から4日間の日程で開催された「CEATEC JAPAN 2018」で興味をそそられた展示物を、この展示会を定点観測してきた筆者が“虫の眼”で回顧する。

 現代アート史の歴史的作品といわれるマルセル・デュシャンの「泉」は小、すなわち男性用小便器だったが、こちらは便座。レーダーつながりでご紹介したいのが、TOTOが創立100周年となる昨年リリースした「ネオレストNX」、希望小売価格は税別で「570,000円」のプレミアム便座だ。CEATEC JAPAN 2018での展示場所は、通信・放送分野における新たな電波利用システムの研究開発などを行う、一般社団法人電波産業会(ARIB)のブース。

 なぜこの場所に便座なのかといえば、ネオレストNXに搭載された24GHz帯のマイクロ波センサーが、「電波の有効利用に大きく貢献した」と評価され、同団体から賞をもらったからである。

 ではなぜ便座にマイクロ波センサー、すなわちレーダーが? その理由の1つが、同社が「ノイズレスデザイン」と呼ぶ、表面に小窓や突起などを一切設けないつるんとした形状にある。赤外線センサーを使う場合は、表面に赤外線を透過する黒い小窓が必要だ。しかしプレミアム便座にはそぐわない。一方、マイクロ波なら便座フタの樹脂ごしに電波を飛ばせるので、デザイナーの要請に応えることができる。

 さらにトイレへの入退室や着座・離座を確実に検出するうえで、赤外線センサーにない強みもあった。赤外線だと「人が近くにいる」ことが分かるだけだが、マイクロ波センサーを使って周波数解析を行うと、人が近づいてくるのか離れて行くのか、それとも前をたまたま通りかかっただけなのかが判別できる。そう、これは前回紹介した「ドップラーレーダー」そのものなのだ。やろうと思えば、利用者の呼吸や心拍まで読みとれるという。

 それほどの高度なセンサーを、シャワー機能制御をはじめとする電子回路が満載された高機能便座に同居させ、電波環境が良いとはいえないトイレ内できちんと動作させるための開発に、かかった期間は9年。未利用の電波の活躍の場をトイレ内にまで拡大した功績は、大である。

マイクロ波センサー搭載で比類なき性能を誇るプレミアム便座。消費税相当分で普及品が買えてしまうほど、お値段も比類ない

喜多 充成

1964年石川県生まれ。科学技術ライター。週刊誌のニュースから子ども向けの科学系ウェブサイトまで幅広く手がける。産業技術や先端技術・宇宙開発についての知識をバックグラウンドとし、難解なテーマを面白く解きほぐして伝えることに情熱を燃やす。宇宙航空研究開発機構機関誌「JAXA's」編集委員(2009~2014年)、共著書に『私たちの「はやぶさ」その時管制室で、彼らは何を思い、どう動いたか』(毎日新聞社)ほか。「インターネットマガジン」の創刊から休刊まで見届けたほか、「INTERNET Watch」では、「あるウイルス感染者の告白」「光売りの人々」など短期集中連載。