イベントレポート

CEATEC JAPANで見た 日本の新技術・謎技術

大空の風と水を知るライダー

喜多充成の“虫の眼”レポート #9

千葉・幕張メッセで10月16日から4日間の日程で開催された「CEATEC JAPAN 2018」で興味をそそられた展示物を、この展示会を定点観測してきた筆者が“虫の眼”で回顧する。

 超音波の次はレーザーだ。懐中電灯を夜空に向けると、その光芒がライトセーバーのように見える。同じ原理で、強力なレーザーを空に向けて発射すると、空気中を漂う微粒子に跳ね返った光(散乱光)が観測できる。なるべく強いレーザーを発射し、戻ってきた光を詳しく分析することで、レーザーの先にある空間の情報を知ることができる。

 これがレーザーを使ったレーダー、すなわちライダー(LIDAR)だ。光が戻ってくるまでの時間から距離が、戻ってきた光の波長の変化(ドップラーシフト)から風速を読み取るのが「ドップラーライダー」と呼ばれるシステム。空港近傍に設置され、ダウンバーストの検知などに役立てられたりしているが、今回の展示品は、水蒸気量の検知まで可能にしたところが画期的。わずかに波長の異なるレーザーを切り替えながら発射し、戻ってきた光を比較をするという。ピンポイントで風速と水蒸気量が読めるなら、ゲリラ豪雨のような局所的な天候の急変にも対応できそうだ。

システムの心臓部「アイセーフ高出力導波路型レーザー増幅器」。銅のヒートシンクが物々しさを感じさせる、ハイパワーのレーザー発振器である。中央の四角いガラス部分に導かれたレーザー(波長1531.4nm)を、周囲のファイバー群から送り込むレーザー(波長940nm)でパワーアップさせる。増幅のカギとなるのはガラスに添加されたエルビウム(Er)という元素。深い海の底でインターネットを支えている、光海底ケーブル網の光増幅中継機と同じ原理。最近では小型で航空機搭載可能なドップラーライダーも開発され、ニュースになっている(JAXAとボーイングが共同開発中)が、そのユニットも三菱電機製という
解説してくれたのは、三菱電機情報技術総合研究所の廣澤賢一さん(光技術部レーザー・光制御グループ主席研究員)。普段は研究所の奥の方にいる開発の当事者とこうしてコンタクトできるのも、こうした展示会を訪ね歩く醍醐味だ

喜多 充成

1964年石川県生まれ。科学技術ライター。週刊誌のニュースから子ども向けの科学系ウェブサイトまで幅広く手がける。産業技術や先端技術・宇宙開発についての知識をバックグラウンドとし、難解なテーマを面白く解きほぐして伝えることに情熱を燃やす。宇宙航空研究開発機構機関誌「JAXA's」編集委員(2009~2014年)、共著書に『私たちの「はやぶさ」その時管制室で、彼らは何を思い、どう動いたか』(毎日新聞社)ほか。「インターネットマガジン」の創刊から休刊まで見届けたほか、「INTERNET Watch」では、「あるウイルス感染者の告白」「光売りの人々」など短期集中連載。