イベントレポート

CEATEC JAPANで見た 日本の新技術・謎技術

目指すのは、耳に挿すコンピューター

喜多充成の“虫の眼”レポート #6

千葉・幕張メッセで10月16日から4日間の日程で開催された「CEATEC JAPAN 2018」で興味をそそられた展示物を、この展示会を定点観測してきた筆者が“虫の眼”で回顧する。

 NECブースでは空港やスタジアムなどでの使用を想定した顔認証システムなど、セキュリティ関連技術を前面に押し出していた。が、その片隅で毎年少しづつ進化を見せる一見地味なデバイスも展示されていた。「ヒアラブルデバイス」と呼ばれる、耳に挿すコンピューターだ。ベースにあるのは耳の音響特性を用いた生体認証技術である。

 例えば洞穴に「おーい」と呼び掛けると、返ってくる反響音。厳密にいうとそこには洞穴の奥行きや形状や壁面の状態が反映されているはずだ。耳孔(外耳道)でも同様に、イヤホンから発され、耳の内部で反射・吸収されてマイクに戻ってくる音にも、耳孔の形状や状態が反映され、その人だけの特徴が現れている。これを個人認証に役立てようという技術である。

 技術プレゼンテーションとしては過去のCEATEC JAPANでも行われていたが、今年はさらにノイズキャンセリング機能やバイタルセンサー(体温、脈拍、活動量など)を加えた試作機を展示。耳を接点に人とサイバー世界がつながる、新たなコンピューティングスタイルの提案にまで踏み込んだ。

耳孔音響認証が顔認証や指紋認証と違うのは、耳の穴の壁の形状と性状を識別キーとするところ。指と違い耳孔は切り落とせない(!)し、型をとって物理的にコピーするのも難しい。担当者は「顔認証より精度が高いです」と自慢するが、ノイズを遮断して測るのだから、それも当然でしょう。目指すのは「耳コンピューター」だ

喜多 充成

1964年石川県生まれ。科学技術ライター。週刊誌のニュースから子ども向けの科学系ウェブサイトまで幅広く手がける。産業技術や先端技術・宇宙開発についての知識をバックグラウンドとし、難解なテーマを面白く解きほぐして伝えることに情熱を燃やす。宇宙航空研究開発機構機関誌「JAXA's」編集委員(2009~2014年)、共著書に『私たちの「はやぶさ」その時管制室で、彼らは何を思い、どう動いたか』(毎日新聞社)ほか。「インターネットマガジン」の創刊から休刊まで見届けたほか、「INTERNET Watch」では、「あるウイルス感染者の告白」「光売りの人々」など短期集中連載。