イベントレポート
CEATEC JAPANで見た 日本の新技術・謎技術
アンテナの概念を覆す新発明、京セラ「Amcenna」
喜多充成の“虫の眼”レポート #4
2018年12月10日 07:00
千葉・幕張メッセで10月16日から4日間の日程で開催された「CEATEC JAPAN 2018」で興味をそそられた展示物を、この展示会を定点観測してきた筆者が“虫の眼”で回顧する。
「いまさら、アンテナ?」というなかれ。京セラが開発した「Amcenna(アムセナ)」は、従来のアンテナの概念を覆す新発明だ。そもそもアンテナは、そばに金属や水などがあると性能が低下する。導電性物質を満たす自由電子の影響を受け、設計通りの性能が発揮できなくなるのである。しかしAmcennaは、金属の上にペタリと置いても、全く性能が低下しないのだという。
ここからはちょっと難しい話になる。カギを握るのが「人工磁気壁」と呼ばれる、いわば磁場の絶縁層。電子基板上に、あるサイズの繰り返しパターンを描くことで、磁場をブロックし、電磁波(電波)を遮断する「壁」を作ることができる。「メタマテリアル」と呼ばれる自然界にはない機能をもった人工物である。この壁があれば、その背後に導体があってもアンテナの性能が低下することはない。その原理は広く知られていたが、「壁」を作るにはある一定以上のサイズがどうしても必要で、小型アンテナへの応用はできていなかった。
しかし京セラの平松信樹氏は、人工磁気壁を実現する繰り返しパターンを立体化したうえで、3面鏡のように配置することで、小型化に成功。3面鏡が生み出す鏡の間にアンテナが入ることで、自分(アンテナ)は広大な人工磁気壁に護られていると思い込ませる――というような原理だそうである。ざっくり言うと。
さらに、人工磁気壁を構成する素子に、アンテナ給電素子としての役割も兼ね備えさせるという、スプーンとお皿を一体化させたような(そんなものは存在しないが)トリックも施すことで、爪先ほどの大きさながら、どんな場所においても性能の低下しないアンテナを実現させた。
これまで簡単には実現しなかった、クルマのボディやモーターの金属ケースにペタリと貼り付け、何食わぬ顔でスイスイと通信を行うようなIoTデバイスが可能になる。さらに幅広い応用が期待できるとして、「CEATEC AWARD 2018」では、経済産業大臣賞と並ぶ最高賞の総務大臣賞を受賞した。
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喜多 充成
1964年石川県生まれ。科学技術ライター。週刊誌のニュースから子ども向けの科学系ウェブサイトまで幅広く手がける。産業技術や先端技術・宇宙開発についての知識をバックグラウンドとし、難解なテーマを面白く解きほぐして伝えることに情熱を燃やす。宇宙航空研究開発機構機関誌「JAXA's」編集委員(2009~2014年)、共著書に『私たちの「はやぶさ」その時管制室で、彼らは何を思い、どう動いたか』(毎日新聞社)ほか。「インターネットマガジン」の創刊から休刊まで見届けたほか、「INTERNET Watch」では、「あるウイルス感染者の告白」「光売りの人々」など短期集中連載。