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分解の結果「iPhone 5cはほぼiPhone 5」~iPhone 5sには野心的技術を満載

 米Appleが販売開始したiPhone 5cは、分解してみたところ前機種iPhone 5とほとんど変化していないことがわかった。一方、iPhone 5sでは野心的に先端的技術を搭載したことが判明している。

 米IHSは25日、分解調査結果を発表した。分解の結果、iPhone 5cの製造原価は16GBモデルが173ドル、32GBモデルが183ドルと推定されるという。前機種iPhone 5の同型を1年前に分解調査した結果である197ドルと比べ、約20ドル原価コストが下がっている。

 IHSのコストベンチマーキングサービス担当シニアディレクターであるAndrew Rassweiler氏は、「iPhone 5cは基本的にプラスチックで変装したiPhone 5と言っていい」と分析。その結果として、米Appleはこれまでのように最新機種を高価格帯で販売する一方、前機種をディスカウント販売する必要がなくなり、利益率を向上させることができるのではないかと推定される。

米IHSが発表したiPhone 5cの分解図と写真。右は5cのメイン基板。5sについては同様の図は公開されていない

 一方で、フラッグシップモデルのiPhone 5sには、野心的に先端技術を詰め込んだ設計となっていることが分解の結果判明した。

 iPhone 5sがスマートフォンとして初めて64ビットのアプリケーションプロセッサを搭載したことはAppleの発表により知られている。しかしそれだけではなく、スマートフォンとして初めて低電力DDR3(LPDDR3)DRAMを搭載し、独自のRFトランシーバーも搭載していることが明らかになった。

 IHSでは、iPhone 5sの製造コストを16GBモデルで199ドルと推定。1年前に発表されたiPhone 5の当時の製造コスト197ドルと同等、もしくはじゃっかん上回る程度となる。

 iPhone 5sで最も高価な部品は、64ビットアプリケーションプロセッサーである韓国Samsung製造のA7チップで、19ドルと推定される。これはiPhone 5やiPhone 5cに搭載されているA6の13ドルに比べてかなり高価だ。

 また、この新プロセッサーに対応するためと考えられるが、スマートフォンとして初めて低電力DDR3(LPDDR3)DRAMが搭載されていることがわかった。iPhone 5とiPhone 5cにはLPDDR2が搭載されている。この新メモリーは非常に高価で、1GBあたり11ドルかかる。iPhone 5cで搭載されているLPDDR2は9.5ドルだ。

 また、iPhone 5sで注目されている指紋認識スキャナーもコストを押し上げた。ユーザーインターフェイス関連コストは15ドルに上った。これは指紋認識スキャナーを含まないiPhone 5cの8ドルに比べて大幅に高い。

 iPhone 5sとiPhone 5cで、ともに改良された部分は無線だ。両機種ともに、より多くの4G LTE周波数帯をサポートするため、オリジナルのRFトランシーバーを搭載した。これは最大7つのLTE接続を同時に行うことができ、iPhone 5の5つ同時接続からさらに向上した。この部分はiPhone 5cのほぼ唯一と言っていい改良点となっている。

 分解の結果、米Appleの意図が浮かび上がってきた。iPhone 5cはiPhoneの廉価版であるとの噂が事前に流れていたが、それは否定された。Rassweiler氏はこのiPhone 5cについて、「オリジナルのiPhone 5とちょうど同じように、5cはApple A6プロセッサ、4インチのRetinaディスプレイ、低電力DDR2 DRAMを使う。他にも共通点はいろいろある。このために、iPhone 5cは電子部品で1年間に生じる通常のコスト削減から利益を得る。設計と構成部品の再利用、そしてプラスチックの外装の組合せによって、AppleはiPhoneのより高価でないバージョンを提供できるようになった。それでも、それは廉価版スマートフォンと呼べるほど安くはない」とコメントした。

 なおIHSでは、この分解調査が暫定的結果であり、ハードウェアと製造コストのみを考慮しただけで、それ以外のソフトウェア、ライセンス、ロイヤルティ、その他支出や費用が含まれていないことに注意を促している。

(青木 大我 taiga@scientist.com)