ニュース
NTTと上智大学、「6Gセンシング」に向けて前進する世界初の実証~携帯基地局を使って電波で人流を推定
2025年5月29日 09:45
日本電信電話株式会社(NTT)と上智大学は、第6世代移動通信システム(6G)での導入が期待されるISAC(Integrated Sensing And Communication)の有効性の評価を目的とした、人物を検出する実証に世界で初めて成功したことを発表した。移動通信システムの電波の揺らぎから屋外の人流を推定する技術を商用電波で実証したのは、世界初だという。
ISACは、携帯電話で使われる無線通信と、電波を利用して人物や車両などを検知するセンシングを統合したシステムであり、通信用の設備でセンシングも実現できることが特徴。防犯、見守り、人流の計測などの用途に活用でき、電波によるセンシングは、カメラによる撮影が必要ないためプライバシーに配慮できるほか、夜間など暗い環境や、視界を遮る障害物が多い場所でも問題なく利用できることから、屋内外を問わず、さまざまな場所での活用が想定されている。
本誌で「Wi-Fiセンシング」の技術について紹介したことがあるが、ISACのセンシングも、電波のチャネル状態情報(CSI)を利用する点では共通の原理である(後述のとおり、本実証では受信強度も用いられている)。既存の無線センシングの実験検証では、無線LAN(Wi-Fi)システムを用いた屋内での実験が大多数を占めており、ISACに基づく移動通信システムの無線センシングの実験検証数が少ないという。
NTTと上智大学は商用運用中の無線基地局を用いた無線センシング技術を研究開発しており、今回は4Gの商用基地局を活用して、屋外でISAC技術を実証した。
実証実験は、上智大学四谷キャンパス内で行われた。キャンパス内に設置された無線基地局からの電波を、キャンパス内の歩道に設置した2本のアンテナで受信し、無線センシングシステムを用いて、信号の解析を行った。
解析に用いた電波は、4Gの2GHz帯のバンド1。解析した信号から受信強度(RSSI)とチャネル状態情報(CSI)を取得し、センシングに用いた。無線センシングシステムに加え、設定した緑枠を通過した人数のみを計測するシステムを導入し、キャンパス内に設置したカメラで取得した画像から電波と人数を同時に取得し、ISACによって算出された人数とと実際の通行者数を比較した。
RSSIによる計測は処理が軽量であることが特徴で、1秒間に100回計測できる。対して、CSIは空間的な情報が得られる一方で、計測のための処理が重いため、実験に用いられたシステムでは1秒間に1回程度しか計測できないという。このため、混雑度推定において時間変化および空間的な情報を把握するため、両方を用いて、得られたデータをAI解析することで人数推定を行った。
なお、屋外では風による揺れなどの影響を受けて、機械学習モデルの汎用性脳が低下することから、観測値と人数の教師データにノイズを与えるデータ拡張技術を用いて、過学習を防いでいる。
観測後、実際の通行者数とRSSIの移動分散推移を見てみると、RSSIの分散は通行者数と類似した傾向が見られた。
続いて、AI解析によって出力した通行者の人数推定と実際の通行者数の誤差をみてみると、RSSIの値のみの場合は2.653人であったのが、RSSIの移動標準偏差とCSIの空間情報をもとに算出した場合は1.418人、データ拡張技術を導入したRSSIの移動標準偏差とCSIの空間技術は1.260人という結果になり、データ拡張技術を用いることで推定誤差を半減できることが分かったとしている。