「APrIGF」日本で初開催、“WCIT/ITR問題”に対する総務省のスタンスは?


 インターネットガバナンスについて関係者が意見交換する「APrIGF 2012 Tokyo」が18日から20日までの3日間、東京都内で開催され、28カ国から278名(日本から202名、海外から76名)が参加した。

 IGF(Internet Governance Forum)は、政府、民間セクター、市民を含むインターネットの“マルチステークホルダー”が対話する場として国連の下で開催されているフォーラム。年1回の総会のほか、世界の地域ごとの活動も行われており、APrIGF(Asia Pacific regional IGF)はアジア太平洋地域のフォーラムにあたる。2010年に香港、2011年にシンガポールで開催されたのに続き、今年、日本で開催された。国内でのIGF活動を推進するIGF-Japan(事務局:社団法人日本インターネットプロバイダー協会)が主催し、総務省が後援した。

「APrIGF 2012 Tokyo」の会場となった青山学院大学・青山キャンパスの本多記念国際会議場

 APrIGF 2012 Tokyoの議論のテーマとしては、IPv4アドレスなどのリソースや新gTLDなどドメイン名に関する問題、セキュリティ、法規制のほか、ITU(国際電気通信連合)において検討されている「ITR(International Telecommunication Regulations:国際電気通信規則)」の改正についても言及された。

 ITRは、ITU憲章(Constitution)およびITU条約(Convention)を補完するもので、国際電気通信業務の提供・運用についての一般原則を規定。178カ国が署名する国際条約でもあり、国際的な拘束力を持っている。ただし、現行のITRは1988年に採択されて以来改正されていないため、インターネットの普及などを踏まえて改正しようというわけだ。ITRの改正には「WCIT(World Conference on International Telecommunications:世界国際電気通信会議)」の開催が必要となっており、今年12月にドバイで「WCIT-12」を開催、そこでITR改正について議論する予定だ。

 ITRの改正に向けてはすでに準備会合などが進められており、加盟各国から改正項目・追加事項などの提案が出されているという。中には、国連の専門機関の1つであるITUでいわば政府主導でインターネットガバナンスを強化したい国もあるという背景から、ITUが新たなインターネット規制を作ろうとしているとの一部報道もあり、これに懸念するステークホルダーからは“WCIT/ITR問題”としてとらえられている。

 APrIGF 2012 Tokyoでは、20日に行われた公共政策に関するセッションにおいて、総務省の海野敦史氏(情報通信国際戦略局国際政策課)が登壇し、WCIT/ITR問題について日本の基本的な見解を説明した。海野氏によると、総務大臣と英国の文化・オリンピック・メディア・スポーツ大臣とで5月にとりまとめた日英共同声明の中で、インターネットガバナンスに対する日本のスタンスを明確にしているという。

 共同声明では、「インターネットによる経済成長、イノベーション及び社会発展への貢献を維持するためには、インターネットガバナンスについて、政府、企業、市民社会がそれぞれの役割を果たすマルチステークホルダーアプローチが最善の方法であることを再確認すること」「サービス、コンテンツ、アプリケーションといった多用な情報が国境を越えて流通するインターネットから最大限の便益をユーザーが享受できるよう、インターネット政策が、国際レベルで首尾一貫性があり、整合的であることを確保するよう努力すること」「インターネット及びサイバー政策に関する今後の国際的な会合において、国民及び企業の双方がインターネットを利用する際に、現在の情報の自由な流通を享受し続けることができるよう国際的なコンセンサスを実現するために相互に協力すること」との方針を示している。

 国連主導によるインターネットへの規制強化を警戒する声がある一方で、もちろん規制が必要と考える国もある。APrIGFに参加したアジア太平洋地域のステークホルダーでもスタンスは異なり、インターネット規制を強化することを批判するのではなく、ポジティブな案を出すことを求める意見も挙がった。

 なお、ITUでは現在、ITRの改正案のドラフトや、改正の背景についての説明資料などをWCIT-12のサイトにおいて公開している。

 今回のAPrIGFでは、災害復興とインターネットもテーマの1つに設定。これに関連して21日・22日には、情報支援プロボノ・プラットフォーム (iSPP)の主催により、東日本大震災の被災地である宮城県へのスタディツアーも開催された。石巻市と女川町の状況を視察するとともに、災害復興のためのICT関連プロジェクトについて報告・議論を行う国際会議も仙台市内で開催された。


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(永沢 茂)

2012/7/23 19:06