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SNSでの選挙運動解禁へ、その裏でプロ責法がらみの自主規制・運用迅速化も?

 「インターネットを使った選挙運動の解禁に向けて」と題したシンポジウムが5日、参議院議員会館内で開催された。一般社団法人新経済連盟(新経連)が主催したもので、社民党を除く10の政党でそれぞれ選挙制度問題を担当している議員10名が出席。いわゆる“ネット選挙”の解禁を目的とした公職選挙法の改正について、各党のスタンスが明らかにされた。

一般社団法人新経済連盟代表理事の三木谷浩史氏(右)と、自由民主党・平井たくや議員(左)

 政党および候補者自身のウェブサイトやメールでの情報発信だけでなく、第三者によるソーシャルメディアなどでの選挙運動(あるいは落選運動)も含めた“全面解禁”を目指す案をまとめた自由民主党や、やはり全面解禁の独自法案を年末に提出済みのみんなの党、同じく全面解禁の方針を固めた民主党はもちろんのこと、まだ具体的な内容をとりまとめていないという日本維新の会や公明党、生活の党 共産党、みどりの風、国民新党、新党改革という10党すべての出席議員が、ネット選挙解禁に賛成することを明言した。

 一方で特に懸念の声が大きいのが、ネット上での誹謗中傷・なりすましへの対策についてだ。

 こうした問題への対策として自民党案やみんなの党の提出法案では、ソーシャルメディアなどのウェブサイト上で選挙運動を行う者に対してメールアドレスを表示することを義務付ける(違反者への罰則はなし)ほか、送信メールについては氏名およびオプトアウトする際の連絡先メールアドレスなどを表示することを義務付ける(違反者には1年以下の禁固または30万円以下の罰金)。なお、ウェブサイトでの表示義務については、みんなの党の提出法案では「メールアドレスまたはウェブサイト等による方法で連絡するために必要な情報」としている一方で、自民党では具体的にTwitterのユーザー名なども認めるとしているのが特徴だ。虚偽表示を行った場合の罰則(2年以下の禁固または30万円以下の罰金)を設定しているのは両党とも同じ。

 さらに、両党とも、ウェブサイト上の名誉侵害情報をプロバイダーが迅速に削除することを促す措置を盛り込んている点にも注目される。プロバイダー責任制限法の特例を設け、プロバイダーが名誉侵害の申し出を受けて情報を削除した際に、その情報の発信者に対する損害賠償の免責に関する要件を緩和する(発信者に対する削除照会に係る申し出期限を、現行の7日から2日に短縮)ほか、免責対象事由として「メールアドレスが表示されていない情報の削除」を追加する。このほか自民党案では、インターネットの適切・適正な利用の努力義務も盛り込む。

 なお、自民党案、みんなの党の提出法案の主な項目については、新経連が参考資料として対比表にとりまとめてPDFで公開している。

新経連がとりまとめた公職選挙法改正案対比表(一部)。自民党案では「落選運動」に特化した規定もある

ネット選挙で日本は世界の“周回遅れ”、三木谷氏が解禁の必要性アピール

 新経連は団体の旗揚げ当初より、ネット選挙解禁に向けた政策提言を行っていくことを掲げていた。今回のシンポジウムでは、新経連の代表理事を務める三木谷浩史氏(楽天株式会社代表取締役会長兼社長)も出席。「日本では現在、選挙期間中のホームページの更新、メールやソーシャルネットワークの使用は残念ながらできない。一方、世界ではほとんどの国でインターネットをいかに活用して正確に政策や提言を伝えていくかという活動がなされている。残念ながら日本は“周回遅れ”になっている」と述べ、ネット選挙を解禁することの必要性を訴えた。

新経済連盟代表理事の三木谷浩史氏(楽天株式会社代表取締役会長兼社長)

 三木谷氏はまず、2012年の米大統領選で、オバマ氏のYouTubeチャンネルの再生回数が2億回以上、同氏のTwitterのフォロワー数が1800万人、同じくFacebookの被リンク数が2700万件以上、候補者同士の公開討論会を視聴した有権者らからのツイートが1000万件に上ったことを紹介。また、2012年の韓国大統領選でも、インターネットを使って特に若者を中心に政治に関する議論が活発になされ、政治的関心や投票率も上がるといった効果が出ていることを例に挙げた。

 韓国では以前、候補者によるネット選挙運動は認められていたが、第三者がSNSなどを活用して選挙運動をすることはできないと解釈されていた。しかし、この解釈について憲法裁判所が2011年12月、「政治的な表現と選挙運動は、自由を原則に、禁止を例外にしなければならない。インターネットは誰でも容易に接近できる媒体で、利用費用が安く、選挙運動の費用を画期的に下げられる政治空間であるため、インターネット上の選挙運動を制限するのは適切ではない」との理由で違憲判断を出したことをきっかけに、2012年2月に公職選挙法を改正。候補者、第三者ともにSNSなどを活用したネット選挙運動が解禁。同大統領選挙ではSNSが積極的に活用され、Twitterフォロワー数も文候補が30万、朴候補も24万に達したとしている。

 一方で日本では、投票率がとりわけ若年層で低下しており、「いかに国民に政治的関心を高めていただくかが、この国の競争力を上げていくためにも不可欠ではないか」という。ネット選挙では、従来の街頭演説を中心にした政治活動よりも正確に深く、政治の議論をタイムリーに幅広い有権者へ伝えることが可能だと説明。また、有権者の都合に合わせていつでもどこでも“生”の政治情報にアクセスできるメリットもあり、候補者・政党と有権者の間のコミュニケーションの質が向上し、投票率の向上につながるとした。

 ネット選挙は、ポスターやビラの作成・配布にかかる費用・人件費も不要のためコストも大幅に削減でき、「よりフェアな選挙活動が実現できる」とも。また、こうした印刷物などの廃棄物が出ないということで、「環境にやさしい選挙運動」であることも付け加えた。

 こうした背景やメリットを踏まえた上で三木谷氏は、「新経連の考えるネット選挙」の内容を説明。新経連としては「新たなメディアを使ったより政策本位の選挙と多様な民意が適時適切に反映される政治を実現したいと考えている。そのために、インターネットというメディアが非常に有効。参議院議員選挙でネット選挙が実現できるよう、各政党が協力していただいて、公職選挙法を今通常国会で改正していただきたい」と訴えた。

 「新経連の考えるネット選挙」の基本的な方向性は自民党案などと同じで、まず選挙運動が可能な主体については「候補者・政党、第三者を含めてすべての者」としている。また、解禁される選挙運動の手段については、以下の通りだ。

1)インターネット利用につき種類・方法の制限なく解禁(ウェブページ、SNS、動画、メール等)※選挙期日の前日までに表示されていた内容は、選挙の当日においても閲覧可能

2)電子メール送信は、事前同意を得たもの(オプトイン)等宛てに限定。送信拒否の意志表示をしたものには送信しない(オプトアウト)

3)政党はバナー広告可能。候補者は、選挙運動費用の上限額の範囲内で有料ネット広告可能。第三者は不可

4)選挙期日後のあいさつ行為の解禁

新経連の考えるネット選挙解禁内容

参院選までにネット選挙解禁、大枠で一致、懸念事項への対策などで詰め

 シンポジウムではこの後、出席した各党の議員よりそれぞれ発言があった。主な発言内容は以下の通り。

 各党ともネット選挙解禁には総論で賛成とする一方で、ウェブサイトへの連絡先の表示義務や罰則の有無など細かな部分については今後、各党間での協議で詰めていく必要があるという。しかし、次の参院選までには実現を目指す点では一致しており、みんなの党、共産党、国民新党は、さらに前倒しで参院選の前の東京都議選から解禁すべきとも語った。

自由民主党・平井たくや議員

 インターネットは豊かなコミュニケーションをするツールにもなって定着している。日本の民主主義の進化と深化のために、どのように使っていくかが重要。今は自民党の政策をとりまとめたばかりで、これから各党とお話しさせていただく。政治家が何を発信するかだけではなく、有権者と一体となった取り組みが不可欠。その意味で、今回のネット選挙解禁に対しての多くの方の関心がさらに高まることを望んでいる。

 そもそも論で言うと「公職選挙法がおかしいじゃないか」という話があり、これは多くの国会議員の共通の認識だが、今回、そこを触ると間に合わなくなる。皆さんにお願いしたいのは、ネット選挙解禁ということで、アナログの世界できること・できないことと、インターネットで解禁させる内容との整合性は今回は必ずしもとれない。それでも前に進めるべき。

 2010年の与野党合意案で我々が出していた案でも、選挙運動へのメールの利用は解禁していたし、第三者によるネット選挙運動も解禁していた。その時にはまだソーシャルメディアというものがどのように使われるか想像力が十分ではなかったこともあり、そこは自粛しようということになったと聞いている。そこで今回は3年前の自民党案を再検証した。今実際にネットの世界で行われている政治活動や、あいまいな中で政治活動から選挙活動へと移行し、どう考えてもグレーゾーンだがセーフではないかと言われていることを考えると、ネット解禁という方向性で1回整理する必要がある。このまま法改正をしなかったら、逆にやりたい放題・無法地帯になってしまう。

 今回の立法では、いわば有権者の良識を信じて解禁する部分もある。しかし、プロバイダー責任制限法や、公職選挙法の虚偽事項公表罪、選挙の自由妨害罪、名誉毀損罪、侮辱罪、不正アクセス罪など既存の法律にプラスして、自民党ではメールアドレス等の表示義務、氏名等の虚偽表示罪、プロバイダー責任制限法の特例、インターネットの適切な利用についての努力義務を入れる改正案を考えている。

自由民主党・平井たくや議員

民主党・鈴木寛議員

 このシンポジウムに合わせて、民主党政治改革推進本部のもとに設置されているインターネット選挙小委員会として基本的方針をとりまとめてきた。基本的にはICT・ネットを民主主義の議論のインフラとして可能な限り使っていく方針。従って、解禁の対象についてもすべての者を基本とする。解禁の範囲についても、SNSもきちんと対象にする。それと同時に誹謗中傷・なりすまし対策はしっかりとやっていかなければならない。これについては現行で、ネットであれ、あるいはアナログであれ、虚偽表示は罪として罰せられる法制になっており、そのエンフォースメントもしっかりやっていく。誹謗中傷・なりすましがあるということが、何かの利用を制限する理由には当たらない。とにかく次の参院選に各党がまとまれるということを最優先にして弾力的に対応していきたい。

 (連絡先の表示義務については)方向としては前回(2010年の与野党合意案)と少し変えている。SNSやウェブサイトについては、氏名の表示義務は課さないが、連絡先情報の表示義務を課す。メールについては、氏名と連絡先情報。要するに、虚偽表示罪で警察が事後的にトレースできることを担保するという意味。第三者の方々の表現の自由も実質的に確保するという法益と、虚偽の記載のバランスをどうとるか? おそらくこの辺りを各党が1つ1つ詰めていくことが大事。プロバイダーに情報削除依頼があった時に、プロバイダーによって運用にも相当バラツキがある。しかし憲法の表現の自由があるため、法律でこの基準を決めるのは適切ではない。プロバイダーおよび民間ベースで自主的なガイドラインを策定いただきたい。

 “ワーストシナリオ”を議論して漏れがないようにしようとすると、前に進めない。そこを越えるためにみんながベストエフォートするということ。(※後述の遠山清彦議員の意見に対してのコメント)

民主党・鈴木寛議員

日本維新の会・丸山穂高議員

 日本維新の会としては、マニフェスト「維新八策」にも「ネットを使った選挙の解禁」とあり、大まかには賛成。ただし、現在は党内チームで協議しているところであり、近くまとまりしだい各党と協議させていただく。いずれにせよ、参院選というのは1つの試金石。党代表もTwitterでばんばん書き込んで、若干使いすぎという言い方もあるが、ネットを使ってすぐに有権者に情報を提供できることは大きい。党としても全力でスピーディに対応していく。

日本維新の会・丸山穂高議員

公明党・遠山清彦議員

 ネット選挙解禁に関しては、私は、2010年5月に幻の法案になってしまった与野党合意案の議員立法の提案者の1人であり、推進派。先ほど三木谷氏から提案のあった方向性についても大歓迎。ただし、公明党としての独自案はまだまとめてはいない。その代わり、自民党、みんなの党の案をすごく細かく研究している。その立場から2点だけ申し上げたい。

 1つは、サイバー攻撃。アナログな選挙運動は日本の国の中で有権者あるいは政党・候補者を対象に規制をかけられるが、インターネットは国境がないという特性と、匿名性が高いという特性がある。この特性を大部分の人は悪用しないが、若干の方々は国の内外で悪用して犯罪行為に及んでいる事例がある。ネット選挙を解禁した時に、このようなケースが選挙運動の中に入ってきた時に、どう対応するのか、立法府で法律を出そうとするならば相当精緻な議論をして対策も考えた上でやらないと厳しい。

 そういう観点では、自民党案において、プロバイダー責任制限法で対応して誹謗中傷・なりすまし対策を強化するという項目があるが、これもじっくり研究すると難しい面がある。仮に私が候補者で、私の悪口を書き込んだ人がいたとする。私はプロバイダーに対して、これは名誉毀損・人権侵害であるから削除してほしいと言う。ところがプロバイダーは書いた人の表現の自由も尊重しなければならないため、書いた人に問い合わせをする。書いた人がこれは事実を言っていると主張すると、プロバイダーが間で書き込みを削除するかどうかの判断を迫られてしまい、政治マターだけに厳しい状況になる。そういった表現の自由の部分と人権侵害の部分をどう考えるのかが1つの大きな論点になるのではないか。

 インターネットに書き込まれた情報が虚偽であるということで情報の削除依頼があった時に、どういう基準で判断するか? 鈴木議員は「民間ベースでガイドラインを」ということだったが、残念ながら政治家や候補者がらみの攻防戦というのは、けっこう金銭スキャンダルや異性スキャンダルが部分的にある。事実か否かという争いになった時に、仮にガイドラインを作ったとしても、どちらかに軍配を上げて削除する、あるいは放っておくという判断をやっているうちに選挙期間が終わってしまう。その1つの情報トラブルが選挙に実際にどのぐらいの影響を与えるかの判断も難しい。結局、選挙が終わった後に落選した側が自分はネットで攻撃されて落選してしまったと訴えたところで、多分、結果は覆らない。表現の自由と人権侵害のはざまに立ったプロバイダーの責任問題も実際に運用してみないと分からないが、起こりうるケースというのがいくつかあって、その“ワーストシナリオ”になった時にどう対応するかをしっかり検討した上で国会に法律を出さないといけないのではないか。

公明党・遠山清彦議員

みんなの党・松田公太議員

 インターネットが選挙に使えないのはおかしすぎる。選挙期間中だけのことと言う方がいるかもしれないが、その選挙期間中に国民や有権者の関心がクルッと高まる。それまでは見ていなかった人も、公示日以降は候補者がどういうことを考えているのかしっかりと研究し出す。その期間に使えないとうのは本当におかしなこと。

 みんなの党は、なるべくオープンな政治を目指していきたいということも含め、どんどん開示していくべきだといろいろな側面で言っているが、このネット選挙活動もその一環。FacebookやTwitterのユーザーが今2000万人いるという。この2000万人が情報を得ることができなくなるというのも非常におかしなこと。すでに各党とも、これを解禁するのは当たり前だ、公職選挙法を改正するのは当たり前だということは分かっていると思う。総論としては皆さん賛成だと思っている。あとは各論の部分。1つ1つクリアして、できれば今年の参院選の前の都議選から解禁していきたい。

みんなの党・松田公太議員

生活の党・玉城デニー議員

 生活の党も当然、ネット選挙解禁は歓迎する立場。また、全体で見ると公職選挙法は実情にはなじまない点が多々ある。例えば、個別訪問はもっときちんとやったほうがいいのではないか、あるいは選挙の次の日以降のあいさつが禁止されていうというのは、一般的には街頭に立ってお礼を言うのが日本人の当たり前の信条だと思う。それをいろいろなかたちで規制をかけ過ぎているということ、公職選挙法そのものが問題だということが、ネット選挙の解禁をきっかけとする見直しになっていくということであれば、私自身、個人的に歓迎したい。そのほうが公正・公平・公明正大な選挙になって皆さんの関心を集めることができる。ひいては、いわゆる右左に振れる選挙独特の風に吹かれる選挙ではなく、政策をしっかりと個々人が訴え、それを党が国民に対して広くアピールし、政策選挙が行われることにつながるのであれば、日本の政治風土の改革にもつながる。

生活の党・玉城デニー議員

共産党・井上哲士議員

 共産党としては、ネット選挙の解禁は当然であり、大賛成。ぜひ参院選までに、また都議選にも間に合うようにしっかりと各党協議を進めていきたい。3年前に与野党合意をしてほぼ成立寸前までいったが、その時の各党協議会のメンバーでもあった。残念ながら国会全体の情勢の中で成立しなかった。当時も共産党は政党・候補者にとどまらず、一般有権者も含めた、そしてTwitterなども含めた全面的な解禁を求めたが、まずは各党が一致するところでやろうということでそこには踏み込まなかった経緯がある。ただ、その後の3年間のネットの広がりや社会的存在を考えた時、これは本当に全面解禁すべきだろうと考えている。

 やはり、ネット選挙の問題というのは、日本の選挙のあり方、公職選挙法のあり方そのものに問題があると思う。本来は選挙の時こそ各党候補者が政策を国民の前に明らかにして大いに対話をするのが当然だが、日本の公職選挙法はいわゆる“べからず集”になっていて、選挙期間になると突然“暗闇選挙”になる。個別訪問は禁止、候補者の名前の入ったビラは厳しく制限される。選挙期間に自由に配れる確認団体の届け出ビラがあるが、ここには写真も名前も入れることができない。政策ビラを見てもいったいこの政策を言っているのは誰なのか分からない。候補者の名前が入ったビラもあるが、これは証紙を張る必要があり、数も制限され、張る作業も膨大。こういう暗闇選挙を全体として是正することが必要。選挙期間中に政党や候補者個人の行う選挙運動における文書規制はなくすべき。ネット選挙が規制されているのも、公職選挙法で文書図画として規制されている枠の中にあることが問題。ぜひこの議論を契機に、選挙制度全体を見直す議論を大いに進めていきたい。

 1点だけ申し上げると、解禁にともなって誹謗中傷・なりすましの対策をどうするのかという議論がある。これは今の公職選挙法の235条の虚偽事項公表罪で基本的に対応できると思う。ただ、一方でいろいろな懸念はある。一定のルールを各党間で一致するところでやることで、全面的な解禁に踏み出すことが必要。皆さんと一緒に議論を進めていきたい。

共産党・井上哲士議員

みどりの風・舟山やすえ議員

 みどりの風は2012年7月に会派を結成して以来、ネット選挙の解禁について議論をしてきた。かつて案が何度か出されたにもかかわらずなかなか進んでいないという状況の中で、我々は第一歩として政見映像、いわゆる政見放送をネットでも見られるようにするということから始めるべきではないかとして、法案準備も進めてきた。政見放送は例えば早朝だったり夜遅くだったり、なかなか見る機会がない。今、ネットが解禁されない中で唯一、映像できちんと選挙期間中に候補者の政見・思いを聞くことができるが、これが活用されていない。

 ただ、先の衆院選の後、今年に入って急速にネット選挙の解禁そのものがずいぶんと前に進むようになっている。皆さんの大枠での議論の方向性には賛成。加えて政見映像についても、我々は当初、例えば選挙管理委員会のウェブサイトにコンテンツそのものを置いてそこで見られるようにすることを考えていたが、ネット選挙が解禁されれば、例えば選挙管理委員会のホームページにすべての候補者個人の情報・URLなどを載せ、そこから各ホームページに飛ばせるかたちであっても政見映像が有効に活用されるのではないか。そういった条文も加えていただければ。

 もう1つサイバー攻撃の話があったが、意図的に一気に集中的にアクセスすることでサーバーダウンさせてしまうことも懸念として考えられる。ある意味では、誹謗中傷・なりすましよりも非常に大きな影響が及ぶ。ここに対する対応も考えなければいけない。

 また、選挙費用を安くという目的がある一方、お金のあるところだけがインターネット広告を出せるという点も考えなければいけない。細かいところでいろいろ詰めて、ぜひ前に進めていきたい。

みどりの風・舟山やすえ議員

国民新党・野間たけし議員

 ネット選挙の解禁については、もう本当に遅きに失している。なるべく広く自由に認め、都議選、参院選で使えるようにしていくべき。しかし、技術的に詰めていかなければならないいろいろな問題がかなりあるため、慎重にしっかりとやっていく。

 論点はずれるが、今後は、日曜日に投票所に行って投票するという投票の方法自体をネット上でしていかないと、投票率を上げることにはならない。技術的な問題もあるが、今後はネット選挙と言えばネットで投票できるという方向に行くことが最終的には必要ではないか。

国民新党・野間たけし議員

新党改革・荒井広幸議員

 政治文化・選挙文化を変えるきっかけとしても非常にいい機会だと思っている。昔、“ネチズン(ネット市民)”などという言葉があったが、そういう方々だけに提供できるというのではなく、投票権を持たない方々とのコミュニケーションをどう考えるのか、ネットを使えない方々に対してどう考えるか、こういったことも含めて国民共有のツールとしてどう発展できるかが課題。政治家のためにやるということではなく、有権者の側に立った1つの枠組みをどう提示できるかが、我々政治家の仕事ではないか。

 最近は期日前投票に行かれる方も多い。選挙中に(投票する候補者を)決める方も多いが、選挙前に決めている人も多い。そういった方々の意識を見ると、場合によってはネットで(情報を見て)決めたという人もけっこう多い。そういうかたちでもすでにネットの影響は出てきている。

 また、関東ではNHKも民放も基本的に同じであるため、ほかの県の選挙区の候補者が言っている内容が分かるが、私の福島5区の場合、同じ選挙区の候補者の方々の意見は知ることができるが、隣りの山形県や、九州の候補者の意見は分からない。(ネットならば)いろいろな候補者の方、選挙区外の候補者の方にも関心を持っていただけるのではないか。投票率が下がってきている理由は、自分の選挙区で投票したい人がいない、政党がないということが一番大きいと思う。(ネット選挙解禁により)選挙区の枠を超え、新たな地平が広がるのではないか。

新党改革・荒井広幸議員

「今回こそ成立を。ネット業界としても全面的に協力」と三木谷氏

 全議員の発言を受けてシンポジウムの最後、新経連代表理事の三木谷氏がコメントした。ネット選挙解禁に賛成という各党の方向性は同じことが分かったというが、「ここから各論で得てして通らないというパターンをここ10年ぐらい繰り返してきた」と指摘。「今回こそ何とか成立させていただきたい。業界としても自主的なガイドライン、セキュリティに関する啓蒙も含めた協力を全面的にさせていただきたい。大同小異ではないが、ぜひ細かいところについては合意していただいて、今会期中できるだけ早いタイミングで法案を通していただきたい」とした。

 一方、大きな懸念事項となっている誹謗中傷などの問題についても三木谷氏の実体験からコメント。「今日出た問題はネット特有の問題ではなく、おそらくリアルで起こっている問題がネットで起こったらどうなるのかという議論がほとんど。1つだけ申し上げたいのは、私のTwitterにもいろいろなことを書かれるが、リアルのビラをまかれるほどダメージはない。海外からの書き込みも含めて現実的には起こっているが、現行法の中ではそれに対する反論ができない。インターネットの場合は反論できることも非常に大きい」として、オープンにすることによって自由闊達な議論につながり、深刻な問題となっている投票率の低下にも有効だと再度訴えた。

シンポジウムの司会を務めた新経済連盟理事・政治行政改革委員会委員長の岩瀬大輔氏(ライフネット生命保険代表取締役副社長)

(永沢 茂)