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【特別企画】仕事のためのSSD入門、パワポは?PDFはどれだけ速くなる? いまさら聞けない「SSDの効率性」と「選び方」

SOHO/小規模オフィスにもオススメ!

 昨今、PCの“ストレージ”(データ記憶装置)としては、従来の“HDD”ではなく、NAND型フラッシュメモリと呼ばれる大容量メモリを使った“SSD”(Solid State Drive)が採用されることが増えている。その背景にあるのは、SSDはHDDにはないメリットを多く備えているからだ。SSDの具体的な特徴、そして業務でSSDを利用するメリットについて詳しく解説していこう。

【これだけは覚えていってください!】

・現在のPCは「ストレージの速度」も重要

・HDD=大容量で安い、SSD=読み書き高速で動作が軽快

・ビジネスアプリ中心ならストレージ容量は実は余り気味

・SSDの導入は意外と簡単!!

PCはCPUだけが速くてもダメ!性能の鍵を握るのはストレージ

 業務のあらゆる領域にITが浸透している現在、ストレスなく仕事を進めるためには快適に動作するPCは必要不可欠だ。しかし実際には、「PCの起動に時間が掛かる」「ファイルのコピーがなかなか終わらない」「故障のリスクが心配」などといった不満・不安を抱えながら使っていることが多いのではないだろうか。そこでぜひ見直してほしいのが、Windowsやさまざまなアプリ、ファイルなどの保存先である“ストレージ”だ。

普段あまり見る機会がないデスクトップPC(左)やノートPC(右)の内部。いろいろな電子機器が詰め込まれているが、記憶装置の1つであるストレージの重要性は近年ますます高まっている

 ストレージは、CPUやメモリと並んでPCの中で非常に重要な役割を担っている装置だ。このストレージを選ぶとき、多くのユーザーが気にするのは容量だろう。大容量のストレージであれば、それだけ多くのアプリをインストールしたり、ファイルを保存したりすることが可能になるからだ。

 しかし、ストレージの優劣を決めるのは容量だけではない、ということも覚えておこう。実は容量と同等、あるいはそれ以上に重要なのが「読み書きのスピード」なのだ。

 アプリを使う場合にも、データを編集する場合にも、そもそもWindowsを利用する場合にも、「ファイルを読み込む」、「ファイルを保存する」という作業が必ず発生する。そのファイルが保存されている場所がストレージだ。

 例えば、ワープロソフトを使って文書を作るとすると、まずストレージにインストールされているワープロアプリを読み込んで実行し、ストレージから文書やテンプレートなどを読み込んで開き、作成・編集した文書は最終的にストレージに保存される。つまり、一連の作業には、その都度その都度でストレージとのやり取りが発生する。

 ここでポイントとなるのは、ストレージの処理速度だ。ストレージがあまりに遅いと、仮に電子の頭脳でありPCの最重要パーツである“CPU”が高速であっても、ストレージとのデータのやり取りに時間が掛かってしまい、ムダな待ち時間が生じ、結果としてPC全体のパフォーマンスが低下してしまう。つまり、ストレージはPC全体の性能を大きく左右する存在だと言っても過言ではない。

圧倒的なスピードでHDDを凌駕するSSD

 そんなPCのストレージとして、長いこと多くのPCに採用されているのがHDD(ハードディスク)だ。外見は重量感のある金属の箱状の機器で、中にはデータの記憶先である金属製の円盤、データの読み書きを行なう磁気ヘッドなどが封入されている。大容量化が非常に進んでおり、デスクトップPC用なら4~6TB、ノートPC用なら1~2TBあたりの製品が一般的で、容量あたりの単価も非常にお手頃。最近のデジタルカメラで撮った写真が1枚10MB程度なので、1TB=1000GB=100万MBと換算すると、どれほど膨大な容量なのかが分かるだろう。

デスクトップPCで広く利用されている「3.5インチ」のHDD(左)と、ノートPCで使われることが多い「2.5インチ」のHDD(右)。どちらも広く普及しているストレージだが、高速化には限度がある

 その一方で、課題となってきたのが読み書きの速度だ。HDDはその構造上、電子信号が行ったり来たりするだけのCPUやメモリなどと比べ、圧倒的に読み書きの速度が遅い。記録密度を高めたり、磁気ヘッドの動きや内部の円盤の回転速度を高速化するなどの方法で、ある程度まで高速化が進んだものの、今やその速度面での進化は限界に達しつつある。

新世代のストレージとしてこの10年で一気に普及したSSD。一般的な2.5インチタイプで、名前からも分かる通り2.5インチHDDと形状はほぼ同じ
最近採用例が増えている「M.2」という形状のSSD

 このように、性能面での課題を残すHDDとは全く仕組みが異なるストレージとして、2008年頃から徐々に広まり始めたのが“SSD”だ。大きな特徴はフラッシュメモリと呼ばれる半導体メモリを使っていること。回転する円盤と、円盤に読み書きする位置へ移動させる磁気ヘッドが必須のHDDに対し、CPUやメモリなどと同様に電気信号の行き来のみでデータの読み書きができるため、仕組み上はHDDよりはるかに高速なのだ。

ストレージの基本性能を計測するアプリ「CrystalDiskMark」でのHDD(左)とSSD(右)の結果。数字が大きいほど読み書きのスピードが速いことを示している。数字の細かい見方は割愛するが、全テストでSSDがHDDを数段上回っていることが一目瞭然

 特に、OSやアプリを起動するときなど、細かいファイルをいくつも連続して読み書きする際に高速化の効果が大きく、「PCの電源を入れてWindowsが使えるようになるまでの時間が短くなる」「アプリがサッと起動し、文書ファイルが素早く開く」といった“体感できる効果”がすぐに実感できる。

 近年、CPUやメモリが世代交代して高速化されても、ちょっとのことではその効果がなかなか実感できないことも少なくないが、SSDによる効果は、多くの人がすぐに体感できるだろう。

 また、SSDはHDDの内部のように複雑な機械動作を行なう部品がない。半導体のチップが基板上に並んでいるだけなので、動作時に騒音が生じない上、HDDより衝撃にも強く、さらに消費電力も抑えられている。これらのメリットは、特にノートPCにおいて大きな価値を持ってくる。

SSD内部基板
2.5インチSSDの内部は、おおむねどの製品も同様の構造。1枚の基板上に制御用のチップとデータを記録する複数のメモリが並ぶ。回転するモーターや読み書きするヘッドといった機械部品はない。M.2タイプのSSDも構造は同じだ

 現在のSSD市場は、国内外多数のメーカーやブランドが参入し、数多くの製品が流通している。容量が同じでも、価格の開きが大きい場合も少なくなく、製品選びが容易ではない状況でもある。ホビー用途であれば、とにかく価格だけを重視して選ぶ、という手もあるのだが、日々のビジネスに使用するなら、信頼性の高さも重視したいところだ。そこで着目したいのが「NAND型フラッシュメモリを誰が作っているのか」と「品質の保証」という2点だ。

 例えば、MicronのSSD「Crucial MX500」の場合、NAND型フラッシュメモリは自社製であり、信頼性の高さは折り紙付きだ。また、SSDの品質保証の目安としては、故障するまでの寿命の目安を示す“平均故障時間(MTTF)”、耐久性の目安を示す“総書き込み容量(単位:TBW)”という指標があるが、MX500では、平均故障時間が180万時間で、耐久性は広く利用されている500GBモデルならば180TBWと公表されている。いずれも通常使用であれば全く問題のない品質で、数年の連続使用に耐えられるスペックだ。それを証明するように、製品の保証期間も5年間という長さとなっており、ビジネスへの導入に万全の品質が保証されている製品の1つと考えてよいだろう。

SSDの容量不足はストレージの使い分けで解決!

 ここまで解説した通り、SSDには多くのメリットがあるが、一方でHDDに分があるのは大容量モデルの存在、そして容量あたりの単価の安さだ。

HDD普及モデルのラインナップと実売価格
容量実売価格GB単価
8TB1万8000円前後2.25円
6TB1万3000円前後2.17円
4TB9000円前後2.25円
3TB7000円前後2.33円
2TB6500円前後3.25円
MX500のラインナップと実売価格
容量公称最高速度(リード/ライト)実売価格GB単価
2TB560MB/s/510MB/s3万6000円前後18.00円
1TB560MB/s/510MB/s1万7000円前後17.00円
500GB560MB/s/510MB/s8500円前後17.00円
250GB560MB/s/510MB/s6500円前後26.00円

HDDとSSDの人気モデルのラインナップを比べてみた。容量の大きさ、1GBあたりの価格の安さはHDDが圧倒的ではある

 例えば、デスクトップPCで使われる3.5インチHDDの場合、10TBや12TBといった大容量の製品が登場しており、大量のファイルを保存したいといったニーズにも対応できる。しかし一般に販売されているSSDで主流となっている容量は500GB前後で、大容量のものでも1~2TB程度であり、4TBモデルも一部出回っているものの、現状では非常に高価なアイテムだ。

 また、同容量で価格を比較した場合、SSDはHDDよりも数倍高い。例えば、HDDであれば1万円弱で4TBモデルが購入できるのに対し、SSDの場合は500GBの製品が8000円ほど。SSDもだいぶ安くはなったのだが、HDDも容量単価が下がっているので、まだまだ差がある。

HDDの大容量と安さは捨て難い?SSDによる高速化メリットは明らか

 容量の大きさと価格面のオトク度を重視するならHDDを選択しそうになるのだが、SSDによる“スピード“の恩恵は非常に大きい。ストレージ以外の仕様が同一のPCを用意し、HDD搭載時とSSD搭載時での、Windowsやアプリの起動速度、ファイルを操作する際の所用時間を比較してみよう。

 使用したストレージは、デスクトップPCに搭載されている3.5インチHDD(4TB)、ノートPCで広く採用されている2.5インチHDD(500GB)、普及価格帯のSSDの人気製品であるMicronのCrucial MX500(500GB)、エントリークラスの低価格SSDであるMicronのCrucial BX500(480GB)の4製品となる。

Windowsの起動はほぼ2倍速

Windows起動
電源を投入後にWindows 10のデスクトップ画面が表示されて、起動処理が完了するまでの時間を3回計測した平均値

 まず、電源OFF状態からのWindowsの起動では、HDDでは30秒近くかかっていたものが、SSDでは16~17秒で完了している。1日1回の動作ではあるが、朝出社して素早くPCが起動するなら、朝イチの待ち時間ストレスを小さい。その日の仕事を気分よく始められるかも!?

PDFやPowerPointも2~3倍速に

 次に、日常のビジネス業務で頻繁に生じる、文書ファイルを開くという作業。ビジネスで取り扱う文書ファイルの中では、PowerPointやPDFといったファイルのサイズが大きくなることも少なくない。ファイルのサイズが大きくなると、開くのに時間がかかってしまうので、これもストレスのもとになりがちだ。

 実際にファイルを開くのに要した時間を計測してみると2~3倍の差が見られ、期待通りSSDの方が短時間で作業が完了した。数秒の差ではあるが、日々の業務で数回数十回、場合によっては数百回と実行することもあるので、積み重ねられる時間の差は大きなものとなる。

PDFの表示
PowerPointの表示
116MBのPDFファイルをMicrosoft Edgeで開き、表示されるまでの時間を3回計測した平均値
10.5MBのPowerPointファイルをMicrosoft PowerPointで開き、表示されるまでの時間を3回計測した平均値

ファイルコピーは3~5倍速

ファイルコピー
WindowsのExplorerで合計約4GBのファイルをコピーするのに要した時間を3回計測した平均値

 Windows上でのファイルコピーに要した時間の差も大きい。4GBのファイルをコピーしたところ、HDDはSSDよりも3~5倍もの時間が掛かってしまった。一般的なオフィスワークではもっと小さいサイズのファイルをコピーしたり移動したりする機会の方が多いだろうが、これも「チリも積もれば」であるため、テストにも見られるように、トータルとしては数倍の差になる。

「必要な容量」を検討しよう

数年間、Officeアプリでの文書作成とWebやメールのやり取りを中心に使用しているという経理業務に携わる人のノートPCのSSD使用量(1台のSSDを2領域に分割している)。個人の担当業務にかかわるデータだけを手元のPCに保管していることもあり、合計160GBのSSDにこれほどの未使用領域がある

 以上のように、SSDによるスピードのメリットは明らかなのだが、それでもまだ、HDDの容量の大きさと容量単価の安さは捨て難い、予算的に大容量のSSDは導入できないから容量重視でHDDを選ばざるを得ないと考え、SSDに不安を覚える向きもあるかもしれない。しかし、お手元にある業務用PCのストレージの「現在の使用量」と「空き容量」を確認してみていただきたい。冷静に見てみると、意外と空き容量が多い場合も少なくないのではないだろうか。

 Windows 10とMicrosoft Officeをインストールしたときの容量は30GB程度で、残りのストレージは自由に使えるスペースである。ビジネスでやり取りするデータのファイルは、例えば、Word文書やExcelブックなら数MBから数十MBだろう。PowerPointプレゼンテーションでも、音声やアニメーション、動画を埋め込めば非常に大きくなるが、それでもせいぜい数MBから数百MBの範囲だ。

 仮に500GBのSSDを導入したとしても、400GBを超えるフリースペースには、十分な量のファイルを保存しておける。業務内容によって大きく異なるが、Office以外のアプリを複数インストールしても、まだまだ十分な余裕があるはずだ。さらに、「PCでは、WordとExcelとPowerPointを主に使って、あとはウェブとメールが問題なくやり取りできればOK」という業務であれば、安価な250GBのSSDでも事足るだろうし、容量が小さくてもSSDのスピードの恩恵は得られる。

 さらに言えば、PC内に保管してあるファイルのうち、日常的に使うものがどれほどあるのかという点も考慮しておきたい。頻繁に利用するファイルはそれほど多くなければ、頻繁に使うものだけをPC内のSSDに保存し、それ以外のものは、簡単に取り外しができて扱いやすい「外付けHDD」などに保存して必要なときだけ参照する、という使い方でも十分かもしれない。

 社内にLANを構築しているのであれば、ネットワークに接続して使うストレージ、NAS(Network Attached Storage)を利用する、あるいはOneDriveやGoogleドライブといったインターネット上にファイルを保存できるクラウドストレージなどとの併用も検討の価値がある。これならOSやアプリの起動といった面においてSSDの高速性を活かしつつ、大容量のデータも保存できる環境を整えられる。

PCの内蔵ストレージが足りないなら、ストレージは外部に追加することも可能。簡単なのは、USBで簡単にPCに取り付けられる外付けのHDDやSSDだ
オフィス内にLANがあるなら、LANに接続して複数人で共用できる「NAS」と呼ばれるネットワークストレージが便利

早速SSDを仕事に使ってみよう!

 では、自社のPC環境にSSDをどのように導入するべきかを考えてみよう。最も手っ取り早いのは、SSDを搭載したPCを選んで新たに購入する、ということだ。昨今ではノートPCの多くがSSDを採用しているほか、デスクトップPCでもSSD搭載モデルが数多くリリースされている。こうしたモデルを導入すれば、手っ取り早くSSDのメリットを手にできる。

秋葉原などのいわゆる「PC専門店」でも法人向けPCが販売されている。予算や用途に応じて仕様を変更できる「BTO」方式に対応しているモデルなら、購入時にSSDを選択可能だ

 最近では、直販系PCメーカーや秋葉原のPCショップが展開する「法人向けPC」も販売されているが、これらは「Build to Order」(BTO)という注文方法が用いられるものが多い。あらかじめ決められた選択肢の中から、注文時にPCの仕様の一部を変更して、予算や必要な性能に応じてカスタマイズできるもの。この仕組みを活かして、最初の購入時からSSDを組み込んでおくのもオススメだ。BTOが可能なPCであれば、2台目のストレージをオプションで追加できる例もあるので、予算が許せば、SSDとHDDの両方を搭載しておくという買い方もできる。

HDDからSSDへの交換(乗せ換え)は、実は結構簡単な作業。SSDを取り扱っている販売店の中には、交換サービスも実施しているところもあるので、購入時に相談してみるのもいい

 PCの買い換えは予算的に厳しいということなら、既存のPCのストレージをHDDからSSDへと換装することも検討したい。「内蔵ストレージの換装」というと、素人には手が出せない難しい作業のように思えるが、手順が分かれば自力で交換することも十分に可能だ。

 ハードウェアの交換作業よりも、もともとHDDに入っていたOSやアプリ、各種ファイルを、新しいSSDに移行する作業のほうが要注意ポイントになる。ただ、このようなディスク移行を支援するソフトが多数出回っているので、決して難し過ぎるものではない。さらに、PCパーツショップでは、以下のようなSSD交換サービスを実施している店舗もあるので、検討してみよう。

低価格ノートPC/タブレットの「eMMC」とは?

MicrosoftのタブレットPC「Surface Go」んも低価格モデルはeMMCを採用する。全体の製品仕様としても「サブPC」向きで、ストレージ容量も64GB(空き容量は40GB程度)と控えめだ。内蔵ストレージを交換・増設することはできないので、容量が不足するようなら、クラウドサービスを使ったりmicorSDカードを利用したりする必要がある

 低価格なノートPCやタブレットの一部には、内蔵ストレージとして、HDDでもSSDでもない、「eMMC」というドライブを使用しているモデルがある。これは、eMMCも半導体メモリを使ったストレージで、どちらかと言えばSSD“親類”と言える特徴を持つ。SSDにはかなわないまでも、読み書きの性能は一部でHDDを上回り、衝撃などに強くかつ低コストと、機動力と価格がキモとなるモバイル端末向きだ。

 しかし、eMMC搭載製品はストレージ容量が小さく(32GB、64GBといったものが多い)、後から交換・アップグレードできない場合がほとんどだ。ビジネスの現場でメインマシンとして使うPCのストレージとしては、少々心もとない。アプリを必要最低限のみしかインストールせず、データもPC内にほとんど保存しない運用をする、といった主に“持ち運び用途”が中心のサブPC向きのストレージ、と覚えておくといいだろう。

(協力:マイクロンジャパン株式会社)