特集
平成の後半で大きく進化した、小笠原諸島のインターネット環境
父島へ片道24時間の船旅はネット断食の旅だった!?
2019年4月24日 06:05
日本列島から遠く離れた太平洋に浮かぶ小笠原諸島。飛行場がなく、東京から船に乗っていくほかに訪れる方法はないというこの島では、インターネットのブロードバンド環境はどうなっているのだろうか。今回、取材で小笠原を訪れたので、その状況をお伝えする。
ISDNのダイヤルアップが主流だった2002年当時
実は今回のレポートを書くことになったのは、INTERNET Watch編集部の永沢茂記者が2002年に書いた記事『ナローバンドもままならない離島のネット事情(父島の“日本一早い初日の出ライブ”計画のその後<その3>)』を読んだのがきっかけだった。永沢記者は当時、小笠原を訪れて、まだ通信環境が整っていなかった父島において、現地のネットカフェのスタッフが悪戦苦闘しながら初日の出のインターネットライブ中継を行った経緯をレポートしたのだが、この記事がなかなかにすごい。
2002年の当時、小笠原でインターネットを使うには、ISDNによるダイヤルアップ接続が主流で、モバイル回線はおろか、固定回線のブローバンドサービスも提供されていなかった(高速なバックボーン回線が小笠原諸島まではまだ届いていなかったのだ)。このような状況の中、さまざまな苦労を乗り越えてライブ中継が行われた。
それから17年経ったいま、旅行にスマホは必需品となった。現地で人気のお店や名所を検索するのはもちろん、インスタ映えするスポットで写真や動画を撮ったらSNSでシェアしたいものだ。もし、インターネットが普段通りに使えないとしたら、旅の楽しみは半減してしまうが、いまはどのようになっているのだろうか?
「おがさわら丸」に乗船して外海に出たら“ほぼ圏外”の船内、東京→父島は片道24時間
小笠原に行くには前述したように船に乗っていくしかないのだが、定期船「おがさわら丸」の乗船時間は片道24時間とかなり長い。
東京湾内を出て三浦半島にさしかかるくらいまでならかろうじて通信は可能だが、外海に出てしまうと、ほぼ圏外となってしまう。ただし、モバイルインターネット通信をオンのまま過ごしていたところ、途中、伊豆諸島など人が住む島の近くを通り過ぎるときに何度か通信できるときがあった。
なお、携帯電波が通じるようになるときは、ほかの人も同じようにメールチェックなどをしようとするため、アクセスが集中しがちで必ずしも快適に通信できるわけではないので注意が必要だ。基本的には、乗船中はほとんどインターネットに接続できる機会はないと考えておいたほうがいい。
父島到着の1時間前から3G圏内に、上陸してしまえばLTE通信が可能
おがさわら丸は竹芝を午前11時に出航し、翌日の午前11時に父島へ着くのだが、到着する1時間前の10時くらいから3G通信が可能となり、さらに15分くらい経つと4G通信が可能となった。着く前の1時間前くらいから通信可能となると聞いてはいたが、ようやくインターネット接続できる状態になり安心する。
島に上陸してしまえば、LTE通信が可能な、東京都内と変わらない普通のモバイル通信環境である。大村地区などの集落ではNTTドコモ、au、ソフトバンクの3キャリアが利用可能。もちろん、NTTドコモの回線を使ったMVNOも利用可能だ。筆者はIIJmioのSIMを利用しているが、問題なく通信できるし、スピードも都内で利用するのと遜色ない。
それもそのはず、実は小笠原村では、世界自然遺産に登録された2011年に、海底光ケーブルの使用を開始している。それまで敷設済みだった八丈島から、父島および母島までの約800km区間の海底部にケーブルが敷設されたのだ。携帯電話エリアも、父島の二見港や母島の沖港周辺の集落でLTEが使用可能となっている。
観光施設にはフリーWi-Fi、ペンション・民宿でもWi-Fi対応
モバイル通信回線のほか、おがさわら丸が停泊する二見港の船客待合所や、母島行きの「ははじま丸」の休憩所、小笠原ビジターセンターなどの施設は、フリーWi-Fiの「FREE SPOT」の無線スポットにもなっている。
また、宿泊先でも、ほとんどのペンションや民宿でWi-Fi通信に対応しており、共有PCが設置されているところもある。
今回、父島と母島で計2つの宿を利用したが、どちらもWi-Fi通信が可能で、そのうちの1つではアンテナが4本付いている巨大な無線LANルーターが部屋ごとに置いてあった。これなら接続先が混み合う心配もなく快適に使える。スピードテストの結果を見ても十分な速度が出ているし、試しにAmazonプライムビデオやAbemaTVなどを再生してみたが、途切れなくスムーズに再生された。
島内には携帯圏外のエリアも、地図アプリなどはオフライン利用の準備を
こんな具合で、港周辺の集落にいる限りは、通信環境はかなり充実していてストレスを感じないが、一方で、父島の南部や母島の北部および南端付近には、携帯圏外となってしまい、インターネットが使えなくなるエリアが少なからずある。
ナビアプリもオフラインで動作可能なものでないと、運転中に使えなくなってしまうこともあるので注意が必要だ。父島や母島には山が多く、ハイキングやトレッキングなどを楽しむ人もいるかと思うが、登山用の地図アプリなどを使う予定がある場合は、あらかじめローカルストレージに地図データを保存しておくことを忘れないようにしたい。
距離48.3kmの父島・母島間、海上では常にLTE通信が可能
意外だったのは、父島から母島へと船で渡ったときに、船内で常にLTE通信が可能だったことだ。父島と母島の距離は48.3kmとけっして短くはないが、まさか電波が途中で途切れずに使えるとは思わなかった。途中、アンテナ数が3本でスピードが出ないときはあったものの、これなら母島へ着くまでの2時間、インターネットを見ながら旅行の計画を立てることができる。
一方、東京と父島を結ぶおがさわら丸の船内では、通信環境はかなり厳しい。なにしろ乗っている時間が24時間と長いので、動画サービスや電子書籍などを利用したい場合は、あらかじめタブレットなどにダウンロードしてから乗船することをおすすめする。
また、小笠原に関する情報が載ったウェブサイトなども、Evernoteなどにページをダウンロードしておけば船内で旅行のプランを考える際に参考となるだろう。オフラインでも楽しめるようにあらかじめ工夫することで、小笠原の旅をより楽しく過ごしていただきたい。