特集
機材と工夫で記者発表会が激変! 「鮮明すぎる映像」の配信環境についてIIJに聞いた
スタッフが「ちょっと本気出した」結果……
2020年11月13日 06:08
3日前の会見と全然画質違うじゃない?!
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)が、個人向けのMVNO型通信サービス「IIJmio」で、従量制の新プラン「IIJmioモバイルプラスサービス 従量制プラン」に関する記者発表会をオンラインで8月20日に開催したのだが、会見が始まって登壇者が表示されたところで驚いた。
コロナ禍でほとんどの記者発表会がオンラインでも実施されるようになった現在、配信プラットフォーム「Zoom」がよく使われているが、会見はおおむね画質が悪く、記事で使用する登壇者の写真をスクリーンキャプチャーで賄うのが難しい。それでも仕方なく使うこともあるし、事前に広報にお願いして写真を提供してもらうこともある。
8月17日に行われた「個人データ保護に関するオンライン勉強会」は知り合いの編集者いわく、いつも通りの画質であった。ところが、20日の会見はとても明瞭な映像でスクリーンショットをそのまま記事に使っても問題ないクオリティだった。
そこでIIJに「どうやったらこのクオリティを出すことができるのか?」と問い合わせをしたところ、「このところオンラインの記者発表会が続くので『スタッフがちょっと本気を出した』」結果だという。社内の会議室に仮設スタジオを作り、配信のための機材をそろえたのが8月20日の会見というわけだ。
そこで仮設スタジオが残っているときに取材を行うことにした。説明をしていただいたのはIIJ広報部副部長兼MVNO事業部シニアエンジニアの堂前清隆氏だ。
本格的な機材がズラリ、IIJだから実現できた配信環境
20日の発表会では登壇者が2人で、それぞれをバストショットで撮影するカメラ2台と2人を同時に撮影するカメラが使われており、カメラ、登壇者説明用のPCと開始前やQAセッション用の画像用のPCをスイッチャーで切り替えている。
バストショット用に使われていたのがソニーの「PMW-EX3」で、全体用に使われているのが同じくソニーの「PXW-FS7M2」だ。この映像はSDI出力なので「Blackmagic Design ATEM Television Studio HD」を使って映像担当がスイッチングを行う。映像はスライド用PC(登壇者が操作)と、配信前・配信終了後の画面を用意したPCもHDMIで接続されている。
YouTubeの個人配信では画質を上げるためにミラーレス一眼を使った動画配信が知られているが「一眼だと被写界深度が浅く背景がボケてしまうが、説明会ならば放送用カメラの方が背景までくっきり映る」(堂前氏)という。
もう1つ重要なのが照明だ。屋内の天井光では十分な明るさが確保できないということで撮影用の照明を2個設置していた。こちらは納期の関係で「Amazonで買った7000円のもの」だそうだ。
登壇者や司会のマイク「DPA FA4018VDPAB」、Zoomからの質問音声、開始前のBGMをミキサー「Midas VeniceF16」を使ってミキシングしている。
動画の出力が若干遅れてしまうため、リップシンクのために音声を遅延させる機器を使用しているが、Zoom側でズレることもあるという。
発表会で使うテーブルやテーブルクロスは従来から使用していたものだが、背景はソーシャルディスタンス対応ということで幅の広いものを新たに購入したそうだ。
今回はZoomでの配信ということで、ワークステーション「WA9J-F200/XT」にHDMIキャプチャーボード「DeckLink Quad HDMI Recorder」を取り付けて、この入力をZoomの「第2カメラのコンテンツ」として取り込んでいる。
これらの機器を使うことによって、Zoomの標準では360pで画質がいまひとつよくないのに対し、IIJのZoomウェビナー環境で1080p 25fps程度で配信できるという(Zoomのヘルプを見ると、「グループHD」という機能でアクティブ登壇者の720pビデオ出力が可能になると書かれているが、試してみたらうまくいかなかったそうだ)。
このような配信が可能だったのは「IIJだから」という背景がある。先ほどまで挙げた機材はレンタルしたのではなく全てIIJ(グループ)が所有しているという点も挙げられる。
IIJがテレビ局と共同出資したJOCDNでは、放送事業者向けのCDN(Contents Delivery Network)サービスを運営している。JOCDNのエンジニアは当然ながら顧客の望む配信クオリティとして、放送レベルの映像・音声技術を把握していなければならないが、そのための機材が今回活用されていた。インターネットエンジニア集団としてだけでなく、映像配信事業も手掛ける同社ならではの取り組みといえる。
なお、IIJでは今回のような記者説明会だけでなく、技術者を対象とした「IIJ Technical Seminar」や、一般参加者も募る「IIJmio Meeting」などの自社イベントでもオンライン配信を行っているが、映像配信チームは特定の部署で運営しているのではなく、必要に応じて召集されるという(映像配信チームと名刺交換を行ったが、所属部門はバラバラだった)。
オンラインセミナーやオンライン授業の今後に期待
今回のような記者発表会だけでなく、映像配信チームを使わない小規模なオンラインセミナーでも画質アップの効果は期待できるだろう。
セミナーではプレゼンの内容が分かりやすい方が望ましい。それはプレゼンターのノウハウが生きるところだが、オンラインであれば動画でスライド画像も見やすくすることが、今後のオンラインセミナー時代の腕の見せどころだろう。
音声に関してもプレゼンターの声が明瞭に聞こえる機材を用意した方が良いだろう。
先日、在宅勤務にありがちな環境音や部屋の残響などがない非常に良い音質の参加者がいたので、終了後に機材を聞いたところ、ユニファイドコミュニケーション向けヘッドセットを使っているということだった。
オンライン開催となった「IIJmio meeting 27」で堂前氏が「在宅司会」をしている際にも音質が良かったので「マイクに何を使っているのか?」という発表会の内容からは脱線した質問が飛び出していた。明瞭度の良い音声機材を用意するのは動画環境を上げるよりも低コストで済むのでお勧めだ。
オンラインセミナーに加えて、オンライン授業の配信環境のハイクオリティ化も望まれているだろう。
筆者は教育市場の取材をあまり行っていないが、放送大学のような遠隔授業主体の教育機関もあり、大手予備校でも衛星放送授業が行われていた。
オンライン授業主体の教育は可能だろう。しかし、部分的とはいえ過去にテレワークを経験、あるいは検討したことが多い企業とは異なり、全面的なオンライン授業を経験した教師は一部の先進的研究事例にとどまるだろう。
義務教育段階における「GIGAスクール構想」も今年が実質的なスタートで、今年はまだ小学生のデジタル教科書導入拡大までしかスケジュールにない。また、オンライン授業の経験もノウハウも機材もない状況下で万全な配信環境を構築するのは難しいかもしれない。
教育機関はおおむね保守的でブレイクスルーが難しいと思うが、withコロナや少子化を考えると、「新しい日常」とともに「新しい教育」へのチャレンジが行える機会とポジティブに捉えるべきだろうと思われる。