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あなたの住民税、なぜその金額? 計算方法と通知書の見方を徹底解説【2021年(令和3年)版】

税制改正して最初の住民税が全て分かる! サクッと計算できる「シミュレーションツール」も紹介

住民税決定通知書・変更通知書(令和3年度)

この記事は、2021年(令和3年)の住民税について説明したものです。
2023年(令和5年)の住民税については、こちらの最新記事をご参照ください。「ふるさと納税」による減税分の確認方法について加筆しています。

 6月は住民税の季節。会社勤めのサラリーマンは6月の給与明細と一緒に住民税の通知書・明細書を受け取るはずだ。個人事業主は5月下旬から6月上旬に郵送され手元に届いているだろう。令和2年に所得税の税制改正が行われたため、住民税も令和3年分から基礎控除などの税制改正が反映され、昨年までと異なる計算で税額が算出されている。受け取った通知書・明細書はお住まいの市区町村や、会社員か自営業かにより少し名称は異なるようで、筆者(個人事業主)が住民票を置く愛知県名古屋市は「令和3年 市民税・県民税 課税明細書」、INTERNET Watch編集部の人(会社員=給与所得者)が住む東京都町田市は「令和3年 給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定通知書」と書かれている。

令和3年 市民税・県民税 課税明細書(愛知県名古屋市)
愛知県名古屋市の「令和3年 市民税・県民税 課税明細書」
令和3年 給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定通知書(東京都町田市)
東京都町田市は「令和3年 給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定通知書」

 通知書・明細書には「所得割額」「均等割額」「調整控除額」など、なじみのない言葉や算出根拠の分からない金額が書かれている。全国一律の源泉徴収票はフォーマットは共通、「源泉徴収票の見方」などで検索すると解説記事は多数見つけることができるが、住民税は市町村ごとにフォーマットに差異があり、現物を見せてもらうと形もサイズもさまざま。通知書の見方を掲載している自治体も少ない。住民税は所得税より中身が複雑なうえに情報が少ない印象だ。

 受け取った住民税の通知書・明細書、あるいは給与明細の所得税と住民税の金額をジックリ見ると、さまざまな疑問を持つ人がいるだろう。

  • 自分が住む○○市は住民税が高いらしい……なぜ?
  • いつも所得税より住民税が高いんだけど……なぜ?
  • 所得税は前年より減ってるのに住民税は増えてる……なぜ?
  • 6月だけ住民税が高いなぁ……なぜ?
  • 新卒から入社2年目、突然、住民税の天引きが始まった……なぜ?

 この記事では、こうした住民税に関するさまざまな「なぜ?」を解き明かしていこう。所得税も分かりにくいが、住民税はさらに分かりにくい。住民税の通知書・明細書に記載された金額の算出方法も一応紹介するが、自力で住民税を正確に計算しようと思うとかなり面倒くさい。計算まで必要のない人は計算部分をスルーしていただき、住民税の概要だけ理解していただければ幸いだ。「とにかく納税額だけ早く知りたい」という人は、通知書・明細書を受け取る前にご自身の納税額を知ることができる便利なサイトも紹介しよう。6月は住民税の季節。この機会に少し理解を深めていただきたい。

[目次]

  1. 住民税とは
    -2分で分かる(かもしれない)住民税
    -住民税が高い都市は?
  2. 住民税はいくら納める?〔住民税額の計算方法〕
    -住民税は「所得税」から始まる
    -住民税は「所得割額」+「均等割額」
    -住民税の主役「所得割」の計算式は所得税に似ている
    -「調整控除」は分かりにくさの象徴、負の遺産
    -「所得割」を源泉徴収票から計算してみよう
    -負の遺産、超~分かりにくい「調整控除額」を計算する
    -市民税・県民税の「所得割額」を計算しよう
    -県独自の超過課税で差がある「均等割額」
    -「均等割額」の計算は簡単
  3. あなたの住民税をサクッと計算!〔住民税額シミュレーションツール〕
    -「住民税額シミュレーションツール」なら半年前に納税額が分かる
    -自分の住む自治体に「住民税額シミュレーションツール」がないときは
  4. 住民税はいつから払う? パートやアルバイトは?〔住民税の注意点〕
    -住民税の納税時期:「普通徴収」と「特別徴収」
    -住民税の「時間差攻撃」に注意
    -住民税が非課税? パートやアルバイトは注意しよう
    -住民税の「復興特別税」は令和5年度まで?
  5. 最後に

1.住民税とは

 住民税とは地方税の1つで、1月1日に住民票のある住所地で課税される。住民税は都道府県民税と区市町村民税(例えば東京都町田市の場合は都民税と市民税)に分かれているが、合算して納税し、後に分配されるため、納税者は県民税・市民税と意識することはなく、2つ合わせたものを住民税という。法人が事務所または事業所所在地に申告・納税する法人住民税もあるが、“住民税”というと“個人住民税”を表すことが一般的だ。

所得税は「国税」、住民税は「地方税」。消費税はどっち?

 所得税は国税に分類され国に納める税金。住民税は地方自治体に納める地方税。では、消費税はどっち? 消費税は国税である“消費税”と地方税である“地方消費税”に分かれていて、10%の消費税の内訳は国税分の消費税が7.8%、地方消費税が2.2%で合算して10%となっている。食品など軽減税率8%の内訳は国税分が6.24%、地方消費税が1.76%となっている。

2分で分かる(かもしれない)住民税

 先にお伝えしておくと「この記事はやたら長い」。最後まで読んで、ご自身の手元にある住民税の通知書・明細書の計算がピターーーッと合えば快感を得ることができるが、「自分はザックリと住民税を知りたいだけ」という人のために「2分で理解できる(かもしれない)住民税」をお届けしよう。

住民税決定通知書に書かれている納税額がどのようにして算出されたのか、そこに書かれたさまざまな項目の数字は何なのかをザックリ解説するアニメーションGIF
2分で理解できる(かもしれない)住民税

住民税が高い都市は? さいたま市? 横浜市? 川崎市?名古屋市? それとも世田谷区? 練馬区??

 読者の中に「○○市は住民税が高い」と聞いたことのある人がいるだろうか。SNSを見ると、京都市は……、札幌市は……、熊本市は……、神戸市は……と次から次へと出てくる。果たして実際に市町村間の住民税の差はどれくらいあるのか。

 そもそも住民税を高いと感じる金額差はどれくらいなのか。住民税が年額12万円、天引きされる月額が1万円の人で、「○○市は住民税が年間300円も高い」と数百円の差が気になる人もいれば、「年1200円、月100円は気にしない」という人もいて個人差がある。住む市町村によって住民税に2割、3割の差があるとか、中には何倍も差があるとイメージしている人もいるようだ。

 これは都市伝説みたいなもので、住民税はほぼ全国一律だ。税率を見ると東京都世田谷区に住んでも練馬区に住んでも住民税の税率は10%。東京ディズニーランドのある千葉県浦安市も10%。筆者の息子が住むさいたま市も10%、筆者の4人の孫がいる人口2000人の岐阜県東白川村も10%だ。

岐阜県東白川村の鮎釣りのイメージ
岐阜県東白川村の非公式ツチノコキャラ
岐阜県東白川村は鮎釣りとツチノコの村。村でも税率は10%

 ほぼ全国一律だが一部に例外があり、都道府県の中で神奈川県だけは県民税が0.025%高く税率が10.025%。住民税が年に12万円(=1万円/月)の人が東京都から神奈川県に引っ越すと、税率部分(=所得割額)は年に300円、毎月の住民税の天引きが25円増税となる。

神奈川県川崎市・武蔵小杉のタワーマンション群
武蔵小杉のタワーマンションに住むと神奈川県なので税率は10.025%

 大都市の中で税率が低いのは名古屋市。2021年4月の選挙で4期目となった河村たかし市長の肝いり政策で市民税の税率が0.3%低く、名古屋市民の住民税は9.7%となっている。東京都から名古屋市に引っ越すと年に3600円、月に300円の減税となる。財政破綻し、かつて全国一住民税が高いと言われた夕張市は、財政再生計画の見直しにより10.5%だった税率を平成29年(2017年)から10%に戻している。市町村で税率が高いのは兵庫県豊岡市。市民税が6.1%なので県民税と合わせ住民税は10.1%となっている。市町村で税率が低いのは大阪府田尻町。令和5年まで町民税を5.4%とし、住民税が9.4%となっている。住民税の地域差は税率とは別に均等割に上乗せされる超過課税の有無がある。税率以上に複雑なので、これについては均等割の項で説明しよう。

名古屋市長選挙瑞穂区役所期日前投票所
筆者は普段は神奈川県のオフィスで仕事をしているが、自宅マンション、住民票が名古屋市なので税率は9.7%。市民として選挙にも参加

 なぜ都市伝説が広まるのか。筆者は住民税に地域差があるという話をリアルで2度聞いたことがある。サラリーマン時代の30代に1度、起業後の40代に1度。そもそも若いときに住民税の話しをした記憶はなく、年齢を重ねた人ほど「住民税に地域差がある」と聞く機会が多そうだ。数年前にはテレビの情報番組で芸人の「東京都は住民税高いですよね」の発言に、他の芸人とMCがうなずくシーンを見て、「数万人に都市伝説が広がった」と思った。コメンテーターの中に識者が1人いたら逆の結果になっていたかもしれない。

 この都市伝説が広まった1つの要因は国民健康保険だと思われる。国保は自治体により計算式が異なり地域差も大きい。このことが住民税と勘違いされていると思われる。ただ、根本にあるのは国民が税に無関心なことだろう。差のある国保に加入する多くの人は自営業なので、サラリーマンはどこに住んでも住民税に大差はない。

全国に市町村はいくつある?

 総務省の広域行政・市町村合併のサイトに「本日の市町村数」が表示されている。日々変動するものではないと思うが、筆者が確認した時点では市町村の数は1718。内訳は市が792、町が743、村が183となっていた。1700ほどの市町村の住民税の詳細を知るのは容易ではない。大都市は住民税の税率や均等割などの情報がウェブで確認できるが、町村になると電話で確認することが多い。毎年、1700の市町村の改正を把握するのは難しい。自治体の数が多いことも住民税が分かりにくい理由の1つだと思う。

 ちなみに明治21年には町村の数が7万を超えていたが、明治の大合併で市町村の数は1万5859となり、昭和の大合併で3472、平成の大合併で1730に減ったらしい。平成の大合併では浦和市、大宮市、与野市が合併してさいたま市、静岡市と清水市の合併などが行われた。それほど昔ではないので、近隣の合併を覚えている人もいるだろう。

2.住民税はいくら納める?〔住民税額の計算方法〕

住民税は「所得税」から始まる

 時計の針を昨年の11月ごろまで戻そう。会社勤めの人は、よく分からない年末調整の書類を出したはずだ。その際、家族構成や加入している生命保険などを記載したと思う。その情報を元に所得税が計算され、12月の給料で1年間の所得税の納税が完結する。

 その所得税の明細を記載したものが源泉徴収票だ。源泉徴収票は社員に配られ、会社から税務署と各社員の住居地の市区町村に送られる。受け取った各自治体は市区町村民の住民税を計算し、住民税の通知書・明細書にして会社に送られ、6月の給与明細と一緒に社員に配られる。これが一連の流れだ。

 この流れを見ると、住民税は所得税がベースになっていることが分かる。住民税より所得税の方が分かりやすい。加えて住民税の所得割の計算方法は所得税の計算方法に近い。なので、住民税だけ理解するよりは、所得税とセットで理解することをお勧めしたいし近道だと思う。お時間のある人は今年1月に掲載した『【図解で詳しく説明】前年と違うよ! 税制改正された令和2年分「源泉徴収票」の見方』を一読いただきたい。

住民税は「所得割額」+「均等割額」

 住民税は「所得割額」と「均等割額」を合算したものが納税額となる。所得割額はその計算方法が所得税に似ていて、所得が多い人ほど納税額も多くなる。多くの人は均等割額より所得割額が多くなるので、住民税の主役的な存在だ。均等割額は所得に関わらず、同じ自治体に住む納税者であれば、所得が200万円の人も2000万円も同額を納税する。

住民税=所得割額+均等割額

 所得割額、均等割額は都道府県民税と市区町村民税に分けられる。具体的には埼玉県川口市の人が納めるのは県民税と市民税、大阪府摂津市の人は府民税と市民税、岐阜県加茂郡東白川村の人は県民税と村民税、東京都町田市の人は都民税と市民税、東京23区は特別区なので都民税と特別区民税となる。この記事では毎回、都道府県民税と表記するのは面倒なので、県民税と市民税で表記を統一したい。道民、都民、府民、特別区民、町民、村民の人は、適宜ご自身が居住する自治体に応じて読み替えていただきたい。

住民税の主役「所得割額」の計算式は所得税に似ている

 住民税の主役と言える所得割額をサラリーマンを例に説明していこう。所得割額は以下の計算式で算出できる。所得割額は所得税の計算式と全体の流れはほぼ同じだ。

所得割額の計算式
所得税の計算式

 所得割額と所得税の計算式の①行目[給与の収入金額-給与所得控除=給与所得]は同じだ。②行目の[給与所得-各種所得控除=課税所得]は式はほぼ同じだが、各種所得控除の金額が住民税(所得割額)と所得税で異なっている。令和3年(2021年)の住民税は令和2年(2020年)分の所得から算出するので、令和2年の所得税との控除額の違いを見てみよう。

住民税と所得税の所得控除額の違い

 表を見ると住民税の控除額は所得税より少ない。控除額が少ない=課税所得(課税標準額)が増える=所得税より(税率が同じなら)納税額が増えるということだ。代表的な控除を見ると、基礎控除は5万円少なく、扶養控除の一般は5万円、特定(ほぼ大学生)は18万円少ない。扶養控除は所得税も年齢と控除額の関係が複雑だ。その複雑な所得税の扶養控除に対し、住民税は差額が5万円、10万円、13万円、18万円と輪を掛けて複雑になっているので、言葉で説明するより図を見ていただいた方が分かりやすいだろう(←にしても分かりにくい?)。

住民税と所得税の扶養控除額の違い

 ③行目[課税所得×税率(10%)=所得割]の税率は、一部例外な地域はあるが基本は10%。所得税のように課税所得に応じて5%、10%、20%と累進することはない。所得税より分かりにくい住民税で、唯一分かりやすいのが税率かもしれない。

住民税と所得税の税率の違い

 所得税は課税所得が195万円以下であれば税率が5%。所得税と住民税は控除額の差で課税所得は同じにならないが、課税所得が195万円以下の人は税率が10%の住民税が納税額が多くなる。所得が増えると累進課税の所得税の納税額が上回ることになる。

 税率10%の内訳は市民税が6%、県民税が4%が基本。例外は神奈川県で(例えば逗子市は)市民税が6%、県民税が4.025%で計10.025%となっている。

個人の市民税・県民税についてのウェブページ(神奈川県逗子市)

政令指定都市は「市民税と県民税の配分」が違う

 話を複雑にして申し訳ないが、平成30年(2018年)から政令指定都市(地方自治法では指定都市)20市は市民税と県民税の税率の比率を6対4から8対2に変更した。従来の市民税の税率が6%から8%、道府県民税の税率が4%から2%となっている。

 いくつか例を紹介すると、宮城県仙台市は市民税が8%、県民税が2%、埼玉県さいたま市も市民税が8%、県民税が2%、神奈川県横浜市は市民税が8%、県民税が2.025%、愛知県名古屋市は市民税が0.3%低いので市民税が7.7%、県民税が2%で計9.7%となっている。以下の20市の人は市民税と県民税の比率が基本8対2なので注しよう。指定都市移行順に大阪市、名古屋市、京都市、横浜市、神戸市、北九州市、札幌市、川崎市、福岡市、広島市、仙台市、千葉市、さいたま市、静岡市、堺市、新潟市、浜松市、岡山市、相模原市、熊本市が対象だ。

個人の市民税・県民税についてのウェブページ(神奈川県横浜市)
市民税・県民税の税率についてのウェブページ(名古屋市)

「調整控除」は分かりにくさの象徴、負の遺産

 住民税の分かりにくさの象徴と言えるのが「調整控除」だ。名古屋市の「市民税・県民税 課税証明書」の調整控除の項目にはよく分からない計算式が書かれている。

「市民税・県民税 課税証明書」の調整控除の項目

 調整控除とは何か。時は14年前、平成19年(2007年)にさかのぼる。この年、所得税(国税)の税率を下げ、住民税(地方税)の税率を上げ、国から地方へ税源移譲が行われた。ザックリ言うと、当時はお国が金持ち、地方が貧乏で、国から地方へお小遣い(交付金)を渡していた。お国の税収(所得税)を減らして、地方の税収(住民税)を増やせば、地方はお小遣いをもらわなくてもいいよね、的な考えで税源が国から地方へ移譲された。

住民税と所得税の税率の変更について(国税庁ウェブサイト)
平成19年から所得税と住民税の税率が変更された(国税庁ウェブサイトより)

 具体的には税率の見直しが行われ平成19年1月から所得税が減り、平成19年6月から住民税が増えた。これにより3兆円の税源が国から地方へ移譲されたらしい。

 この際に面倒なことが起こった。それまで所得税の税率10%、住民税の税率5%の部分が平成19年から所得税5%、住民税10%(一律)になったことで、所得税より住民税の控除が少ないため納税額が増えてしまう(=増税)。これを解消するために調整控除なるものが施行され、結果として14年経った今も負の遺産として面倒な計算が必要とされている。

税源移譲で地方は国に頼らず自立した? 健全化された?

 余談だが国からお小遣いをもらっていない「不交付団体の状況」というPDFが総務省のサイトに掲載されている。不交付団体数の推移のグラフを見ると平成19年は142と増えているが、リーマンショック後の平成22年には42と激減、その後はジワジワと改善(数が増え)され、令和2年は全国1700超の自治体の中で、76団体が不交付となっている。いずれにせよ1700超の市区町村のうち不交付団体が1割もない現状は、住民税の税率を上げた程度では効果が足りないようで、地方消費税の率を上げるなど別な施策が必要な気がする。

 内訳を見ると都道府県では東京都のみ。残りの道府県は国から交付金をもらっている。市町村名の北海道泊村、青森県六ヶ所村、宮城県女川町、福島県大熊町、茨城県東海村、新潟県刈羽村、福井県おおい町、佐賀県玄海町の町村名を見ると、原子力発電関連の施設を誘致すると町や村は裕福になることが垣間見える。令和元年は福井県 高浜町、静岡県 御前崎市も不交付団体に名を連ねている。

 では実際に住民税の所得割額を計算してみよう。こと細かな計算は不要という人は「均等割額」の説明までジャンプしていただきたい。

▼ 県独自の超過課税で差がある「均等割額」 へジャンプ

「所得割」を源泉徴収票から計算してみよう

 所得割を計算してみよう。サラリーマンの人は、ご自身が昨年12月か今年1月に受け取った「令和2年分 給与所得の源泉徴収票」と、今年6月の給与明細と一緒に受け取った「令和3年度 給与所得等に係る市民税・県民税 特別徴収税額の決定通知書」を用意して、照らし合わせて計算すると理解も深まるし、ピタッと計算が合うと快感が得られるだろう。

 源泉徴収票の例は1月に掲載した『【図解で詳しく説明】前年と違うよ! 税制改正された令和2年分「源泉徴収票」の見方』で事例とした河野一太郎氏の源泉徴収票を使用する。

令和2年分 給与所得の源泉徴収票

 千代田区の令和3年分の通知書が見つからなかったので、住民税の通知書の記入例は町田市のフォーマットを使用したい。表記が特別区民税ではなく市民税になるが、それ以外は特に差はないだろう。

令和3年 給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定通知書

自治体のウェブサイトに掲載された「通知書の見方」を探してみた

 河野一太郎氏の事例が千代田区なので、同区のウェブサイトを見ると「特別区民税・都民税の通知書の見方」があり、給与所得者用の「特別区民税・都民税 特別徴収税額通知書の見方」のサンプルが掲載されていた。筆者が確認した時点で基礎控除が33万円、ひとり親控除の項目がないなど、残念ながら令和3年の事例ではなかった。とはいえ千代田区は通知書の見方を用意しているだけマシで、見あたらない自治体が多数。目黒区なども古いフォーマットが掲載されている。

 最新の令和3年度の住民税の通知書の見方がキッチリ掲載されていたのは武蔵野市。サラリーマン用の「【令和3年度】給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定・変更通知書(納税義務者用)の見方」と個人事業主用の「【令和3年度】市民税・都民税税額決定納税通知書の見方」が掲載されている。

 筆者が見た中で最も秀逸だったのは大阪市。「給与所得者の皆様へ」というPDFに令和3年度の税額決定通知書の見方が掲載されている。個人事業主用の通知書の見方も他の自治体を比べ充実している印象だ。

「年収」と「所得」は、源泉徴収票も住民税通知書も同じ金額

 所得割額の計算式に沿って源泉徴収票と住民税の通知書を見比べながら確認していこう。

所得割額の計算式

 ①行目の式は収入から給与所得控除を引き、所得を計算する式。給与所得控除は以下の表の計算式で求められる。この計算式は、基礎控除の改正とともに住民税は令和3年から(所得税は令和2年から)改正されている。

給与所得控除の計算式

 年収650万円の河野さんの給与所得控除の額は174万円(=650万円×20%+44万円)。給与所得控除後の金額(=給与所得)は476万円(=650万円-174万円)、源泉徴収票のブルーの部分だ。同じ金額が住民税の通知書にも記載されている。会社以外に所得がなければ給与所得と同額が右下の総所得金額①に記載される。

源泉徴収票に記載された支払金額と給与所得控除後の給与所得金額
源泉徴収票は会社から見た「支払金額」と表記されている。社員から見ると年収
住民税決定通知書に記載された総所得額
住民税通知書も同じ金額が記載されている。他に所得がなければ給与所得=総所得金額

 ご自身の源泉徴収票を見ながら「支払金額は638万2000円だから、給与所得控除後は……」などと計算すると、源泉徴収票、住民税通知書に書かれた額と微妙に差異が発生した人がいるはずだ。

 年収660万円未満の人の給与所得控除後の金額の算出は「令和2年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」(PDF)という速算表を使用してほしい。表の638万2000円の部分を見てみよう。

「令和2年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」の一部

 年収638万円以上638万4000円未満の人の給与所得控除後の金額は466万4000円となっていて、年収が638万1000円でも638万2000円でも一律466万4000円となる。これが微妙な差異の原因だ。そろばんの時代には、1円単位の細かな計算をするより速算表の方が便利だったと思われ、その時代のルールが今も続いている。

「所得控除」は所得税と住民税で控除額に差があり、要注意

 ②行目の式[給与所得-各種所得控除=課税所得]は各種所得控除の金額から計算しよう。前述のとおり住民税の控除額は所得税より少ないので、控除額の計算を間違わないように要注意だ。計算が面倒な生命保険料控除は特に注意したい。

 生命保険の控除は、平成23年(2011年)以前に契約した保険が「旧制度」、平成24年(2012年)以降に契約した保険が「新制度」となっている。さらに旧制度は「一般生命保険」(医療保険を含む)と「個人年金保険」の2種類、新制度は「一般生命保険」「個人年金保険」に「介護医療保険」を加えた3種類で、新旧合わせて5種類に分類されている。

生命保険の旧制度と新制度における所得控除限度額の違い

 計算式は以下の表を参照。上段が所得税、下段が住民税となっている。年末調整で計算して記入したときのことを思い出していただきたい。それぞれの控除額も上限額も住民税の控除は減ることになる。

所得税の生命保険料控除額と住民税の生命保険料控除額の計算式

 いざ計算しようとして「生命保険、いくら払ってた?」と思った人は、源泉徴収票を確認しよう。摘要欄の下に記載されているのが生命保険料の支払い額。事例では旧生命保険が12万円、介護医療保険が9万円、旧個人年金保険が12万で、3つの控除額の合計が摘要欄の上の生命保険料の控除額に12万円(上限額)と記載されている。生命保険料の控除額の左側は社会保険料控除(厚生年金、健康保険など)、右側は地震保険料控除だ。

源泉徴収票に記載された社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、生命保険料の支払額
上段は左から社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除。下段は支払った生命保険料

 住民税通知書は所得控除の左列に社会保険料 96万円(所得税と同額)、生命保険料 7万円(上限額)、地震保険料 5000円と記載されている。地震保険料控除は、所得税は5万円が上限で支払った保険料の全額、住民税は2万5000円が上限で支払った保険料の半額となる。

住民税決定通知書に記載された社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除
住民税は生命保険料の支払い額の明細はなし。地震保険料控除は所得税の半額

 控除の最後は人的控除。源泉徴収票は「控除対象配偶者の有無等」の有に○があり、右側の控除額が38万円となっている。

 その右側は特定(特定扶養親族)が1となっているので、ほぼ大学生の子どもが1人いる。老人の3枠は、真ん中の1は70歳以上の老人扶養親族が1人いることを表し、左側の「内」に1とあるのは老人扶養親族のうち、同居老親が1人いることを表している。

 老人の右側のその他の欄は高校生や成人など一般の扶養親族の人数で事例は0人。右端の「16歳未満扶養親族の数」は16歳未満の子どもの人数で控除の対象とならない。所得税では特定扶養親族は63万円、同居老親は58万円となるが、源泉徴収票には金額の記載がなく不親切だ。

源泉徴収票の人的控除の記載欄

 住民税通知書も右側の「控配」は控除対象配偶者の意味で、「*」があるのは、控除対象となる配偶者がいることを表している。さらに右側の扶養親族該当区分は、特定、同老、老人、16歳未満は源泉徴収票と同じ内容を表している。控除額は配偶者が33万円、扶養は特定扶養親族の45万円と同居老親の45万円を合計して90万円と記載されている。基礎控除は令和3年分から10万円増えたので43万円となっている。

住民税決定通知書の人的控除の記載欄

 河野さんの事例の所得税と住民税の控除額の差を確認しておこう。支払った全額が控除となる社会保険料控除(96万円)だけ同額で、それ以外は軒並み控除が減り、合計額は269万5000円となった。所得税の控除額の合計が316万円なので46万5000円も控除が減ることになる。もし所得税と住民税の控除額が同じなら、税率10%分の4万6500円も住民税は減ることになる。

住民税と所得税の各種控除額と差額

 ①行目の式で計算した所得の476万円から、控除額の合計の269万5000円を引くと課税所得の206万5000円が算出され、②行目の式が完成する。住民税通知書では中央の最上段、課税標準の総所得③に記載されている。この事例は切りの良い数値となっているが、端数が出た場合1000円未満は切り捨てとなる。

住民税決定通知書に記載された所得控除額の合計、所得から控除を引いた課税標準 総所得
赤枠、左上の476万円が所得、下の269.5万円が所得控除額の合計、所得から控除を引いた課税標準 総所得が右上の206.5万円となる

負の遺産、超~分かりにくい「調整控除額」を計算する

 税源移譲の負の遺産、住民税の分かりにくさの象徴である調整控除額を計算してみよう。まずは町田市の「令和3年 給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定通知書」の裏面の説明書きを見てみよう。

「令和3年 給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定通知書」裏面の税額控除(調整控除)についての説明書き(東京都町田市)

 筆者はINTERNET Watchの読者は読解力が高いと思っている。そうでないと、税金の細々とした記事をここまで読むのは難しいだろう。読解力に自信がある人は説明書きを読んで理解していただきたい。筆者は見た瞬間に拒否反応を感じてしまった。これは町田市のせいではない。サラリーマン向けの住民税通知書の主要な部分は各自治体でほぼ統一されているようだ(←1700超の自治体の確認は不可能)。あくまで想像だが、このフォーマットは総務省が主要な部分をデザインして、各自治体が独自の部分(首長名や問い合わせ先など)をアレンジして用紙を印刷していると思われる。読者が受け取った通知の裏面も同様な説明が記載されているなら、超々読解力の高い総務省の人が作成したものだと思われる。

 同じ調整控除だが、次のは名古屋市の個人事業主向けの「令和3年 市民税・県民税 課税明細書」。こちらは計算の元となる金額と計算式と結果が記載されていてかなり親切な印象だ。こちらをベースに河野一太郎さんの調整控除額を計算してみたい。

個人事業主向けの「令和3年 市民税・県民税 課税明細書」における調整控除についての説明書き(名古屋市)
名古屋市の通知書は親切。政令指定都市なので4%と1%(8対2)になっているが、通常は3%と2%(6対4)

 課税標準の総所得③に記載された金額が課税所得金額の[A]。人的控除の差額は基礎控除 5万円、配偶者控除 5万円、扶養控除(特定) 18万円、扶養控除(同居老親) 13万円で計41万円が[B]となる

・課税所得金額  A =206万5000円
・人的控除の差額 B =41万円

 [A]が200万円を超えているので計算式は以下のとおり。

B-(A-200万円)=C
※計算結果が5万円未満のときは一律5万円
C×5%=調整控除額

41万円-(206万5000円-200万円)=34万5000円
34万5000円×5%=1万7250円

 市民税と県民税が6対4の自治体なら調整控除額の市民税分は1万350円、県民税分は6900円となる。

市民税・県民税の「所得割額」を計算しよう

 難解な調整控除額が算出できたら所得割のゴールは目の前だ。Excel不要、電卓で十分な簡単な計算をするだけだ(Excelが楽だけど)。

住民税決定通知書に記載された市民税・都民税の所得割額の計算フロー

 住民税通知書の記入欄に合わせて市民税 6%、都民税 4%で計算してみよう。計算式は③行目の

課税所得(課税標準額)×税率=所得割
市民税所得割 206万5000円×6%=12万3900円 上段④
県民税所得割 206万5000円×4%=8万2600円 下段④

所得割-調整控除=所得割額
市民税所得割額 12万3900円-1万350円 上段⑤=11万3550円→100円未満切り捨て→11万3500円 上段⑥
県民税所得割額 8万2600円-6900円 下段⑤=7万5700円 下段⑥

所得割額の合計 11万3500円 上段⑥+7万5700円 下段⑥=18万9200円

 この結果は住民税通知書で確認してみよう。右端の税額欄の上段④~⑥が市民税、すぐ下の④~⑥が都民税(内容、金額が異なる欄に同じ番号を振る理由は不明)で、市民税の上段④は課税所得に6%、上段⑤は前項で算出した調整控除額の1万350円、④-⑤が市民税の⑥所得割額となる。同様に下段④は課税所得に4%、下段⑤は前項で算出した調整控除額の6900円、④-⑤が都民税の⑥所得割額となる。ご自身の住民税通知書でもピターッと合っただろうか。

 市民税、県民税を分けて納税することはない。まとめて徴収され勝手に6対4や8対2に分けられるだけだ。なので自分の納税額をシンプルに知るだけなら10%で計算すれば簡単になる。

住民税課税所得×税率(10%)=所得割
住民税所得割 206万5000円×10%=20万6500円

所得割-調整控除=所得割額
20万6500円-1万7250円=18万9250円→100円未満切り捨て→18万9200円

県独自の超過課税で差がある「均等割額」

 均等割額は地域差があるので、まずは河野一太郎さんの事例にある東京都千代田区で確認してみよう。均等割額は特別区民税分が3000円、都民税分が1000円で計4000円が基本だ。これに東日本大震災の「復興特別税」が平成26年(2014年)度から令和5年(2023年)度まで10年間、都民税、区民税に500円ずつ上乗せとなり、特別区民税分が3500円、都民税分が1500円、合計5000円が均等割額となる。この額は所得100万円の人も1億円の人も同額だ。

 他の地域も見てみよう。埼玉県さいたま市は市民税が3500円、県民税が1500円で計5000円(平成26年度から10年間)と同額。千葉県千葉市も同額の5000円(平成26年度から10年間)だ。

 では、神奈川県横浜市は……。市民税4400円、県民税が1800円で合計6200円と、1200円(24%)割高だ。

 まず、市民税は、ベースとなる3000円に復興特別税の500円が足され、さらに「横浜みどり税」の900円が上乗せされ4400円となっている。神奈川県の県民税の均等割は、ベースとなる1000円に復興特別税の500円がプラスされ、さらに水源環境の保全・再生のために「水源環境保全税」の名目で300円を県独自で上乗せし1800円となっている。県民税と市民税で計1200円が千代田区、千葉市、さいたま市よりも増税となっている。

個人の市民税・県民税についてのウェブページ(横浜市)

 横浜市独自の「横浜みどり税」や神奈川県独自の「水源環境保全税」など、自治体が独自に行う課税を「超過課税」という。総務省の超過課税の状況(2019年)の資料によると、47都道府県で均等割額に超過課税を上乗せしているのは37団体。超過課税がないのは北海道、青森県、東京都、埼玉県、千葉県、新潟県、福井県、徳島県、香川県、沖縄県の10都道県だけというのが現状だ。超過課税の金額は500円前後が多く、先ほど紹介した横浜市(1200円)や宮城県(みやぎ環境税1200円)など1000円を超える自治体もある。前述のとおり、所得割額の税率に超過課税を課しているのは神奈川県のみだ。

 市町村で均等割額に超過課税を課しているのは横浜市と神戸市の2市。神戸市は認知症対策「神戸モデル」として400円を上乗せしている。所得割額の税率に超過課税を課しているのは兵庫県豊岡市のみだ。

 均等割額が安いのは名古屋市の3300円。市民税の均等割額は200円減税されているが、愛知県の県民税に超過課税の「あいち森と緑づくり税」500円が上乗せされているので差引プラス300円となり、超過課税のない10道府県よりは高い。

▼あたなの住民税をサクッと計算!〔住民税額シミュレーションツール〕 へジャンプ

「均等割額」の計算は簡単

 では、河野一太郎さんの均等割額を計算して住民税の納税額を完結させよう。東京都千代田区の均等割額は特別区民税が3500円、都民税が1500円だ。前項で算出した所得割額に加算すると特別区民税、都民税が確定。その2つを足すと住民税の納税額となる。市民税、県民税の均等割額の金額さえ分かれば足すだけなので計算は簡単だ。

特別区民税 11万3500円+3500円=11万7000円
都民税 7万5700円+1500円=7万7200円
住民税 11万7000円+7万7200円=19万4200円

住民税決定通知書に記載された市民税の所得割額と均等割額、都民税の所得割額と均等割額、特別徴収税額
フォーマットが町田市なので市民税、都民税となっているが、上段の所得割額⑥と均等割額⑦、下段の所得割額⑥と均等割額⑦を足すと住民税(特別徴収税額⑧)となる

 東京都も千代田区も超過課税はない。同じく超過課税のない埼玉県や千葉県に引っ越しても河野一太郎さんの住民税は同じだ。前述した超過課税のない10の道府県は所得割の税率も均等割額も同じなので、千代田区と納税額は同じとなる。

3.あなたの住民税をサクッと計算!〔住民税額シミュレーションツール〕

「住民税額シミュレーションツール」で半年前に納税額が分かる

 所得割、調整控除、均等割と難解な住民税の納税額を、サクッと計算してくれるサービスを紹介しよう。東京都千代田区は源泉徴収票から住民税を試算するページを用意している。昨年12月か今年1月に受け取った源泉徴収票を利用して、6月を待たず半年前に住民税を把握することが可能だ。河野一太郎さんの源泉徴収票を見ながら入力すると以下のように住民税が計算できる。

源泉徴収票から住民税を試算するページ(東京都千代田区)
源泉徴収票を見ながら必要項目を入力する
源泉徴収票から住民税を試算するページによる税額試算結果(東京都千代田区)
住民税が簡単に算出できる

 同様のサービスは多くの自治体のウェブサイトで提供されている。筆者の自宅マンション&住民票のある名古屋市も、オフィスのある川崎市も、税金の高い横浜市も同じサービスを提供している。

 このサービスは株式会社インテックが各自治体に導入しているもので、サクッと検索してみると仙台市、茨城県水戸市、静岡市、大阪市、福岡市など多くの自治体に導入されている。サラリーマン(給与収入)だけでなく、年金収入、事業所得などにも対応しているので、個人事業主も確定申告書を見ながら売り上げや経費、各種控除などを入力すると住民税の納税額をすぐに把握することができる秀逸なサービスだ。

 もう1社、サンネット株式会社も同様なサービスを全国の自治体に提供している。川崎市のお隣、東京都町田市はサンネットの税額シミュレーションサービスを導入している。こちらも千葉市、長野市、愛知県春日井市、福岡県久留米市などいくつもの自治体で導入されている。

自分の住む自治体に「住民税額シミュレーションツール」がないときは

 自分の住む自治体に住民税のシミュレーションサービスがない場合はどうするか。住民税の計算式を理解した人は分かると思うが、住んでいる自治体による住民税の差は細かく分けると以下の4つのパラメータで決まる

  • 市民税の所得割額→税率
  • 市民税の均等割額→超過課税の有無
  • 県民税の所得割額→税率
  • 県民税の均等割額→超過課税の有無

 4つが同じなら他の自治体のシミュレーションサービスを利用しても税額に差はない。市民税と県民税を合算で計算するなら税率(ほとんどの自治体は10%)と均等割額の2つが同じなら納税額は同じだ。例えば超過課税のない北海道、青森県、東京都、埼玉県、千葉県、新潟県、福井県、徳島県、香川県、沖縄県の10都道県の人は、政令指定都市の8対2の比率を気にしなければ千代田区のサイトを利用すると納税額が簡単に求められる。

 注意したいのは神奈川県民。税率が10.025%なので神奈川県内の自治体のサービスを利用しよう。横浜市は独自の超過課税を課しているので、川崎市藤沢市小田原市などのサービスを利用したい。

 県独自の超過課税を課している自治体は多いので、まずは同じ県内の大都市から探せば、利用できるサービスが見つかるだろう。もし見つからない場合は、均等割額が足し算だけなので、自分で超過課税分を足すか、数百円を気にしなければ、適当な自治体で計算して「だいたい12万円だな」と納得するのもありだろう。

4.住民税はいつから払う? パートやアルバイトは?〔住民税の注意点〕

住民税の納税時期:「普通徴収」と「特別徴収」

 サラリーマンの住民税は給与から天引きされるのが一般的で、個人事業主は1年分の住民税を1回で納税するか、4回に分け自分で納税する。後者の自分で納税する方法を「普通徴収」、前者の給与から天引きされる方法を「特別徴収」という。サラリーマン向けの住民税の通知書の名称が「令和3年 給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定通知書」となっているのはこのためだ。

 サラリーマンの毎月の給与明細から天引きされている所得税と住民税に1年以上の時差があるのをご存じだろうか。所得税はその月の給与から社会保険料などを差し引き、みなしで天引きされている(源泉徴収)。要するに1月分の所得税はその月に納税し、12月の給与で年収が確定するので生命保険料控除などを反映、年末調整で正しい税額に調整して1年間の納税が完了する。

 この結果をまとめたものが源泉徴収票だ。源泉徴収票は社員本人と税務署、そして住民票を置く地方自治体に送られ、その自治体の税率、均等割により住民税の額が決定し、6月から翌年5月まで天引きされている。例えば住民税が12万300円の人は6月に1万300円。7月から翌年5月まで1万円となるので、6月だけ金額が異なるのが一般的だ。

 具体的には、昨年(2020年)の1~12月に所得税を納税し、住民税は今年(2021年)の6月から来年(2022年)の5月に納税をすることになる。この時差のため2020年4月に新卒で入社した人は2021年6月に初めて住民税が天引きされる。6月の給与明細を見て、突然手取りが少なくなったと驚くことがないようにしよう。また、前年の所得により納税額は増減するので、毎月の収入が減って所得税が減っているのに住民税は増えるといったこともある。

住民税と所得税の納税時期の違い。所得税は給与から毎月納税し、年末調整で確定・納税完了。住民税は翌年6月から納税

住民税の「時間差攻撃」に注意

 ずっと同じ会社に勤めていると所得税と住民税の時差があることに気付かないが、退職すると1年遅れの住民税を納税することになり、「えっ住民税20万円!」と驚くケースは珍しくない。12月に退職すると前年分5カ月+その年分12カ月で17カ月分を納めることになるので、退職を考えている人は住民税の時間差攻撃に注意しよう。

住民税と所得税の時間差攻撃のイメージ
サラリーマンは住民税の時間差攻撃に注意。個人事業主は所得税、住民税と春の連続攻撃だ

 個人事業主の場合は前年分の所得を2~3月で確定申告し、所得税1年分を納税。6月に住民税の通知を受け取り、6月に全額を納税するか、6月・8月・10月・1月に分けて納税するかを自分で選択する。人によっては固定資産税、消費税、自動車税など春は税金ラッシュとなるので厳しい。

 自治体によると思うが、近年はPay-easyやLINE Payでこれらの支払いができるようになった。スマホでバーコードを読み取りPay-easyで支払うようになり随分楽になった。

「モバイルレジ」アプリ画面(名古屋市)
名古屋市はモバイルレジアプリを利用する
Pay-easyでの税金支払い画面
バーコードを読み取り→インターネットバンキングに接続→Pay-easyで支払い、で楽になった
LINE Payでの税金支払い画面
LINE Payでも納税が可能

住民税が非課税? パートやアルバイトは注意しよう

 所得税は年収が103万円以下であれば、パートやアルバイトは基礎控除の48万円と給与所得控除の55万円が引かれ、課税所得が0円となり非課税となる。住民税は、多くの自治体で年収100万円以下なら非課税となる。

 例えば100万1円の年収があった場合、所得税は0円だが住民税は均等割額を納税することになる。千代田区なら5000円、横浜市なら6200円の住民税を納税しなければならない。「1時間短く勤務していたら非課税だったのに」となるかもしれないので、パートやアルバイトの人は要注意だ。自治体によって均等割の非課税限度額は年収93万円以下、96万5000円以下というケースもある。非課税限度額93万円以下は滋賀県東近江市、栃木県小山市、三重県伊勢市など。96万5000円以下は宮崎県宮崎市、埼玉県越谷市、岩手県盛岡市などが該当する。ギリギリまで稼いでいる人は、自分の住む自治体のウェブサイトで非課税限度額を確認をしよう。

住民税の「復興特別税」は令和5年度まで?

 東日本大震災からの復興のため財源の確保を目的として、個人の所得税は平成25年(2013年)から令和19年(2037年)まで25年間、住民税は平成26年(2014年)度から令和5年(2023年)度まで10年間の増税が続いている。筆者はこの税制が決まったとき「25年……生きてるかなぁ、仕事はしてないから最後の確定申告まで増税が続くんだ」「阪神淡路大震災から16年、国は25年大災害はないって発想?」と思った。

 住民税は年間1000円が均等割に上乗せされている。所得税の25年ほどではないが、長いなあと思った住民税の10年間の増税も残り2年となった。令和6年から住民税は減税となる……ことはない。

 各自治体のウェブサイトには10年間、1000円を上乗せと記載されているが、その先に関しての記述はほとんどない。皆さんは新たな税金として「森林環境税」が、住民税に上乗せされることをご存じだろうか。

 平成31年(2019年)に成立した森林環境税は、復興特別税が終わると同時に徴収が始まり税額は年1000円。復興特別税と異なり期限はなく、恒久的な増税となった。住民税の納税者を約6000万人とすると、年間600億円の税収となる。

 年1000円。サラリーマンが12カ月に分けて納税すると月83円。目くじらを立てる額ではない。しかし、国民も野党もテレビ・新聞も消費税以外に関心がないことを尻目に、知らないところで増税が行われるのはいかがなものかと思う。

5.最後に

 最後は筆者の雑談だ。筆者は税理士でもなく税の専門家でもないが、なんとなく税金の原稿を書き始めて十数年が過ぎた。税に無関心・無知識だったサラリーマン時代の自分でも分かるようにと書き続け、お陰さまで多くの人に読んでいただいている。

 素人目線で見ると、日本の税制はつぎはぎだらけ、増築を繰り返した温泉旅館のようで、一度解体し建て直したほうがいいと思っている。住民税の調整控除などはその代表格でかなり無理がある印象だ。所得税と住民税の控除額の差をなくせば解決するし、住民税自体が分かりやすくなる。国民全体に関係する税制はもっとシンプルにするべきだ。

 筆者は国民が税金の仕組みを理解することは、国が良くなることだと思っている。残念ながら日本の税制は複雑化の一途。もしかすると、国は国民に税金のことを理解して欲しくないと感じられるほどだ。

 SNSで住民税に関するコメントを見ると、春ごろから人事・総務系の人達が「昨日も今日も住民税をCSVデータに手打ちの作業」「従業員4桁いるので自治体の数も比例して多し、住民税の通知書切り分け作業をひたすらやってる」「決定通知書を従業員に紙で配布する、という不毛な作業」「封入して、送って……ほんとこの作業がバカバカしい」「明日封入しなきゃ。通知書は自治体毎だけど、1人ずつ所属先毎に分けて、拠点毎に分けて……めまい」と悲痛なコメントをアップしている。

 中小企業庁によると、日本にある421万社のうち中小企業は99.7%(419.8万社)、小規模企業は87%(366.3万社)となっている。多くの企業は紙ベースで住民税に関する業務を行っていると想像される。

 聞き取りをすると、ザックリとした流れは、源泉徴収票を社員に配布し、税務署・社員の住む自治体へ送付。自治体は紙で受け取った源泉徴収票からデータ入力し住民税の通知書を印刷し会社に送付。自治体ごとに形状の異なる通知書に記載された納税額を給与システムに入力。自治体から送られてきた通知書を“絶対間違わない”ように各社員の6月の給与明細に封入。給与から毎月天引きした住民税は翌月10日までに各自治体に送金、となる……めまいがする。

 コロナ禍で10万円の定額給付金やワクチン接種など、日本のデジタル化の遅れが露呈したと感じたINTERNET Watch読者は多いと思う。住民税に関する業務もデジタル化をすれば億単位の業務改善になりそうだ。1700超の自治体があっても住民税の税率、超過課税の組み合わせは大した数ではない。自治体からデータで受け取った住民税の明細を、給与システムが印刷すれば郵送、封入作業をなくすことができる。1700超の自治体ごとの市民税、県民税、税率、超過課税の4パラメータを給与システムが持てば自治体からデータをもらう必要もない。

 そもそも筆者は現状の住民税の仕組みは不要だと思っている。住民税は所得税の結果を受けて税額を決定し、時間差で徴収している。所得税の結果を受け取らないと徴収できないので自治体は集金係のようなものだ。所得税がみなしで、その月に徴収できるなら、住民税もその月に徴収することは可能だろう。

 県民税と市民税を別々に納税している人はいない。まとめて徴収して、後から県と市で分けあっているなら、全部まとめて税務署が徴収して所得税分、県民税分、市民税分と分配すれば、企業も楽になるし全国の自治体で人員削減ができ効率的だ。稼いだときに天引きすれば時差がなくなるので、退職後に支払えなくなる人も減るだろう。専門家は「素人が寝ぼけたことを言ってる」と思うだろうが検討に値しない話だろうか。台湾のオードリー・タン氏に意見を聞いてみたい←冗談です。

 コロナ禍で政治家に対する批判を耳にする機会が増えたが、筆者はそれほど不満はない、理由は1つ「お前がやってみろと言われたらできないから」。ただ、政治家のITリテラシーの低さを何とかして欲しいと思うのは筆者だけだろうか。

「INTERNET Watch」ではこのほかにも、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。