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成功事例と失敗事例から学ぶ、今どきのオンライン会見

【2021年度版、オンライン会見の手引き 後編】

 オンライン会見が一般的になってから、すでに1年を経過した。

 多くの企業がオンライン会見の開催についてのノウハウを蓄積し、リアルの会見を行わなくても、継続的な情報発信を続けている。むしろ、それは会見を数多く開催できるといったことにもつながっている。だが、この記事の前編『2021年、ニューノーマル時代の記者会見の在り方とは?』で触れたように、IT・エレクトロニクス業界における記者会見の数は、前年に比べて1.5倍にも増えており、1人の記者がカバーできる数を遥かに超えている。

 こうした中で筆者が個人的に懸念しているのは、今のオンライン会見限定の状況が終わり、ハイブリッド会見の増加や、リアルだけの会見が増加した場合に、元のような取材活動ができなくなってしまうのではないかということだ。

 この1年の間に、リアルの会見を行ったり、ハイブリッド会見を行ったり、あるいは対面での単独取材の提案などもあったが、実は過去1年間で外出して取材をしたのは、たった1回だけだ。しかも、歩いて5分以内で行ける範囲での会見であり、電車にも乗らない場所だった。2019年には、年間で10回の海外取材、22回の国内出張取材をしていたにも関わらず、今では出張どころから電車に乗って出かける取材がゼロである。

 その理由のひとつが、オンライン会見が増加しすぎたことで、外出するタイミングを掴めなくなった点にある。都心部にいても、記者会見に出るために移動すると、1本の会見に出席するのに、出席時間と往復の移動時間をあわせると、約2時間が必要になる。早めに着いて準備する余裕や、会見後のぶら下がり取材の時間などを想定すると、3時間ぐらいは必要になることもある。

 だが、オンライン会見が断続的に続いている現在では、3時間あれば3件の会見に参加できる。しかも、複数のパソコンを使って、同時刻の複数の会見に参加できることを考えると、オンライン会見の効率性の高さは絶大だ。この状態から脱却するには、1年前に仕事のやり方を大きく変えたように、改めて仕事のやり方を変える必要があると思っている。

3台のパソコンを駆使して増加する会見に対応27インチ液晶、Wi-Fi 6、有線LAN、HDDなどを駆使

 この1年間で、ほぼ全てと言っていいほど、会見がオンラインへと移行する中で、参加する記者側もそれに合わせて環境を整えてきた。

 何人かのフリーランスの記者に話を聞くと、パソコンを増強したり、ディスプレイを大型のものに変えたり、あるいは取材用に高解像度のカメラを購入したりといった声がよく聞かれる。

 筆者の環境も強化している。今は、3台の最新ノートパソコンを活用し、そのうち1台を27型液晶ディスプレイに接続している。また、すべてのノートパソコンをWi-Fi 6対応のルータで接続し、安定したネットワークスピードを確保。1台は有線LANでも接続できるようにしている。ヘッドセット(ヘッドホン)もそれぞれのPCごとに用意。以前に比べて画像を使うことが増えたので、ローカルでのバックアップ用を含めて、この1年で4TBのハードディスクを2台増設している。

 その一方で、紙は激減した。これまでは会見に出るたびに、紙のニュースリリースや資料が配布され、それがオフィスに山積みになっていたが、これが一切なくなり、すべてデジタル上で処理している。

 先ほど触れたこの1年間で唯一参加したリアルの記者会見では、当然、紙の資料が配布されたのだが、戻ってきて紙のリリースを置く場所がなくなっていることに、そのときになって初めて気がついた。ペーパーレスの環境に、いつの間にか移行していたのだ。

 3台のパソコンでオンライン会見に参加できるようにしたのは、増加する会見数への対策でもあった。

 たとえば、午前10時から開始された会見は、基本的には1時間の設定となっているため、午前11時に予定されている会見の参加への切り替えが難しい。そこで、複数のパソコンを使って、時間が多少かぶっても複数の会見に参加できるようにしているのだ。

 特に、会見時間を決まってオーバーする「常習犯」の企業の場合には、最初から、それを想定した準備をしている。なかでも時間超過の「常習犯」が、理化学研究所と日本ヒューレット・パッカードだ。

 理化学研究所の会見は、主に、富岳の最新研究結果の発表であり、新型コロナウイルス対策として、飛沫に関するシミュレーションや治療薬候補同定、ウイルスの変異作用シミュレーションなどの成果を発表している。だが、専門的な用語も多い一方、一般紙などからの参加が多いため、理解を深められるように、多くの質問に答えるようにしている。もともと質問時間をたっぷり取って1時間30分程度の長時間の説明会としているのだが、毎回のように、それを超過して、2時間近くになる。

 日本ヒューレット・パッカードは、予定していた1時間を経過すると、一度、質疑応答は終了するものの、記者はそのまま残って、追加の質問ができる。いわば、会見終了後の囲み取材のようなものだ。だいたい10分から15分ぐらいは超過することになる。多くの質問に答えるための同社ならではの取り組みといえる。

 最近では、複数のパソコンを使って、同じ時間の会見に参加することも増えてきた。

 記事を書くのは1つに限定されるが、どうしても聞いておきたい会見であったり、広報やPR会社の担当者から、これは外さないほうがいいと情報をもらった会見は、別の会見に出ていても、別のパソコンで同時に接続して、録画し、あとで確認している。リアルの会見では、同じ時間に開催される会見はどちらかを選ばなくてはならなかったが、オンラインであれば、2つの会見に同時に参加することが可能である。あとから録画データを視聴して、不明な点があれば、広報に質問して、フォローしてもらうこともある。

 実は、3台のパソコンを使って、同時刻の3つの会見に同時に参加するということが、月に1回ほどある。かつては、1日に3本の取材をすれば、かなりヘトヘト状態になっていたが、今は3台のパソコンを使って、午前中だけで5本の会見に出たりといったことも可能になっている。

 これもニューノーマル時代の記者の動き方といえるかもしれない。

オンライン会見のトラブルはつきもの!映像が途切れる、音声が聞こえない、URLが違う、宅配便………

 オンライン会見に失敗はつきものだ。

 各社ともこの1年、試行錯誤の連続だといえるが、参加する側にとっても、トラブルの発生は前提という気持ちでいたり、録画データの提供などによって後からフォローしてもらえるという安心もあったりするため、個人的には、むしろ、それらのトラブルを楽しんでいた部分もあった。もちろん、当事者である広報担当者はそれどころではないだろうが…。

 この1年間で起きたオンライン会見のトラブル例をいくつかあげてみたい。

 2020年6月のNECとNTTの資本提携の会見では、映像や音声が途切れ、一部の記者が会見に参加できない状況になったり、何度も入退出を繰り返す事態になった。会見中には、チャット欄にはトラブルを指摘する書き込みが相次ぎ、当初は予定していなかった同社ホームページへの映像公開を会見後に実施して対応。日本の通信業界を代表する2社による提携会見での通信トラブルに、記者たちも苦笑せざるを得なかった。

NECとNTTの会見中には接続の不具合を指摘するコメントが相次いだ

 2020年10月に、日本IBMは、米本社のジム・ホワイトハースト社長による日本のメディアだけを対象にしたオンライン会見を実施。開始直後から通訳の音声がうまく聞きとれないとチャット欄に記者の書き込みが殺到。一度退出して、再接続をし、トラブルを解消。日本IBM広報からの要望により、ホワイトハースト社長は、数分間行っていた説明を、最初からやり直すという異例の事態に。

 2020年10月に、Zoomの日本法人であるZVC Japanと大分県の包括連携協定では、同社の佐賀文宣カントリーゼネラルマネージャーと、大分県の広瀬勝貞知事が出席して会見を行ったが、会議に最適とされるZoom専用デバイス「DTEN ME」を活用したものの、会見場の広さには対応できず、音声が聞き取れない状態に。Zoomの録画データ以外には、録音および録画データが残されていなかったため、オンライン会見に参加した記者は記事化できず。

 2021年4月に行われた三菱電機の2020年度決算会見は午後2時30分からZoomで行われたが、開始早々、通信トラブルにより会見が中止。だが、急遽、午後7時15分からTeamsで会見を行うとし、その日のうちに決算会見を実施。うまくリカバリーしてみせた。

 2021年5月に行われたGoogle Cloudの会見では、事前に通知されたURLが間違っていたことが会見開始時間に発覚。指定されたオンライン会場に入っていた約20人の記者たちが、チャット欄に記載された正式なURLに入りなおして、会見は5分遅れでスタート。

 2021年6月に行われた日本マイクロソフトの会見では、三上智子執行役員のプレゼンテーション中に、自宅のチャイムが鳴り、宅配便が訪れた様子。「あるあるですね。ちょっと待ってください」といいながら、音声と画像をオフにすると、すかさず広報担当者が場をつないで、わずか30秒で復帰。「リアルタイムな感じですみません」と場を盛り上げながら進行。そのスムーズさはむしろ見事だった。実はこの会見では、数人の記者が会見開始時間にはオンライン会見に接続できないという事態も発生。だが、日本マイクロソフトでは、会見終了から1~2時間後には録画データをOneDrive上にアップするのがいつものやり方であり、冒頭部分に参加できなかった記者も1時間後には映像で確認できた。

事前収録映像をはうまく使うべきYouTubeとコミュニケーションツールの併用もアリ

 そのほか、あるメーカーでは、オンライン会見は完璧に配信したものの、質疑応答を含めて、すべてが事前収録されたものであり、その臨場感の無さを感じたメディアは、記事化に際して、1社も会見中のコメントを使わなかったという例もあった。

 オンライン会見では、映像を事前収録したものを利用することも多いが、質疑応答まで、自分たちで用意して、それに答えるというのでは、参加した記者の方も白けてしまう。「完パケ」で作られた映像は見ていれば、意外にもわかってしまうものである。ここでは、参加した記者からの質問を受け付けるということにしていたのだが、それに対する回答が来たのは数日後。なんともお粗末な会見になった。完パケで用意したものを視聴するだけであれば、わざわざ指定された時間に参加する意味もなく、好きな時間で指定されたURLを見れば済む話だ。

 最近では、製品説明は事前収録の映像で行うものの、質疑応答だけはライブで行うというケースも増えてきた。その際に、登壇者に対しては、収録当日と会見当日の服装を同じにすること、その間、散髪には行かないことなどの制限がかけられることがあるという。ソニーの決算発表では、説明時には十時裕樹CFOの映像は表示するが、質疑応答では映像は映さない手法を用いているが、これもひとつの手だ。

 事前の映像収録はオンライン会見ならでは特徴を生かせるものであり、うまく生かせば、リアルの会見よりもメッセージを伝えやすい。また、本番では失敗が懸念されるようなデモストレーションも、事前収録であれば、トラブルなく伝えられる。オンライン会見での事前収録映像は使い方によっては効果的だ。

 ただ、そこにはひと工夫が欲しいのは確かだ。

 2021年1月25日に、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が行った新体制スタートからDay1000を迎えた事業方針説明会で、齋藤邦彰社長(当時、現会長)は、会見が事前収録による約1時間の映像を放映する内容であることに配慮して、会見開始の3分前に、自ら影ナレ(影ナレーション)に登場。「今日はきれいに晴れていて、FCCL本社から富士山がきれいに見える。昨日は、東京都の新型コロナウイルスの感染者数が1000人を切った。みなさんも気をつけてください」とコメント。その日ならではの情報を入れながら、自らも会見開始時点に、その場にスタンバイして、映像終了後には質疑応答に対応する姿勢を示した。

 この日の事前収録の映像には、ライバルであるNECパーソナルコンピュータのデビット・ベネット社長をはじめ、業界関係者が数多く登場。作りこんだ映像は、オンライン会見ならではのものとなった。

 ちなみに、FCCLの齋藤会長は、オンライン会見の活用の仕方がうまい。

 FCCLでは、新製品発表前の数週間前に、開発者による事前説明会を行うのが恒例だが、2020年に行ったオンライン事前説明会では、開発者の説明の前に、齋藤会長がビデオで登場して、新製品の特徴をアピール。経営トップが新製品に強い思いを込めていることを示した。これまで事前説明会にトップが出席することはなかったが、オンライン会見の特徴をうまく活用した例のひとつだ。

 また、FCCLは、新川崎の本社受付フロアに、富士通の歴代パソコンを描いたウォールペインティングを2020年4月に完成させたが、コロナ禍で同社本社を訪れることができないメディア関係者のために、会見の発信場所をここに定めて、毎回、会見の冒頭に壁画に書かれたパソコンをひとつずつ取り上げ、そのエピソードを紹介することを恒例化。オンライン会見を通じて、メディアとの距離を縮める工夫を凝らしている。

毎回会見ではウォールペイントされた歴代製品を紹介。この日はFM TOWNSに触れた

 メディアとの距離感を縮めるという点で、オンライン会見で独自のキャラクターぶりを発揮しているのが、TVS REGZA(旧東芝映像ソリューション)のブランド統括マネージャーの本村裕史氏だ。

 5月に行われた説明会では、約15分間の事前収録映像のなかで、自らが製品説明を行ったあと、ライブによる約40分間の質疑応答時間を設けたが、まるでテレビ番組のトークショーのような楽しい進行が、記者たちを引き込んだ。

 本村ブランド統括マネージャーは、「〇〇さんからの質問です。あっ、先日、駅のホームでばったり会いましたね」といったエピソードを交えたり、記者の細かい質問にも、裏話を交えて、きわどい内容に言及しながら回答。ユーモアを盛り込みながら、丁寧に、しっかりと説明する姿に、記者の質問が殺到するという仕組みだ。同社では、これまでに何度もオンラインで説明会を行っているが、毎回質問が途切れず、オンライン会見の盛り上がりぶりが、参加する記者にも伝わってくる内容になっている。もともとリアルの会見でも本音トーク炸裂の説明に、記者にもファンが多い本村氏だが、オンライン会見でもそのトークの技がさらに発揮されている。

本村氏(左から2人目)を中心にテレビのトークショーのような楽しい対応をするTVS REGZAの説明会

 一方、オンライン会見で多く使用されているZoomやTeamsの場合、事前収録した映像を流しても、せっかくのきれいな画像で配信されないことが多い。

 そのため、事前収録映像部分だけはYouTubeで配信して、質疑応答はZoomなどのコミュニケーションツールを使うというケースも目立つ。ひとつの会見で、接続先を切り替えるのは手間だが、きれいな映像で製品をしっかりと伝えたい場合には適切な手法だといえる。また、事前収録した映像データは、サイトなどからダウンロードできるようにして、別途見てもらうようにするのも、きれいな映像を活かすための手法かもしれない。

 製品説明と質疑応答で、2つのアクセス先を利用したオンライン会見のなかで、5月に行われたシャープの5G対応スマートフォン「AQUOS R6」の会見では、ちょっとした配慮がよかった。

 製品説明は事前収録の映像をYouTubeで放映。質疑応答は、同社のコミュニケーションツール「LINC Biz」で行われたのだが、会見通知には、それぞれの参加用URLとともに、「14:00~14:26 プレゼンテーション YouTubeにて配信」、「14:30~15:00 質疑応答 LINC Bizにて実施」と明記されていた。

シャープは2部構成の際に、スケジュールを細かく明記した

 たわいないことなのだが、この通知によって、26分間の映像を見て、終了後4分の間にLINC Bizに接続して、午後2時30分から質疑応答に参加すればいいということがわかりやすかったのだ。

 他社の場合には、各社とも「映像を見終わったら、順次移動してください」という内容に留まっていた。急いで移動はするのだが、スケジュール感はあまり明確ではなかったため、いつ終わって、いつまでに移動するのかということがわかりにくかった。ここまで分刻みで表記したのは、このときのシャープが初めてだ。

 細かいことではあるが、事前にわかっている事前収録映像の時間を表記し、移動時間の幅を明確化し、質疑応答の開始時間を示すという点では、記者に配慮したものだったと言える。

オンライン会見でも写真は大切!

 オンライン記者会見が増えたことで、ウェブ媒体が苦労しているのが、登壇者や製品の写真だ。

 企業側も配慮してくれて、登壇者の写真を撮影しやすいようにしている。会見開始前だったり、登壇者の説明が始まる前だったり、あるいは会見の最後に、フォトセッションという場を設けたりといったように様々だ。こうした場を設けてくれるのはありがたい。

フォトセッションの時間を用意してくれる会見もある

 ただ、コミュニケーションツール上の映像だと画質には限界がある。

 出社禁止が続いている外資系IT企業は、登壇者自身も自宅から参加していることが多いので、誰かに撮影してもらうというのは難しいかもしれないが、放映用の映像の事前収録の場があって、そこで写真の撮影が可能だったり、登壇者や広報担当者が集まった場所から会見が配信されているように場合には、現場で撮影した写真を提供してもらえることがありがたい。

 パナソニックの場合は、リハーサル中の登壇写真を事前に撮影。それを広報提供の公式写真として用意している。会見が始まる前に、登壇者の話している雰囲気の写真が用意されるので、記事掲載の際にもスムーズに、高画質の写真が掲載できる。

 登壇者の写真も、新製品の写真も数多く用意してくれる企業が増えており、広報のサイトや、格納しているサービスにアクセスすれば、ウェブ媒体は数多くの写真をダウンロードし、その中から記事の内容にあわせて、最適なものを選択できるようになっている。この点は、広報部門の努力に大いに感謝したい。

 ただ、なかには、サイトの構成上、一括ダウンロードができずに、10枚以上の写真や資料をひとつずつダウンロードする手間がかかるものもある。一括ダウンロードができる仕組みを基本としてもらえると、こちらも作業がしやすい。

 様々な企業のオンライン会見に出ていて感じるのは、映像や音声の差が、会見への力の入れ具合の差として感じるという点だ。

 画質の悪いカメラを使っていたり、逆光で顔が見えにくかったり、音声がしっかりと聞こえないというオンライン会見に参加すると、その企業にしっかりと伝える意思がなく、発表している戦略や製品に力を入れていないのではないかと感じてしまうのだ。

 ソニーでは、会見の映像に、高画質撮影が可能なαシリーズを採用したり、パナソニックでは東京オリンピックにも採用される同社の放送用カメラの製品群を用いる場合もあった。

 また、レノボ・ジャパン/NECパーソナルコンピュータのデビット・ベネット社長は、自宅の書斎に、高解像度カメラと大型マイクなどを設置して、自宅からでも、高画質、高音質の環境でインタビューに答えることができるようにしている。このように少しでも映像や音声にこだわる姿勢をみると、企業や経営トップがメディアに伝えたいという姿勢が自然と伝わってくる。

レノボ・ジャパンのベネット社長の自宅には、大型マイクを設置。画像も鮮明だ

 一方で、オンライン会見でキャプチャーを撮る際に感じるのは、登壇者の映り方に、もう少し工夫を凝らしてほしいと思うことが多い点だ。特に期待したいのが目線に対する工夫だ。

 画面上の資料を見ながら説明している場合には、目線がやや下方向になってしまうことが多い。少しでいいので、カメラの方向を向いてしゃべる時間を増やしてもらえるとありがたい。また、カメラの位置によって、あごの部分から上しか映らない状況になったり、頭が切れていたりといったこともある。背景の企業ロゴなどにピントがあって、登壇者がピンボケのままになってしまうという場合もある。会見前には、広報担当者が、そのシーンがキャプチャーされることを想定して、登壇者の映り方をぜひチェックしておいてもらいたい。

懸念されるハイブリッド会見での「格差」

 今後、ハイブリッド会見が増えてきた際に懸念しているのが、オンライン会見の参加者と、リアルの参加者との格差が生まれるのではないかという点だ。

 これまでにも、何度もハイブリッド会見には参加したことがあるが、やはり、リアルの参加者を優先した形で進行する場合が多い。同じ資料が配布され、質問の機会も用意されているのだが、やはり「サブ」といえる状況になりがちだ。

 その格差を強く感じるのが、オンライン会見向けの配信に、パソコンを1台用意して、それでだけで対応するというやり方を取られた時だ。

 パソコンに内蔵したカメラで撮影するため、最初から最後まで、引きの映像になる。しかも、登壇者が3人ぐらいになると、全員が入るように斜め方向から撮影する形で配置することになり、端の人はあまりにも遠くて、画面を見ていても、誰が誰だかまったくわからなかったり、参加者の名前の文字も読めなかったりする。

パソコンを固定した状態での会見配信だと、音声も、映像も伝わりにくい場合もある

 それでも、比較的いい場所にパソコンを設置してくれる場合もあるのだが、フォトセッションで握手シーンなどがあると、逆にいい位置すぎて、パソコンの前に記者が殺到し、握手シーンが1枚もキャプチャーできないということもある。だいたい、パソコンを置いておけばいいという発想が前提なので、フォトセッションで、よりいい位置にパソコンを動かしてくれるという考えがない場合が多く、ハイブリッド会見での登壇者のキャプチャーは最初から諦めていることが多い。

フォトセッションでは現場の記者がカメラの前に入り撮影できないことも

 当然、パソコンに内蔵したマイクで、会場全体の音声を拾おうとしているので、会見中の音も聞き取りにくい。スピーカーの近くだと少しはいいが、質疑応答になった場合に、用意されたマイクの数が少なく、地声での記者の質問や司会者の声が聞こえず、コメントが聞き取れないばかりが、今何が行われているのか、状況が把握できないこともある。

 ハイブリッド会見を行う際には、オンラインで参加している記者が格差を感じることがないように、オンライン会見向け専任の広報担当者を1人つけて対応してほしいと思う。その担当者が、リアル会場より、いい内容をオンライン会見の参加者に届けたい、と思って工夫をしてくれたらなおさらいい。

 テラスカイが、2021年4月に行った決算会見は、ハイブリッド会見であったが、オンライン参加者とリアル参加者の双方に配慮したものであり、リアルの参加者がいた会見ではありながらも、同社・佐藤秀哉社長は、配信用のカメラに向かって説明。使用されたプレゼンテーション資料は、オンラインを通じても、わかりやすく、鮮明に表示されていた。オンライン参加している記者にとっては、オンラインだけで開催しているのではないかと錯覚するほどの内容だった。ハイブリッド会見で、ここまでオンラインの出席者に配慮した会見はほかになかった。

そして、この会見で、もうひとつ注目しておきたいのは、リアルの参加者にも特別な配慮をしていた点だった。

 同社の会見通知のなかには、以下のような一文が盛り込まれていたのだ。

 「当記者説明会の前後に、他のオンライン会議・会見に参加したい記者様や、原稿を書きたいという記者様には、弊社のラウンジを開放いたします」

 ハイブリッド会見が増加してくると、リアルの会見のあとに、すぐにオンライン会見に参加しなくてはならないということもあるだろう。そんな場合に、こうした場所を提供してもらえるのは記者としてありがたいことだ。もちろん、周りへの音漏れ、情報漏洩には注意しなくてはならない。

記者が配慮しなくてはならないことは?

 オンライン会見では音も大切だ。

 実は、一部のオンライン会見では、会見が始まる前の時間帯は、接続していても無音のままの状況になっている。開始時間になるといきなり司会者が音声を発するのだが、それまでの時間、映像が表示されていることは確認できても、音の確認ができず、「このまま会見が始まっても、音がでなかったらどうしようか」と不安になることがあるのだ。

 企業によっては、音楽を鳴らしていてくれていたり、5分前や1分前になると司会者が出てきて、参加のお礼や資料のダウンロード方法などを告知してくれたりして、音声が正しく聞こえる状態になっていることが確認できるように配慮している。こうした配慮はありがたい。

デル・テクノロジーズは、会見開始前にビデオを流して、音声をチェックできるようにし、記者にも確認を促している

 その一方で、むしろ、参加する記者側が、音に配慮しなくてはならない場面がある。

 質疑応答の際には、記者はミュートを解除して質問をするのだが、このとき、質問が終わってもマイクをオンにしているため、記者の周りの音を拾ってしまい、肝心の回答者の声を妨げてしまうことが結構あるのだ。これは、日刊紙の記者が質問した場合に多いトラブルだ。日刊紙の記者は、編集部の自席からオンライン会見に出席することが多く、編集部内の会話まで拾ってしまったり、ニュース配信のアラート音を拾ってしまったりと、かなりうるさい。

 しかも、ノートパソコン1台で作業していることが多く、音声ミュートをしないまま、つながったパソコンのキーボードを叩くものだから、その音まで拾ってしまう。そうなると、発言者が何を言っているのかわからない。こうした状況になっていることは、記者本人は気がつきにくいため、そこは広報担当者が遠慮なく指摘し、場合によっては、質問が終わったらミュートするように促した方がいい。実際、司会者が質問した記者に注意を促し、ミュートを依頼したケースは何度もある。

オンライン会見の先進的な業界に

 前編、後編の2回に渡って、IT・エレクトロニクス業界の昨今のオンライン会見事情を紹介してきた。

 各社の広報部門は、この1年間で多くの学びを得て、ノウハウを蓄積し、それをもとに、オンライン会見を定着させてきた。記者側も、それにあわせた環境整備を進め、お互いの努力でスムーズな記者会見の環境が構築できたと思っている。

 国内でのワクチン接種がはじまったものの、コロナ禍の先行きは依然として不透明だ。当面続くコロナ禍への対応だけでなく、終息後に訪れるアフターコロナ/ウィズコロナの時代においても、オンライン会見は続くことになるだろう。
考えてみれば、オンライン会見を支えるテクノロジーを持つIT・エレクトロニクス業界にとっては、これは得意領域でなくてはいけない。実際、それを裏づけるように、IT・エレクトロニクス業界におけるオンライン会見への移行は速く、開催回数も多い。

 その点では、IT・エレクトロニクス業界が、新たなオンライン会見の形を提案していく必要もあるだろう。業界全体として、オンライン会見の成功体験の発信を強めていくべきだとも感じる。