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令和6年分の確定申告、個人事業主が気を付けるべきポイントは? 「定額減税」は対象人数に注意、2年目の「インボイス制度」についても解説
会計ソフトでおなじみ「弥生」に聞いた
2025年3月7日 12:55
弥生株式会社が全国の個人事業主1000人に行ったアンケート調査によると、約70%が「定額減税」を受けるために確定申告が必要であることを知っていたものの、計算方法や定額減税の対象になる人を正確に理解しているのは約15%と少ないことが分かった。
そこで今回は、令和6年分(2024年分)の確定申告において個人事業主が定額減税について気を付けなければいけないポイントについて、弥生の波多江友香氏(セールス&マーケティング本部 プロダクトマネジメント部)に話を聞いた。あわせて、消費税の確定申告における「インボイス制度」に関する注意点についても、弥生の大江桂太郎氏(同)に聞いた。
今回限りの「定額減税」記入欄を忘れずに!対象となる「扶養親族」を間違えやすいので要確認
それでは、個人事業主が所得税の定額減税を受けるためには、確定申告において具体的にどのような手続を行えばいいのだろうか。
令和6年分の確定申告書には、今回限りの定額減税に関する記入欄が設けられている。この記入欄には、配偶者や扶養親族などを含めた人数を書く欄と、人数に3万円を掛けた税額を書く欄がある。ここに記入漏れがあると定額減税が無効(定額減税の適用を受けない人と同様の納税額が計算されてしまう)になってしまうとのことなので注意しよう。
なお、原則として、前年分の所得税額が15万円以上となる人に適用される“予定納税”を行っている人の場合は、2024年6月ごろに税務署から届いた2024年7月(第1期分)の予定納税額の通知書の金額が、定期減税額に相当する金額を差し引いた金額となっており、すでに定額減税を受けたかたちとなっている。この場合でも、今回の確定申告の際に定額減税に関する記入欄に税額を記載する必要がある。
もし、すでに記入漏れの申告書を提出してしまった場合は、3月17日の申告期間内であれば、記入したものを再提出すれば、あとに提出したものが受理される。また、申告期間終了後に記入漏れに気付いた場合でも、所轄税務署に手続(更正の請求)を行えば定額減税を受けることは可能だが、その期限は法定申告期限(2025年3月17日)から5年以内となる。
波多江氏によると、確定申告書の定額減税に関する記入を行う場合には、配偶者や扶養親族が定額減税を受けられる対象者となるかどうかを確認することがポイントだという。特に注意が必要なのが「16歳未満の扶養親族」についてだ。所得税の扶養控除では16歳未満の扶養親族は控除の対象外となるが、今回の定額減税では16歳未満の扶養親族も対象となる点だ。これは見落としやすいので十分に気を付けよう。
「何回か所得税の申告をされている人ですと、所得税の扶養控除については16歳未満の扶養親族が対象外となるので、その印象が強く、所得税法で解釈されがちなのですが、今回の定額減税では16歳未満の扶養親族も対象となります。これが見落としがちなのでご注意いただければと思います」と波多江氏は語る。
さらに、2024年1月1日以降に生まれた子どもがいる場合、所得税と住民税では適用条件が異なる点にも注意しよう。所得税については、2024年12月31日時点の状況に応じて対象者を確定するため、定額減税の控除の対象となる。一方、住民税については、前年の2023年12月31日時点の状況に応じて対象者を確定するために対象外となる。例えば、予定納税を行ったあとに子どもが生まれた場合などは、所得税に限って定額減税の対象者が増えることになるので、確定申告のときに増えた分の人数を忘れずに加える必要がある。
また、同一生計配偶者への定額減税については、合計所得金額が48万円以下(給与所得のみの場合は収入が103万円以下)の場合のみ適用となることにも注意が必要だ。基準を超えると同一生計配偶者は対象外となり、配偶者本人が定額減税を受けることになる。波多江氏はこの点について、「誤って二重に申請してしまわないようにご注意ください」と語る。
このほか、一般的によくある質問として、定額減税がふるさと納税や住宅ローン減税に影響するかどうかという疑問がある。ふるさと納税の上限額は、定額減税の額を控除する前の所得割額で決まるため、定額減税がふるさと納税の上限額に影響を及ぼすことはない。住宅ローン減税についても同様で、定額減税によって住宅ローン控除の控除額が変わることはないとのことだ。
消費税の納税額、最適な計算方法は?今年も「2割特例」適用できるか確認も必要
弥生では、定額減税だけでなく、「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」に関しても注意を呼び掛けている。
令和6年分の確定申告は、同制度が2023年にスタートしてから2回目の確定申告となる。すでに昨年の段階で同制度を踏まえた消費税の確定申告を経験済みの個人事業主もいらっしゃるだろうが、新たに2024年に免税事業者から課税事業者になった事業者にとっては今回が初めてとなるので注意が必要だ。
大江氏によると、ポイントとなるのは納税額の計算方法の選び方だ。「本則課税(一般課税)」または基準期間の課税売上が5000万円以下の事業者が利用できる「簡易課税」のほかに、インボイス制度を機に新たに免税事業者から課税事業者(インボイス発行事業者)となった小規模事業者の場合は、負担軽減措置として設けられた「2割特例」から選べるようになっている。
ただし、簡易課税については、今回の確定申告で簡易課税を利用するためには2024年12月末 [*] までに税務署に事前申請を行わなくてはならない。一方、2割特例であれば事前申請は不要で、確定申告時に付記するだけで済むので、これから選択するとなると、本則課税か2割特例かの2択となる。
[*]…… 簡易課税は、原則として、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに簡易課税選択届出書の提出が必要。ただし現在は例外的に(令和11年9月30日までの日の属する課税期間までは)、インボイス発行事業者の登録を受けた課税期間から簡易課税の適用を受ける旨を記載した簡易課税選択届出書を課税期間中に提出すれば、提出した課税期間から簡易課税の適用を受けられることとなっている。
それぞれの納税額の算出方法は以下の通りとなる。なお、2024年の途中から課税事業者となった人の場合は、課税事業者となった日以降に受け取った消費税に対して、本則課税の場合であれば売上で受け取った消費税から仕入れで支払った消費税を差し引いた差額の消費税を、2割特例の場合であれば売上で受け取った消費税に2割を掛けた額を、納税額として算出する。
- 本則課税(一般課税):売上で受け取った消費税-仕入れで支払った消費税
- 簡易課税:売上で受け取った消費税-(売上で受け取った消費税×業種ごとのみなし仕入率)
- 2割特例:売上で受け取った消費税×20%
参考までに、簡易課税を選択した場合の、業種ごとのみなし仕入率は以下の通りとなる。ちなみに簡易課税の申請を行うと、2年間は変更できないので注意しよう。
- ①第一種事業(卸売業):90%
- ②第二種事業(小売業):80%
- ③第三種事業(製造業):70%
- ④第四種事業(飲食店業・その他①②③⑤⑥以外の事業):60%
- ⑤第五種事業(金融業および保険業・運輸通信業・飲食店業を除くサービス業):50%
- ⑥第六種事業(不動産業):40%
2割特例を利用する際に注意しなければならないポイントとしては、その適用条件が挙げられる。令和6年分の確定申告で適用を受ける条件としては、インボイス制度開始に伴い2024年末までに免税事業者から課税事業者になった事業者で、かつ基準期間(2022年分)および特定期間(2023年1月~6月)の課税売上高がいずれも1000万以下となる等、いくつかの条件を満たす必要がある。
中には、前回(令和5年分)の確定申告は2割特例を適用可能だったが、上記の期間で売上が増加したために今回は2割特例が適用不可となる人もいるかもしれないので注意が必要だ。「場合によっては対象から外れる人もいる可能性があるので、『今年も使えるだろう』と思い込まずに、国税庁が公開しているフローチャートをきちんと見ていただくほうがいいと思います」と大江氏は語る。
2割特例を適用可能な事業者が、計算の簡単な2割特例を利用するか、あえて本則課税を利用するかは、各自の事業内容を踏まえた判断となる。
サービス業など仕入額が少ない業種においては、2割特例を利用するほうが本則課税に比べて納税額を少なくできる可能性が高いし、計算も楽だ。しかし、本則課税とは違って赤字となった場合には還付を受けることができない。
一方、本則課税の場合は、仕入れや経費で支払った消費税を控除(仕入税額控除)できるため、仕入れの多い事業者にとっては有利なほか、赤字の場合は還付を受けられる可能性があるが、適格請求書の処理を適切に行って仕入税額控除および納税額を計算する必要があり、帳簿管理の負担は大きい。大江氏によると、会計ソフト/クラウドサービスでは自動的に適格請求書の判断が行える機能なども搭載されているものもあるので、そのような機能を利用すると作業負担が軽くなるとしている。
このほか、今回の確定申告で注意が必要なポイントとして、2024年1月に電子帳簿保存法によって電子取引のデータ保存が完全義務化されたことが挙げられるという。電子データで受領した取引データの場合は、電子帳簿保存法の要件を満たしたかたちでの保存に対応する必要があるので注意しよう。