特別企画

青色申告は白色申告よりお得なの?
~青色申告の特典と節税効果を検証しよう~

独立志向のサラリーマンと個人事業主のための確定申告短期連載・第3回

 青色申告という言葉は聞いたことがあるだろう。サラリーマン時代の筆者は青色申告という言葉は知っていたが、白色申告という言葉は知らなかったと思う。そもそも青色申告も知っていたのは言葉だけで、それが何を意味するものか、何が違うのかは理解していなかった。今回は青色申告とは何か、白色申告との違い、青色申告を選択すると得られる特典などを説明しよう。

白色申告のメリットが大幅に減少

 平成26年(2014年)分の確定申告から、白色申告の記帳義務化が始まった。と言われても何のことか分からない方もいると思う。ザックリ言うと、楽チンだった白色申告による確定申告が、ルールの変更により面倒臭くなった0ということだ。2015年2月~3月、今まさに行われている確定申告から「手抜きはダメよ~、白色申告の人もキッチリ帳簿を付けましょう」となったのだ。

 平成25年(2013年)分までは前々年、前年の所得が300万円以下だと記帳および帳簿の保存が不要だった。売り上げが500万円あっても、経費が200万円なら所得は300万円となり細かな帳簿を付ける必要はなく「どんぶり勘定」が許されていた。

所得=売り上げ-経費=500万円-200万円=300万円

 そもそも青色申告ソフトという言葉は耳にするが、白色申告ソフトという言葉はほとんど聞いたことがない。記帳義務がない=ソフトは不要=白色申告専用ソフトは売れない、ということだったと思われる。

 ちなみに、ほとんどの青色申告ソフトは白色申告に対応している。代表的な青色申告ソフトである「やよいの青色申告(https://www.yayoi-kk.co.jp/products/aoiro/)」は初期設定で青色申告と白色申告を選択する画面が用意されている。

やよいの青色申告
やよいの青色申告は青色申告と白色申告が選択できる

クラウドと連動した最強の申告ソフト? 「やよいの青色申告15」レビュー
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/review/20150219_688544.html

 白色申告専用ソフトがほとんどない中、昨年サービスを開始した「やよいの白色申告オンライン(http://www.yayoi-kk.co.jp/products/shiroiro_ol/)」は貴重な存在で、記帳義務化にフォーカスしたサービスと言えよう。

 青色申告には税金が減るなど数々のメリットがあるが、記帳義務などのハードルが高く白色申告を選択する人は多かった。白色申告の記帳義務化によりその差は縮まり、昨年から青色申告へ移行する人が増えているようだ。

個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について(国税庁)
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/kojin_jigyo/

青色申告と白色申告の違い

 個人事業主として開業するのは簡単だ。「個人事業主の開業届出書(https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/pdf/04.pdf)」を管轄の税務署に提出するだけだ。注意点は2通用意して受領印をもらうこと。この控えは銀行口座の開設など必要となることは多い。

 開業届出書だけ提出すると自動的に白色申告となる。青色申告をしたい人は開業届出書と一緒に「青色申告承認申請書(https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/pdf/09.pdf)」も提出しよう。現在、白色申告の人が青色申告に切り替える場合は、3月15日までに青色申告承認申請書を提出する必要がある。2015年分から青色申告に切り替えるなら期限はすぐ間近だ。

 青色申告と白色申告の違いを確認しよう。あまり知られていないが、青色申告には65万円の控除と10万円の控除があり、一般的に青色申告と言うと、65万円の控除をさす。青色申告でも10万円控除の方は、通称青10(アオジュー)と呼ばれている。青色申告(65万円控除)、青色申告(10万円控除)、白色申告を比較してみよう。

青色申告、白色申告比較

青色申告(65万円控除)青色申告(10万円控除)白色申告
届出青色申告承認申請書を提出青色申告承認申請書を提出不要
記帳の仕方複式簿記の記帳

貸借対照表の提出
損益計算書の提出
単式簿記の記帳単式簿記の記帳
申告期限3月15日厳守(注)3月15日以降も可3月15日以降も可
特典青色申告特別控除65万円
青色事業専従者給与
赤字の3年繰り越しなど
青色申告特別控除10万円
青色事業専従者給与
赤字の3年繰り越しなど
なし

(注)2015年は3月16日

 届け出は先ほどの「青色申告承認申請書」を出すだけなので問題ないだろう。青色申告(65万円控除)の記帳の仕方にある、複式簿記の記帳、貸借対照表の提出、損益計算書の提出が最大のハードルだ。申告期限も青色申告(65万円控除)は厳守となっている。ちなみに筆者は過去8回の確定申告で3回が最終日提出だ。青色申告にはさまざまな特典があり、青色申告(65万円控除)でも青色申告(10万円控除)でも控除額の差以外の特典は同じだ。

 白色申告の記帳義務化により、白色申告をするメリットは何もない。少なくとも青色申告(10万円控除)に切り替えるべきだと考えられる。さらに、複式簿記による記帳など、高いハードルが越えられそうなら、青色申告(65万円控除)を目指そう。

 余談だが、青色申告や白色申告についてインターネットで調べる際の注意点は、記事が書かれた年だ。最新の記事は検索で上位に表示されないことが多い。数年前の記事を読むと、現在の税制と異なったことが書かれていることがあるので注意したい。白色申告の記帳義務化は2014年からなので、2013年以前に書かれた記事は参考にならないこともある。これは税金の記事に共通することなので、INTERNET Watchの読者なら、検索ツールで1年以内と指定するなど、工夫をしていただきたい。

 では、青色申告(65万円控除:以下省略)の最大のハードルである複式簿記の記帳、貸借対照表の提出、損益計算書の提出について考えてみたい。複式簿記、貸借対照表、損益計算書という言葉は聞いたことがあっても、それらを自力で作成し提出するのは「無理」と思う人は多いだろう。理系出身で簿記の知識がなかった筆者は、複式簿記が何をするものか知らなかった。今年9回目の確定申告となるが、今でも手書きで記帳することはできない。

貸借対照表
損益計算書

 では不可能かと言うと、INTERNET Watchの読者なら超えられるハードルだと思っている。筆者がそうであったように、青色申告ソフトを使えば、本来の意味は理解できなくても、結果として複式簿記の記帳、貸借対照表の提出、損益計算書の提出が可能となる。HTMLを理解しなくても、ホームページ作成ツールを使えばそこそこのウェブサイトを作成できるのに近いイメージだ。

 少しだけ単式簿記(簡易簿記)と複式簿記について触れておこう。単式簿記の記帳は家計簿を付けるイメージで、食費、教育費……と科目分けして明細、金額を記録する要領だ。例えば電気代を支払った場合は、日付、科目、金額、摘要などを記録する。

記帳例
日付科目金額摘要
3月10日水道光熱費5000円電気代

 これを複式簿記で記帳すると左側を「借方」、右側を「貸方」としそれぞれに勘定科目と金額を記入する。意味合いとしては、右手に持った現金5000円をコンビニのレジで手渡し(貸し)、左手で電気代を支払ったという領収書を受け取る(借り)となる。

借方貸方
日付勘定科目金額勘定科目金額摘要
3月10日水道光熱費5000円現金5000円電気代

 同じ電気代の支払いを銀行引き落としにした場合は貸方(右側)の勘定科目が普通預金となる。単式簿記よりお金の動きが明確になったことは分かるが、簿記の経験がない人は「なぜこのような分かりにくい書き方をするの」と思うだろう。筆者は深く考えないようにしている。

借方貸方
日付勘定科目金額勘定科目金額摘要
3月10日水道光熱費5000円普通預金5000円電気代

青色申告の特典

 青色申告をするとどのようなメリットがあるかを確認したい。代表的な特典は「青色申告特別控除」「青色事業専従者給与」「減価償却の特例」「赤字の3年繰り越し」の4つだ。順番にみていこう。

青色申告特別控除

 青色申告の特典ですべての事業者が対象となるのが青色申告特別控除だ。複式簿記で記帳、貸借対照表、損益計算書を作成して期限(通常は3月15日)までに確定申告を提出すれば65万円の控除が受けられる。難しそうな記帳をして納期までに提出したご褒美と考えてよい。課税所得の額により所得税の税率は異なるが、所得税の税率が10%の人なら所得税で6万5000円、住民税で6万5000円(税率は一律10%)、合計13万円納税額を減らすことができる(さらに復興特別税の1365円も減税)。

青色申告特別控除による節税効果
課税所得額195万円以下195万円超 330万円以下330万円超 695万円以下
所得税の税率5%10%20%
所得税の節税額3万2500円6万5000円13万円
復興特別税の節税額682円1365円2730円
住民税の税率10%(一部自治体は異なる)
住民税の節税額6万5000円
節税額の合計9万8182円13万1365円19万5730円

 青色申告特別控除のよい点は、基礎控除やサラリーマンの給与所得控除と同じように1円の出費もなく控除が受けられることだ。強いて言えば青色申告ソフトの購入費(1万円くらい)が必要となるが、約10万円~20万円の節税ができればじゅうぶん元は取れる。

青色事業専従者給与

 青色事業専従者給与は家族に支払った給与を経費にできる制度だ。まずは白色申告の場合を確認してみたい。白色申告では奥さん(配偶者)に対する給与は年間86万円まで経費とすることができる。子ども(扶養親族)に対する給与は50万円となっている。家族に給与を支払うと、その家族は配偶者控除、扶養控除の対象外となる。

 例えば、子どもに年間100万円の給与を支払っても経費となるのは50万円。残りの50万円はお小遣いの扱いとなる。経費は50万円増えるが扶養控除が38万円減るので差し引き12万円だけ課税所得が減ることになる。節税効果は2万円~4万円程度だ。これなら年収103万円の範囲でどこかでアルバイトをしてもらった方が、家計にはプラスになるはずだ。

 青色申告をしていれば青色事業専従者給与として家族に支払った給与を全額経費とすることができる。1年の内6カ月以上従事すること、15歳以上など条件はあるが、常識の範囲の金額であれば経費として認められる。節税効果を検証してみよう。

 課税所得が400万円の個人事業主がいたとしよう。この場合、所得税の納税額は37万2500円となる。

課税所得×税率(20%)-控除額(42万7500円)=所得税額
400万円×20%-42万7500円=37万2500円

 奥さんに経理や事務を手伝ってもらったり、喫茶店なら料理を作ってもらったりして毎月8万円の給与を支払ったとしよう。奥さんに支払う給与で経費が年間96万円増え、奥さんの配偶者控除が38万円減るので差し引き58万円課税所得が減ることになる。計算すると納税額は25万6500円となり所得税の節税効果は11万6000円となった。

課税所得×税率(20%)-控除額(42万7500円)=所得税額
(400万円-58万円=342万円)×20%-42万7500円=25万6500円

青色専従者なし-青色専従者あり=節税効果
37万2500円-25万6500円=11万6000円

 これに加え住民税も経費が96万円増え、配偶者控除が33万円減るので差し引き63万円課税所得が減り、その10%の6万3000円の節税となる。所得税と住民税で合計17万9000円の節税となった。もっと奥さんの給与を増やせば夫の納税額を減らすことができそうだが、奥さんの年収が103万円を超えると奥さん自身が所得税の納税対象となるので、徐々に増える奥さんの税金と徐々に減る夫の税金のバランスを取ることが必要となる。

専従者給与と専従者控除(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2075.htm

減価償却の特例

 前回、固定資産と減価償却のところで、10万円以上の器具、備品、車両などは固定資産という扱いになり、購入価格を耐用年数で割って数年に分けて経費とする(減価償却)ことを説明した。

 代表的な償却方法は定額法で、例えば18万円のカメラは5年(=60カ月)で分割するので、毎月3000円が経費となる。もうかった年の年末、手元の資金にゆとりがあり経費を増やして節税をしたいと考えた場合、18万円のカメラを買っても定額法では経費となるのは12月分の3000円だけとなってしまう。

 青色申告には減価償却の特例があり、10万円以上30万円未満の資産を「少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例(措置法28の2)」により、その年に全額経費とすることが可能だ。これを使えば年末ギリギリに18万円のカメラを買っても全額をその年の経費とすることができる。

 合計額の上限が300万円とされているが、個人事業主のレベルならおそらく上限まで達することはないだろう。この先5年間、課税所得(=税率)が一定なら定額法で償却してもトータルの節税額は同じだが、来年以降の業績が予想できない場合はもうかっているとき(=税率が高いとき)に経費とした方が得となる。

赤字の3年繰り越し

 最後は赤字の3年繰り越しだ。初期投資が必要な事業を始める人にこの特典は有効だ。例えば飲食店を開業する場合、店舗の改装や食器類、厨房設備などの購入で初期投資が必要となる。結果、1年目は1000万円の赤字になったがお店は軌道に乗り2年目は200万円、3年目は400万円、4年目は1000万円の黒字となったとしよう。

青色申告なら赤字を繰り越せる

 白色申告であれば1年目は赤字なので納税しなくてもよいが、黒字化した2年目以降は納税をすることになる。青色申告をしていれば、赤字の3年繰り越しが可能となる。図のように2年目は1年目の赤字の200万円分、3年目も1年目の400万円分を差し引くことが可能となり、納税の必要がなくなる。4年目は1000万円の黒字から1年目の赤字の400万円分を差し引いた600万円の黒字となり納税額を減らすことができる。

 初期投資だけでなく、ドンと赤字になり、ガンともうかるような事業をされている人は、赤字と黒字の相殺ができるので、青色申告をしているとトータルの納税額を抑えることができる。

 このように青色申告の特典を生かせば節税が可能だ。白色申告の記帳義務化で白色申告を選択するメリットはなくなった。これから起業する人は最初から、現在白色申告をされている方は一刻も早く青色申告の選択を検討していただきたい。

奥川浩彦@ アイピーアール