安定した進化を果たした
日本語入力システムの定番「ATOK 2010」


 日本語入力システムとしては最古参に属するATOKがバージョンアップを果たし、“ATOK 2010”としてリリースされた。MS-DOS時代から連綿とバージョンアップを重ねてきたソフトウェアであり、日本のソフトウェア開発史上でも確固たる地位を占めるものだと言える。

「ATOK 2010」バージョンアップのポイント

 今回のバージョンアップでは、当然に期待される要素として「Windows 7対応」が掲げられている。単にWindows 7上で動作確認が行われたという話にとどまらず、プログラムの動作やメモリ使用量の最適化を行い、プログラムフォーマットをUnicode形式に移行するなどの変更が加えられた。

Windows 7に対応した「ATOK 2010 for Windows」。価格は8400円。ネットブックなど光学ドライブのないPCでも利用しやすいよう、パッケージを購入した場合も、ダウンロードして導入できる「2WAYインストール」が採用された「ATOK 2010 for Windows [プレミアム]」価格は1万2600円。プレミアム版は、「会社四季報 企業名変換辞書 for ATOK」「ロングマン英英/英和辞典 for ATOK」など3辞典と、「8カ国語Web翻訳変換」「部分一致検索」機能を搭載する

 また、変換エンジンである「ATOKハイブリッドコア」の文脈処理にATOK Lab.の研究成果を取り入れることで同音異義語の変換精度を高めたという。また、一般的な文脈解析では、入力された未確定文字列を解析対象とするが、ATOK 2010では直前の確定済みの文章も踏まえた文脈解析を行なうように変更された。

 このため、こまめに確定していくやり方に慣れているユーザーであっても、変換精度の向上の恩恵を受けられるはずだ。Webで紹介されている例文を実際に入力して試してみたところ、一回目の変換で正しい候補が選択されていた。

 例文は3行の文章で、3行目のテキストは、かな表記ではまったく同一の文となっている。この例文の2行目までを入力して変換後、確定した状態で3行目を一気に全文入力してスペースキーを一回だけ叩いたところ、期待通りに正しく変換された。

 さらに、続けて2番目の例文を同様の手順で入力してから変換したところ、今度は直前の確定済みのテキストを踏まえて文脈を判断し、前回の変換とは異なる候補(講座 -> 口座)が出ている。いずれも変換操作は1回しか行っていない。従来の学習機能では、直前に選んだ変換候補である「講座」を優先すると思われるので、確かに成果が出ているようだ。

 もちろん、これはJustsystemのWebのATOK 2010の紹介ページに掲載されている例文そのままなので、任意の入力に対して常に適切な候補が最初に提示されるかどうかまではわからないのだが、確定済みのテキストも参照している、という点に関しては確かに従来と挙動が変わっているようだ。

Webでサンプルとして掲載されている例文をそのまま入力してみたところ。2行目までを入力して確定後、3行目を1文一気に入力してから変換してみると、紹介通りに行頭の「こうざ」は“講座”と変換された同じファイルに続けて2例目の例文を入力してみた。入力方法は最初の例文と同様、2行目までを確定した後、3行目を一気に入力/変換している。今度は行頭の「こうざ」を“口座”と変換している点に注目

 ユニークな改良点としては、英語綴りを入力してもカタカナに変換できるようになったという。ローマ字入力の場合に限定される話だが、“インターネット”と入力したい場合、ローマ字では“innta-netto”と入力することになる。とはいえ、英語になれたユーザーの場合、つい“internet”と入力してしまうこともあるだろう。

 ATOK 2010では、後者の“internet”という入力に対する変換候補として“インターネット”を提示するようになったという。カタカナ表記しそうな英単語をいくつか入力して試してみたところ、あまり網羅的ではないようで、たとえば“house”と入力しても“ハウス”とは変換されないのだが、“horse”と入力した場合は“ホース”と変換されるなど、少々癖があるようだ。アテにして使うのは少々難しそうだが、うっかり英語綴りをタイプしてしまった、という一種の誤入力対策としては役立ちそうだ。

ローマ字入力で“internet”と入力して変換してみると、「インターネット」と変換される。画面は、さらに続けてスペースキーを打ち、変換候補をリスト表示してみたところ。従来のATOKであれば、候補3の「いんてrねt」となってしまうところだ「インターネット」はJustsystemのWebで紹介されているサンプルなので、別の単語も試してみた。“ethernet”と入力してみたところ、表記の揺れをカバーしてか、「イーサネット」「イーサ」「イーサーネット」の3通りの変換候補が出てきた点には感心させられた

 このほか、ソフトウェアの機能ではないが、パッケージング面でも新たな利便性が加わっている。ATOK 2010では「2WAYインストール」がサポートされ、パッケージ購入ユーザーはインストールファイルをWebからダウンロードして導入できる。

 光学ドライブを搭載していないPCにATOKをインストールしたい場合には便利な機能だ。ネットブックなどの軽量端末が増えたことに対応した変更だろう。

変わらない使い勝手

 ATOK 2010での新機能や改良点は、日本語入力システムとしての性能/効率改善に関するものが多い。逆に言えば、インターフェイスなどの見た目や使い勝手に関しては特に大きな変化はないといってよいだろう。

 従来バージョンのユーザーにとっては移行の負担が最小限に抑えられる一方で、新鮮みが感じられないということも言えるかもしれない。画面に表示される「パレット」のデザインやアイコンの並び、各アイコンの機能などは安定しており、かなり前のバージョンから変化がみられない。

 バージョンアップのたびに何か目新しさを演出する、という発想からするとこの「変化のなさ」はマイナス面と見えるかもしれない。実際、ATOK 2010をインストールしても、普通に使っているだけだと何が変わったのか気づきにくく、その意味ではバージョンアップしたという実感を得にくいとは言えるかもしれない。

 とはいえ、キー入力というもっとも基本的なインターフェイスが安定しており不変であることはむしろ長所でもある。特に、ある程度まとまった分量のテキストを入力するユーザーにとっては、長年使い慣れたインターフェイスがそのままWindows 7のような最新の環境で利用できることは大きなメリットと感じられるはずだ。

起動直後の画面。デスクトップ右下に見慣れたATOKパレットが見えている。一見したところ何も変わっていないように見える点が好ましいATOKパレットからメニューを開いてみても、特に変わったところはないように見える

 筆者自身もMS-DOS時代からの古いATOKユーザーだが、MS-DOSの時代に多用したキーバインドが現在でもそのまま使える点など、「ATOKの変化のなさ」をプラスに評価している古いユーザーでもある。

 見た目や使い勝手は変わらなくても、変換効率といった一見してもわかりにくい面では着実に進化しているのもATOKの長所だろう。

 変換候補の選び方など、確かに以前より的確な候補を最初に提示してくれる可能性が高まっていると感じられる。特に、ある程度まとまった分量のテキストを入力して一気に変換した場合の変換効率はずいぶん向上したようだ。

 古くからのユーザーの場合、誤変換の修正の手間を嫌ってこまめに変換していくやり方がすっかり染みついているという人も少なくないだろうが、ATOK 2010では、そうした長年にわたって身についた入力/変換のスタイルを変えてみるのも悪くないかも、と思わせるだけの精度が感じられた。ATOKは、一見して何も変わらないように見えながら内実は確実に進化しているという、伝統の老舗のような存在感を身につけたようだ。

 日本語版WindowsにはMS-IMEが標準で添付されているし、現在では「Google日本語入力」などの無償で利用できる入力システムもある。MS-DOS時代には様々なソフトウェア企業が日本語入力システム(当時はFEP:Front End Processorと呼ばれていた)を開発し、商品として販売していたのだが、現在では商用製品として生き残っているのはほぼATOKのみといってよい状況だ。

 今時有償なんてあり得ない、という考え方もあるかもしれないが、使ってみれば「お金を払ってでも使う価値がある」ということは理解できるはずだと思う。

 Justsystemでは、国語研究者などとも連携して日本語研究の成果を反映するなど、「正しい日本語の入力を支援する」という軸を守り続けている点も高く評価できる点で、学校のような教育現場や官公庁など、間違った日本語を書いてしまうと大問題になりかねないようなユーザーからも絶大な信頼を得ている。

 最近では月額定額制でも利用できるなど、導入の敷居を下げる努力は払われているし、月額定額版に関しては無償評価版のダウンロード提供も行われているので、日本語を入力する必要のあるすべてのユーザーに、一度はATOKを試してみることをおすすめしたい。

ジャストシステムでは、「ATOKを試してご返還キャンペーン」を2月1日から開始。試用して応募すると、抽選でPlayStation 3などの商品が当たる。なお、試用版も、2月5日から「ATOK 2010」に切り替えられる

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(渡邉 利和)

2010/2/5 06:00