「ホロス2050未来会議」キャッチアップ便り

〈インターネット〉の次に来るもの――「第6章 ポストマネー、ポスト近代/SHARING」

デジタル社会主義に国家は出てこない

 2017年11月30日、第6回 ホロス2050未来会議「第6章 ポストマネー、ポスト近代/SHARING」が、御茶ノ水デジタルハリウッド大学駿河台キャンパスンにて開催された。

 ホロス2050未来会議は、ケヴィン・ケリーの著作『〈インターネット〉の次に来るもの』(服部桂・訳/NHK出版)の各章を手がかりにして過去5回開催されてきた。第6回はSHARING(シェアリング)をキーワードに、あらゆる物やサービスがシェアされていく、いわゆるシェアリング・エコノミーが一般化する未来について考察した。ゲスト2氏の講演を紹介する。

中山亮太郎氏。(株)マクアケ 代表取締役社長。2006年に(株)サイバーエージェント入社後、13年に(株)サイバーエージェント・クラウドファンディングの設立に伴い代表取締役社長に就任。「Makuake(マクアケ)」をリリースし、国内No.1クラウドファンデングサービスに育てる。日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞「この世界の片隅に」の資金調達をはじめ、数々の成功実績を誇る。本年10月、社名を株式会社マクアケに変更。本田圭佑や市川海老蔵の資本参加でも話題を集めた。慶応大卒。
城宝薫氏。(株)テーブルクロス代表取締役社長。1993年生まれ。14年、(株)テーブルクロスを設立し、代表取締役社長に就任。利用者が飲食店を予約すると、予約人数分の給食が途上国の子どもたちに届く社会貢献型グルメアプリ「テーブルクロス」を開発(15年3月正式リリース)。47都道府県を対象に加盟店を集め、支援先としてNPO法人ESAをはじめ10の団体と提携している。立教大経済学部卒。

アクセス数は急上昇、決済額は2倍へ

中山亮太郎氏「クラウド・ファンディングというと、単にお金を集める仕組みだと思われがちですが、最近は新製品や新サービスのテスト・マーケティング、PR・顧客獲得、実績作りなどにも活発に利用されています。ハードウェア、ファッション、食品、ネットサービス、生活雑貨、文房具、インテリア、ゲーム、映画制作、教育など多種多様な領域で活用され、サイトへのアクセス数は格段に伸びました。1プロジェクトあたりの平均決済額も、16年の104万円から、17年は200万円へと、2倍の成長です」

もはや資金調達だけのシステムではない

 さらにマクアケは、大企業同士のマッチング・サイトの機能も果たしている。

「個人や小グループだけでなく、大企業内ではすぐに実現できないプロジェクトを、マクアケにアップして賛同者を募る、そんな活用事例も増えています。外の企業がプロジェクトへの参加を申し出たりするわけです」

 マクアケは、アイデアの宝庫となり、企業横断型のビジネスにもチャンスを与え、プロジェクト実現のためのエコシステムを形成しつつある。

シェアリングについての考察

 シェアリング・エコノミーについて、中山氏は次のように語る。

「欧州ではNPO的な比較的小型のものが多く、北米ではAirbnb(エアビーアンドビー)やUber(ウーバー)など、大型のものが多いという印象です。シェアリング・エコノミーやクラウド・ファンディングという用語は、一種のバズ・ワードになっていて、まだかなり混沌としていますが、本質の理解が大切だと思います」

 中山氏は、以下のように整理してくれた。

  • 0次流通 製品・サービスが完成する前に売る ⇒ マクアケなど
  • 1次流通 製品・サービス(完成品)を売る ⇒ アマゾン、イオンなど
  • 2次流通 消費者が購入したあとに売る ⇒ メルカリ、ヤフオクなど

 マクアケなどのクラウド・ファンディングは、「eコマースの予約販売に近い」と中山氏は言う。すでに出来上がった製品を売るのがアマゾンやイオンのビジネスだとしたら、マクアケなどのクラウド・ファンディングは、まだ企画段階の製品やサービスを応援顧客に買ってもらう場なのだ。

給食、教育、貧困の連鎖からの脱出

城宝薫氏「テーブルクロスは、教育支援を行う10のNPO法人と協力し、ネット予約1件につき、途上国の子どもに学校給食を1食提供しています。“ぐるなび”や“食べログ”をイメージしていただくのが一番早いのですが、事業目的はあくまで社会貢献です」

 城宝氏は小学生のとき、家族旅行でインドネシアを訪れ、家事の手伝いやゴミ拾いなどの仕事に追われ、学校に行けない子どもたちを目の当たりにした。単なる寄付やボランティアでは、これらの問題を解決できないことを知ったという。

「予約1件につき180円を飲食店からいただき、そのうち30円で給食を1食提供できます。すでに8万食以上を提供しました」

 貧困地区の学校で給食が提供できるようになると、子どもたちがその給食を目当てに学校にやって来る。そこではじめて、字を教えたり計算を教えたりできる。教育がなければ貧困の連鎖からは抜け出せない。

利益を追求してこそチャリティ事業

「チャリティだからこの機能は使えません、などという言い訳は利用者に対してできない。あくまで既存サービスと競合し、劣らないものを目指しています。事業として成長させ、利益を出し続けなければ、給食提供を続けることができませんから」

 城宝氏のこのような決意を支えるのは、高校のときのアメリカでの経験だ。あるNPOの会議に参加してみると、彼らは徹頭徹尾、利益を追求する話をしていた。事業継続には必須のことだ。

大学在籍のまま、1億円の資金を集める

 大学在学中に起業するにあたって、日本政策金融公庫を拝み倒して500万円(学生起業への融資は初)、ベンチャーキャピタルから7000万円など、1億円の資金を集めたというから、そのバイタリティは瞠目に値する。

「日本ではチャリティ文化が根付いていないのですが、テーブルクロスの試みには手ごたえを感じています。クライアント側の飲食店にも達成感があります。私たちはチャリティ予約と呼んでいますが、日本独自の寄付文化を根付かせることが、私たちの目標です。レストランに限らず、ホテルやヘアサロンなど、開拓の余地はまだまだあります」

 企業やNPOが利益を出し、税金を納め、利益をプロジェクトに再投資してさらに支援を加速していく、それが宝城氏の追求する「チャリティ予約」の還元モデルだ。

システム開発は海外チームで行う

 飲食店の予約受注業務を支援するため、電話予約をテキストに自動変換するシステムを自前で開発(結婚記念日、窓側席など)した。

「中国や東南アジアのエンジニアたちが開発を担ってくれています。これらの情報が集積されると、たとえばある地域について、飲食店の傾向が定量的に把握できるようになります。何月・何日・何時ごろにどんな予約が多いのか、客の回転率・エリア家賃・メニュー・経営の関係がどうなっているのか、なども見えてくるのです」

 それにしても、音声を自動的にテキスト化するシステム開発には、かなりの費用がかかったはずだ。このあたりの大胆な先行投資の決断も、城宝氏の突出した熱意と、ビッグ・データ時代を見据えた鋭い感覚のなせるワザだ。


 会場ではこのあと、ホロス2050未来会議の発起人でもある、デジタルハリウッド大学の橋本大也教授を交え、ゲストの2氏とともにパネル・ディスカッションが行われた。

次回の「ホロス2050未来会議」開催予定

第7回 ホロス2050未来会議「第7章 情報過多時代の人生論/FILTERING」
最も重要になるのはフィルタリングやパーソナライズの新しい方法である

  • 日時:2017年12月14日(木)19:00~
  • 会場:御茶ノ水デジタルハリウッド大学駿河台キャンパス3F
  • ゲスト:
    藤村厚夫氏
    アスキー(当時)で『netPC』『アスキーNT』の編集長を歴任し、現在はスマートニュース株式会社執行役員としてメディア事業開発を担当している。
    竹下隆一郎氏
    朝日新聞社でR&Dや新規事業開発に携り、現在は『ハフィントンポスト日本版』の編集長を務める。

詳細は公式サイトを参照。チケット購入はhttps://holos2050-1707.peatix.com/view