監視カメラの今

NASで本格監視カメラを手軽に導入! Synology「Surveillance Station」 位置情報に応じた録画体制の切り替えやPOS連携も

 日本ではNASベンダーとして知られるSynologyは、海外では監視カメラソリューションでも高く評価されている企業だ。NASならではのデータの堅牢性と高い拡張性によって、ただ映像を撮るだけではなく、さまざまな活用や連携ができるのが強みとなっている。

 本稿では、Synologyに海外におけるNASを用いた監視カメラ導入の状況や、「Surveillance Station」最新版の機能を伺うとともに、実際にSurveillance StationをインストールしたNASにネットワークカメラの映像を録画。さらにスマートフォンで外出先から確認してみた。

Synology NASとIPカメラを組み合わせる監視カメラアプリ「Surveillance Station」

ホームサーベイランスの意識を日本でも

 日本では、店舗や倉庫など、主に法人向けとして販売されることが多い監視カメラソリューション。そんな監視カメラを個人でも手軽に使えるようにしようという動きが活発化している。

 中でも注目を集めているのが、NASベンダーとして知られるSynologyだ。

 同社が2016年にリリースした2ベイの高コストパフォーマンスNAS「DS216j」は、日本で記録的なヒット商品となったが、この例に見られるように、同社は法人向けのソリューションを個人向けに再創造するのが非常に得意なベンダーだ。

 現状は、同じく法人向けと思われがちな監視カメラソリューションも、同社の手によってホームユースに適した日常的な存在として、その価値が再認識されることになっていきそうだ。

 しかしながら、日本では、現時点ではまだ監視カメラを自宅に設置するという使い方は一般的とは言えない。普及が進む海外では、どのような使われ方をしているのだろうか?

 台湾Synology本社でセールスマネージャーを務める田野久敏氏は、この点について次のように語った。「米国では、“ホームサーベイランス”という考え方が一般的に浸透しています。住宅が広く、防犯意識が高いことが主な要因となっていますが、自宅内だけでなく、庭やガレージ、プールなどを監視する目的で設置する人が多い状況です」。

台湾Synology本社の田野久敏氏、今回はSkypeでインタビューを行った

 防犯意識や自己防衛に対する考え方がしっかりしている米国らしい状況だが、その規模も大きく、4~5台のカメラを設置する家庭も多いということだ。

 では、なぜ、こうした家庭での監視カメラ利用にNASが活用されているのだろうか?

 まず考えられるのはコストだ。日本のイメージでは、専用の監視カメラソリューションは機器の費用も設置工事も「(非常に)高く付く」のが一般的だが、米国では必ずしもそうではないようだ。ただし田野氏によると、「最近では従来型のDVRソリューションも低価格なものが登場してきているので、純粋なコストメリットだけでSynologyのNASが選ばれているわけではありません」という。

 「むしろ、NASならではのメリットで選ぶ人が増えています」と田野氏は続ける。「NASは、録画データのように、大きく連続的なデータの保管先として優れています。複数ドライブによる冗長性も確保できる上、ローカルやクラウドなどバックアップ方法も多彩です。容量が足りなくなったときに手軽に拡張できるメリットもあります。こうした従来の専用DVRソリューションにはない柔軟性を重視して選ぶ人が多い状況です」。

 また、すでに導入済みのNASを活用しようという人も多いという。「個人もそうですが、法人では、監視カメラの導入を検討する担当者が、Synology製品のユーザーであるケースが多くあります。設定や管理に慣れている上、ブランドとして馴染みがあることが導入のきっかけになっていることもあるようです(田野氏)」とのことだ。

 冒頭でも触れたが、DS216jのヒットのおかげで、日本でもSynologyユーザーの数は増えており、ブランドの認知度も高くなっている。導入済みのNASを監視にも使えるとなれば、やってみようと思う人も、今後は増えてくるのではないだろうか。

国内では法人向けでSynology NAS活用監視カメラの導入事例も

 肝心の日本での状況はどうなのだろうか? 田野氏によると、すでに大手携帯販売ショップでSynology NASを活用した監視カメラソリューションが導入されている事例があるという。

 「比較的大規模な事例となりますが、150台規模のカメラを各地に存在する店舗に設置し、本部からネットワーク経由で映像を監視できるようにしている例があります。ここまで規模が大きくなると、ラックマウントタイプのRS3617xs+などを使うことになります(田野氏)」とのことだ。

 この事例のようにVPN経由での録画となると、ネットワークの帯域が問題になりそうだが、最近ではクラウド録画の監視カメラソリューションも増えてきているし、NASでも同様の形態で利用することに、なんら無理はないそうだ。

 むしろ、法人での利用の場合、プライバシーの問題から、保存した動画をしっかりと管理する必要がある。クラウドの場合、アップロードされた動画の視聴権限を間違えると、広い範囲に情報が漏えいする可能性があるが、ローカルで完結していればそうした心配はない。こうしたプライバシーに関わる情報を、閉じたローカルで完結させるという考え方は、法人だけでなく、家庭での利用を考えても重要なポイントになりそうだ。

 しかも、SynologyのNASで利用できる監視カメラソリューションの最新版「Surveillance Station 8.1」では、遠隔録画アーカイブの機能が利用可能となっており、本社側のNASに録画するイベントタイプや時間をカスタマイズしたり、本社のストレージにアーカイブする際の時間設定や帯域幅を適切にコントロール可能になっている。各支店の監視ソリューションとしては、こうした点も魅力だろう。

 Surveillance Station 8.1には、このほかにも注目の新機能が搭載されている。田野氏が紹介してくれたのはPOSとの連携だ。

 「レジなどの上にカメラを設置して、POSでトラブルが発生したり、不審な操作があったときに自動的に録画を開始することができます。また、POSの集計情報と録画データをマッチングさせることなどもできるので、レジの効率が良い従業員の動きを分析したり、売り上げの増減を客層などと組み合わせて判断することもできます(田野氏)」という。

 セキュリティ対策してだけでなく、経営指標として映像を活用できるようになるのは大きなメリットだ。場合によっては、個人経営の商店や飲食店などでも活用できるだろう。

SynologyのNASに導入可能な監視カメラソリューション「Surveillance Station」。最新の8.1は、POS連携など高度な機能を搭載している

ジオフェンスで録画設定を切り替えられる「ホームモード」

 さらに、家庭向けの機能も進化した。

 田野氏によると、「Surveilance Station 8.1には、『ホームモード』という機能が搭載されています。これは、スマートフォンのGPS情報を利用して位置を判定して、不在時と在宅時にカメラの設定を自動的に切り替えるジオフェンスの機能です。例えば、在宅時はカメラの録画を止めて消費するディスク容量を節約することなどができます」とのことだ。

 実際に設定してみると、これがなかなか賢い。スマートフォンに導入したアプリ(DS cam)でホームモードを有効化し、判断基準として利用する場所(自宅の場所)を設定する。すると、スマートフォンがこの範囲内(最小100m以内)にあるときに、録画設定や通知設定、ストリームプロファイル(録画形式など)、アクション規則(動作検知時の警告音など)を在宅時に適した設定に切り替えることができる。

 これで、万が一、自分が在宅時にカメラの前を横切っても、無駄に録画が開始されることもないし、警告音などで驚かされる心配もないわけだ。

 「セキュリティは心配だが、自分も常に録画対象となるのは、ちょっと……」と感じている人も少なくないことと思われるが、これを活用すれば、プライバシーを気にすることなく監視カメラを導入できる。

 こうした高度な処理は、現状、DVRやクラウド型カメラでは利用できないだけに、NASを使った監視カメラソリューションの大きなメリットと言えそうだ。

ホームモードに切り替わった様子(地図の縮尺は変更済み)

最新NAS「DS218+」で監視カメラを使ってみる

 それでは、監視カメラを実際に使ってみよう。

 今回、使用したのは、2ベイNASの新モデル「DiskStation DS218+」だ。コンパクトなサイズながら、AES-NIハードウェア暗号化エンジン、4K Ultra HDビデオのハードウェアトランスコードに対応。Intel CPU(Celeronデュアルコア)を搭載した高性能モデルで、実売価格は4万1254円(11月13日時点のAmazon.co.jp販売価格)。

 監視カメラ用途に利用する場合、NAS本来の処理と併用することになるので、若干、高性能なモデルを選んでおく方が、後々、運用を開始してからでも安心だ。

 なお、Surveillance Stationは、制御可能なカメラの台数に応じたライセンスが必要なサービスとなっているが、無料で利用できるライセンスが付属している。今回のDS218+では、2台までのカメラを無料で管理することができる。

2ベイの新型モデルとなるDS218+の正面と背面
側面
フロントカバーを外すとディスクを装着可能

 一方、カメラの選択は難しいところだが、今回はSurveillance Station IPカメラのサポート一覧に掲載されているアクシスコミュニケーションの「AXIS M3044-V」を利用した。

 ドーム型のカメラで、PoE給電となっているため、どちらかというとオフィスでの利用に適した製品だが、Amazon.co.jpでの販売価格が2万5782円(2017年11月13日調べ)とリーズナブルな製品だ。

 無線LANでの利用を検討している場合は、別の製品を選択することもできるが、Surveillance Stationで利用する場合、上記サポート一覧に記載されているカメラを第1候補として考えることを強くお勧めする。

Surveillance Stationで正式対応しているAXISのドーム型IPカメラ「M3044-V」
PoEに対応するため、カバーを外してPoE対応のスイッチにLANケーブル1本で接続する

 Surveillance Stationでは、ONVIF(Open Network Video Interface Forum)規格に対応したカメラも利用可能だが、低価格で販売されているカメラは、決して完成度が高いと言えないものも多い。セキュリティ用途での利用や、長期的な利用に適さないものも多く、ONVIF対応を謳いながら正常に認識されない場合もある。カメラ本体に関してはコストを惜しまない方が無難だ。

 なお、カメラによってはスピーカーを搭載している機種もある。こうした機種の場合、スマートフォン用アプリ「DS cam」を利用し、遠隔からカメラ経由で音声を出力することも可能だ。用途によって、こうしたカメラ側の機能にもこだわってみるといいだろう。

 実際の使い方は、以下の通りだ。

1)Surveillance Stationのインストール

 パッケージセンターを利用してSurveillance Stationをインストールする。

「推奨」または「すべて」の一覧から見つけるか、検索機能で「Surveillance」や「カメラ」で検索するとインストール可能

2)カメラの登録

 監視カメラを設置後、Surveillance Stationを起動してカメラを登録する。対応カメラであれば、ここで機種を選択するだけでビデオ形式などを設定できる。ONVIFの場合は、「メーカー」で「ONVIF」、カメラモデルで「Generic_ONVIF」を選べば接続可能だ。このほか、RSTP対応カメラを手動で設定することもできる。

Surveillance Stationを起動後、[IP カメラ]を選択し、カメラウィザードを利用してカメラを追加する。対応機種なら検索を行えば、自動的に同一ネットワーク内のカメラを検出できる
自動検出されたカメラなら設定項目が自動的に入力される。ONVIFの場合は手動設定が必要

3)録画設定

 画像サイズや品質なども設定可能だが、ポイントとなるのはスケジュール設定だ。標準では24時間365日、常に連続録画する設定になっている。そのままでも構わないが、NASの容量を圧迫するので、家庭で利用する場合は「動作検出」したときだけ録画する設定にしておくといいだろう。

「IP カメラ」からカメラを選択し、「編集」をクリック。「録画設定」の「スケジュール」で「動作検出」に設定しておく

4)Surveillance Stationの操作

 Surveillance Stationでは、直感的な操作ができるので、特に説明がなくても利用可能だ。「ライブビュー」を開けばカメラの映像をチェックすることができる上、「タイムライン」で録画された映像を確認することもできる。高度な機能は、左上のメニューボタンから設定可能だ。前述したホームモードなどもここから設定できる

ライブビューで今の映像を確認
タイムラインで録画された動画を確認できる
ホームモードはメインメニューから設定する

5)スマートフォンから利用する

 スマートフォンからカメラ映像を確認したいときは、「DS cam」アプリをインストールする。あらかじめNAS側で「QuickConnect」の設定をしておけば、外出先からもNASにアクセスして画像を確認することができる。

スマートフォン用のアプリ「DS cam」を使えば、外出先から映像を確認可能

PCレスでの監視が可能、小売店やスモールオフィスに特化した「NVR1218」

 このように簡単にセットアップできるため、個人でも手軽に利用可能だが、もっと高度な使い方をしたい場合は、法人向けの「Network Video Recorder NVR1218」の利用を検討するといいだろう。

正面
背面
側面

 最大12チャンネル対応で、標準で4台分のカメラライセンスが付属する製品となっているが、最大の特徴は何と言っても監視用のインターフェースが充実している点にある。

 本体背面にHDMIやUSBのポートを搭載しており、ディスプレイとキーボード・マウスを接続すれば、PCを使わず、本体のみで監視センターとして利用できるため、マンションの管理室、本部から支店の監視など、監視専門の機器として手軽に利用できる。eSATAポートには、5ベイ拡張ユニット「DX517」を接続に対応し、最大で7ベイまでストレージを拡張可能だ。

 また、同じく、背面にCOMポートを搭載しており、POSシステムと接続することで売り上げデータなどを取り込み、録画データと時系列に連携させて管理することもできる。法人用途であれば、迷わずこちらを選びたいところだ。

背面にHDMI出力とCOMポートを搭載しているのが最大の特徴。PCレスで監視したり、POS連携機能を利用できる

NASでカメラを活用しよう

 以上、SynologyのNASを使った監視ソリューションについて、同社へのインタビューと実際の使用方法を交えながら紹介した。

 手軽さで言えば、現状はクラウドサービスを利用したカメラが有利だと思われがちだが、SynologyのNASも決して手間は掛からない。すでにSynologyのNASを利用している場合、外出先からアクセス可能に設定されているケースが多い。むしろSurveillance Stationの設定だけで済むため簡単だ。スマートフォン用アプリ「DS cam」も使いやすい。

 それでいてカメラの動作を細かく設定したり、ホームモードなどの凝った機能を利用できる。クラウドカメラと異なり、録画の容量もさほど気にせずに済む。

 法人用でも非常に便利な製品だが、個人で監視カメラを導入する場合にも、十分に候補として検討したいところだ。

(協力:Synology)