監視カメラの今

NAS用・監視カメラ用HDDの違いに迫る! RVセンサーやIHMで最適化されたSeagate「IronWolf」シリーズ

新シリーズ「SkyHawk AI」は用途に応じて読み書き比率を5:5~1:9に変化

 ネットワークカメラが監視システムのフロントエンドの要だとすれば、バックエンドの要となるのが、撮影した映像を記録するためのHDDだ。最近のHDDは、監視カメラ用やNAS用などの用途によってブランド分けされているが、実際に何が違うのだろうか? 日本シーゲイト株式会社に疑問をぶつけてみた。

2016年からHDDを用途別にブランディング

 「普通のデスクトップ用HDDと、大した違いはないんじゃないのか?」

 昨今、用途別のブランディングが進むHDDに、そんなイメージを持っている人も少なくないのではないだろうか?

 実際、専用の監視システムやNASのHDDとして、デスクトップPC向けのHDDが利用されているケースも少なくない。そして、ほとんどの場合、それでも“大きな”問題は発生しない。

 しかしながら、より高度な処理が要求されるシーンや、より高い信頼性が要求される現場では、やはり、その用途に最適化されたHDDを使うメリットは大きい。また、“大きな”問題は発生していなくても、実は細かな課題が潜んでいる可能性も高い。

 日本シーゲイト株式会社の藤井仁志氏(営業本部第2営業部部長代理)と佐藤之彦氏(技術本部技術部主席技師)に話を聞くと、その理由が明確に理解できる。

 まず、同社HDDのブランディングを整理しておこう。同社のHDDは、2016年7月にGUARDIANシリーズとしてリブランドが実施され、以下のシリーズに大別されるようになった。

ブランド用途
BarraCuda多用途で高速なPC向け
FireCudaゲーミング向けハイブリッドHDD
IronWolf耐久性や対応性に優れたNAS向け
SkyHawk映像の録画に特化した監視システム向け
デスクトップ向けの「Barracuda」、ゲーミング向けの「Firecuda」、NAS向けの「Ironwolf」、監視カメラ向けの「Skyhawk」の各シリーズをラインアップ

 それぞれ動物がモチーフになっているだけでなく、分かりやすく色分けして分類されている。中でも、一般にあまり耳慣れないのは「SkyHawk」シリーズだろう。

 SkyHawkについて、藤井氏は次のように説明する。「監視ソリューション向けに最適化されたHDDです。常時録画に耐える性能や信頼性を備えており、最大64台のHDD映像の録画に対応できます」。

 最近では、セキュリティ意識の高まりに加え、AIによる映像解析技術の発展により、監視カメラソリューションへの注目が高まっているが、その市場に向けた製品ということになる。

日本シーゲイト株式会社営業本部第2営業部部長代理の藤井仁志氏

監視カメラ用「SkyHawk」は90%を書き込みに、短時間での立ち上げにも対応

 では、具体的にどのような部分が監視カメラ向けに最適化されているのだろうか?

 この疑問には佐藤氏が分かりやすく答えてくれた。「普段はあまり意識することはありませんが、HDDの動作を細かく見ると、データの書き込みに対して、DRAMやキャッシュなどのリソースを確保して、ARMプロセッサ(いわゆるコントローラ)で制御してヘッドなどの機械部分を動かし、データを読み書きするという動作をしています。これを制御するには、実際のユースケースを考えながら、メモリなどのリソースをあらかじめ確保しなければなりません。それをファームウェアでコントロールしています」。

 同社のHDDは、さまざまな用途に活用されているが、例えばデスクトップPCでの利用や監視カメラなどでの利用では、ユーザーのニーズは異なる。長年蓄積したこうしたニーズをファームウェアに落とし込むことで、HDD内部の動作を細かく変えているわけだ。

 より具体的には、「例えば、監視カメラ用ということでは、防犯目的での利用を想定したチューニングが行われています。犯罪や事故というのは、いつ発生するか分かりません。そして、監視カメラには、こうした突発的な事象も逃さず録画することが求められます。このためSkyHawkでは、普段は1500回転くらいに回転数を落として待機しつつ、とっさのときに0.5~1秒ほどの短時間で一気に立ち上げ、データを逃さず記録できるような作りになっています(佐藤氏)」という。

 また、読み書きの割合も、ほかのHDDとは違うという。藤井氏によると「NAS向けのIronWolfでは、読み込みと書き込みの比率が50%ずつに割り当てられていますが、SkyHawkの割り当ては、書き込みが90%、読み込みが10%となっています」とのことだ。

日本シーゲイト株式会社技術本部技術部主席技師の佐藤之彦氏

 監視カメラの用途を考えると、基本はカメラの映像を24時間365日、録画し続けるというのが主な使い方になる。こうした点を考慮して、ファームウェアによって内部リソースの確保や動作が最適化されているわけだ。

新製品「SkyHawk AI」ならAI処理時に90%から50%に可変

 また、藤井氏によると、SkyHawkシリーズに、ビデオアナリティクスや認証システム向けに最適化された新製品「SkyHawk AI」が追加されたという。

 映像解析などは、クラウドなど別のシステムで実施することも考えられるが、最近の監視システムでは、フロントエンドで録画も映像解析も同時に実行してしまうことがトレンドとなっているとのことだ。これをHDDの動作に置き換えれば、「従来の監視カメラソリューションでは、録画によるシーケンシャルライトが主な動作でしたが、AIなどを使った映像解析では、このようなシーケンシャルライトを継続しつつ、さらに分析用の処理によるランダムアクセスが発生します(藤井氏)」ということになる。例えば、出入口などを通過する人物の特定や、イベント会場で映像認識によって顔認証を行う自動入館処理などへの応用が期待されている。

 2017年10月に発表されたSkyHawk AIは、まさにこうしたニーズに応える製品というわけだ。その技術面の特徴を藤井氏は、「SkyHawk AIでは、書き込み90%読み込み10%の基本から、こうした分析処理を実行する際に、読み書き50%ずつまで可変となるよう、ファームウェアのチューニングを実施しています。これにより、最大64台の映像を中断なく録画しつつ、さらに16本程度の処理を同時に実行しても、問題なく動作するように設計しています」と語った。

「SkyHawk」は容量10/8/6/4/3/2/1TBをラインアップ。作業負荷率は年間180TB、保証期間は3年
「SkyHawk AI」は容量10/8TBをラインアップ。年間550TBの作業負荷率と5年保証が特徴だ

 なお、SkyHawk AIは、このような内部的なチューニングの違いに加えて、保障面での違いもある。藤井氏によると、「SkyHawk AIは作業負荷率が年間550TB(SkyHawkは年間180TB)に設定されています。また、保証期間が5年(SkyHawkは3年)と長く、SkyHawkではオプションの「Rescueサービス」も標準添付されます」という。

 「Rescueサービスは、故障などによって修理を依頼した場合、2年間に限り、復元可能な場合であればデータを復元してメディアで戻してくれるサービスです(藤井氏)」とのことだ。これが無料で利用できるメリットも大きいだろう。

RVセンサーやIHMでNASに最適化されたIronWolf

 一方、NAS向けのIronWolfはどうだろうか? BarraCudaとは異なり、24時間365日稼働を前提に設計されているのはSkyHawk同様だが、佐藤氏によると、「特徴的なのは、RVセンサーが搭載されていることです。RAIDで複数台のHDDを搭載するNASでは、振動や衝撃などで補正が効かずに、瞬間的なエラーが発生し、映像であればブロックノイズ、データであればエラー訂正による速度低下などにつながります。RVセンサーでは、こうした振動を検知し、影響が出ないように補正できます」という。

 確かに、NASによっては筐体の剛性があまり高くない場合があり、振動や動作音が気になることがある。こうした表面的な問題だけでなく、HDDの振動は性能(スループットの維持)に大きく影響するもので、結果的にシステムのパフォーマンスを落とす可能性がある。それをRVセンサーで防げるのは大きなメリットだ。なお、読み書きの比率は前述したとおり、50%ずつに割り当てるようファームウェアがチューニングされているとのことだ。

RVセンサーにより、複数HDD間の共振を補正し、リード/ライトのエラーを防ぐ

 BarraCudaとの違いとしては、RAID構成で利用されることが多いため、一過性の障害が発生した際に、BarraCudaであればリトライを繰り返してデータを読み出すよう試みるのに対し、「深追いをせず、あるところでRAIDのパリティにバトンを渡すよう最適化されている」(佐藤氏)という。

NASなどからHDDの詳細な状況を確認できる「IHM」

 また、佐藤氏は“IHM(IronWolf Health Management)”の搭載もIronWolfの特徴に挙げた。「HDDには、内部の動作制御や解析用に数百ものパラメータ情報を保持しています。この一部を利用者に開放することで、HDDの状況を詳細に確認できるのがIHMです。SynologyのNASなど、IHMをサポートした機器に装着することで、HDDの状態を確認できます」という。

 HDDの状態確認であれば、S.M.A.R.T.(Self-Monitoring Analysis and Reporting Technology)が一般的だが、これとは何が違うのだろうか?

 「S.M.A.R.Tは、言わば輪切りの情報で、扱える情報も20程度と多くありません。今、HDDがどのような状態なのかを判断することはできますが、今までの経緯を確認したり、これからを予想するには十分ではありません。これに対してIHMは、いわばプロアクティブ(前向き)な分析ができ、さまざまな情報から万一の障害の可能性を予測して、アラートを表示することができます(佐藤氏)」とのことだ。

 言わば、故障する前に対策ができる機能となる。NASの場合、RAIDによってデータが保護される上、万が一の故障時でも交換が容易だが、それでもリビルド中にさらに別のHDDにエラーが発生してデータが失われる場合なども考えられる。こうした不幸が発生する前に、適切なタイミングでHDDを交換することができることになる。

SynologyのNASでは、IronWolfのIHMを活用して、HDDの正常性をチェック可能。致命的なエラーになる前にHDD交換を検討できる
意図的にエラーを発生させた場合のサンプル画面(いずれもSynology NAS搭載時のDSM 6.1の画面)

 IHMと同様の機能は、前述したSkyHawkシリーズ(SHM)でも利用可能で、今後、対応する監視システムが登場すれば利用可能になる予定だ。

 このほか、IronWolfシリーズにも、前述したSkyHawk AIと同様、5年の保証とRescueサービス(2年)が標準で付属する「IronWolf Pro」も存在する。エンタープライズ環境のNASなど、高い信頼性が必要な環境ではIronWolf Proを選ぶといいだろう。

「IronWolf」は容量12/10/8/6/4/3/2/1TBをラインアップ。作業負荷率は年間180TB、保証期間は3年
「IronWolf Pro」は容量12/10/8/6/4/3/2TBをラインアップ。年間300TBの作業負荷率と5年の保証に加え、Rescueサービスが付属

単なるマーケティングメッセージではない

 以上、SeagateのSkyHawkシリーズとIronWolfシリーズについて見てきたが、HDDにおける用途ごとのブランディングが、単なるマーケティング的なメッセージではないことが理解できたのではないかと思う。

 もしかすると、いわゆる選別品程度に考えていた人もいるかもしれないが、用途に適したチューニングが施されていることで、それぞれの用途で最適なパフォーマンスと信頼性を発揮できるようになっている。

 数台規模の監視システムや家庭用のNASでは、ついついリーズナブルなデスクトップ用のHDDを選んでしまいがちだが、それでは監視システムやNASの性能と信頼性を100%発揮できないことになる。こうした点を考慮して、これからは、きちんと用途別のHDDを選ぶようにしたいところだ。

(協力:日本シーゲイト)