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バッファローが「無料」にこだわった理由とは? 日本の中小企業の声を聞いてたどり着いた法人向け管理システムの最適解

法人向けNAS「TeraStation」がさらに進化、無料でリモートで設定できるように

 バッファローの無料リモート管理サービス「キキNavi」に、同社製NAS「TeraStation」向けのリモート設定機能が追加された。

 あくまで無料にこだわったこのサービスは、同社が目指す日本の中小企業の悩みに寄り添うという姿勢から登場したもの。IT担当者やSIerが遠隔地からでもNASを簡単に設定できるのが特徴となる。

 変化しつつあるNASのトレンドを追いながら、バッファローが目指してきた「日本の中小企業のためのNAS」とは何なのかを同社に聞いた。

バッファローが目指す日本の中小企業のためのNASとは?

ストレージとしての原点回帰へ

 NASのトレンドが変わりつつある。

 NASといえば、20年ほど前にファイルサーバーの置き換えとして登場し、この10年ほどで参入してきた海外勢によって「多機能」な汎用サーバーへと変化してきた、というのが時流だが、ここにきてストレージとしての本質を見直そうというトレンドに変わりつつある。

 「面白い機能」と「必要な機能」がふるいにかけられ、必ずしも多機能であることがNASの価値ではなくなり、さらにクラウドストレージとの使い分けが進むことで、組織にとって重要なデータをどのようにローカルで管理すべきかが問い直されている。

 こうした変化の中、当初から一貫して「データの安全な保管」というNASの本質をブレずに追及し続けてきたのがバッファローだ。

 20年前となる2004年に、「1TBで10万円」という画期的な初代TeraStation(HD-HTGL/R5シリーズ)を発売したNAS市場のパイオニアとも言える存在だが、同社が取り組んできたのは、他社を真似ることではなく、「データの安全な保管」というコアの部分を徹底的に磨き上げることであり、中小企業の課題、それも日本の企業ならではの課題を一緒に解決するパートナーとして寄り添うことであった。

初代TeraStationの発売から20年、「データの安全な保管」を追及し続けてきたバッファロー

 NASのトレンドは時代によって紆余曲折してきたが、ユーザーニーズが一周回って「データの安全な保管」という原点に回帰してきたことで、バッファローが長年追及してきた価値と市場の求める価値の歯車がかみ合ったことになる。

 この20年、バッファローはNASの何を変えずに、何を変えてきたのか? 同社がNASにかけてきた想いに迫る。

日本の中小企業の現場の声をもとに開発

 「ユーザー管理やバックアップ設定の変更など、NASの管理は現地対応が多く、移動に時間がとられたり、作業時間が限られたりと負担が大きくなっていることが、浮き彫りになってきました」。

 そう語ったのは、株式会社バッファロー 法人マーケティング部長の富山 強氏だ。

株式会社バッファロー 法人マーケティング部長 富山 強氏

 本誌に掲載された過去のインタビュー記事でも紹介しているが、同社は、実際の現場の声をとても重要視するメーカーだ。

 国内の中小企業を中心にアンケートを実施することで、市場の実態の把握に取り組んでいるほか、製品開発や改善に際して、サポート窓口へ日々寄せられる問い合わせに向き合ったり、実際に全国の現場を周ってヒアリングを実施したりしており、どのようなITの課題が存在し、何が求められているのかを肌身を持って感じとっている。

 中小企業のIT環境における人材不足というのはよく聞くワードだが、単に「人材不足」というだけでは、実際の現場で具体的に何に困っていて、それをどう改善したいのか、という点までは見えてこない。それをバッファローは、現場に足を運ぶことで、実際に見て、聞いて、意見をぶつけ合って、製品やサービスに落とし込んでいる。

SIerの業務負担に関する実態調査

 これは、一見遠回りのようにも見える。というのも、冒頭でも紹介したように、直近10年ほどのNASのトレンドは、一時期、海外メーカー主導に切り替わる時期があった。

 話を聞いてみると、どうやら、バッファロー内部でも、営業やマーケティング、開発部門で、意見をぶつけ合いながら、海外勢のような「多機能化」への流れに合わせるべきかという議論が展開されていたようだが、最終的に、本当に現場が求めているもの提供するという方向に落ち着いた経緯もあったという。

 一周回ってストレージとしての本質に回帰した現代において、同社のNASチームが愚直に追及してきた現場主義が、結果的に正しい道だったと証明されたことになる。

バッファローが挑んだNASのリモート管理の課題

 では、今回、同社が提供を開始した「キキNavi」における「TeraStation」リモート設定機能は、現場のどのような課題を解決する機能なのだろうか?

 まず、前提として「キキNavi」は、バッファローのネットワーク機器を管理する無料のクラウドサービスとなる。スイッチやアクセスポイント、NASなど、法人向けの機器を一括して管理することが可能となっている。

 具体的には、クラウド上で機器の稼働状況などを把握したり、管理者や販売店で開梱せずにアクセスポイントの遠隔設定ができるゼロタッチができたり、NASのデータをクラウドにバックアップしたり(バックアップのみ有料)できる。

ネットワーク機器の監視・管理を無料で提供する「キキNavi」

 このキキNaviに新たに追加されたのが、同社製NAS「TeraStation」のリモート設定機能となる。

キキNaviの画面のひとつ。NASやアクセスポイント、スイッチなどを一元管理できる
管理している機器ごとに詳細情報やログを確認できる

 なぜNASのリモート設定機能を搭載したのか? その理由を富山氏はこう語った。

 「NASの管理では、ユーザーの追加やバックアップ設定の変更などで、月に2~3度、現地対応が必要になるという調査結果を得ました。その半面、一般的なNASで提供されている既存のリモート管理機能では、設定が難しかったり、コストがかかるケースがあったりして、中小の現場では扱いづらいものとなっていました。そこで、無料で、しかも使いやすいNASのリモート設定サービスを提供することにしました」。

 ITの世界では、現場が求めるものと市場が提供している機能の差が大きいことは珍しくないが、そのギャップを解消したことになる。

 また、同社法人マーケティング部次長の山田 磨氏によると、「キキNaviは日本の商習慣に合わせた管理ができるように工夫しています」という。

 具体的には、「組織単位での管理にも対応しています。例えば、拠点や部門などで別々の管理者が自分の担当する機器のみを参照したり、地域の販売店やSIerがキキNavi上で複数の顧客のNASを管理したりできます」ということだ。

株式会社バッファロー 法人マーケティング部 次長 山田 磨氏
組織単位での管理が可能。社内のみならず、外部の保守管理会社と厳密に権限を分けつつ、一緒にTeraStationを管理できる

 こうした販売店やSIerの視点で見ると、キキNaviのリモート設定によって、現場への移動の時間やコストを節約できるメリットは大きい。

 富山氏によると、「現場でのタイムリーな対応が可能になりますが、時間の制約に縛られずに済むという点でもメリットが大きいです。例えば、休日や昼休みなど、クライアントの業務時間外での作業を要望されることもありますが、リモート設定なら作業時間も合わせやすくなります」という。

TeraStationのリモート設定により、移動の負担を軽減。単に移動時間がなくなるだけでなく、作業時間に柔軟性を持たせられるメリットも大きい

 バッファローの発想は、実際に機器を利用する顧客はもちろんのこと、同社の製品を取り扱う販売店やSIerのメリットも常に考慮されている点が興味深い。

 今回の取材で出てきた面白い話がある。それが「商品は世界基準で、商売はしょうゆ味で」というもの。つまり、商品は世界基準に則したものにしながら、日本のユーザーに合わせてローカライズしたしょうゆ味の開発をするというもの。だからこそ、コンシューマー市場だけでなく、法人向け市場でも着実に実績を上げられているのだろう。

 実際、直近のキキNaviの登録法人数は1万社を超え、管理台数も9万2000台を突破しているという。もはや、バッファローは、法人向け市場でも高い存在感を示すメーカーになりつつある。

登録法人が1万社、管理台数が9万2000台を突破(2024年6月時点、バッファロー調べ)

使いやすさを技術でサポート

 このような経緯で誕生したキキNaviにおけるTeraStationのリモート設定機能だが、その実装には苦労もあったという。

 同社NAS開発部 第一開発課長の田村佳照氏によると、「キキNaviのリモート設定では、クラウド上のキキNaviから現場のTeraStationにリモート接続して、TeraStationの設定画面をそのまま操作できるように工夫しています。この接続の際のセキュリティやレスポンスなどにはかなり気を使いました」ということだ。

株式会社バッファロー NAS開発部 第一開発課長の田村佳照氏

 同社NAS開発部長 データストレージ開発部長 周辺機器開発部長の大屋 誠氏によると、このあたりには、コンシューマー向けの製品(LinkStation)でしていたリモート動画視聴機能などで培った技術が生きているという。

 「TeraStationをリモート設定可能にする方法は、いくつか考えられました。例えば、クラウド上の設定画面で設定し、一括で設定情報を流し込むという方法も考えられました。しかし、最終的には、TeraStationに直接つなぐという方式を採用しています」(大屋氏)。

株式会社バッファロー NAS開発部長 データストレージ開発部長 周辺機器開発部長 大屋 誠氏

 これは、実に同社らしい顧客視点の考え方が根本にある。それは「設定の導線を変えたくない」というものだ。

 ローカル管理とリモート管理で設定方法や設定画面が異なると、ユーザーは混乱してしまう。場合によっては、せっかく現場向けに作成した運用管理マニュアルが使えなくなってしまう可能性もある。

TeraStationを選んだ場合に新たに追加されたのがリモート設定のタブ
基本的な操作はブラウザベースだが、リモート接続の確立のために専用ツールを使う
キキNaviリモート設定 接続ツールが起動し、接続を確立する
TeraStationの設定画面が開く。ここから先はローカルでの操作画面と同じだ
見た目はローカルでの管理画面と変わらないが、リモートで接続した状態
各種設定をリモートで変更可能

 もちろん、同社の製品も過去の製品から比べると年々進化している。例えば、大屋氏によると、「TeraStationのリモートバックアップなどでは1000万ファイルに対応しなければならないので、機能的には進化している部分も多くあります。しかし、安易に多機能化はせず、ユーザーが大きな進化を求めていない部分(設定の導線など)については変えないことも重要だと考えています」とのことだ。

 冒頭でも触れたが、NASの多機能からストレージとしての本質への回帰というトレンドには、こうした現場の声が重視されるようになってきた影響が大きい。「何を変えて、何を変えないのか」、同じように、すべてのメーカーが真剣に現場の声と向き合う必要があるだろう。

現場での「あるある」事故を防ぐバッファローのひと工夫

 ある程度、NASの管理経験がある読者の中には、リモート設定と聞いて設定ミスを心配する場合もあるかもしれない。

 例えば、リモートからNASのIPアドレスを変更したら……、NASをシャットダウンしてしまったら……。設定によっては、現場に急行しなければならなくなってしまうケースも考えられる。

 今回のキキNaviのリモート設定機能では、こうしたありがちなトラブルに対する手当もしっかりとなされている。

 田村氏によると、「基本的にローカルで設定できることは、リモートからも設定できるようにしていますが、変更によってリモートから接続できなくなってしまうような設定については、設定前にメッセージを表示して、ユーザーに注意を促すようにしています」という。

設定変更によって問題が発生する可能性がある場合には、メッセージを表示して注意をうながす工夫がされている

 大屋氏が続ける。「再起動などの操作をリモートで可能にすることは、技術的な面とは別に、管理的な意味合いで、そう簡単なものではありません。同様に、NASの設定の中でもセンシティブな部分には、必ずワンクッション確認を挟むようにして、ミスや事故を防ぐように工夫しています」とのことだ。

 また、山田氏によると、「どこまでの機能をリモートから設定可能にするかどうかも、マーケティング部門と開発部門でかなり議論しました」という。

 議論の中では、安全な機能だけに絞り込むという方向性も検討されたようだが、実際にマーケティングチームと開発チームで、各地域のSIerや販売店、ユーザーの元へと足を運び、本当に現場が求めている機能をヒアリングしてきたということだ。

 こうした声の中、メーカーとしては不要と考えていた機能であっても、現場では「いや、その機能は必要です」という声があったり、「その機能を提供するなら事前に警告を表示した方がいい」というアドバイスを受けたりすることで、現在のキキNaviのリモート設定機能に至っているという。

 実際の現場で好評な機能として、富山氏が設定情報一覧のダウンロード機能を紹介してくれた。

設定項目の一覧をHTML形式で出力可能。ここで掲載しているのはその一部だが、そのまま作業報告書などに添付したり、必要な項目のみをHTMLから取り出して活用できる

 これは、TeraStationの機能として提供されているもので、設定情報(ユーザーや共有フォルダーの情報など)をレポートとしてHTML形式で出力する機能となる。今回のキキNaviのリモート設定機能では、NASの各種設定適用後に、このHTMLレポートをリモートでもダウンロードできる。

 この機能によって、例えば、SIerや販売店は、顧客のNASの設定をリモートから変更後、出力したレポートを納品書などに簡単に添付できる。

 従来は、設定後に手動でレポートを作成しなければならなかったが、この機能によって、その手間が大幅に削減できるわけだ。

 同社では、ある程度、機能が完成してから、実際の顧客の元でフィジビリティテストも実施するが、こうしたさまざまな現場の声がきちんと反映されているのが強みだ。今回のインタビューでも「ぜひみなさんに使ってみて欲しい」という声が何度か上がったが、細かな工夫に裏打ちされた自信の表れと言えそうだ。

実は緻密なロードマップで展開されている

 ここまで紹介してきたように、いい意味で泥臭い努力によって高い完成度が実現されているバッファローの製品やサービスだが、その一方で、実は緻密に計算されて市場に投入されているという背景もある。

 田村氏によると、「今回のリモート設定機能の提供にあたっては、セキュリティ面での不安がないようにするために、2要素認証が必要でした。そのために先行して、キキNaviの2要素認証機能をリリースし(2024年4月)、ユーザーに認知/適用いただけるだけの期間を置いてから、リモート設定機能をリリースしました」という。

2要素認証が導入されたキキNavi。そこから数カ月、現場への導入のための期間を設け、セキュリティを確保できる土台を整えてから、今回のリモート設定機能の導入に踏み切った

 現場の声を聴いて機能を実装するというと、ともすると場当たり的な機能強化になってしまいがちだが、同社はそうではない。リモート機能を安全に利用してもらうための前提として2要素認証が必要で、その普及にどれくらいの期間(今回は半年)が必要であるかというロードマップをきちんと描いたうえで機能をリリースしているわけだ。

 現状、世の中のサービスは、スピード重視で、ベータ版で機能が登場するのは当たり前、不具合は走りながら直す、というのが主流となっているが、日本の、特に中小の法人向けITの世界では、なかなかこうした考え方は受け入れにくい。

 必要な機能を段階的、かつしっかりと期間を置いたうえで、現実的な計画で新機能をリリースしていることに感心した。

キキNaviリモート設定に対応した新機種も登場

 本稿では、バッファローのキキNaviに搭載されたTeraStation向けのリモート設定機能について同社に話を聞いた。法人向けの製品だからこそ、単に機能を追求するだけでなく、現場の声をいかに製品やサービスに反映するかに苦心していることが伝わったのではないかと思う。

 法人利用といえば、昨今ランサムウェアによる被害が増えているが、富山氏によれば、今後の展開として、セキュリティ面の充実も検討しているということだ。ランサムウェアへの備えとして、拡張子などが変更されたファイルを検知して通知したり、スナップショットを取得(対応モデルのみ)したりする「異常ファイル操作検知機能」などの新機能も提供する予定となっている。

 また、直近では、今回のキキNaviのリモート設定に対応した、小規模オフィス・SOHO向けの最新モデル「TeraStation TS3030シリーズ」も新たに発売される。

新型のTeraStation TS3030シリーズ。キキNaviのリモート設定や異常ファイル操作検知機能などに対応している

 現状の中小企業の課題は、IT人材不足という一言で片づけられてしまいがちだが、具体的にどの部分が課題になっているのか? どうすれば解消できるのか? に真剣に取り組んでいるのがバッファローと言える。

 キキNaviというサービスを無料で提供することで、顧客だけでなく、販売店やSIerも含めた中小の現場全体の活性化につながると言えるだろう。