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あのShuttleは、今「組み込みPC」で大活躍! 「組み込みPC」のポイントと選び方を聞いてみた
「堅牢」「大きさ」「変わらないこと」……そしてWindows IoTのポイントも!
- 提供:
- 日本Shuttle
2024年11月21日 06:55
昔ながらの自作PCユーザーなら、「Shuttle」という名前には強い印象が残っているだろう。
同社が多数発売していた「キューブベアボーンPC」はコンパクトでかわいらしく、まさに一世を風靡した製品だ。幅や高さも20cm前後、奥行きも30cm前後とコンパクトなのに、自作PC向けのCPUやメモリ、ビデオカード、拡張カードなどが普通に使えるため、小型でパワフルなPCを求めるユーザーには常に注目される製品群だった。
ただ、ここしばらくは、PCパーツショップで音沙汰を聞かない………。と思っていたら、実は「組み込み向けPC」を主力とし、法人市場で大活躍する存在になっていたという
そこで今回、日本Shuttleの最高業務執行責任者である伊藤 賢氏(以下、伊藤氏)に、組み込み向けPCの特徴や法人市場で特に要求されるスペック、逆に一般向けPCと変わらない部分などを詳しく語ってもらった。
ちなみに同氏はキューブPC時代からずっと同社を率いていた名物スタッフ。その頃の様子はPC Watchでインタビューしているので、気になる方は参考にしてほしい。
組み込みPCは「受注生産が当たり前」だった時代、Shuttleならではの「民生品のような大量生産」に活路を見出す
――組み込み向けPCに注力することになったきっかけは?
[伊藤氏] きっかけと言っていいのかどうかは分かりませんが、端的に言えばキューブベアボーンPCの売れ行きが落ちたことです(苦笑
特にIntelが「NUC」(Next Unit of Computing)を発売した2012~2013年にかけて、小型PCと言うカテゴリの主役が、我々のキューブベアボーンPCから、NUCなどに代表される超小型のデスクトップPCに変わった感がありました。それまでは「小さい」と言われてきたキューブベアボーンPCですが、NUCと比べれば「大きい」わけです。
販売店からも「NUCのような小さいPCが欲しい」という声は大きかったのですが、NUCのようなサイズ感で、今までのようなデスクトップPC用のパーツを利用するPCは作れない。それでは我々に求められる役割を果たせない、と感じたことも方向転換の一つのきっかけとなりました。
――当時の組み込み向けPC市場はどんな状況でした?
[伊藤氏] 組み込み向けPCというのは、工場などの機器制御やデジタルサイネージ、KIOSK端末、あるいはPOSレジの中などで使われるわけですが、調査して気がついたのは導入コストの高さと、納期の長さです。
当時、一般的な組み込み向けPCは、完全な受注生産が当たり前で、その会社が必要とする製品のためにイチから部材を調達し、製造し、完成品PCとして納入していました。用途にピッタリあった、無駄のない製品を用意できるのがメリットですが、部材の調達からはじめることになるので、やはり納品までの時間がかなりかかってしまいますし、結果として高コストになりがちです。
一方、Shuttleを含む民生用PCでは「完全な受注生産」はほぼなく、事前に大量の部品を買い付けて製造し、完成品、あるいはメモリやSSDだけ選べるような半完成品として在庫を持っているのが普通です。
そして、その違いこそが、我々のビジネスチャンスだと考えました。
今もそうですが、Shuttleではある程度の在庫を準備しておき、素早く出荷できるようにしています。また出荷台数の多い民生品を長く作っていた経験もあり、生産コストや調達コストも安くできる。
その上で個々の企業ごとに異なるニーズに対応し、カスタマイズできる余力もありました。我々の得意分野を活かせる市場でもあり、近年の売り上げはキューブベアボーンPC最盛期と比べても、倍近く伸びています。
組み込みPCで重要なのは「大きさ」「できるだけ小さなスペースで」「サイズを変えないこと」
――なるほど、二倍はスゴイですね。ではその組み込み向けPCですが、一般的な民生用PCとの違いとは何でしょうか。
[伊藤氏] そうですね。まず、サイズに関しては、今までよりもさらにコンパクトな設計を求められるようになりました。
組み込み向けPCを初めて導入する企業さんにとって、PC専用の置き場所を新たに用意することは非常に難しいことでした。なので、できるだけ小さなスペースで使えるようなPCが望まれます。実際、最新モデルには現在のいわゆる「ミニPC」より小さいモデルがあります。
形状に関してもう一つ重要なことは、「サイズを変えないこと」です。ここにスリム型筐体を採用するPCを持ってきましたが、これはおそらく10年くらい、幅、奥行き、高さなどの寸法は変えていません。
CPUなどの生産終了でモデルチェンジする場合や、性能の高い上位モデルを発売する場合でも、お客さまが用意している設置スペースにそのまま設置できなければなりません。
幅や奥行き、高さ、搭載インタフェースの位置などに変化があると、それだけで検討対象外になってしまうことがあります。こうした「変わらないこと」は、ハードウエアに限らずソフトウエアでも強く要求される条件です。
頑強さ・堅牢性も重要事項、ファンレス構造もアリ
――こうした金属製のガッチリした筐体を見ると、頑強性についても要求が高そうだと感じます。
[伊藤氏] そうですね。小さくても金属製でずっしりとした頑丈なPCが求められる傾向は強いです。
例えば強い電磁波や熱に晒されやすい大型機械の近くに設置する場合、プラスチック外装を採用する一般的なPCではすぐに壊れたり、正しい管理が行えなかったりと言ったことがあります。しかし金属製のしっかりしたボディを採用するShuttleの組み込み向けPCなら大丈夫、と言うことが実際の導入事例で存在しました。
長期的な壊れにくさという意味では、ファンレス構造も重要です。PCは物理的に動作している部品から壊れる傾向が強いため、冷却ファンを搭載しない製品はそれだけ「壊れにくい」のです。また昨今はストレージにSSDを組み込むPCがほとんどですが、これもPCを壊れにくくすることに貢献していると思います。
独特なインターフェイスもポイントにCOMポートやピン型電源、電源スイッチ外出し用ピンヘッダなど……
――持ってきていただいた組み込み向けPCを見ると、インタフェースや電源もあまり見たことがないタイプです。
[伊藤氏] ここも一般向けのPCとはちょっと異なる部分ですね。
特にCOMポートは、現在のPCではほぼすべてUSBポートに置き換わっています。しかしCOMポートを搭載する古い計測機器やカメラで、USBからCOMポートの変換ケーブルを使うと、割り当てなどの問題なのかうまく動かないことも多いのです。ネイティブのCOMポートを装備するShuttleの組み込み向けPCなら、そうした機器も問題なく動作します。
コンシューマー向けにはない、特殊な電源コネクタを装備したモデルをいくつか持ってきましたが、これは工場などで引き回されている電源ケーブルをそのまま使うためのコネクタです。
狭いスペースで使うものなので、ACアダプタ用のスペースも用意できませんし、ACアダプタ自体の発熱も無視できません。そういった環境でもスムーズに利用できるよう、こうしたコネクタを用意しているのです。もちろん、普通にACアダプタを使うタイプもあります。
――背面にある小さなピンヘッダは何に使うんですか?
[伊藤氏] これは電源スイッチ用のピンヘッダですね。物理的にPCの電源スイッチを押せないような場所に設置した際、スイッチとピンヘッダケーブルで電源ボタン機能だけを手元に置けるようにしています。
――これは便利そうですね。今自宅で使っているミニPCにも欲しいです(笑
[伊藤氏] そうですね(笑。ミニPCなどコンパクトなPCを液晶モニターのVESAマウントに設置して使ってる人には切実な問題かもしれません。組み込み向けPCでは、電源はほとんどオンオフしませんので、どちらかというと故障時の対応に使います。というのも、いかに組み込み向けPCといえども、長く使っていると、たまに固まったり、ポートが応答しなくなって計測機器が利用できなくなることがあります。
たいていは再起動することで直るのですが、組み込み向けPCは非常に狭い場所に設置されることが多く、電源ボタンやリセットボタンが簡単に押せないことも多いです。このピンヘッダを使って、電源ボタンやリセットボタンを手元に引き出しておけば、簡単に再起動できる、という工夫です。
OSは組み込み向けの「Windows IoT」「普通のWindows」だが、サポート期間が長く、特殊な設定もOK……
――ソフトウエア的にはどうでしょうか。
[伊藤氏] 組み込み向けPCでは、一般的なWindowsではなく、「Windows IoT Enterprise LTSC」をインストールして使う場合が多いですね。
なんだか難しそうに見えますが、基本的には普通のWindowsで、今でいえば「Windows 10 IoT Enterprise LTSC」や「Windows 11 IoT Enterprise LTSC」などがあります。
何が違うかと言うと、組み込み向けにきめの細かい機能制限ができるほか、供給期間が最大10年と長く、サポート期間も同様に長くなっています。また、セキュリティ向上や不具合修正などは普通に行われる一方、新機能や機能拡張はされないので、「この新機能のせいで、これが動かなくなった」なんてこともありません。
機能制限もなかなか便利なものが多く、「USBデバイスの使用制限」「利用アプリの制限」という一般的なもののほかに、「特定のキーを効かなくする(CTRL+ALT+DELなども)」とか「起動中はストレージに書き込まず、起動するたびにクリーンな状態で起動する(一時的なデータは仮想的なドライブに保持される)」とか「ブルースクリーンを表示しないようにする」など、色々あったりします。
デジタルサイネージや映像解析、大型機械の制御などでもShuttleの組み込み向けPCは使われているのですが、そこで必要となるのはWindowsの最新機能ではありません。一度設定したら、長く利用し続けられる安定性です。その意味でWindows IoT Enterprise LTSCの安定性とサポート期間の長さは、ハードウエア的な頑強さと同じくらいに重要な要素です。
ただ、機能やインタフェースをカスタマイズできるといっても、使い勝手自体はWindowsそのものです。Windows向けに開発されたツールやアプリ、周辺機器が使えますし、デスクトップでの操作方法も変わりません。使い慣れた環境で運用や管理ができるのは、大きなメリットと言えます。
「人手不足をシステムで補う、という事例が多い」応用範囲は拡大中!自動精算端末に、工作機械、センシングなど……
――なるほど……。では組み込み向けPCの使われ方などを紹介してもらえますでしょうか。
[伊藤氏] 初期の頃は、ホテルのルームサービスの一部や単機能メディアプレイヤー的な使われ方など、従来の端末ではできないことを行えるようにする案件が多かったように思います。
当時はデジタル化、ペーパーレス化と呼ばれていましたが、今で言うとDXでしょうか。それほど高いレベルの作業をさせる必要はなかったので、当時の組み込み向けPCが搭載するCPUはAtomクラスのローエンドモデルでした。
ただ当時は、こうしたAtom搭載の組み込み向けPCでも、他社では10万円台の見積もりが普通にあったようです。
もっと性能の高いCoreシリーズを搭載するモデルならなおさらですが、Shuttleでは民生用PCの仕入れや大量生産のノウハウがありますから、それらに比べると大幅に安く、そして素早く納入できます。
こういった経緯もあり、売り上げも伸びていきました。
現在はAtomシリーズを搭載するモデルを、非常に低発熱で性能もそこそこの「Intel N100」搭載モデルに置き換えているところです。またこうした低発熱なファンレスPCのほかにも、高度な業務向けにCoreシリーズを搭載するモデルを用意しています。
最近の使われ方ですと、先ほども説明したデジタルサイネージ、各種大型機器の遠隔操作、各種センシング機器の制御などに加えて、人員管理用に組み込み向けPCを導入する企業さんも増えています。こうした企業さんとの取引でも、価格や納期を評価されているように思います。
例えば接客業の案件ですが、今までの販売実績を加味してお客さんごとに適切な従業員を配置する提案を、PCが行えるようにするシステムもありました。従来は人間の勘や経験に頼ってきたノウハウの部分を、PCを使ってデジタル化するという試みです。いま開発中の多言語対応タッチパネル搭載精算システムは、人手の少ない個人経営の飲食店で使われることを想定しています。
――「デジタルで人を助ける」というイメージでしょうか。
[伊藤氏] まさにその通りで、最近では特にそうした傾向が強いです。
一昔前のデジタル化や初期のDXでは、「デジタルでコストを下げる、売り上げを伸ばす」という側面が強かったように思います。しかし今は、企業さんの考え方が大きく変わりました。「募集しても人が来ないし、ずっと人手が足りない」という状況を補うために、組み込み向けPCやその上で動くシステムを導入する、と考える方が明らかに増えています。
最近では飲食店だけではなく、ガソリンスタンド、ホテルのフロントなど、いろいろな場所で無人で操作し、精算できるシステムが設置されるようになりました。そしてそうしたシステムを支えているのは、実は組み込み向けPCだったりするのです。意外と皆さんの身近なところでも、Shuttleの組み込み向けPCが動いているんですよ。
今でも「在庫アリ」なのが強み「数台でも問い合わせてほしい」
――Shuttleの組み込み向けPCは、今、どのようにして買うのでしょうか?
[伊藤氏] そうですね。特に難しいことはありません。弊社の営業部にメールでも電話でも連絡をいただければOKです。
「営業部に」というと、ハードルが高そうですが、数台でもまったく問題ありません。そうしたお客様も沢山いらっしゃいますし。
そのうえで、使い方や導入シーンのヒアリングをした上で対応させていただくことになります。弊社では国内に4000~6000台の在庫を常時抱えておりますので、納期の相談もしやすいと思います。こうした部分は、基本的には受注生産が前提の他社と比べて優位な点だと思っています。
組み込み向けでも気になる「AI」、そして「デザイン重視」の方向性も?
――なるほど。それでは最後に、今後のShuttleさんの方向性などについて一言お願いします。
また今後につきましては、どの分野かは迷っているところですが、やはりAIについては興味があります。
ただ、AIに関するビジネスがどんな形で進むのかということ、そしてクライアントPCに求められる役割がなんなのかと言うことがはっきりとしていないところがありまして、慎重に進めていこうという状況です。Shuttleならではというと、キューブベアボーンPCサイズの小さなAIサーバーになるのかもしれないですが、正直まだ分かりません。
また、新しいチャレンジとして、デザイン性の向上を考えています。
以前のキューブベアボーンPCではデザインを評価されることも多かったのですが、組み込み向けPCではそういった要素はまったく評価されませんでしたので、正直、おざなりになってきた部分です。ただ最近、店内でユーザーさんが使う端末などが必要とされることもあり、そうした場合はデザイン性も重要です。ある意味で昔への回帰とも言えますが、今のところはこんな感じでしょうか。
――ありがとうございました。