【レポート】
SARSで変わる、中国インターネット事情現在中国や台湾を中心に、SARSが猛威を奮っている。なかなか沈静の兆しを見せず、SARSによって中国経済が停滞し、世界全土に影響を及ぼすといった悲観的な考えが、メディアでも伝えられている。反面、SARSという負の経験を通して、中国のIT産業が大きく前進している面もある。この記事では、SARSが中国のインターネット業界にもたらした影響を報告したい。 なおSARSは中国語で“非典”と表記する。非典は“非典型肺炎”の略称で、文字どおり“典型的でない肺炎”を意味している。 ●ECやネットコミュニケーションの充実
またBtoBのオンライン取引も加速した。BtoBのサイト「アリババ」では、売上高が昨年同期に比べて4倍に成長し、毎日3,500人の会員増を記録。SARSが発覚する前の1.5倍の会員数となっている。SARS発覚後に、この「アリババ」でマスク、消毒液、栄養剤などの取引が集中したため、SARS関連製品のセールスはそれまでの10倍の売上を記録した。またSARS関連広告も数倍に増加した。さらに、普段は1日3,000件程度の取引が、4月17日は9,000件にも上り、同社史上最大の規模を記録したという。 ちなみに中国国内著名サーチエンジン「百度」でのキーワードランキングで、過去2週間のナンバーワンは“マスク”。2位がCD、3位が自転車となった。自転車が上位なのは、バスでの通勤通学を避けるためという。他は4位に“体温計”、5位に“消毒液”と、国民がSARSに高い関心を持っていることが伺える。
一般市民が外に出歩かないで物事を済ませる手段として、インターネットは脚光を浴びている。これまでより広く認知され、また導入も進みつつある。例えば上海ではブロードバンド加入者が急増。4月中旬以降、新規加入が殺到し、1日当たり約2,000人が新たに加入しているという。 人と会って話しての感染を恐れることから、面と向かっての会話から、チャットや掲示板、電子メール、家庭からのテレビ会議などがコミュニケーションの手段として多用されるようになった。中国版ICQこと「QQ」をはじめ、「ICQ」や「MSN Messenger」もよく使われているという。また電話に関しても、4月の携帯電話、固定電話、および携帯電話でショートメッセージを利用するためのプリペイドカードの売上げは、いずれも3月に比べて40%アップした。 新聞やPC雑誌などのメディアでも、SARSで外出を拒む読者に向けたSARS対策の記事を掲載している。その内容はSOHOの構築方法をはじめ、ネットバンキングやオンライン株取引、果てはPCの消毒方法まで含まれている。 人混みに入るのを拒む人が多いため、中国各地の電脳街でも来客が激減し、商売にならない状態が続いているという。中国著名メーカーも従来の店頭販売だけでは採算が合わないため、従来から設置していたオンラインショップに注力しつつある。中国以外のメーカーでも、例えばDELLなどが、SARS騒動を踏まえた積極的な攻勢をかけている。調査会社のGartnerは、中国本土でDELLは現在3位の座にあるが、今後さらに伸びるだろうと予測している。
【URL】●SARSがもたらした電子教育の幕開け 中国政府では、今回のSARS対策において、IT技術を積極的に導入している。これは今後のIT技術向上のために非常に重要なステップだと捉えているからだ。現状の電子政府と社会の情報化レベルを判断する材料になり、またIT技術を訓練、実践するための絶好の機会とも見られている。
このシステムは一部を一般向けにも公開している。北京、内モンゴル、山西、広東など多くの患者を出した地域の詳細と、中国全図の地図が用意され、各エリアの4月下旬からの患者や、感染の疑いのある患者、死者、退院者の各人数が表示される。中国科学院のWebサイトからアクセスできる。 SARSはまた、中国の電子教育に本格的な幕開けをもたらした。北京の小中学校は、4月末からオンライン教育が本格的に開始した。また北京の大学でもインターネットによる授業を開始し、オンライン上で授業や討論を行ない、電子メールを使って学生の生活と学業を支援するシステムを運用している。インターネットはいまや重要な学習手段となった。 中国では6月に大学入試が行なわれるが、この試験勉強をオンラインで行なう学生が増えたため、学校がストップしても授業は停まらないという状況になった。北京市では学生にPC配布などの支援を行ない、80%以上の生徒に、家庭でのオンライン学習環境を持たせることを保証している。また北京市内の多くの学校がオンライン学級を持ち、授業や質疑応答などを行なっている。北京市のある中学では、家にPCとネット環境がある普及率が、生徒の100%に達した。 インターネットの活躍は教育場面だけでなく、多くの国内企業がSARSによってインターネットを使う必要を強く感じ、情報化が進んでいるという。通信キャリア企業数社はブロードバンドを使ったビデオ会議システムをサービスとして提供していたが、従来それほど使われていなかった。しかしSARSにより、このシステムの需要が高まっている。 また医療現場では、カメラ付き携帯電話も、SARS治療の最前線で普及している。現場で働き、帰宅できない医師や看護婦が、家庭や恋人に現状を伝えるために活用しているのだ。 【URL】●オンラインゲームやソフトウェアにも影響が
「百戦天虫Online」や「魔力宝貝」などの人気ゲームは、オンラインで出会って仲良くなった人同士がオフラインで会うというコンセプトが売りのひとつでもある。しかし、そのコンセプトから、開発元メーカーが企画していたオフ会がキャンセルになっている。ちなみに「魔力宝貝」のゲーム内で医者に行くと、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)の医者が、SARS予防法について質問してくる。正答すれば、自分のキャラクターにマスクがもらえるというシーンがある。また「仙境伝説」というゲームでも、ゲーム内でマスクを付けているキャラクターが急増中だとか。 一方、SARS対策用のオンラインソフトもいくつか登場している。まず「大地非典予防系統」は、SARSの早期症状、伝播の過程、予防方法、法律などの知識を紹介するソフトウェア。動きのある説明ではなく、文章だけで説明するシンプルなソフトだが、ネットに接続すれば、ビデオによる解説も見ることができる。 次に「中華家庭葯膳」は、SARSのみならず、全ての病に効果のある漢方薬を含んだ食事のレシピ集。1画面内に原料(材料)、制作(料理)、服法(食べ方)、功効(効果)が表示され、症状や悩みに効果的なレシピが検索可能。Windows XP風のインターフェイスが特徴だ。 また「外来人口非典排査登記系統」は、氏名、列車番号、移動元および移動先、電話、E-mail、住所など連絡先情報を監理するソフト。例えばある寝台列車内で患者がいた場合、患者および近くの寝台を使用した人の情報を入力、管理するといった使い方をする。LAN上の複数台の端末から共有できる機能も持ち、駅や警察の管轄内でSARS患者の情報を整理するのに役立てているという。
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◎関連記事 (2003/6/2) [Reported by 山谷剛史(yamaya@tc.xdsl.ne.jp)] |
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