![]() | 【連載】
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| 防災訓練の様子 | ノートPCで写真を 撮影、送信 |
実際に送受信したデータ (クリックすると実際に やり取りされた画像に なります) |
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また、「端末間の距離を徐々に広げていくと、TCPでは動作しないが、UDPは届くという地点が出てくる。アドホック環境で隣接端末とTCP通信できる範囲は、無線LANカードのメーカー公称到達距離よりもずっと短いと思われる」ということもわかった。憶測でしかないが、これは無線に特有の片方向リンクができてしまうからであろう。つまり状況によっては、向こうの端末には電波が届くが、向こうから発せられた電波はこちらには届かないということが起こりうるのである。TCPではパケットが届いたかどうかの確認を随時行なっており、相手から「届いたよ」という確認のパケットが戻ってくるのだ。もし片方向にしか送信できないとなると、その到達確認が戻ってこないために何度も再送を試み、一向にデータが送れないということになる。
さらに、「無線LANカードはメーカーによって到達距離にバラツキがあるため、メーカーが混在した環境では、単純に人を並べてhop数を延ばせるというわけではなかった。PDA+CFカードのようにアンテナ露出が小さいデバイスでは、電波が十分に届かないため、中継地点にいても、より電波の到達半径の広いPCにすっぽりと被われてしまって意味がない」のだそうだ。この分野ではさまざまな研究がされており、いろいろなアルゴリズムが提案されているが、実験環境の前提条件として「各端末の通信半径は等しい」としている場合が多い。しかし、この前提条件は実際に適合するものではなかったのだ。最初から各端末の通信半径を考えに入れた上でアルゴリズムを構築していけば、もっと効果的なアルゴリズムできあがるのではないだろうか。
細かいところではいろいろな課題があるにせよ、端末のみによるネットワークが即座に構築でき、実際にマルチホップで通信ができたということは、非常にすばらしいことである。スカイリーネットワークでは、この実験で得られたデータをもとにして、さらに高機能なDECENTRAを開発する予定だ。これからもDECENTRAの動向からは目が離せない。
一方、海外でも同様の動きは起きている。端末だけで無線のネットワークを構築するソフトや製品を開発する会社はいくつかあるが、その会社の1つであるMeshNetworks( http://www.meshnetworks.com/ )は、先日その一連の製品群の出荷を開始した。詳しくは別記事を参照していただきたい。
■“アドホックP2Pネットワーク”の米MeshNetworksが製品を初出荷
/www/article/2002/1119/meshnet.htm
●名古屋の地下街での実証実験より
次に紹介するのは、今年3月中旬に名古屋市栄町セントラルパーク( http://www.centralpark.co.jp/ )の地下街において、富士通株式会社、株式会社富士通プライムソフトテクノロジ、九州大学が共同で行なった実証実験である。この実証実験は、「P2Pネットワークアプリケーションの研究開発とその実証実験を通じ、そのプラットフォームの安全性・信頼性・相互運用性を検証すると同時に,その管理技術がネットワークの自由性を損なうものではないことを実際のフィールドにおいて実証していく」というものである。実験の主眼は、富士通の開発するプラットフォームにあるわけだが、筆者は、ワイヤレスP2Pアプリケーションがはたして一般に受け入れられるものであるのかどうかを知る上でも、重要な実験であったと考えている。
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| 実験の行われた地下街と実験イメージ | |
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◆地下街の無線ネットワークのシステム
この実証実験では、サービスとして広告配信とビンゴゲームを提供した。これらのサービスはそれぞれ情報のpushとpullに相当する。地下街には、無線LAN(IEEE802.11b)のアクセスポイントが10箇所に配置された。しかし、各端末間をマルチホップしてデータを送り届けるのではなく、あらかじめ設置された10箇所の無線LANアクセスポイント間を、リピーターによって接続した。すなわち、無線リンクによるバックボーンを地下街に構築したと考えればよいだろう。また、ショップ情報などを管理するサーバーが1台あり、ユーザーのアクセス状況などもここでモニタリングされた。
ユーザーは専用のアプリケーションと、P2PコアソフトのインストールされたPDA(Windows CE 3.0、21台)を持参し、地下街を歩く。各アクセスポイントがカバーする領域は、他のアクセスポイントのものと重ならないように配置されており、ユーザーはそれぞれの領域を渡り歩くというイメージになる。
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| アクセスポイントと リピーター |
ユーザーの持参する PDA |
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無線によるネットワークとなると、まず一番に心配されるのが、セキュリティーの問題だ。この実証実験では富士通研究所が開発を進めているVPC(Virtual Private Community)というプラットフォームを用い、著作権保護や個人情報保護を行なった。
◆提供したサービス
まず広告配信だが、各領域ではその近くの店舗の情報が配信された。たとえば入荷したジーンズの情報、喫茶店の割引情報などが、各個人のPDAに配信される。しかしすべての情報が表示されると見にくくなり困るので、PDAにはユーザーの属性に応じた情報のみが表示されるように工夫された。また、ユーザ同士で受け取った広告を交換をすることも可能だ。
次にビンゴゲームだが、これは地下街そのものをゲームの対象としているもので、ビンゴの数字を得るためには、そのエリア全体を渡り歩くことが必要になる。地下街の店舗をもっとよく知ってもらうという意味でも、有効なアプリケーションであろう。
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| 情報(ビンゴ)の交換ー | ビンゴ成立 |
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◆ユーザーの反響
この実証実験に参加したユーザーからは、
といった意見が寄せられ、おおむね好評であった。また、情報を提供する側である店舗側としては、「ホームページ作成程度の手軽さでエリアサービスを展開できるのは魅力的だ」と感じたようだ。ただ、PDAを普段から持ち歩く人というのはなかなか少ないので、携帯電話のような多くの人が持って歩いているデバイスによって、同じようなサービスが展開できるとさらに良いだろう。実際には各携帯電話会社の思惑がありなかなか難しい面もあるだろうが、Bluetoothや無線LANを積んだ携帯がもっと出回って、それがJavaなどで自由に操れるようになれば、このようなアプリケーションは爆発的に広がるのではないだろうか。
◆今後の実験について
今後は、次のような3項目を目的とした大規模な実験が予定されている。
携帯電話では、既存の通信網を利用するのではなく、微弱無線やBluetoothなどの「無料の」近距離無線を利用する。商店街から受け取った情報を他の人に渡したり、情報にコメントを追加するなどの「消費者の貢献」に対しては与えられたポイントは、商店街における通貨として利用可能となる。このポイントの流れをマーケティングの対象にすることで、消費者主体でコミュニティを形成することが、商店街振興対していったいどのような社会学的影響を与えるのかについても調査するそうだ。
●その他いろいろな事例が
数ヶ月前までは、Web検索サイトで「ワイヤレス」と「P2P」でAND検索を行なってもヒット数は少なかった。だが、最近では数千ものWebサイトがヒットするようになった。この分野は今非常にホットな分野であることがよくわかる。海外でも、携帯電話にワイヤレスとP2Pの技術を導入しようという動きがあったり、ハエに見立てた小さなロボットを飛ばしてワイヤレスのネットワークを作るというまるで夢のような研究などが出てきている。
ワイヤレスとP2Pの技術がいろいろなところで利用されるようになると、我々の暮らしはどのように変化していくのだろうか。考えていくととてもワクワクしてきて、夜も眠れなくなってくる。
| ■筆者紹介■ 小出俊夫 http://homepage1.nifty.com/toshio-k/ 常に他人と違うことをすることに喜びを覚える知的好奇心旺盛な人間。他に雑誌連載を1つ手がけ、プログラミングの解説書は5冊。実は博士課程の大学院生で、メーカーの研究所に入りたがっている。求むオファー。 |
(2002/12/4)
[Reported by 小出俊夫]