「日本最大のポータルとして、正しい情報をいち早く届ける」ヤフー 高田氏


 東日本大震災では、災害関連情報の入手先として、インターネットが大規模かつ実用的に活用された。輻輳により電話もかかりにくい中、リアルタイムの情報共有やメッセンジャーによる安否確認、ホームページでの公式情報の確認など、テレビやラジオと並んで情報流通の要となった。

 多くの人が災害関連情報を求める中、日本最大のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」を運営するヤフーは、豊富な情報量と運用ノウハウを活かし、震災直後から激増するアクセスにサーバーや回線の増強を行いながら、矢継ぎ早に必要なサービスや情報の提供を行った。

 ニュースや災害情報はもちろん、道路状況、官公庁や市町村の発表などインターネット上の情報を探しやすくしたガイドを災害直後から提供。震災後は時間の経過とともに、ライフラインの状況、電力供給など生活に直結した情報から、復興を支援する情報へとユーザーニーズの変化に合わせて、その時々に必要な情報を提供し、現在も「震災情報 東日本大震災」コーナーで更新を続けている。

 こうした一連の取り組みについて、ヤフー株式会社 R&D統括本部 FE開発2本部 開発1部 部長の高田正之氏にお話を伺った。(以下、本文中敬称略)

スマトラ島沖地震・新潟中越地震の経験から、大災害時の対応を整備

ヤフー株式会社 R&D統括本部 FE開発2本部 開発1部 部長の高田正之氏

――今回の東日本大震災で、必要な情報を矢継ぎ早に提供したほか、震災直後から義援金の募集を始めていたのが印象的でした

高田:インターネットのメディアとして15年やってきて、激甚災害が発生したときに何をしなくてはいけないか、経験を蓄積してきたんですね。特に大きかったのが、2004年にスマトラ島沖地震と新潟中越地震が続いて起きたときです。当時はちょうど、一般の人がインターネットのメディアから一次情報を得るとか、インターネットを通じて支援するといったことができるようになってきた時でした。その2つの災害をきっかけに、災害時の対応を整備しました。

 1つは、震度3以上の地震が起きたときに、ヤフーの全ページにバナーで情報を出すというものです。TVやラジオをつけていれば速報が流れますが、職場などでインターネットしか見ていない人にも情報が届くようにと考えて整備しました。

 また、なにか貢献したいということに関しては、「Yahoo!ボランティア」の中の「インターネット募金」ですね。募金は本来、受け入れ先が決まってから受け付けるものなんですが、今回のように大きな災害の場合、受け皿がなかなか決まらないとか受け入れ組織が多数あるということもあります。災害直後から迅速に対応するために、中立的な「Yahoo!基金」というのを設けて、いったんプールして最適なところに配分できるように体制を整えました。

――大災害のときの対応がマニュアル化されていると聞きましたが

高田:災害時の対応は、大きく3つに分けられます。1つは、正しい情報をいち早く届けることです。まず、契約している新聞社や出版社からのニュース速報の掲載ですね。災害時もニュース更新が止まることのないよう、「Yahoo!ニュース」の編集体制は東京と大阪で冗長化して、たとえ東京で大災害が起きても運営しつづけられるようにしています。

 2つ目は、募金の緊急対応です。これも対応マニュアルを整備して、休日でもどの時間でもすぐに受け付けを開始できるようにしています。3つ目は、これはTVと同じで、災害時に、広告枠を災害情報への誘導に切り替えるような仕組みも緊急対応として整備しています。

 今回の東日本大震災でも、ヤフーの入っているミッドタウンも全員退館となって、裏の公園に避難したんです。このときも、大阪のスタッフや、すぐに帰宅してリモートから運営するスタッフによって対応しました。

 ただ今回は、アクセスも募金額も前例のない勢いで。ニュースはサーバーの冗長化をかなり考えているんですが、募金はそこまでやっていなかったので、募金受付は継続しながら、裏でエンジニアが寝ずの番で、とにかく落ちないようにシステムをモニターしながら増強や改修をしていました。多くの方の善意をお預かりして、また今回は金額的にも非常に大きなものですから、不具合があってはいけませんし、綱渡りの気分ですね。


いち早く東日本大震災チャリティオークションを開始。現在も次々にオークションが開催され続けているオークションの落札価格から寄付できる「みんなのチャリティー募金」だけでも、すでに1億を超える寄付を集めたあらかじめ設定した地域の災害情報をメールで送信する「防災速報」を7月に開始。10月には豪雨予報と津波予報も提供開始した

――それは、すごいプレッシャーですね。

高田:状況が変化したのは、13日の日曜日からですね。東京が大規模停電になるかもしれないという話になった。まず、節電をどうしたらいいのか、ちゃんとした情報がないため、体系的な情報を集めて見せようということで、1つのページを作って、日曜日の夕方ごろに上げました。それが翌日には3000万ページビューぐらいになって、情報が望まれていたんだなと。

 その後すぐ計画停電が実施されることになり、東電の情報を元に停電スケジュールを掲載しました。東電から一次情報をいただきましたが、資料はいわゆるお役所文書のようで、非常にわかりにくいんですね。しかも、たとえば「東京都川崎市」みたいな間違った地名もあるしで不明な点は東電に電話で確認した上で、わかりやすいよう整理し、修正する作業をつきっきりでやって掲載する、という作業が続きました。

――同じ地区が、こちらのグループにもあちらのグループにも入っている、というのもありましたね

高田:それをこちらで1つずつ、すべてチェックするしかない。しかも、毎日2~3回情報が出てくるんですが、毎回違うところが間違っている。それを毎回全部潰して、簡易検索システムや地図に反映させていました。

――緊急対応は何人ぐらいのチームで行っていたんですか

高田:震災の翌々日、3月13日の夜から、それまでの緊急体制では間に合わないので、第二次緊急体制として、東京・大阪・名古屋で70人ぐらいが24時間体制で特別シフトを組んで対応する、という態勢にステップアップしました。

 緊急対応チームの志願者は社内にたくさんいたんですよ。ただやはり、東京にも大地震があるかもしれないので、近くに住んでいて走ってでも会社に来られる人、しかも頑強な、徹夜を続けても大丈夫な人を選抜して、対応しました。

311当日に災害募金対応、地震・津波の特設ページを開設した。スタッフは避難中にもニュース更新作業を続けた震災後すぐに専任チームを作り、24時間体制で情報提供した。希望者はたくさんいたが「住居とオフィスが比較的近く、無理がききそう」なスタッフを選抜したというわずか6日間で10億円を集めた募金では、設計時の想定を超えた募金が寄せられたため、裏では「1円たりともこぼすな」とシステム修正とテストが繰り返された
3月13日には、節電を呼びかけるページを公開、NHKのサイマル放送を開始3月14日には計画停電マップを公開17日には募金が10億円を突破した

――計画停電マップはわかりやすかったですね

高田:地図にするには、元の地名が正しくないと流し込めないんですよ。なので、そこについては人海戦術で、校正やQA(品質保証)の担当者をまじえて、総動員でしたね。

 そんなときに、政府が「電力需要の見える化をします」とおっしゃったんですが、一般の方が読み取れないものになってしまうのではないかと考えて、東電が公開をはじめたデータを元にこちらで電力需給状況のメーターを開発し、3月23日から公開しました。できるだけシンプルに見せないと見える化の意味がないということで考えて、これは相当な反響でした。

 ただ、この東電の情報は最大で1時間20分遅れて公開されるんですね。でも、町工場のおじさんが、「うちの工場では、これが上に行くと主電源を切ってます」とおっしゃるんですよ。ありがたいんですが、1時間20分前の情報だと、切った意味がない。

 よりリアルタイムな情報が必要ということで、東電にお願いしたんですが、なかなか出ない。そこで、独自にロジックを作って、4月27日に「電気予報」を公開しました。

――電気予報のグラフ、電力情況メーターの見せ方がスタンダードになりましたね

高田:そうですね。このグラフは電力消費のピーク時間を知るためのもので、ピーク時間の節電意識を高めるのが目的で、ひとめ見て把握できるよう担当者が考えたものです。幸い、このデザインは節電意識のシンボルとしていろいろな所で使っていただいたのかなと思います。先日は、おかげさまで「2011年度グッドデザイン賞」を受賞しました。

http://shinsai.yahoo.co.jp/
東日本大震災に関する情報が見やすく集約された、Yahoo!JAPAN震災情報 東日本大震災」ページ
Yahoo!JAPAN「節電・停電」情報。画面は東京電力エリア版。現在の使用状況がひとめでわかる電力情況メーターはスタンダードになり、グッドデザイン賞も受賞したヤフーは、電気予報のiPhone用アプリとAndroidアプリも提供

長くきちんとサービスを提供する

高田:そのほかの取り組みとしては、オークションの中で、チャリティーオークションを開催したり、落札価格から寄付できる仕組みも用意しました。

――携帯電話対応の被災地エリアガイドも、震災から2週間ぐらいで開始されていましたが

高田:そうですね。PC、スマートフォン、従来型の携帯の3つは、日頃から過不足ないように展開しています。特に震災のときには、被災地では、電波が入るところでは携帯電話だけでも情報を提供できるようにと対応しました。ヤフーの社員でも多数、ボランティアで現地に行った者がいましたので、そこから上がった現地の状況やニーズもフィードバックして対応を進めました。PCのサービスについても、プリントアウトして壁に張ってもらいやすいようにしたり、二次利用可能な絵本のコーナーを作って、お子さんを元気づけたりなどの取り組みも行いました。

――速いスピードで多くの対応を進める中、企画や方向性など意志決定はどのようにされていたんですか。

高田:経営層が全面的に支援すると決めていましたので、COOの喜多埜の直下で、意思決定する会議を毎日持って、報告し確認し即決していました。より時間が限られるものについては、社長の井上も含めて、メールで確認をとって決めていました。

 ただ、1つポリシーがありまして、「無邪気な善意よりも、きちんと長く提供できるサービスを」というスタンスを取っていました。社員個人個人からも、これをやりたいといった声が山のように来るんですよ。ただ、一時の盛り上がりではなくて、中長期の視点で、きちっと役に立つことに絞ってやろうということで、ふるいにかけました。

 たとえば、放射線の草の根の情報を集約するという案が多くありましたが、ガイガーカウンターは機種を揃えてきちんと校正して、同じ測り方をしないと定点観測にならない。そのため、見送りました。安否情報については、過去の新潟中越地震のときに公開された個人情報が後で振り込め詐欺の材料になってしまった例があり、慎重な態度をとりました。具体的には、各市区町村がウェブに掲載した、手書きメモをスキャンした画像に限定して、こちらでOCRをかけ、OCRが読み取れないものは手で入力して、検索する仕組みを作りました。ただし、自治体が公開をやめたときには、こちらの情報も公開をやめると決めていました。そんなことを言っている場合じゃない、という意見もあり、その気持ちもよくわかりますが、ヤフーとしてはそこは一線を引きました。

Yahoo! JAPANの放射線情報新しく立ち上がった地球環境プロジェクトとSAFECASTのデータを採用。全国の数値を公開している放射線医学総合研究所による図解も掲載。表中の年間被曝量と合わせて見ることで、危険度をユーザーが判断できる

――放射線情報のニーズは高かったのでしょうか。

高田:ユーザーからも、社内からも強かったですね。

 放射線情報については、8月5日から「Yahoo!放射線情報」として開始しました。これは、孫(正義氏)が財団を通じて資金を提供する慶應義塾大学の地球環境スキャニングプロジェクトとSAFECASTの観測結果を元にしています。ガイガーカウンターは信頼性があり、多数用意できてメンテナンスし続けられるものという条件から選定しました。同じ機器、同じ基準で広く網羅して計測する準備が整って、ようやく開始しました。計測地点は、今後も増やしていきます。

――政府の公式発表データも、測定方法がまちまちですよね

高田:いろいろちぐはぐなものになっていますね。時間の経過とともに信用できる情報も発表されるようになりましたが、それも現時点では特定の時だけ測ったもので、変化する日常は追いかけられていません。そういった点も考慮して、ヤフーでは計測したデータを5分間隔で更新し、常時掲載しています。

 非常にセンシティブかつ深刻な問題で、いったん開始したらやめられないことは明らかですから、ヤフーとしては、行政でも民間でも、これなら広く公開しても大丈夫だろうという放射線情報があればよかったのですが、そのような一次情報がなかった。われわれ自身も納得のできるデータを、といろいろな方法を比較検討して、孫(正義氏)が立ち上げた地球環境スキャニングプロジェクトとSAFECASTがベストだろうという判断で、SAFECASTのデータを公開することにしました。ソフトバンクグループでといったつもりはまったくないので、他社さんも参加していただければと思っています。

被災地の過去から未来まで写真を残す~写真保存プロジェクト

――写真保存プロジェクトへの取り組みも早かったですね。

高田:そうですね、4月8日に発表して、4月20日から募集を開始。6月1日に公開しました。

 これもやはり、現地入りした社員が聞いたニーズが元になっています。ニーズは大きく分けると3つあり、まず1つは、失われてしまった懐かしい風景、被災前の風景を残したいというもの。2つめに、撤去されてしまった瓦礫の中に、個人としての思い出があって、それが消えると永久に見られなくなってしまうをなんとかしてほしいというもの。3つめが、被災状況や復旧の記録を蓄積することで、将来の防災研究に活かそうということです。

 このプロジェクトは、われわれの取り組みとしては異色なところがあります。本来は図書館のようなところで取り組んでほしい問題なのですが、公的な機関というのはすぐには動けません。待っていると、日々瓦礫が撤去されて、時機を逸してしまう。そこで、自主的な一次請けのようなスタンスで開始しました。できるだけ無色透明に、誰にも使いやすいような写真アーカイブとしています。頓智ドットさんが写真保存プロジェクトのAPIを使って、セカイカメラで自分がいま居る場所の震災前の写真を見られるようにされましたが、いろいろな形で利用していただければいいと思います。

――第三者が利用する上で、許諾を取らずに使える範囲などのルールが整備されていますね。

高田:その点については、法務を含めてかなり詰めました。クリエイティブコモンズがいいという声もあるんですが、必ずしもITリテラシーの高くない一般の方にはクリエイティブコモンズと言っても通じにくい。投稿する際の心理的な敷居を下げて、少しでも多くの写真を残せるようにと検討して、独自の規約を作りました。

 行政のプロジェクトですと、権利もすべて譲渡する形のものもあるんですが、そうなると撮った本人が加工することすらできなくなってしまう。あくまで実際に利用されるシーンを想定して、利用目的を限定した中で人格権を行使しないなど、規約を作りました。

――発案したのは3月中でしょうか。

高田:はい、震災の翌週には話が出ていました。カスタマーケアにも、ヤフーの地図の衛星写真に被災前の海岸が写っているので残してほしい、という声も来ていましたし。

 とはいえ、行政機関も大学も、大量の写真を集約するシステムを持っているわけではありません。とくに地方自治体については、自治体の職員自身も被災し、亡くなった方もおられる中で、そういう取り組みに人を割く余裕はなかったと思います。

 民間でも、それだけのインフラを持っている企業はごく限られます。これは自前でやらなければ時機を逸してしまうという切迫感から、自前でやることにしました。その時点では、グーグルさんも始めるとは思っていなかったんです。

――写真は永久に受け付ける形になるんでしょうか

高田:そうですね。始めるときに、会社があるうちはずっとやり続けなくてはならないという覚悟が必要ということを、経営陣も納得した上でスタートしています。

 震災より前の写真は、写真が発明された時までさかのぼれば相当数あるはずですから、地道に受け付けも継続する必要があります。また、震災の復興記録というのは、今後ずっと続いていくものですから。

 たとえば、震災で橋が流されて橋脚だけになったところがあります。その橋が復旧していく様子が順に投稿されて、現在は開通していることがわかる。時系列に沿って復興していく様子が追える写真を投稿していただけたら、現地に行って橋が復活する様子をセカイカメラで追体験することもできます。そうした応用はいろいろな方面で考えられると思いますし、API公開すればさまざまにお使いいただけると思います。われわれとしては、まずひとつの場所に集める、アーカイブ化に注力したいと考えています。

――集まりぐあいはどうでしょうか

高田:ニュースなどで取り上げられて大きく増える日もありますが、全体としては、受付開始からずっとコンスタントに投稿されています。携帯電話からの投稿も多いですね。それも開始を急いだ理由のひとつで、特に避難生活を送られていた方は、携帯のメモリがいっぱいになったら古い写真を消さないと新しい写真が撮れない。避難生活での情報機器というのは携帯電話がメインとなっていましたから、われわれも早めにアナウンスする必要がありました。

http://archive.shinsai.yahoo.co.jp/
東日本大震災 写真保存プロジェクト
仙台空港付近。右上のメニューから、震災前と震災後に分けて閲覧することもできる。グーグルの「未来へのキオク」プロジェクトとも連携し、グーグルの写真も検索可能になった写真掲載には、1枚ずつ位置の指定やコメント掲載が必要なので、ワンクリックというわけではないが、すでに3万6000枚を超える写真が集まった

――非常に多くの写真が投稿されていますが、投稿はそれほど簡単ではないですよね

高田:ないですね。やはり撮影場所と撮影日時の情報は最低限必要ですし。なるべく簡単にはしたいのですが、記録として残すということが目的である以上、最低限の情報入力はしていただく形になっています。

――人が写っている写真が問題になることもあると思いますが、対応は

高田:写真にすべて申告フォームを付けて、言っていただければ事後に処理します、ということでやらせていただいています。現状はそれで、大きな問題なく運用しています。

 ときどきあるのは、雑誌などに載った印象的な写真を善意でスキャンして送ってくるケースですね。これは対処しています。

 そんな形で写真が集まってきて、こんな形で活用したいという外部からの声も増えてきていますので、活用事例を増やしていきたいですね。

――利用したいという声は、政府や地方自治体でしょうか

高田:政府ですとか、民間のシンクタンクとか、いろいろあります。原則、お断りいただかなくても利用できるのですが、ヤフーとしてコラボレーションする話もいただきますので、積極的にお受けして広げていきたいと思っています。

――将来的に、この仕組みを広げるといった考えは

高田:震災に限らず日本全国で、という意見もいただきますが、それはさすがに維持していくコストが馬鹿にならないですね。ヤフーとしては、たまたま一次請けしているだけ、という考えですので、将来的には、たとえばコンセンサスの上で政府機関に全部お預けする、といったこともあってもいいと思います。


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(高橋 正和)

2011/10/24 10:29