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第70回:わずかなコストでネットブックが多機能カーナビに!?

「MapFan Navii Ver.1.5」レビュー


「MapFan Navii Ver.1.5」をインストールしたネットブックにGPSユニットを接続して車載した状態

 インクリメントPの「MapFan Navii」は、Windows Vistaを搭載した「WILLCOM D4」専用として2008年11月に登場したカーナビソフトだが、今回発売された「MapFan Navii Ver.1.5」では、Windows Vistaに加えてWindows XPにも対応した。つまり、Windows XP搭載のネットブックにインストールし、GPSユニットを接続することで、カーナビとして利用できるわけだ。

 モバイルPCにGPSユニットを接続してカーナビとして使っているユーザーは以前から存在したが、最近はPND(パーソナルナビゲーションデバイス)の登場によってカーナビの価格が下がっており、ノートPCをカーナビに流用するメリットは小さくなってきた。PCはカーナビ専用機と違って起動に時間がかかるし、車から離れる際も盗難が心配だ。その一方で、低価格PNDに比べて記憶容量が大きく、処理性能が高いといったメリットもある。

 新バージョンの「MapFan Navii Ver.1.5」はこのようなメリットを活かしたソフトウェアだが、その機能や使い勝手は普通のカーナビやPNDと比較してどうだろうか。「MapFan Navii Ver.1.5」と対応GPSユニットをお借りできたので、詳しくレビューしよう。

タッチパネル液晶を前提とした画面表示

 まずは動作環境を見てみよう。対応CPUはIntel AtomプロセッサZ520(1.33GHz)相当もしくはIntel Pentium Mプロセッサ800MHz相当以上。メモリは512MB以上、HDDは3.9GB以上となっている。現在、市場で流通しているネットブックならこれらのスペックはクリアしているので、ストレージ容量の少ないSSD搭載PCでもなければ問題ないだろう。

 「MapFan Navii」は、当初はタッチパネル液晶を搭載した「WILLCOM D4」向けに提供されていたソフトウェアなので、画面もタッチパネルを前提とした作りになっており、操作ボタンは指で押しやすいようにかなり大きめにデザインされている。表示サイズは1024×600ピクセルに固定されているが、これは少し残念だ。縦方向で600ピクセル未満のディスプレイを搭載したネットブックも少なくないし、逆に解像度が高い普通のノートPCで使う場合は、せっかくの大画面が活かされないことになる。


地図画面

 文字入力時にはソフトウェアキーボードが表示されて、タッチパネル液晶を搭載したPCであれば画面を押しての入力が可能だ。タッチパネル液晶が非搭載のPCで使う際はタッチパッドやマウスを使うか、ハードウェアキーボードから直接入力する。ただし地図のスクロールについては、スクロールさせたい方向を画面クリックで指定する方法以外に、カーソルやテンキーで操作することも可能だ。


メニュー画面

 動作確認済みのGPSユニットは、アイ・オー・データ機器の「UMGPS」シリーズと「USBGPS2」シリーズ、アイ・ビー・エス・ジャパンの「GPS20C」。今回サンプルとして借りたのは「UMGPS」だ。なお、GPSユニットを接続しない状態でもソフトウェアは起動可能なので、普通の地図ソフトとしても使おうと思えば使える。

 GPSユニットの価格は「UMGPS」が実売で約1万円。「MapFan Navii Ver.1.5」の希望小売価格は1万3650円なので、合計で約2万円強の出費となる。また、インクリメントPが運営する直販サイト「iPCダイレクトショップ」では、「GPS20C」が同梱された「MapFan Navii Ver.1.5 GPSセット」が2万1500円で用意される。

 「GPS20C」はBluetoothに対応しており、PCとのワイヤレス接続が可能なので、PCを持って車から降りる場合にいちいちGPSユニットのUSBケーブルを外す必要がなく、また、車内でのケーブルの取り回しを考える必要もなくなる。「MapFan Navii Ver.1.5」との相性は抜群だ。


アイ・オー・データ機器の「UMGPS」アイ・ビー・エス・ジャパンの「GPS20C」

豊富な施設検索データを収録

 地図の縮尺は10m~100kmスケールで、縮尺切り替えのボタンや方向を示す矢印が画面の左横に配置される。「周辺検索」や「ここに行く」といったメニューボタンは画面下に並ぶが、画面上をタッチするとメニューが自動的に隠れて見やすくなる。

 画面左下の「MapFan」ボタンをクリックすると、メニュー画面となる。まずは施設検索だが、これには施設検索、住所検索、電話番号検索、目的別検索、名称検索、地図サイト「MapFan Web」の情報からのスポット検索である「Map Fan ch(チャンネル)」の計6種類が用意されている。

 収録されている電話番号検索のデータは約670万件で、住所検索は約3600万件、駐車場データは約3万7000件、周辺検索は約200万件。この収録データの豊富さは低価格PNDにはないメリットと言える。また、有料オプションでオービスのデータも用意されている。価格は2079円で、「MapFan Web」の会員サイトからダウンロード可能だ。

 「MapFan ch」には、テレビで紹介されたスポットを表示できる「テレビ de み~た」と、インターネットの情報共有サービス「ココメモ」に掲載されたクチコミスポット情報を表示する「クチコミ特集」、観光情報を表示する「観光楽地図」の3種類が用意されている。これらの情報を利用するには、データ通信サービスや無線LANなどでインターネットに接続している必要がある。


「MapFan ch」のメニュー画面

インターネット経由でVICSの渋滞情報を取得

 目的地を地図上で指定して「ここへ行く」ボタンをクリックすれば、案内ルートを作成できる。ルート案内は、一般的なカーナビのように画面のイラストと音声の組み合わせで行われる。交差点にさしかかると、自動的に地図が拡大表示となるので便利だ。方面看板やレーン情報なども大きく表示されて見やすく、高速道路の入口や分岐などのイラストも表示される。

 低価格のPNDでは斜めに曲がるときに「斜め右です」といった音声指示を出さず、右折か左折かを指示するだけのものもあるが、「MapFan Navii」ではそのような細かい指示もガイドする。オートリルート機能もあり、ルートから外れるとすぐにリルートして新たなルートを作成してくれる。ただし、交差点を曲がるときに交差点名を読み上げる機能がないのは少し残念だ。


ルート検索画面

ルート案内中の画面

 有料オプションサービスとなるが、VICSに対応しているのもうれしい。データの入手は普通のカーナビのようにビーコンを使うわけではなく、インターネット経由となるので、ドライブ中にインターネット接続できる環境を持たない場合は使えない。しかしその一方でメリットもある。インターネット経由でVICS情報が取得できるとなると、家にいるときにも有線でインターネットに接続してVICSを取得できるので、ドライブ前に家で一般道の細かい渋滞状況がチェック可能になるのだ。一般的なカーナビではこのような芸当はできない。


渋滞情報は有線によるインターネット接続からも取得可能

 なお、フルナビと違って車速センサーによる自律航法を使用できないので、ビルの谷間やトンネルに入ったときは自車位置が特定できない。このためか、ビルが密集した地域をドライブしているときに、ルートを外れてもいないのに「ルートを外れました」とアナウンスが入ることが何回かあった。PCに車速を入力するデバイスが一般的に普及していないので仕方ないのかもしれないが、この点は将来的になんとかしてもらいたいものである。

ガソリン価格や駐車場の空き状況も検索可能

 このほか、「MapFan Navii Ver.1.5」の特徴として挙げられるのが、ガソリン価格検索だ。現在地の周辺にあるガソリンスタンドを検索したときに、スタンド名のリストの横にガソリンの価格が掲載される。レギュラーとハイオクの価格がそれぞれ「R128」「H145」などと記載されているので、リスト上で価格を比較して、その地域で最も安いガソリンスタンドを調べられる。

 駐車場の空車検索機能にも注目だ。これは周辺の駐車場のリストを調べられる機能で、それぞれの空き具合を調べられる。ガソリン価格検索と駐車場の空車検索機能は、どちらもインターネット経由でデータを取得するもので、ネットに接続できる環境さえあれば最新情報を入手できる。Webブラウザを立ち上げて、いちいちガソリン価格の比較サイトにアクセスするよりもすばやく現在地周辺の状況を調べられるのは便利だ。さらに、天気情報などもインターネット経由で取得できる。

 「MapFan Navii Ver.1.5」がPNDに比べて優れている点は、HDDにインストールする大容量データだけでなく、VICSやガソリン価格情報などインターネットで得られる情報にもある。本機種をフルに活用するためにも、インターネットへの無線接続環境は必須だと思う。

 なお、渋滞情報、ガソリン価格検索、駐車場の空車検索などを利用するためには有料(年額4179円)の通信オプションを申し込む必要がある。ただし、通信オプションの契約者は地図ソフト「MapFan.net」を無料で利用できるという特典が付いている。地点メモや走行軌跡などのデータを両ソフト間で連携できるので、ドライブ中は「MapFan Navii」、車を降りたら「MapFan.net」と使い分けられて便利だ。


ガソリン価格検索

駐車場検索

 低価格PNDよりも情報量が多く、VICSで渋滞情報も取得できる「MapFan Navii Ver.1.5」は、すでにネットブックとGPSユニットを持っている人にとってはなかなか魅力的な商品だ。自律航法機能がないので“フルナビ並みの使い心地”とまではいかないが、低価格PNDよりワンランク上の環境をわずかなコストで実現できるだろう。

 ただし、カーナビとして快適に使うためには、ネットブックをダッシュボードの見やすい位置に固定するためのブラケットや、シガーライターからPCの電源を取るための機器が必要だ。以前からノートPCをカーナビとして使っていたユーザーならソフトウェアおよび通信オプションだけのコストで済むが、すべてを一から揃えようとすると細かいコストがいろいろとかかるので注意しよう。


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2009/9/17 11:00


碓氷 貫
フリーライター/編集者。Eコマースや地図サービス、データベース、コンテンツなど、Webサイトの価値を高めるさまざまなサービスをテーマに活動している。地図やハンディGPSを片手に街や山を徘徊する一方で、通販サイトでお買い得品をチェックすることにも余念がない。