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「地理院地図」が目指すオープンイノベーション、自動運転に役立つ「ダイナミックマップ」 ほか
(2015/12/3 06:00)
東京・お台場の日本科学未来館で11月26~28日に開催されたイベント「G空間EXPO」。地理空間情報(G空間情報)をテーマにしたこのイベントでは、地図や位置情報、GIS、測位技術、測量、自動運転システムなどに関連したさまざまな製品やサービスが展示された。その展示会場の模様はすでにお伝えした(2015年11月27日付記事『ヘッドギア型測位デバイスで位置情報をスポーツに活用、誤差10cmの「ウェアラブルRTKシステム」搭載』)が、本連載では、位置情報メディアをテーマにしたフリーカンファレンス「ジオメディアサミット」および自動運転システムに関するパネルディスカッション、そして国土地理院が主催するコンテスト「Geoアクティビティフェスタ」についてレポートする。
「地理院地図」の中の人が登壇、過去の地図を見られる「時空間タイル」提供検討も
初日に開催されたジオメディアサミットは、「過去・現在・未来」がテーマ。最初に国土地理院の藤村英範氏(イベント開催時点では地理空間情報部情報普及課、現在は企画部国際課に所属)が登壇した。国土地理院は、電子地形図を含むウェブ向け地図データ「地理院タイル」を提供しており、ウェブ地図サービス「地理院地図」は地理院タイル利用のショーケースとして提供している。
藤村氏は、2015年7月で12周年を迎えた「地理院地図」(誕生時の名は「電子国土ポータル」で、「電子国土Web」と呼称した時代もあり)の地図データ/システム配信について、これまでの変遷を紹介した。2003年に、IE用ActiveXコンポーネントおよびJavaScript APIからスタートし、5世代目となった現在は国土地理院製のソフトウェアを無くして、タイルのXYZ方式配信に切り替えている。
「地図サービスを提供するための“システム”と“データ”のうち、だんだんとシステムを小さくしてきて、今はゼロにしているという流れになります。我々は基本的には“地図屋”なので、さまざまなAPIから地図を使えるようにしたいと思っていて、そのために地図データをAPIから独立させる必要がありました。“餅は餅屋”と言いますが、地図は地図屋に、システムはシステム屋にというふうに分業することで社会は発展すると考えています。」(藤村氏)
現在、地理院タイルとしては、標準地図や空中写真、標高タイルなどさまざまなものを配信しているほか、今後は過去のタイルに日付を付けて、過去の地図を見られるようにする「時空間タイル」の提供も検討しており、準備が済み次第、いろいろなところでオープンにしていく予定だという。
藤村氏は、ウェブ地図の未来として、モジュール化によってさまざまな組み合わせが起こることでオープンイノベーションが実現することを思い描いており、その推進は「GitHub」のようなコラボレーション促進ツールによって行われると語った。
「GitHubなら、ウェブ上でコラボレーションを対等・高速・簡単・非同期に行うことが可能となります。国土地理院では地理院地図のソースコードをGitHubに公開しており、現在、100人以上の方がフォーク(レポジトリを複製すること)を行なっています。それらの方々が地理院地図の“分身”にいろいろなデータを入れて、それを改めて共有することにより、思いもしなかった組み合わせでいろいろな価値が生まれると面白いし、そのような地理空間情報がネット上を自在に飛び交う世界を作りたいという思いは、もともと我々が“電子国土”をスタートさせるときに目指していたことです。」(藤村氏)
藤村氏は、このようなコラボレーションの例として、首都大学東京の渡邊英徳教授の「東日本大震災アーカイブ」で国土地理院の写真タイルや標高タイルが活用されていることや、市民参加型の地図作成プロジェクト「OpenStreetMap(OSM)」において日本地域の地図データで誤っている部分を修正する際に、地理院タイルをトレース用の“正しい画像”として使用するよう推奨されていることなどを紹介した。
さらに、ベクトル形式のデータを配信する「ベクトルタイル提供実験」についても紹介した。この提供実験では、6月に「注記ベクトルタイル」、8月には「道路・河川・鉄道中心線ベクトルタイル」、10月には「基盤地図情報基本項目(点・線)」および「基盤地図情報(10m数値標高モデル)」、11月13日には「基盤地図情報(5m数値標高モデル)」と、さまざまなデータの全国提供を行なってきた。
「ベクトルデータなので、従来に比べて幅広い使い方が考えられます。例えばGitHubでは、漢字とひらがな注記タイルをローマ字に変換したり、河川中心線の“向き“のデータをもとに水が流れる方向を点線の動きで表現したりする事例が見られました。また、日本だけでなく海外でも、『Tangram』というツールでベクトルタイルを読み込み、属性でフィルタリングするなどの活用例が報告されています。」
藤村氏はこのようなオープンイノベーションを目指す情報共有・意見交換の場として、「地理院地図パートナーネットワーク」というネットワークを構築したことも紹介。国土地理院スタッフに加えて、受託開発者やツール提供者を交えて年に2回の会議を実施するほか、具体的な活用をカタログ化した「地理院地図パートナーリスト」を作成して、発注者やエンドユーザーに公開していく予定だ。ちなみに今回のG空間EXPOの3日目には、地理院地図パートナーネットワークの第4回の会議も開催され、多くのパートナー企業が地理院タイルを使った事例を発表した。
ジオメディアサミットではこのほかに、株式会社オーバルギアの入江崇氏によるiOS向け今昔写真アプリ「time tours」の講演も行われた。同アプリでは、古写真を位置情報や撮影時期とともに掲載し、さらに、同じ場所や同じアングルから撮った現代の写真も切り替えながら見比べられる。撮影場所や撮影方向を地図上で確認することが可能で、東京周辺や京都の一部では古地図も楽しめる。
「Googleストリートビューも昔に遡って見られる機能はありますが、2000年代までしか遡れません。time toursでは昭和の時代に遡って今の景色と重ね合わせることができるという点に価値があります。地図から写真を探せるだけでなく、現在地に近い順に並べることも可能で、各地の写真をパッケージとして並べて、そこから探すこともできます。このアプリを作るにあたっては、古写真を探すところから始まり、その写真を撮影した位置を探し、さらに現地に行って写真を撮影するという手間が大変でしたが、『昔の人は実際にここから撮影したのだ』ということが実感できるので、作業としては楽しかったです。」(入江氏)
time toursは2015年10月でリリース4周年を迎えたが、このたび海外にも進出し、第1弾としてロシアの写真も掲載を開始した。また、日本国内においても、商店街と連携して店舗の古写真を掲載するなど、新たな取り組みも始まっている。同アプリでは、ユーザーが自分で現地に行って写真を撮影し、投稿できる機能を搭載しているが、最近になって、半透明の古写真をガイドにして、同一アングルの写真を撮影できる機能や、アルバムから選択した写真を任意に拡大縮小回転してトリミングできる投稿補助機能も追加した。今後は古写真の投稿機能や、ウェブ版やAndroid版の提供も予定している。
また、今回のジオメディアサミットには、訪日外国人観光行動分析ツール「inbound insight」を提供する株式会社ナイトレイの代表・石川豊氏も登壇した。発表内容としては、石川氏による「inbound insight」の紹介のほかに、ライトニングトークでは同社デザイナーの古川英幸氏による新アプリ「ABC Lunch~今日のゴハンがすぐ見つかるアプリ~」の紹介も行われた。
同アプリは、SNS(Twitter)のビッグデータを利用してユーザーと地域の飲食店を結ぶiOSアプリ。ナイトレイが保有するSNS投稿データベースをもとに、現在地周辺にあるおすすめの飲食店の写真や口コミ、店舗までの道のりなどの施設情報を表示する。SNS投稿の傾向をもとに、似たような人の行動履歴からレコメンドするため、今まで行ったことのなかったような穴場スポットなども発見できる。また、地図によるルート案内や店ごとの人気度スコアの解析機能も搭載する。同アプリは今後、訪日外国人旅行者にも対応する予定だ。
リアルタイムの交通状況をクラウド上に再現する「ダイナミックマップ」
このほか、最近になって注目を集めている「自動運転システム」をテーマとしたパネルディスカッションもメインステージにて行われた。「自動運転システムと高精度3次元地図」と題したこのプログラムでは、東京大学空間情報科学研究センター・特任准教授の中條覚氏がモデレーターとなって、名古屋大学大学院情報科学研究科・准教授の加藤真平氏と、名古屋大学未来社会創造機構・教授の高田広章氏がパネリストとして参加した。
加藤氏は、高精度の3次元地図を自動運転システムのインフラとして利用するのがトレンドになっていることを紹介。その1つの使い方として、車の屋根にLIDAR(レーザースキャナー)を搭載して周囲の形状をリアルタイムに取り込み、そこから得られたデータと3次元地図を比較することで自車位置の推定をかなり正確に行えると語った。「レーザーのデータを取得するたびに、自分の位置を3次元地図と比較しながら推定することで、方向も含めてリアルタイムに現在地が分かります」と加藤氏。この技術を使って複数の車が正しい位置情報をクラウド上で共有することにより、交差点での出会い頭の事故が減る可能性があると語った。
このように、車や歩行者の位置情報など、交通社会に関するリアルタイムな状況をクラウド上に再現するデータベースは「ダイナミックマップ」と呼ばれており、高田氏はこのダイナミックマップの研究に取り組んでいる。
「例えば高速道路の合流点において、合流しようとする車に対して『少し速度を上げて白い車の後ろに入ってください』と呼び掛けたり、割り込む相手の車に対して『合流してくる車に譲ってください』と指示を出したりすることで、高齢者でもストレスなく快適に運転することが可能となります。このダイナミックマップの技術は、自動運転システムに利用することもできます。」(高田氏)
現在、ダイナミックマップの標準化に向けた取り組みが進められており、自動走行システムの重点分野として注目されているという。
「既存の道路情報やプローブ情報、MMS(モービルマッピングシステム)の測量データなど、官民で協力して基盤的な地図を作れないか検討しています。それを自動車メーカーのデータセンターから車に配信することで、自動走行を実現し、さらに自動走行車からはプローブ情報が送信されるので、これらのデータをまた基盤データの更新に使えるようにします。このようなデータの循環を行う仕組みを作ろうと取り組んでいて、昨年は静的な地図を、お台場地区をサンプルに作りました。今年は、その地図の上にさらに動的な情報を載せたらどうなるかをトライアルで行っています。」(高田氏)
16作品が参加した「Geoアクティビティフェスタ」
地理空間情報に関するアイデアやユニークな製品、技術などを展示・審査・表彰するコンテスト「Geoアクティビティフェスタ」には、今年は計16作品が参加した。以下、受賞作の中から主な作品を紹介する。
ウェブ上でバーチャルツアーを作成・投稿・鑑賞できる「だれでもガイド!」
http://www.comp.tmu.ac.jp/kurata/DaredemoGuide/
最優秀賞に選ばれたのは、ウェブ上で各地の「バーチャルツアー」を作成・投稿したり、ほかのユーザーが投稿したバーチャルツアーを鑑賞したりすることができるツール「だれでもガイド!」(首都大学東京・倉田研究室)。Googleストリートビューを背景に、キャラクターのイラストや効果音などをドラッグ&ドロップし、スライドショーを作るような感覚で簡単にバーチャルツアーを作成できる。位置情報付きのため、現在地や旅の軌跡を地図上で確認することが可能で、アドベンチャーゲーム風に選択肢を表示するといった演出も行える。ストリートビューのため、あたりの景色を眺めまわすことも可能。用途としては、観光情報発信のほか、商店街の店舗紹介や施設・駐車場への経路案内、小中学校での地理教育など、さまざまな使い方が考えられる。
ハッカソンで生まれたアイデア「位置情報+時間=思い出 ゲーム感覚の地域文化アーカイブプラットフォーム」
http://www.tri-tome.co.jp/newsworks/20151018/
優秀賞に選ばれたのは、「位置情報+時間=思い出 ゲーム感覚の地域文化アーカイブプラットフォーム」(株式会社トリトメ、代表:西部一英氏)と、「空き家管理調査システム ふるさぽマップ」(NPO法人ふるさと福井サポートセンター、理事長:北山大志郎氏)。
位置情報+時間=思い出は、地域の文化や体験を位置情報とともに記録できるアーカイブシステムと、その情報を共有できるアプリケーションを統合したプラットフォーム。地域の人がその場所の思い出(エピソード)を位置情報とともに専用サイトから登録し、登録された思い出と位置情報が連動するスマートフォン用のゲームアプリを使ってビンゴゲームを楽しめる。地元商店街への誘客など、O2Oの仕組みを提供することも可能だ。すでに川崎市宮前区などでAndroid向けアーカイブ共有アプリ「おもいで坂~想い出共有アプリ~」を提供開始している。また、同システムを使った教育用途での利用も開始している。
自治体向けの空き家調査管理システム「空き家管理調査システム ふるさぽマップ」
http://furusato-fukui.com/furusapomap/
ふるさぽマップは、全国の自治体に向けた空き家調査管理システム。iPadを使って調査業務を行い、現地で写真撮影や調査日の入力、場所の登録を行える。調査データはPCに搭載されたデータベースで一元管理できる。iPadの入力業務は簡単なため、大手コンサル会社や専門組織による調査などを行う必要がなく、地元の業者やシルバー人材を活用できる。同センターは空き家の調査から管理までをトータルサービスとして業務委託が可能で、活用可能な空き家のリノベーションの提案なども行っている。
エプソンの最新ヘッドセットを活用、「スマートグラスを利用した現地調査入力システム」
http://www.g-expo.jp/geofes/pdf/geofes_presenter06.pdf(PDF)
来場者からの投票による「来場者賞」に選ばれたのは、エプソンが発売した最新のスマートヘッドセット「MOVERIO Pro」を活用する「スマートグラスを利用した現地調査入力システム」(株式会社デバイスワークス)。タブレットによる調査では、目視で確認してから首を下にして入力することで頭を動かす動作が多くなり疲れるという課題があったが、スマートグラスに置き換えることで、楽に入力できるようになる。標識調査や街路灯調査、樹木調査のほか、建設現場での利用などさまざまな用途に利用可能。地下埋設物などのAR表示機能も搭載している。
スマホゲーム利用で子どもの見守りや多世代交流を実現する「じじばばウォッチ」
http://www.g-expo.jp/geofes/pdf/geofes_presenter14.pdf(PDF)
今回は奨励賞として3つの作品が選ばれたが、その中の1つがこの「じじばばウォッチ」。このアイデアは、地域に住む高齢者に子供たちの見守りパトロール活動を行ってもらうと同時に、高齢者たちに「妖怪」の役割を演じてもらい、その妖怪を子供たちがスマートフォン用ゲームアプリを使用して発見していくというもの。地域内での多世代交流を促進するとともに、高齢者による地域の見守りパトロール活動を盛んにして地域の防犯強化を行い、子供たちを危険から守る。高齢者の外出が増えることで、高齢者の健康増進にも役立てられる。
なお、このじじばばウォッチと優秀賞を受賞した位置情報+時間=思い出は、いずれも2014年に開催された国土交通省主催「地理空間情報に関するアプリケーション・サービス普及促進業務:G空間未来デザイン」内で開催されたアイデアソンをきかっけに誕生した作品。同プロジェクトでは、川崎市宮前区を舞台に地域課題解決のアイデアが創出され、プロジェクト終了後も事業化を目指して活動しているプロジェクトがいくつかある。今回のG空間EXPOでは、展示会場の国土交通省政策局のブースにおいて、この「G空間未来デザインプロジェクト」の成果が紹介されていた。
地理空間情に関連した技術やサービスが一堂に会して現状を見渡せるイベント
今年で5回目の開催となったG空間EXPO。3日間を通じて、地図や位置情報、測位技術、自動運転などに利用されているさまざまな技術や最新の製品・サービスなどを見渡すことができた。今後、このような新製品や新サービスがどのように発展していくのか注目される。