中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2024/1/25~1/31]

テイラー・スウィフトのフェイク画像が拡散される ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. 生成AIへの対応をコンテンツホルダーが模索

 音楽著作物に関係する団体が「AIに関する音楽団体協議会」を設置した(Impress Watch)。参加団体は、コンサートプロモーターズ協会(ACPC)、日本音楽作家団体協議会(FCA)、日本音楽事業者協会(JAME)、日本音楽出版社協会(MPA)、日本音楽制作者連盟(FMPJ)、日本音楽著作権協会(JASRAC)、日本芸能実演家団体協議会、実演家著作隣接権センター(CPRA)、日本レコード協会(RIAJ)、NexTone(ネクストーン)の10団体。

 生成AIに対しては、創作活動の支援に役立つ可能性を認めつつも、生成AIによってクリエイターやアーティストの活躍の場が狭められることも想定し、現行の著作権法のもとでは権利者の意思を反映できず、また、フェイクコンテンツから権利者を保護する制度も十分ではないとし、「調和のとれた生成AIの活用に向けた検討や提言を行なう」ことを目指すとしている。

 新聞社にも具体的な動きが出ている。すでに昨年10月30日に、日本新聞協会は「生成AIに関する基本的な考え方」を発表しているが、読売新聞社は個別にウェブメディアの「読売新聞オンライン」の利用規約を改定し、掲載記事を生成AIなどに学習させる行為などを新たに禁じるとしている(ITmedia)。さらに、スクレイピングも禁止するとしている。記事を利用する場合は、ライセンス契約を結ぶ必要があるとしている。

 米国ではニューヨークタイムズがOpenAIなど生成AIを開発している企業を提訴しているが、これから国際的にはコンテンツの学習という意味での合意形成の議論が進むものと思われる。

ニュースソース

  • 「AIに関する音楽団体協議会」を立ち上げ JASRACなど音楽9団体[Impress Watch
  • 読売新聞、Web記事の“生成AIへの学習利用”を禁止に 利用規約を改定 スクレイピングなどもNG[ITmedia

2. テイラー・スウィフトのフェイク画像が拡散される

 グラミー賞も受賞している米国の人気シンガーソングライターであるテイラー・スウィフトさんのディープフェイク画像や映像がXで拡散されたことが報じられている(Gigazine)。こうした事態を受け、Xでは「Taylor Swift」という文字列の検索をできないように対処しているとしている。これを報じているGigazineの記事によれば「2024年1月の第4週頃から、X上でテイラー・スウィフトのフェイクポルノが急速に拡散されていることが報告」されていたとし、削除されるまでの17時間に「特に注目を集めた動画のひとつは4500万回以上再生されており、投稿は2万4000回以上リポストされており、数十万件のいいねやブックマーク」を集めたというから規模は大きい。

 これには、米国政府も動いた。カリーヌ・ジャンピエール大統領報道官のは、「憂慮すべきことだ。この問題に対処する法律があるべきだ」と語った(ITmedia)。

 こうした画像は、マイクロソフトの「Microsoft Designer」などを利用して作成されているようだ(ZDNET Japan)。ZDNETの取材に対し、マイクロソフトの広報担当者も「当社は全ての人々にとって安全で、他者を尊重したかたちでのエクスペリエンスを提供することを約束する」「これら画像についての調査を継続しており、今後はそういった画像の生成に向けて当社のサービスが悪用されないよう、既存の安全システムを強化している」と述べたことが伝えられている。

ニュースソース

  • X(旧Twitter)で「Taylor Swift(テイラー・スウィフト)」が検索不可能に、ディープフェイクポルノ拡散防止のため[Gigazine
  • Xでのテイラー・スウィフト偽AI画像拡散について米連邦政府が懸念表明 Microsoftは「Designer」のフィルターを強化[ITmedia
  • マイクロソフト、「Designer」の保護機能を強化--ディープフェイク問題を受け[ZDNET Japan

3. 国際的な「選挙イヤー」、大手IT企業の対応は?

 今年は世界各国で重要な選挙が行われることから、「選挙イヤー」であるといわれている。そのようななかで、懸念されるのは偽情報の拡散である。生成AIが広く利用されるようになって初めてのことでもあり、いったい何が起こるのかは予測もつかない。もちろん、生成AI、SNSなどを開発し、運用する企業はその対処について発表をし始めている。Forbes JAPANでは、各社の対応をコンパクトにまとめて記事にしている(Forbes JAPAN)。

 OpenAIは「有権者が画像を信用できるかを判断するのに役立つ認証ツールを導入すること」を表明している。メタは「広告主に対して、政治・社会・選挙関連の広告コンテンツの作成や改変にAIを使用した場合に、それを開示するよう求める」という。一方、X(旧Twitter)は昨年「偽情報や誤情報に対処する『選挙インテグリティ』のチームを解雇した。同社のオーナーでビリオネアのイーロン・マスクは、このチームが選挙の公正性を損なっていたと主張している」とされる。

 選挙結果によっては、世界情勢が大きく変わる可能性もある。それぞれの企業規模は巨大であり、責任を持って運用することは当然なこととはいえ、一企業の倫理観や対策に任せるしか方法はないのだろうか。

ニュースソース

  • ハイテク大手は「世界的な選挙イヤー」のAI偽情報をどう監視する?[Forbes JAPAN

4. 2023年の出版市場規模、電子が6.7%増、紙は6.0%減

 1月25日、全国出版協会・出版科学研究所は、出版指標として「2023年出版市場」を発表した(出版科学研究所)。それによると、2023年(1月~12月期累計)の出版市場規模は、「紙と電子を合算した出版市場(推定販売金額)は、前年比2.1%減の1兆5,963億円と、2年連続の前年割れ」という結果になっている。その内訳としては、「紙の出版が同6.0%減、電子出版が同6.7%増。紙の出版は書籍、雑誌ともにマイナス。電子出版は、電子コミックはプラスでしたがそれ以外は減少」したことになる。

 電子出版市場は引き続き電子コミックが好調であるものの、それだけでは紙市場の減少を補えなかった。一方、電子雑誌はサブスクリプションサービスの「dマガジン」の会員数の減少を指摘している。

ニュースソース

  • 2023年出版市場 紙+電子は 2.1%減の1兆5,963億円、紙が6.0%減、電子が 6.7%増[出版科学研究所

5. アップルが「代替アプリストア」を容認

 アップルは、EU(欧州連合)におけるiOS、Safari、App Storeの変更について発表した(INTERNET Watch)。これらの変更はEUのDMA(Digital Markets Act:デジタル市場法)に対応するためである。そのなかには大きな変更ポイントとして、App Store以外の代替アプリストアの容認、開発者の手数料減額などが含まれている。サイドローディングについては日本でも議論されているところであり、今後の方向性を見極める1つの材料となるだろう。

 なお、このサイドローディングについては、EU域内に限定されることから、当然、これを回避する方法を考える人も出ることは想定されることだ(CNET Japan)。最も容易に思いつくのはVPNを利用することだが、アップルはZDNETの取材に対して「VPNを使用してもiPhoneでアプリをサイドローディングできるようにはならない」とコメントしている。こうした特定の域内でのルール策定はデジタル技術において、実効性を伴う施策となるのか。1つの社会実験ともいえそうだ。

ニュースソース

  • Apple、EU向けに代替アプリストア容認などDMA対応措置を発表[INTERNET Watch
  • EU域外で「iPhone」にアプリをサイドローディングする抜け道はあるのか[CNET Japan
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。