どうする!? ネットの誹謗中傷、最新事例で知る悲惨さとリスク
風俗店での副業を匿名掲示板でバラされて退職、加害者を特定して慰謝料を請求するまで
2022年2月25日 06:30
一般企業で働いている30代会社員の女性Aさんは、副業として風俗店にも勤めていました。ある日、特定掲示板の風俗店スレッドに「B店の沙紀はCで働いてる割には金がねーのな」といった投稿が数回行われました。「沙紀」は働いている風俗店での源氏名、Cは企業の略称です(※本記事に登場する名前、店名、企業名は架空のものになります)。
たったこれだけなのですが、しばらくしてからAさんは上司から呼び出されました。掲示板の投稿を見た同僚が風俗店のホームページを見て、顔写真からAさんを見つけ出したのです。Aさんが働いている企業は副業が禁止だったので、その報告を受けた上司から呼び出しを受けたのです。
確かに風俗店で働いていることはあったので事実を認めたところ、戒告を受けました。減給も出勤停止もなく厳重注意だけだったのですが、会社全体に噂が広まっていました。周りの雰囲気も一気に悪くなり、いたたまれなくなってAさんは退職することになります。
就職活動をする前に、投稿をなんとかしたいと考えたAさんは弁護士に相談しました。発信者の開示請求を行うにあたり、本人を同定できることを証明しなければなりません。
スレッドが立っている地方にはその店しかないので確定できます。また、その店で「沙紀」という源氏名で働いていたのはAさんだけです。企業名は略称だったのですが、その地方において「C」と言えば、誰もが思い浮かべる老舗企業があり、広く認識されています。よって、「沙紀」がAさんを対象としていることは明らかだ、と主張しました。実際、同僚もその投稿を見て検索して見つけているのです。
一般にはもちろん公開されていない情報ですし、Aさんがどこの会社で働いているのかは私生活上の事実で、公開されることで心理的負担になるのは明らかです。
プライバシー権侵害の慰謝料、Aさんの場合は150万円で決着
Aさんは、まずは掲示板を運営している事業者に発信者情報開示請求を行いました。弁護士費用は20万円です。プライバシー権が明らかに侵害されていると伝えたところ、IPアドレスなどが得られました。次に、プロバイダーに開示請求を行います。今回は関西の小規模プロバイダーでした。こちらの弁護士費用は10万円かかりました。
掲示板は運良く裁判することなく開示してくれました。そして、プロバイダーに請求を行ったところ、開示してよいかどうか投稿者に連絡がいきます。拒否することもできますが、その場合は裁判することになります。
プロバイダーから開示請求があったと連絡を受けた投稿者はあわてふためき、別の弁護士に相談しました。そして、その代理人から連絡が来ました。
そこで慰謝料の請求を行いました。実は、プライバシー権侵害の慰謝料の相場はとても低くなります。100万円を超えることもあるのですが、多くは10~50万円です。しかし、Aさんは実際に被害を受けていますし、感情的にも許せません。200万円の慰謝料を提示し、交渉を開始したところ、150万円ですぐに決着が付きました。
相手の素性は明かされていないので詳しいことは分かりませんが、裕福な相手だったようです。裁判になると身元が分かってしまうので、その前になんとかしたかったのでしょう。
Aさんのケースでは150万円で決着が付きましたが、相場が低い中で今回のケースは大勝利と言っていい金額です。
また、プロバイダーがログを保存する期間は一般的に3カ月間から6カ月間と短いのですが、今回のケースではこの期間内に開示請求を行ったことも良かったです。相手を特定するなら少しでも早く動くことをお勧めします。
しかし、成功報酬を含めた弁護士費用は100万円近く、Aさんの手元には60万円弱しか残りませんでした。証拠保全のために残しておいた掲示板の投稿もこれからまた申請して削除してもらいます。この手続きにもお金がかかります。会社を辞めることになったことを考えれば割には合いません。
ネットの誹謗中傷案件を手掛ける弁護士法人大地総合法律事務所代表の佐久間大地弁護士に、今回のような誹謗中傷を受けてしまったらどうすればいいのか、アドバイスをいただきました。
「発信者情報開示の法律が改正され、ネット掲示板管理者のコンプライアンス意識が高くなっていることからも、インターネット上の誹謗中傷は被害者にとって悪というだけではなく、加害者にとっても、自らの社会的地位を脅かしたり、損害賠償を負ったりといったリスクのある行為です。投稿者は相手ががどれだけ傷ついてしまうかを想像し、安易な発信を避けるべきでしょう。被害者の方は、投稿者を特定できれば、慰謝料請求や刑事告訴も可能ですので、一刻も早く弁護士に相談して、通信ログの保存を行ってもらいましょう。」(佐久間氏)
加害者もあまりひどい内容だと考えずに数度投稿しただけで、自宅に連絡が来たうえ、150万円の慰謝料を支払っています。誹謗中傷は被害者はもちろん、加害者にとってもメリットはありません。気軽な愚痴のつもりでも、捕まる可能性があるので、誹謗中傷は書き込まないように肝に銘じておきましょう。そして、もし誹謗中傷を受けて悩んでいるのであれば、速やかに弁護士に相談することをお勧めします。
ネットの匿名性を悪用する誹謗中傷が社会問題になっています。誰もが被害者になりえますし、無意識に加害者になってしまう可能性もあります。この連載では、筆者が所属する「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」が独自に取材した情報を共有し、実際に起こった被害事例について紹介していきます。誹謗中傷のない社会を目指しましょう。
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