どうする!? ネットの誹謗中傷、最新事例で知る悲惨さとリスク

悪ふざけで掲示板に書き込んだ内容が原因で実家に開示請求の連絡が来た

軽い気持ちで書き込んで後悔

 今や大きな社会課題となっているネットの誹謗中傷問題。2021年2月にプロバイダ責任制限法の改正が閣議決定されるなど、犯人を簡単に突き止められるように変わりつつあります。しかし、それでも誹謗中傷は日々起こっています。

 今回は、風俗店で働いている女性が身に覚えのないことをローカル掲示板に書き込まれ、弁護士に頼んで犯人を突き止め、示談にまで持ち込んだ事例を取材しました。なお、個人情報を守るために、情報の一部は改変しております。

ネットの匿名性を悪用する誹謗中傷が社会問題になっています。誰もが被害者になりえますし、無意識に加害者になってしまう可能性もあります。この連載では、筆者が所属する「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」が独自に取材した情報を共有し、実際に起こった被害事例について紹介していきます。誹謗中傷のない社会を目指しましょう。

同僚の報告で発覚、事実と全く異なる内容が掲示板に書き込まれた

 2020年末、風俗業界で働いているAさんは、掲示板に書き込まれている内容について、同僚から教えてもらいました。その書き込みには、店の名前とAさんを名指しして、生ビールのアイコンが付けられ「良かった」と書き込まれていたのです。同アイコンを使ったこの書き込みには性的な意味が含まれています。

 事実と異なるので誹謗中傷に該当するだけでなく、それを見た客が鵜呑みにして性的なことを無理強いしてくるという被害も発生しました。掲示板には、さまざまな内容が複数回投稿されており、影響も無視できるものではありませんでした。今回の事例ではありませんが、掲示板の偽情報が原因で傷害事件になったケースもあります。

 実は、地元情報が集るローカル掲示板には風俗嬢に関する情報がよく書き込まれます。事実と全く異なる投稿も多く、それによって被害が発生するケースもあります。今回もその典型例と言えます。

 他にも別人によって書き込まれたとみられる目に余る投稿が複数あり、我慢しきれなくなったAさんは弁護士に依頼し、犯人を特定し、損害賠償請求を行うことにしました。中でも特にひどい内容の5件の投稿に関して、まずはローカル掲示板側に発信者情報開示請求を行いました。誹謗中傷が明らかだったため、すぐに情報は開示されたのですが、投稿日時とIPアドレスしか分かりません。次は、そのIPアドレスを元に、携帯電話会社やインターネットサービスプロバイダーに再度、開示請求を行うことで、氏名や住所に関する情報を入手できました。結果的に前述の5件の投稿については、5人によって書き込まれていることが分かりました。

 それぞれに15万円ほどかかり、投稿5件分で150万円の費用の負担になりました。1件あたり30万円は相場よりも随分安いのですが、それでも大きな金額であることに変わりはありません。この費用の高さがネックで、泣き寝入りしてしまう人も多いのですが、今回はAさんの怒りが大きく、対処することにしたのです。

 まずは、生ビールのアイコンを使った1件の投稿について、損害賠償を請求するための手続きを進めました。

犯人は帰省時に実家から書き込み、軽い気持ちで行ったことに後悔

 ある家庭に1通の郵便物が届きました。インターネット接続に利用しているプロバイダーから損害賠償請求を前提とした契約者の情報開示請求が来た、というのです。その家には高齢の夫婦が住んでいるのですが、2人ともインターネットはあまり使っていません。どういうことだろう、と息子Xに相談しました。

 実は、このXが生ビールのアイコンの件の犯人でした。実家に帰省したときに時間を持て余し、スマートフォンから誹謗中傷を書き込んだのです。両親から連絡を受けて、Xは顔面蒼白になりました。

 軽い気持ちで行ったことに後悔し、両親にも迷惑をかけたくなかったXは、加害者でありながら弁護士のところに駆け込み、助けを求めました。実際、弁護士の元には被害者だけでなく、加害者からの相談も多く来るそうです。気軽に誹謗中傷を書き込んだものの、事が大きくなってしまい、なんとかならないかと駆け込んでくるのです。

 相談を受けたXの弁護士は、Aさんの弁護士に連絡し、示談交渉を行うことになりました。Aさんの怒りは大きく、150万円の慰謝料を請求しました。Xは会社員として働いていますが、少しでも安く済ませたいと考えています。一般的な相場である20万円をベースに話を進めていたのですが、生ビールのアイコンの件以外にも複数の誹謗中傷の投稿を行っていることが判明しました。そのため、示談金は60万円と相場よりもやや高い金額で決まりました。

 なんと加害者は該当の風俗店は利用したことがなく、Aさんに対しても特別な感情はなかったそうです。本当にただふざけて、書き込んだだけのようです。恨みがあったわけでもなく、軽い気持ちで他人に傷を負わせる誹謗中傷をするというのは恐ろしいことです。

早い段階から弁護士に相談したことで特定につながる

 今回解決できたポイントは、何よりも早い段階で弁護士に相談したことです。掲示板の運営者やプロバイダーはユーザーのログを数カ月しか保持していません。自分で動いて駄目だったからといって、半年後に依頼してもどうしようもないのです。

 今回は犯人を特定するためにAさんが早い段階から弁護士に相談したことが結果に結びつきました。また、ローカル掲示板が任意請求で開示してくれたことと、プロバイダー側が開示請求で意見照会した段階で弁護士が連絡したことで安く済んだという面もあります。なお、Aさんは残りの4人に対しても、損害賠償を請求するために手続きを進めているところです。

 現在は、一般的な誹謗中傷事件だと損害賠償請求で得られるお金よりも弁護士に依頼するお金の方が高くなってしまう傾向にあります。とはいえ、法的整備が進んでいますし、裁判で認められる犯人の特定費用の割合も高まりつつあります。この流れは広まっていって欲しいところです。

 誹謗中傷を受けて、損害賠償請求を考えているなら、少しでも早く弁護士に相談することをお勧めします。相談は有料ですが、その上で依頼するかどうかは自分で判断できます。

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「support@dlis.info」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。