どうする!? ネットの誹謗中傷、最新事例で知る悲惨さとリスク
「離婚した旦那から金を搾り取れる」と元妻をそそのかし、ついでにネットで誹謗中傷したら特定された
元妻は犯人に旦那の個人情報を提供
2021年9月8日 12:07
誹謗中傷は現在、大きな社会課題となっています。2021年2月にプロバイダ責任制限法の改正が閣議決定され、法務省は刑法の侮辱罪を厳罰化する方針を固めました。誹謗中傷でも懲役刑が課される可能性が出てくるのです。公訴時効も延長するので、泣き寝入りしなくて済むケースが増えそうです。しかし、それでもネット上には毎日、誹謗中傷の書き込みが飛び交っています。
今回は、匿名の人間からさまざまなSNSに個人情報や人格攻撃などを書き込まれた40代男性のケースを紹介します。弁護士に依頼し、警察に被害届を出すことで、犯人の逮捕に至りました。なお、個人情報を守るために、情報の一部は改変しております。
ネットの匿名性を悪用する誹謗中傷が社会問題になっています。誰もが被害者になりえますし、無意識に加害者になってしまう可能性もあります。この連載では、筆者が所属する「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」が独自に取材した情報を共有し、実際に起こった被害事例について紹介していきます。誹謗中傷のない社会を目指しましょう。
突然の慰謝料請求と同時にネットで誹謗中傷が始まった
今回の被害者であるAさんは、2019年にBさん(30代女性)と離婚しています。原因の1つはAさんの不倫だったことから、財産分与もきっちり行っていました。とはいえ、きちんと話し合い、合意しての離婚でした。
2021年1月、BさんからAさんの元に慰謝料請求書が突然送られてきました。不倫の慰謝料を寄こせ、と言うのです。びっくりしたAさんはコンタクトを取ろうとしますが、相手の弁護士が間に入っており、Bさんとコミュニケーションが取れません。
頭を悩ませていると、Aさんのことが書き込まれているというInstagramのアカウントについて、友だちから報告がありました。フォロワー数は100人にも満たないアカウントでしたが、Aさんの正確なフルネームに加えて「異性関係がだらしない」といった書き込みがありました。
驚いたAさんはネット上で自分の名前を検索してみると、ほかにもたくさんの書き込みを見つけました。Instagramだけでなく、匿名のブログではAさんを人格攻撃していたり、匿名掲示板「5ちゃんねる」には氏名に加えて住所や本籍地まで晒されていました。Facebookになりすましアカウントを作られたり、お見合いアプリでAさんの写真と適当なプロフィールを使ったアカウントを作られたりもしました。さらに、「Yahoo!知恵袋」では、不倫関係の質問の回答にAさんの本名とでっちあげられたストーリーが書き込まれたりしていました。実家の親の個人情報や誹謗中傷が書き込まれたことを知人や友人から報告されて心配されました。
犯人が精力的に個人情報てんこ盛りの誹謗中傷をばらまき続けたため、実害も出てきました。
まず、取引先から「こんな書き込みされているけど大丈夫?」と指摘を受けました。匿名の誹謗中傷であると説明して納得してもらったのですが、不倫や離婚は事実なので気まずくなってしまうことがありました。
誹謗中傷している犯人は誰か分かりません。書き込みの発生とBさんからの請求時期が重なっていましたが、攻撃的な内容や匿名サービスの使いこなし方から、AさんはBさんが書き込んでいるようには思えなかったそうです。
真に受けられればAさんが不利になるような事実無根の書き込みがネット上に残っては今後の生活に支障を来してしまいます。そこで、Aさんはすぐ弁護士に依頼し、開示請求の後、削除要請をしたのです。
少し時間はかかりましたが、誹謗中傷の書き込みは削除されました。しかし、それでも追いつかないくらい、Aさんを攻撃する投稿がさらに書き込まれ続けたのです。
見過ごせなくなったAさんは刑事告訴も行うことにしました。Yahoo!知恵袋やSNSなど国内のコンテンツプロバイダへ開示請求したところ、全て同一のアクセスプロバイダを利用していました。犯人はBさんとは別人であることが判明し、相手の住所を特定後、訴訟を行うことにしました。
その間に、不倫の慰謝料請求は一部対応することで解決しました。しかし、犯人ではなくても情報の出所がBさんであることも確実だったので、Bさんに対する民事訴訟も行いました。
元妻は犯人と職場で知り合い、誹謗中傷を行うことを提案された
Bさんの訴訟の中で判明したことですが、元妻は犯人と職場で知り合ったそうです。そして「離婚した旦那から金を搾り取れるので支援する」ということを言われました。誹謗中傷を書き込むのも犯人が提案してきたそうです。
2021年6月、最終的に犯人は逮捕されました。現在は保釈金を支払って釈放されていますが、誹謗中傷の書き込みは止まりました。まずは、Aさんが求めていた静かな生活を一部ですが取り戻せたのです。
結局、Aさんは複数の弁護士事務所に、開示請求や削除要請、刑事告訴などを依頼しており、合計で400万円近くのお金がかかっています。もちろん、民事訴訟の中で相手方特定に必要な手続き費用に加え、可能な限り弁護士費用も請求する予定です。
ネットの誹謗中傷案件を手掛ける弁護士法人大地総合法律事務所代表の佐久間大地弁護士に、今回のような誹謗中傷を受けてしまったらどうすればいいのか、アドバイスいただきました。
「一番大事なことは、投稿を見つけたらすぐに弁護士に相談することです。投稿者を特定するためには、通信ログから遡る必要があります。各通信会社は、通信ログを永久に保存しているわけではなく、3~6カ月で削除することがほとんどです。通信ログが残っていなければ、投稿者を特定することはできません。投稿者を特定できれば、慰謝料請求や刑事告訴も可能ですので、一刻も早く弁護士に相談して、通信ログの保存を行ってもらいましょう。」(佐久間氏)
よく分からない動機で誹謗中傷を行う人はネット上にいます。犯人は自分からBさんに近づいてアドバイスし、誹謗中傷という犯罪に手を染めたのです。佐久間弁護士のアドバイスの通り、看過できない被害を受けたのであれば、速やかに弁護士に相談することをお勧めします。
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