どうする!? ネットの誹謗中傷、最新事例で知る悲惨さとリスク

通ってた店の女性スタッフをネットで誹謗中傷&GPSで監視したらスピード逮捕された男の顛末

掲示板で住所を晒したり、盗撮した写真を自宅へ郵送

 今や大きな社会課題となっているネットでの誹謗中傷。2021年2月にプロバイダ責任制限法の改正が閣議決定されるなど、犯人を簡単に突き止められるように変わりつつあります。しかし、それでもまだまだ誹謗中傷は日々起きています。

 今回紹介する事例では、スナックで働いている女性が掲示板で住所を晒されたことで被害が発覚します。しかし、相談に行った警察では当初、被害届を受理してくれず、その後、車の点検を頼んだ工場から「GPSが仕掛けられている」との報告を受けたり、盗撮された写真が自宅に送られてくるなど被害は大きくなる一方でした。このような状況でも、結果的に被害発覚から2カ月で犯人をスピード逮捕することができたので、その経緯について紹介します。なお、被害者のプライバシーを守るために、情報の一部は改変しています。

ネットの匿名性を悪用する誹謗中傷が社会問題になっています。誰もが被害者になりえますし、無意識に加害者になってしまう可能性もあります。この連載では、筆者が所属する「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」が独自に取材した情報を共有し、実際に起こった被害事例について紹介していきます。誹謗中傷のない社会を目指しましょう。

掲示板での誹謗中傷に加えて写真が自宅に郵送されてきた

 2021年2月、埼玉県のスナックで働いているA子さんが、仲の良いお客さんから「A子さんの名前と住所が掲示板に晒されているよ」と連絡を受けました。あわてて検索すると、確かに載っています。しかも、A子さんの住所だけでなく、なんと実家の住所と一人暮らしをしているA子さんの息子の住所も晒されていました。実際の住所は例えば、「歳弾4裏輪9一兆(さいたま市浦和区1丁目)」のように当て字になっていました。しかも、スレッドが立てられたのは2020年2月とほぼ1年前です。

 誰のいたずらだろうと不安に思っていたら、今度は自分が写っている写真が複数枚、自宅に送られてくるようになりました。夜の町で撮られた写真のようで、スナックの出退勤時のように見えますが、A子さんにはいつごろのものか記憶がありません。

A子さんを写した写真が数枚送られて来ました。

 これは見過ごせないと感じたA子さんは警察に相談に行きました。しかし、「これだけではストーカー規制法に該当しないので、今のところ被害届は受理できない」と言われてしまいました。心底不安になったのは想像できます。

 恐怖を感じながらA子さんは日々を過ごしていましたが、掲示板には度を過ぎたセクハラから、コロナに感染したというデマ、人格攻撃など、さまざまな誹謗中傷が書き込まれ続けていました。自作自演の可能性もありますが、何人かがA子さんについて会話をしているような書き込みに見えるので、気が気ではありません。

車にはGPS、スマートフォンにはいつの間にか監視アプリが仕掛けられた

 ある日、車の定期点検があったので工場に持ち込むと、翌日「GPSが仕掛けられている」と言われました。バンパーの裏側に、小さな四角い物体が貼り付けられていたのです。

 実は、浮気調査用などとして、この手の追跡GPSガジェットは安価に販売されています。個人情報を知っているだけでなく、車に触れられるところに犯人がいるというわけです。明確に悪意を感じたA子さんは改めて警察に相談しました。そこでやっと警察はストーカー事件として被害届を受理し、捜査してくれることになったのです。

 警察はまず、GPSガジェットの購入者と掲示板の書き込みを調査しました。そこで、1人の被疑者が浮かび上がりました。スナックでA子さんが何度も接客している客だったのです。

 同時に、A子さんのAndroidスマートフォンを警察が解析したところ、監視アプリがインストールされていることが分かりました。そのインストール日を調べると、A子さんがその被疑者を長時間接待した日だったのです。捜査は一気に進展しました。

被害が発覚したらすぐに対応を

 4月中旬、被疑者が逮捕されました。GPSガジェットが見つかってから2カ月でのスピード逮捕です。取り調べの中で、被疑者はA子さんに恋愛感情を持っていたことが分かりました。A子さんとはそれらしきやり取りはなく、店と客という関係を維持しつつも、一方的に思いがエスカレートするようになりました。

 かわいさ余って憎さ百倍といった感情で、1年前から掲示板で誹謗中傷を始めるようになり、それだけにとどまらず、GPSガジェットを仕込んだり、A子さんのスマートフォンに監視アプリをインストールしてしまったのです。

 逮捕後、犯人は結婚しており、子供もいたことが判明しました。会社勤めをしていて、スナックでもきちんとしたお客さんだったようです。普段の接客時に怪しい行動はなかったため、警察が動かなければ見つけることは難しかったでしょう。

 今回スピーディーな逮捕に至ったのは、A子さんのスマートフォンに監視アプリを仕込んだことが決定打になりました。罪状はストーカー規制法違反と不正指令電磁的記録供用罪です。車にGPSガジェットを設置するなどの行為から、さらなる強硬手段を取る危険性が高いと判断されました。

 逮捕されたことで犯人は会社を解雇され、収入がなくなりました。また、被害者との示談のため、弁護士が犯人の妻と連絡を取ることになりました。犯人の行為によって家族にまで迷惑をかけています。

職もあり、妻子もある男性でしたが、ネットの誹謗中傷とストーキングに手を染め、逮捕されました

 弁護士法人大地総合法律事務所代表の佐久間大地弁護士にアドバイスをいただきました。

 「夜のお店は男女の感情で報酬を得るという性質も強いため、一定程度のリスクは認識しておいた方がよいと思います。今回の件も、初期の書き込みは1年も前であり、その時に注意・警告などの対応をとっていれば、加害者もエスカレートしなかったかもしれません。これくらいなら無視でよいか?と安易に考えず、初期段階での対応を講じる方がよい結果に繋がると思います。」(佐久間氏)

 ネットでの誹謗中傷を見つけたら、黙って我慢せず、弁護士や法テラス、警察のサイバー犯罪相談窓口などに相談しましょう。

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「support@dlis.info」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。