どうする!? ネットの誹謗中傷、最新事例で知る悲惨さとリスク

ファンクラブ仲間から長年に渡って誹謗中傷された女性がハードルを乗り越えて発信者を特定するまで

匿名掲示板で誹謗中傷が繰り返されていました

 あるビジュアル系バンドのファンクラブに入っているAさんは、2017年ごろからネットで匿名の誹謗中傷を受けるようになりました。「5ちゃんねる」や「雑談たぬき」といった匿名掲示板の関連スレッドで書き込みが行われており、その内容から近しい人、おそらくはファンクラブの仲間が投稿していると考えられました。

 例えば、「この前Aを見つけたので挨拶したら、古参メンバーには愛想良くしてるのに、私には舌打ちされてスルー。ひどいカッコしていて整形も失敗しているし、古参メンバーも顔が引きつってて笑った」とか「Aはメリットのある人にすりよって利用できるだけ利用して、メリットがなくなったらすぐ離れるのが最悪。自分に都合のいい人だけを周りに置いてるのがうざい」などと書かれています。

 Aさんは書き込んだ人が誰なのかだいたい予想が付いていたのですが、確たる証拠がありません。誹謗中傷を見過ごすことはできないと考えたAさんは弁護士に相談しました。

誹謗中傷が本当に自分に向けられたものなのかどうか証明する必要も

 まずは、匿名掲示板の運営事業者に対して投稿者のIPアドレスの開示請求を行うことになりますが、いくつかハードルがありました。

 まず、Aさんの名前が、本名ではなくハンドルネームだったことです。匿名掲示板の誹謗中傷が本当にAさんに向けられたものなのかどうかを証明する必要がありました。そこで、地域を限定するために投稿があったスレッド名を確認したところ、ライブ会場名が明記されていました。これで、地域を特定できました。

 また、インスタグラムのフォロワー数が多く、古くから活動しているので、そのハンドルネームがAさんであることは、少なくともライブに参加している人の間では周知されていると証明できました。

 次のハードルが、投稿内容が誹謗中傷にあたるか否かです。これについては複数の投稿に対し、人格的に問題があるような表現があるので適切ではないことを主張しました。最終的には無事、仮処分決定を得られました。

 匿名掲示板の運営事業者からIPアドレスが開示されたので、今度はプロバイダーに対して契約者情報の開示について手続きを行います。しかし、ログ保存期間が経過しているため、開示は不可能という回答が来ました。

 プロバイダーはそれぞれの事業者がログを保存する期間を決めており、通常3カ月から6カ月と言われています。中には1年以上保存している事業者もありますが、短ければ3カ月でログを確認できなくなるのは困りものです。開示請求を行っても、その期間を過ぎると開示できない、と回答してくるのです。訴訟を行うと出てくるケースもありますが、それでも開示されないこともあります。

 投稿者を突き止めるために、掲示板事業者とプロバイダーを相手に2度の裁判を行うなら、誹謗中傷の投稿が書き込まれてから2週間以内に弁護士に相談する必要があります。書き込まれてから1~2カ月経ってしまうと、間に合わなくなる可能性が高くなるのです。これでは被害者が救われません。筆者が所属するNPO法人デジタルリテラシー向上機構にも、投稿者を開示できないと言われた、という被害者から相談が来ますが、どうしようもありません。

 そのため、2021年4月に通称「プロバイダ責任制限法」の一部が改正されました。従来の発信者情報開示裁判に加えて、非訟手続が創設されます。大きな変更が、発信者情報の開示を1つの手続きで行うことができる点です。コンテンツプロバイダー、今回の件では匿名掲示板の事業者とインターネット接続事業者であるプロバイダーの両社に連続して開示請求できるのです。しかも、通常の裁判ではなく非訟手続なので、簡単に手続きできます。

 ただし、施行は公布されてから1年6カ月以内となっており、まだ施行されていません。2022年中には施行されると思われますが、現時点ではまだ分けて裁判しなければならないのです。

同じ相手から誹謗中傷されていたBさんに相談、発信者を特定

 そこで、Aさんは同じ掲示板で誹謗中傷されているBさんに相談を持ちかけました。Bさんも同じ相手から、リアルタイムで手ひどい内容を投稿されていたのです。話を聞くと、2017年の同じようなタイミングから誹謗中傷が始まっていました。

 こちらは最後の書き込みからまだ期限に余裕があります。早速、BさんもAさんから紹介された弁護士に相談しました。名誉毀損の要件を満たす誹謗中傷がいくつも見受けられたため、早速、弁護士への開示請求と損害賠償請求の依頼を行いました。

 任意開示の請求をしましたがプロバイダーが応じなかったため、裁判により請求手続きを行い、認められました。これで発信者が特定できたため、今後は損害賠償請求を行うことになります。Bさんは30万円の慰謝料を請求したそうです。もちろん、開示までの費用の請求も認められる可能性が高いので、誹謗中傷をした人は100万円ほどを支払わなければならなくなるでしょう。

同じ被害に遭っているBさんの開示請求は間に合ったため、発信者を特定できました

 残念ながら、Aさんの開示請求は拒否されたので、裁判には持ち込みませんでした。しかし、投稿者と予想した相手に連絡し、もし誹謗中傷の書き込みをしたのなら、きちんと謝罪すれば寛大な処置をとるという任意交渉を行いました。その人はBさんの裁判で身元が判明していることも受けて、素直に認め、謝罪したそうです。

 利用者層が若いファンクラブでは匿名掲示板で誹謗中傷が頻繁に発生しています。バンドメンバーへの誹謗中傷だけでなく、ファン同士が争うのです。

 みんなもやっている、これくらい大丈夫、と言った感覚で書き込んだとしても、誹謗中傷はNGです。裁判で認められてしまえば身元が開示され、慰謝料や経費を請求されてしまいます。嫌がらせの投稿で100万円を失う可能性があるのです。誹謗中傷は絶対にしないようにしましょう。

ネットの匿名性を悪用する誹謗中傷が社会問題になっています。誰もが被害者になりえますし、無意識に加害者になってしまう可能性もあります。この連載では、筆者が所属する「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」が独自に取材した情報を共有し、実際に起こった被害事例について紹介していきます。誹謗中傷のない社会を目指しましょう。

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「support@dlis.info」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。