奥川浩彦の「岐阜の山奥に移住しました」

第6回

えっ、そんなに払うの!? 田舎の空き家の固定資産税はタダみたいなものと思っていました

物件探しは苦戦<その4>

アットホームからの「おすすめ物件メール」で急遽、内見予定に追加した物件と初対面。この写真が最初の1枚

 夏には延期もやむなしと考えた移住計画。2024年10月21日、絞り込んだ物件の内見まで漕ぎ着けた。早朝3時に神奈川県川崎市を出発、予定どおり8時に岐阜県加茂郡白川町に到着した。(「物件探しは苦戦」全4回のうちの<その4>)

「家財はそのままの物件」の玄関の鍵を開けて中に入る……滅多にない経験でした

 絞り込んで内見に漕ぎ着けた物件は白川町空き家バンクから3つ、アットホームから3つ。アットホームの物件のうち1つは先方の売主様の都合で翌週となったので、この日の内見は5つとなった。スケジュールは、白川町空き家バンクの3物件の内見の前後にアットホームの物件を追加した。

【10月21日】
  8:00 アットホーム 黒川地区(預かった鍵で内見)
 10:00 白川町移住・交流サポートセンターでヒアリング
 11:00 黒川地区(持ち主様立ち合いのため時間は長め)
 12:30 白川北地区 2軒
 15:00 アットホーム おすすめ物件メールで追加した物件

 全体のスケジュールは、内見の後、東白川村の娘夫婦と孫の家に1泊し、翌日は名古屋の自宅マンションへ移動。筆者の住民票は名古屋市なので、与党過半数割れとなった衆議院選挙の期日前投票を済ませて川崎に戻った。名古屋の不動産会社から鍵を預かっていた物件は、2日間の隙間の時間にいつでも見に行けるので、渋滞などで到着が遅れた場合は翌日の朝、名古屋に移動する前に内見することも可能と考えた。

名古屋に寄って期日前投票を済ませて川崎に戻った

 最初の物件は1階建て5DK、築61年とやや古め。写真は14点ほど掲載されていたが、間取り図はなし。価格は200万円以下、固定資産税は1万1000円とコスト面の魅力はあったが、“空き家あるある”の家財はそのままの物件だ。

 預かった鍵で玄関の扉を開ける。他人の家に鍵を開けて入る経験は滅多になく、「近所の人に見られたらどうしよう」と、悪いことをしている感覚がした。事前に写真で確認したとおり、家財はそのまま。タンスもあるし、布団もあるし、ブラウン管テレビもある。おそらく住まれていた人が亡くなったときのままの状態と思われる。トイレ自体は温水洗浄便座付き。写真では分からなかったが、トイレに行くにはサンダルか靴に履き替えなければならない。何か光るものがあることを期待したが、写真も撮らず、寸法も計らず、内見終了、十数分でクルマに戻った。

 ここから「白川町移住・交流サポートセンター」まで15分。最初の物件の内見がすぐに終わったので、10時のアポには1時間半ほど早い。そこで、翌週に内見予定の八百津町の物件に向かった。家の中には入れないが、スマホの電波が届くかは確認できる。峠を越えて40分ほどで到着。IIJのdocomo回線のスマホとauのpovoの回線のスマホで双方から電話をかけるもワンコールもせず、この物件の翌週の内見は中止と(電波の届くところに移動後)不動産会社に連絡した。

 峠を戻り、白川町に。少し時間があったので寄り道して、15時から内見の物件をチラ見。インターネットで写真は見ていたが、実物を見ても雰囲気はいい感じ。スマホで2枚だけ外観を撮って、白川町移住・交流サポートセンターに向かった。

2枚目に撮った写真はガレージ、玄関側。1枚目はこの記事の冒頭の写真

賃貸物件も候補に挙がりましたが、「買った方が得?」という悩ましさがありました

 予定の時刻に白川町移住・交流サポートセンターに到着。以前は町役場の中にあったが、現在は古民家をリノベーションした建物で活動している。何度か電話で話はしていたが、20分ほどかけて打ち合わせ。アットホームの物件の内見も予定しているなど、移住計画の進捗状況と“田舎で爆音”という筆者の目的を説明した。

白川町移住・交流サポートセンター
古民家をリノベーションした建物で、室内に入ると天井や柱に趣がある
白川町移住・交流サポートセンターの鈴木進さん(右)と、電話での物件の詳細説明から内見の同行までお世話になった鈴村薫さん(左)

 担当者2人のクルマを筆者が追うかたちで最初の物件へ。この物件は築二十数年と新しく、2階建て4LDKだが、リビング・ダイニングは20帖ほどと広く、外観も内装もごく普通、都会にある住宅と同じだ。見た目も設備も田舎らしさはない。

 条件として他の物件と異なるのは、売却(筆者から見て購入)ではなく賃貸であること。というのは、貸主様がもともと住んでいた家で、親の介護で近くの実家に移動、空いた住居を賃貸物件として貸し、いつか戻るということだ。

 住居としては無問題。賃貸である点をどう考えるか、筆者の決断次第となる。家賃は4万円、もし1年で東白川村に希望する物件が見つかり引っ越せば4×12=48万円の出費となる。3年で150万円、5年で250万円……。期間が長くなると「買った方が得?」という悩ましさがある。

 もう1つは、爆音対策。隣家まで60mと立地は悪くない。だが、この建物の遮音性、隣家の建物の遮音性、地形の影響など、音が伝わるか否かは住んで音を出してみないと分からない。当然、相手の感じ方によって気になる・気にならないの差はある。防音対策が必要になった場合、買った持ち家なら自由度は高いが、賃貸だと退去するときの原状回復を考慮する必要がある。

 この物件は移住先の有力候補として、デジカメで細かなところまで撮影、各部屋の寸法も計測し、内見を終了した。

 残り2つの物件は、家財が残ったままの状態。1つは住宅街にありながら、2階建ての住居に加えて、掲載写真にはなかった2階建ての事務所と想像を超える大きな工場が付いていて、通りに面した間口が40m、裏の通りまで奥行きも40mという巨大物件で、価格は250万円。ストリートビューの日付を2014年にすると、工場には大量の丸太と製材した柱材を見ることができる。さらに少し離れたところに畑もあり、さすがに高齢者の一人暮らしには荷が重いと感じた。

 白川町空き家バンクの物件は、最初に見た賃貸の物件を候補として検討継続とした。

「田舎の空き家の固定資産税はタダみたいなもの」というわけではありませんでした

 内見の最後は、アットホームの「おすすめ物件メール」で最後に飛び込んできた物件。15時、関市の不動産会社「REALES株式会社くらそか」の社長さんと現地で合流。築35年、2階建て10LDK、クルマ3台が置けるガレージ付きで580万円。価格は、絞り込んだ6物件の中で断トツに高い。

 10LDKは田舎の物件では珍しくないが、山小屋風の外観はインパクト大。一般的な住宅は1階と2階の面積はほぼ同じで、その面積分の屋根が乗る構造だが、この建物は1階が広く、その1階から頂点まで大きな屋根で覆われているため、広さ以上にデカい印象だ。

 2階の4部屋は斜め天井で、普通に考えると使いにくい。寝室の3分の1は頭が斜め天井に当たるのでデッドスペース。3LDK~4LDKの家で部屋の3分の1が使えないのは不便だが、この物件は10LDKもあり、しかも一人暮らしなのでデッドスペースがあっても問題はない。使いにくい斜め天井も、オーディオ部屋としては一般的な立方体の部屋よりは音の良さが期待できる。

現在の寝室。右側の3分の1は、立つと天井に頭が当たる
斜め天井はオーディオ部屋には好都合

 築35年だが、水回りの浴室、洗面所、トイレは6年前にリフォーム済みで今風な作りとなっている。結果として、連載の第2回でお伝えしたように浴室暖房の水漏れというトラブルはあったが、新しい設備は使いやすさと安心感で高く評価できる。

6年前にリフォームされた浴室。名古屋の自宅マンションの浴室より少し広い
洗面所は新しくなっているが、もともとのスペースの影響でかなり狭い
トイレもリフォーム済み。温水洗浄便座付き

 有力候補として各部屋の撮影と寸法計測を済ませ、社長さんから詳しい説明をしてもらった。話を聞いて気になったのは固定資産税。最初に内見した物件は1万1000円で月1000円以下だったが、この物件の固定資産税は8万円超え。築年数が新しいこともあるが、山小屋風に見えて建物の構造は木造ではなく鉄骨。田舎の空き家の固定資産税はタダみたいなものと思っていたので、想定外の金額だった。

この夏、初めて入った天井裏。このデカい家は屈強な鉄骨で造られている

スカパー!は受信可能?衛星の方向に山がないか、Googleマップをグルグル回して確かめました

 5つの物件の内定を終え、東白川村に1泊し、名古屋で期日前投票を済ませ、川崎に帰宅。仮住まいとして家賃4万円の物件を借りるか、デカい10LDKを580万円で買うか、移住計画は二択となった。

 検討課題を整理すると、賃貸の物件の課題は2つ。1つは、借りる期間が何年になるか。東白川村の物件がいつ見つかるかは分からない。もう1つは、防音対策。どちらも住んでみないと分からないことが悩ましい。

 山小屋風の物件の課題は4つ。1つ目は580万円という価格。2つ目は固定資産税。3つ目と4つ目は、冬季の陽当たりの悪さとスカパー!アンテナの受信の可否。南側が高く北側が低い、いわゆる北斜面に立地する建物なので、冬季は南側の山と樹木で陽当たりが悪い。また、筆者はモータースポーツ好きで、幸運なことにそれが仕事となり、F1やMotoGP、SUPER GTなどを撮影してきた。フジテレビNEXT、日テレジータス、J SPORTSを見るため、20年以上継続中のスカパー!は必須だ。南側の山と樹木に遮られてアンテナが利用できないことが懸念された。

2025年、F1日本グランプリにて筆者撮影

 固定資産税と陽当たりの悪さは筆者にできることは何もなく、腹をくくって受け入れるか否か。スカパー!アンテナの受信の可否は、スカパー!のサイトで白川町の衛星の方角と仰角を確認。Googleマップの「詳細」で「地球表示」にチェックを付け、航空写真をグルグル回して方角と仰角を見ると、衛星の方角は山の地形の低いところで大丈夫そうと判断した。

スカパー!のサイトで衛星の方角と仰角を確認
前回に続き、移住先候補の物件を検討するにあたり今回もGoogleマップが役に立った。「詳細」で「地球表示」にチェックを付け、航空写真をCtrlキーを押しながらグルグル回して衛星の方角と仰角を確認(動画は、筆者の購入した山小屋風物件ではなく、白川町移住・交流サポートセンターの位置)

内見から2日後には購入を決断。移住計画のゴールが見えてきました

 残りの課題は物件の価格。そもそも580万円が相場として高いのか安いのか分からず、根拠はなく思いきって「500万円なら買います」と連絡したところOKとなった。前述の4つの課題はほぼクリア。普通じゃないインパクトのある建物に惹かれるものがあったので、内見から2日後、10月23日に購入の意思を伝えた。筆者の希望条件のうち「孫が自転車で遊びに来られる距離」はかなえられなかったが、ほぼ希望通りの物件を見つけることができた。

  • 隣家と離れていて爆音が出せる:△→移住後に○
  • 孫が自転車で遊びに来られる距離:×
  • インターネットの光回線が引ける:○
  • 7部屋以上:○
  • 温水洗浄便座付き水洗トイレ:○
  • 築50年以内:○
  • 500万円以下:○
  • クルマ2台が置けること:○

 3カ月自力移住計画はゴールが見えてきた。この後は契約・購入手続き、引っ越しと続くが、それはまたいつかご報告したい。

奥川浩彦@ アイピーアール

パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報を経て、2001年にイーレッツの設立に参加し、USB扇風機などを発売。2006年、iPRを設立し、広報業とライター業で独立。INTERNET Watchでは主に税金関連の記事を執筆。Car Watchではモータースポーツ関連のフォトグラファーとして活動中。