奥川浩彦の「岐阜の山奥に移住しました」

第3回

地方移住の計画を甘く考えてました

物件探しは苦戦<その1> 孫の住む東白川村で物件が見つからない

白川中学校で行われた花火

 盆休み、関西から泊まりに来た親戚と岐阜県加茂郡白川町の白川中学校で花火を見た。「田舎の花火はショボイだろう」となめていたが、予想外に見応えのある花火で親戚一同大満足だった。

これが、予想外に見応えのあった白川町の花火の様子(記事の最後に動画も掲載している)

 今回は移住の物件探しについてお話ししよう。この連載の第1回でお伝えしたように、筆者が移住を考え始めたのは2021年の年末ごろ。3年後の2024年の年末までに移住しようという計画だ。ニュースなどで「全国で7軒に1軒が空き家」という空き家問題を耳にすることがあり、簡単に物件は見つかるだろうとノンビリ構えていた。しかし、「空き家はたくさんあるけど、買える空き家は少ない?」という現実に直面、苦戦した物件探しを4回に分けて紹介しよう。

移住先は自分が亡くなった後のことも考慮しました

 移住を考え始め、テレビのワイドショーで熱海や越後湯沢のバブル期に建てられたリゾートマンションが安くなって移住する人が増えているとか、那須高原(那須町)が移住者を募集しているとか、移住に関する番組を見かけると気になって視聴していた。

那須町の移住・定住公式サイト「ゆうゆうジテキなす暮らし」

 筆者が移住で懸念したのは、筆者が亡くなった後に移住した物件をどうするかだ。筆者は名古屋市に自宅マンションがあり、息子は埼玉県、娘は岐阜県に住んでいる。仮に那須高原や越後湯沢に移住し、そこで筆者が亡くなると子どもに迷惑を掛ける可能性が高い。実際、空き家となっている物件は、亡くなった親の家(=実家)を子が売却していることが多い。実家で親が亡くなるのは許容範囲だが、行ったこともない遠隔地で親がポックリ亡くなり、葬儀、家財道具の処分、物件の売却を負うのを子は勘弁して欲しいだろう。

 筆者が移住を考えるきっかけになったのは、中学の同級生が愛知県豊田市小原(おばら)町(旧・小原村)の物件を買ったことと、娘が嫁ぎ先の岐阜県加茂郡東白川村で古民家を買ったこと。娘や孫が住んでいることと、筆者が亡くなった後のことを考慮すると、候補地のトップは東白川村だ。同級生が移住して住んでいることと、出身地で同級生の多くが住んでいる名古屋市名東区から近いことを考えると旧・小原村も候補地としたが、1位が東白川村なら2位~9位がなくて10位が小原村といった感じだ。

購入する物件は待つ必要ありません

 移住後に「勘違いしていたなぁ」と思ったのは、物件購入の時期だ。筆者が過去に物件購入をしたのは自宅マンションだけ。賃貸物件は学生時代に横浜市港北区、社会人になって以降は転勤で諏訪市、静岡市、浜松市、名古屋市、福岡市。起業後にオフィス兼住居を川崎市麻生区と多摩区で借りている。これらの賃貸物件は住むタイミングに合わせて物件を契約し、すぐに入居した。

 例えば来年4月から東京で就職、あるいは大学入学の場合、来年3月ごろに引っ越すことを想定して物件を契約するのが一般的だろう。今すぐ(半年前に)物件を契約し、家賃を今から払い始める人は滅多にいないと思われる。

 筆者は賃貸物件と同様に「2024年になってから移住先の物件を探して、夏くらいに買って、年末までに引っ越し」と考えていた。移住後に振り返ると、これは勘違いだったと思う。購入する物件は今買っても来年買っても大差はない。家賃のように払い続ける金額負担はないので、早めに物件探しをして気に入った物件があれば買ってしまえばよい。強いて言えば固定資産税が前倒しで追加負担となるが、田舎の物件の固定資産税は安い。

移住延期? 東白川村で物件が見つかりません……

 移住を考え始めてから、東白川村の空き家バンクはたまに見ていた。人口約2000人の村なので、掲載されている物件数は少なめ。多いときで10軒くらい、少ないときは2軒くらいで、希望に合う物件はほとんどなかった。加えて、空き家バンクの利用に関する条件の「購入物件の所在地に住民登録をすることができる者」(東白川村Reuse事業について)という記載が気になっていた。

東白川村の空き家バンク
「購入物件の所在地に住民登録をすることができる者」(東白川村Reuse事業について)

 筆者は名古屋市内に自宅マンションがあり、住民票は名古屋市。住民税も名古屋市に納税している。筆者は名古屋市から住民票を移す気はない。理由は、住民税ランキングの記事で書いているように、個人事業主なので毎年健康診断が無料で受けられることを重視している。こうした住民サービスは財政にゆとりのある自治体はそこそこ充実している。今後は仕事を減らすので納税額は減少するが、名古屋市は日本一住民税が安い自治体である。

「名古屋市国民健康保険 令和7年度 特定健康診査」(無料)の案内

 この記事では岐阜県の自治体の財政力指数も紹介している。財政力指数は自治体の財源の余裕度を表す指標で、総務省が毎年「地方公共団体の主要財政指標一覧」で公表している。岐阜県の42市町村の財政力指数ワースト3は、40位:白川町、41位:七宗町、42位:東白川村となっていて、住民サービスの充実を望むのは難しそうだ。

 東白川村のような人口減少中の地方自治体にとって、望ましい移住者は若いファミリーだろう。住民登録をして住民税を納税、ファミリーなら複数人の人口増加となる。逆に筆者のような単身高齢者の移住は自治体側のメリットは少ない。住民登録をしても、人によっては医療費の自治体側の負担が納税額を上回る可能性がある。

 空き家バンクを利用しないで物件を購入すれば住民票を移す必要はないと考え、筆者は娘の旦那のお父さんに物件探しをお願いした。筆者より少し年上で、過去に筆者が娘のところに泊まりに行くと「飲みに行こう」「カラオケに行こう」とお誘いされるのが定番で、カラオケをしていると村役場の人が合流することもあった。親分肌で顔も広く、筆者が希望する物件を探してくれることを期待した。筆者の希望条件は

  • 隣家と離れていて爆音が出せる(必須条件)
  • 孫が自転車で遊びに来られる距離
  • インターネットの光回線が引ける(必須条件)
  • 7部屋以上(オーディオ部屋、仕事部屋、運動部屋……)
  • 温水洗浄付き水洗トイレ
  • 築50年以内
  • 500万円以下
  • クルマ2台が置けること(ガレージ付きなら+100万円)

 残念ながら、今すぐ住めて筆者が希望する物件は見つからなかった。「時間をかけて探せば(待てば)見つかるかもしれない」とのことだったので、移住を考え始めた3年前に希望を伝えて探してもらったら、違う結果となったかもしれない。そもそも家探しを丸投げするのは虫が良すぎると思った。

 世の中には空き家がたくさんある。実際、筆者が購入し移住した白川町の物件の近くにも、売りに出ていない数軒の空き家がある。空き家はあるが、売りに出ている空き家は少ない。さぁどうする。

 記事執筆中に東白川村の「東白川村空家等対策計画 令和5年4月改訂版」という資料を見つけた。内容を見ると、令和2年の村の空き家数は140。平成30年度の移住希望者の問い合わせ件数は32件で、成約件数は2件。空き家はあっても空き家バンクに提供される空き家は少ないらしい。また、空き家所有者の調査報告書では、空き家化した理由のトップは住人(親)の死亡(58%)、今後の悩みは「荷物の処分に困っている(16%)」「解体費用の支出が困難(14.7%)」となっている。

 村では空き家の寄附制度を設け、処分に困っている空き家を自治体に寄附してもらい、自治体が清掃を行い、家具や食器で再利用できるものは空き家購入者に譲渡する仕組みを構築している。残念ながら筆者は東白川村の空き家バンクと条件が合わなかったが、物件数や利用者が増えることを期待したい。

 2024年夏。移住計画は先が見えなくなった。2024年12月の移住目標の先延ばしも考え始めていた。もともと2024年末という目標は、川崎市のオフィス兼住居の賃貸契約の更新時期が理由で、更新料の約12万円は物件購入で支払うであろう数百万円と比べれば大した額ではない。

 移住延期もやむなしと思い始めた筆者の背中を押したのは、川崎の賃貸物件を管理する不動産会社から届いた「12月の更新から家賃を値上げします」という案内だった。値上げ額はわずか4000円/月。それでも筆者は「嫌なら出ていけってことだよね」と勝手な解釈をして、「1カ月で探して、1カ月で契約して、1カ月で引っ越ししてやる」と根拠も勝算もない3カ月自力移住計画を進めることにした。(次回「物件探しは苦戦<その2>」に続く)

白川町の花火は予想外の満足度でした

 関西からお盆休みに親戚が泊まりに来た。初のお泊まり訪問客だ。移住して最初の訪問客はINTERNET Watchの編集長(当時)。その後も知り合いのカメラマンや、この連載を読んで連絡をくれた35年ほど前に勤めていた会社の上司、メルコ(現・バッファロー)時代の同僚など、訪問客十数人は全て日帰りだった。

同級生から不用になった布団を譲ってもらい、宿泊客受け入れの準備をした

 親戚が来た8月9日に「白川口納涼ふるさと夏まつり」があり、花火を見に行くことにした。行く前は「田舎の花火はショボイだろう」となめていた。白川中学校の校庭で行われた花火は、観戦エリアからの距離が50mくらいと近い。前半が手筒花火で小型12発、大型3発。後半が約2000発の打ち上げ花火。時間はおよそ15分+15分。至近距離で見る花火はなかなかの迫力で親戚一同大満足だった。「なめていた」ため、スマホで撮った画像と動画しかないがご覧いただきたい。

中学校の校庭で行われた「白川口納涼ふるさと夏まつり」の様子。筆者は初めて大勢の白川町民を見た
前半は手筒花火
後半は打ち上げ花火
奥川浩彦@ アイピーアール

パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報を経て、2001年にイーレッツの設立に参加し、USB扇風機などを発売。2006年、iPRを設立し、広報業とライター業で独立。INTERNET Watchでは主に税金関連の記事を執筆。Car Watchではモータースポーツ関連のフォトグラファーとして活動中。