山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国で新手のシェアビジネス「シェア傘」、一方で「シェアサイクル」は淘汰も進む ほか~2017年6月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にも分かりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

シェアサイクル、管理と淘汰が進む

 中国でシェアサイクルが普及してまだ1年くらいだが、街の景色を大きく変えた。中国のシェアビジネスの代名詞的なシェアサイクル業界は変革を続けている。

 6月にはシェアサイクルの駐輪に活用する電子柵が北京・上海・広州などで登場し、シェアサイクルを都市内でいかに管理するかが論点の1つとなってきた。特に北京での採用が目立った。北京市朝陽区では地元政府と企業が協力して、公共電子柵を利用したシェア自転車駐輪システムがスタート。また、北京市通州区では、中国がGPSに対抗して開発した中国製衛星測位システム「北斗」を採用した位置情報による電子柵技術が登場。決められた場所に停車しなくてはならなくなった。当初はどの場所でも乗り捨て可能だったが、ある程度、乗り捨てられる場所が限定される方向に向かうようだ。

北京でのシェアサイクル。シェアサイクル用の駐輪線がひかれている

 一方で、市場撤退するシェアサイクル運営会社が話題となった。重慶の戦国科技が提供する「悟空シェアサイクル」というブランドで、2016年9月に設立され、資本金10万元でスタートした。悟空シェアサイクルは重慶で1200台のシェアサイクルを投入したが、その9割を見失い、100万元以上を損失したという。「Mobike」や「Ofo」はその規模から著名OEMメーカーと提携できるが、悟空シェアサイクルのような小さな会社は小さな工場としか提携できず、品質でも劣っていたという。重慶自体が日本の長崎のような坂の街で、自転車に不向きな土地というのも理由だろう。とはいえ、他地域でも今後、淘汰が進み、撤退するシェアサイクル企業が出てくるかもしれない。

重慶はもともと坂の街なので自転車が走っていない

 政策面では、中国政府交通部(交通省)が5月末、シェアサイクルにかかわる法律「関于鼓励和規範互聯網租賃自行車発展的指導意見」のドラフト版を公開し意見を求めた。この法律は「業界団体設立による健全公平な業界発展」「ユーザーの信用データのシェアと、モラルなきユーザーのデータの共用」「デポジット金の安全な管理」「駐輪可能場所と管理責任」などといったことが書かれている。モラルなきユーザーの情報をシェアして、ブラックリスト化するあたりがポイントの1つなわけだ。6月末の交通部の発表によれば、このドラフト版には多くの反響があったとし、同意や修正を求める声があったという。

シェア傘サービス、現地ルール無視で大量投入して1日で回収される

 新興シェアビジネスの1つに、30分0.5元のシェア傘サービス「共享e傘」がある。アプリ登録とプリペイド料金の支払いを行った傘にQRコードが書かれていて、19元のデポジットと最低9元の利用費を前払いすると、QRコードのスキャンで利用できるようになるというものだ。深セン、広州などで展開され、10都市目となる杭州では5万個の傘が主要駅やショッピングセンターに配置された。

シェア傘も複数企業が参戦、競争に

 ところが、そのシェア傘サービススタートの翌日、市内各地で地域を管理する「城管」と呼ばれるガードマン的な人々が傘を次々とトラックの荷台にまとめて投げ捨て回収していくのが目撃された。

 理由は、「主要道路や重点地区の道路の柵などに勝手にモノをひっかけてはいけない」という杭州市の都市環境衛生管理条例にひっかかったためだ。また、シェアサイクル普及以降にできた「シェアサービスなどの営利目的で公共の場所を占拠してはならない」というルールに違反したためでもある。換言すれば、下調べや事前連絡なしに杭州での普及を目指し、大量投入した結果、その多くが回収されてしまった。

杭州でシェア傘が撤去されるのを報じるニュース

大手ECサイト「京東」のセール日「618」到来、18日間で2兆円近い売上を記録

 6月18日は、阿里巴巴(アリババ)のECモール「天猫(Tmall)」に続く第2の(B2C)ECサイト「京東(JD)」の創業日となり、年に一度の大セール「京東618」を行う(ちなみに天猫は11月11日)。京東が主役のECのお祭りの日だけあって、同サイトでは普段より値段を安く販売したが、一方で天猫やAmazon中国、家電量販店系の「蘇寧易購」、「国美Plus」も京東のセールに便乗してそれぞれがセールを行った。

「京東(JD)」

 京東での6月1日~18日の売上額は前年の3.4倍となる1199億元、日本円にして1兆9000億円を記録した。取引件数は7億件だった。このうちスマートフォンなどのモバイル端末からの注文は88%を占めた。京東は家電に強いECサイトからスタートした関連で、スマートフォン、エアコン、薄型テレビ、冷蔵庫、洗濯機などが売れた。

 また、京東はECセール日に新技術を披露する傾向がある。今年はスマート化した自社無人倉庫をはじめ、中国人民大学など大学数校の学内での無人車による配達や、ドローン30機による配達を披露した(自社倉庫を用意する京東に対して、アリババは自社倉庫ではなく複数の配送会社や倉庫と提携し、全体をスマート化して効率を上げている)。

 一方で、競合するECサイトも前年比で数倍の売上を記録。中国のEC市場はまだまだ伸びていることを示す日となった。好調ではあったが、天猫のセール日にも見られる操作――セール直前に値引き前価格を上げ、さも値引きがすごいように見せる業者が目立った。

 「BAT」と呼ばれた中国ネット3強「百度(バイドゥ)」「阿里巴巴(アリババ)」「騰訊(テンセント)」から百度が脱落したと言われるようになり、その百度に京東が迫っている。2016年の上半期の結果次第で、両社は逆転する可能性はある。

2大EC企業、海外に進出

 京東は6月22日、英国のファッション系ECサイト「Farfetch」運営企業の株式3億9700万ドル分を購入して大株主となった。京東の海外初進出となる。Farfetchが世界で展開するECサイトにおいて京東のデータ分析を活用、また、Farfetchの中国進出で販売自動化のサポートをすると同時に、プロモーションによりFarfetchの中国国内の認知度を高めるという。

 6月28日にはアリババが、すでに投資している東南アジア各国に展開しているECサイト「Lazada」に対して、さらに10億ドルを投資。持株比率は51%から83%まで高まった。Lanazaは3月16日よりシンガポール向けに、中国商品を販売する「Taobao Collection」チャンネルをオープン。インドネシア、タイ、フィリピンにも同チャンネルをオープンする予定だ。また、アリババはイタリアのブランド品を扱うECサイトを運営する「Yoox Net-a-Porter」と交渉を開始し、投資・買収を行うという話も出ている。

 アリババはそのほか、ECを補完する物流や電子決済で外国への進出を進めている。既存の物流のスマート化を行う「菜鳥物流」は、シンガポールの郵政株に10.35%を投資。また、これまでも米国、ブラジル、オーストラリア、スペイン、カザフスタン各国の郵政と提携を行っている。さらに同社の電子決済である「支付宝(Alipay)」のノウハウも輸出している。

 一方、京東は海外の倉庫や国際運輸や通関手続きなどの越境ECソリューションを今後進めるとしている。

ネットテレビの寵児「楽視」が危機に、各方面への投資で資金繰りが悪化

 かつて動画配信サイト「楽視網」で著名ネット企業の仲間入りを果たした楽視(LeEco)が危機を迎えているとし、話題となった。楽視は動画サイトのほか、格安なスマートテレビ、スマートフォンの販売でも知られている。また、自動運転ができる電気自動車を開発していた。だが、今年に入って低迷が話題となり、特に6月は危機的な状況が伝えられた。

 事業のリストラや給与未払いの話題が出るようになり、6月26日、銀行の裁判所への申請により、楽視や同社のスマートフォン事業、CEOの賈躍亭氏夫妻らの資産などが差し押さえられた。楽視のスマートフォンの修理ができなくなるなどの影響が出ている。また、6月28日の株主総会では97億元の資金に対し、150億元以上の借金があると発表している。中国移動(チャイナモバイル)の通信利用費も支払えない状況となっているという報道も。その後、賈躍亭氏はCEOの座から降りている。

筆者も所有する楽視のスマートフォンと楽視の動画アプリ

 同社は米国のテレビメーカー「Vizio」を20億ドルで買収したほか、中国のテレビメーカー「TCL」に19億元を、中国のスマートフォンメーカー「酷派(Coolpad)」に22億元近くをそれぞれ投資。また、開催されたスポーツイベントの6割以上で配信をしていたが、そうした投資に対して収入が十分ではなく、資金繰りが悪化したのが原因。

ネット大手各社、大手銀行と提携し、フィンテックを深化

 6月16日、京東は中国大手銀行の中国工商銀行のフィンテックでの提携を発表した。ビッグデータ、AI、クラウドなどを活用し、消費者向け金融、資産管理など多方面で提携する。

 6月20日、百度と中国大手銀行の中国農業銀行がフィンテック実験室を設立するなどの戦略的提携を発表した。今後の両社の提携範囲は、資産の証券化、バーチャルマネー、フィンテックの産業への模索など。百度副総裁の朱光氏によれば、同社の金融戦略は3段階あり、2016年の年初からは投資や金融業務に力を入れるとし、これはすでに目標を達成したという。第2段階で資産管理・消費者金融プラットフォームの構築を行うとし、これは現時点で同社が取り組んでいるという。さらに第3段階として、2018年にはスマート投資サポートや金融アドバイザー、クラウド金融、ブロックチェーンなどのフィンテックソリューションを対外的に提供できるようにするというもの。

 6月23日には、騰訊と中国大手銀行の中国銀行が、クラウドコンピューティングやビッグデータ、AIなどの共同研究を行うフィンテック実験室を設立した。両社が共同で金融ビッグデータプラットフォームを設立し、両社の強みを生かし、ユーザーニーズのチェックやリスク管理体制の構築、金融効率向上などを目指す。また、騰訊は大手銀行の華夏銀行と同じくフィンテックで提携するという報道があった。

 さかのぼること3月28日には、アリババが中国建設銀行との提携を発表している。競合する大手ネット企業と大手銀行がそれぞれ提携することで、中国でのフィンテックの研究が加速しそうだ。

山谷 剛史

中国アジアITライター。現在中国滞在中。連載多数。著書に「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。