山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

海賊版問題、問われるプラットフォーム提供者の責任 ほか
2009年10月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国在住の筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

問われるプラットフォーム提供者の責任~海賊版問題

淘宝網で販売される海賊版

 淘宝網の出店者が海賊版の書籍「盗墓筆記4」を販売し、版元である中国友誼出版公司から訴えられた訴訟があったが、裁判所は店舗店長に対し経済損失2000元(約27000円)を原告に支払うよう命じた。また裁判所は、淘宝網自身はプラットフォームを提供しているだけで、海賊版を販売しているわけではなく、権利侵害の責任は負わないとした。

 また老舗ポータルサイト「捜狐(SOHU)」を中心に「中国オンラインビデオ反海賊版聯盟(中国網絡視頻反盗版聯盟)」が設立され、早速「優酷網(YOUKU)」などの動画共有サイトを相手取って損害賠償訴訟を起こしたことは先月の記事でも紹介したが、今月は、P2Pサイト最大手の「迅雷」を相手に、迅雷が369タイトルの海賊版を配信しているとして訴訟を起こした。

 対する迅雷もまた捜狐に対し損害賠償訴訟を起こすことで対抗した。捜狐は独自開発のエンジンによる検索サイト「捜狗」を擁しているが、この捜狗の検索結果に迅雷のオフィシャルツールソフトの直リンクがあり、ユーザーに正しい手順を踏まずにダウンロードをさせているため、権利侵害しているという。

 迅雷の件もまた、迅雷が提供するP2Pソフトを利用して海賊版を含む各種ファイルがやりとりされているため「迅雷自身はプラットフォームを提供しているだけで、責任は利用者各人にある」と解釈される可能性はある。まだ当記事掲載段階ではこの裁判は結審していない。

 似たような案例としては今年1月に、中国の最高裁にあたる最高人民法院が、百度の音楽検索サービスに対して「直接海賊版の音楽ファイルを提供しているわけでなく、リンクを自動生成しているだけなので、権利侵害には当たらない」という百度に対する無罪判決を行っている。

国家ネット放送局を2012年に開局~少数民族言語にも対応

 中国国家ネット放送局の開局を2012年に目指し、その準備を始めたことが発表された。コンテンツは従来のテレビ向けコンテンツだけでなく、テレビでは配信しない動画制作のプロによるコンテンツも用意。さらに、インターネットユーザーが作成したコンテンツも放送することを目指す。

 言語は中国語のほか、チベット語やウイグル語など中国国内に存在する少数民族の言語にも対応。そのほかに英語・日本語・アラビア語・ポルトガル語など8カ国語版の配信を予定する。配信ターゲットはパソコン環境だけではなく、屋外の大型スクリーンや、飛行機機内、列車内などさまざまな場所への配信を目指すという。

世界メンタルヘルスデーで、インターネット依存症を問題提起

2009年上半期の段階でのインターネット利用者年齢別比率(CNNIC調査)

 世界メンタルヘルスデーの10月10日、中国の各メディアは10代を中心としたインターネット依存症について問題提起した。中国メディアは、欧米のネット先進国に比べ中国では「インターネットを利用し始める年齢が若すぎ、かつ若者にとってインターネット=オンラインゲームとなっている」と分析。インターネット利用者のうち9.27%が若者で、そのうち2%がインターネット依存症であるという。

 この割合で計算すると、例えばインターネット利用率が省部では高い部類に入り、最もインターネット人口の多い広東省では、50万人の青少年がインターネット依存症になっているという。中国で最も発展している都市の深セン(センは土へんに川)の独自調査では、11.9%の小中高校生がインターネット依存症となっているという。

 2009年8月の記事「インターネット依存症施設に中国中央テレビが暴利とメス」をはじめとして、中国各地にインターネット依存症の青少年を治療する施設が存在するが、各施設でそれぞれ独自の方法で治療を行っているとしており、治療法が確立されていないことを問題視している記事も見受けられた。

 世界メンタルヘルスデーの前後には、中国政府も動いた。中国新聞出版総署は、暴力的で低俗とする45のオンラインゲームのサービスを停止させたほか、27のオンラインゲーム関連企業に警告を出した。また、中国政府文化部は、国産のアニメやゲームなどの“文化産業”を推進すると同時に同ジャンルのイベントを制限する「文化部文化産業投資指導目録」を発表した。

Googleブックスに中国作家協会が「著作権侵害」と猛反発

Google中国オフィシャルブログ「Google黒板報」の当該記事

 中国作家協会と中国文字著作権協会が「570人の著者の17922冊の書籍について、作者に無許可でGoogleブックスにデータを登録し著作権を侵害している」と発表、Googleに抗議した。

 このニュースは、中国全国ネットのテレビ局CCTV(中国中央電視台)の番組でも大きく紹介された。中国メディアはこのニュースを「Google著作権侵害事件」という意味の「谷歌侵権門」「谷歌版権門」と名付けて報道。こうした報道を受け、Googleのやり方は強引だとして非難の声が上がっている。

 Googleブックスのアジアパシフィック代表、Erik Hartmann氏はこうした事態を受けて北京を訪問。「著者への連絡がうまくいっていなかった」と弁明した。また、オフィシャルブログ「Google黒板報」においても「中国で出版社50社が承諾し、6万冊の書籍の権利を得た」と説明した。

 また、Googleは、訴えた570人の著者に対して掲載の可否を尋ねた上で、「掲載が可能であれば1冊あたり60米ドルを支払い、今後その書籍により収入が発生した場合、その63%を支払う」という和解案も提示した。

 しかし、「谷歌侵権門」ないし「谷歌版権門」の話題は、10月末の段階でも依然として盛り上がっており、Googleの弁明や和解案は、沈静化に成功したとは言い難い状況だ。

無許可の映像配信は愛国でも有罪

著作権侵害で損害賠償を求めて「世紀龍」を訴えた「央視国際」が運営するCCTVサイトのトップページ。「央視国際」では北京五輪のコンテンツを現在もオンライン配信している

 「世紀龍信息網絡有限責任公司(世紀龍)」が、北京五輪の聖火リレー動画の権利所有者である「央視国際網絡有限公司(央視国際)」に無断で配信していたとして、「央視国際」が410万元(約5500万円)の損害賠償を求めて訴えていた裁判の判決が下った。広州市中級法院は「世紀龍」に対し30万元(約400万円)の損害賠償を支払う判決を下した。

 「央視国際」は、聖火リレー撮影には莫大な費用と人材を必要としたとして、410万元の損害賠償を請求していたもの。一方、「世紀龍」では「映像はイベントを撮影した動画であり創造性はなく、複製せざるを得ないコンテンツであり、著作権保護の範囲に含まない。かつ、当該動画は愛国主義を宣伝するためのもので、営利的な動画ではない」と主張していた。

国慶節にオンラインショッピングは大盛況

 春節(旧正月)に続く、国慶節(建国記念週)と中秋節がセットの大型商戦期が到来。10月1日に中華人民共和国60周年となるため、その数日前からポータルサイトや中国系外資系問わず企業各社のサイトが、「祝中華人民共和国建国60周年」のバナーを貼り付け、特設コンテンツを掲載した。

国慶節色に染まったポータルサイトこちらもポータルサイト内の国慶節特設ページ

 この期間、オンラインショッピング市場は活況を呈した。中国オンラインショッピング市場で断トツのシェアを誇る淘宝網(TAOBAO)では、大型連休になったこの1週間で前年同期比120%増となる80億元(約1080億円)の取引額を記録した。

 この1週間の売上げ80億元は、同サイトの上半期の取引額約1000億元の12分の1、また同期間での中国全土の小売額の1.4%に相当する。また国慶節だけに、期間中、淘宝網では中国国旗が200万旒を筆頭に、中国の戦闘機や戦車の模型、それに国慶60周年のTシャツがよく売れたのも特徴的だった。

 また淘宝網を追う百度のオンラインショッピングサイト「百度有〓(〓は口へんに阿)」もまた、百度によれば普段の2倍以上の取引量と取引額を記録したという。その中でも、携帯電話やスポーツ用品やオンラインゲームのバーチャルアイテムの取引が目立って普段よりも多かったという。

 オンラインゲームのバーチャルアイテムの取引が多かったということは、この期間にオンラインゲームを集中して利用する人々が多いことを意味する。各オンラインゲームの同時オンライン数が普段以上の伸びを示したほか、インターネットカフェも一部の都市で空席を探すのが難しいほど活況を呈していたという。

 一方で、大型連休だからこそ旅行に行く人が多い。そのため仕事始めとなる連休明けの10月9日には、旅行帰りのホワイトカラーの人々がオンラインショッピングをこぞって利用したため、淘宝網では、1日の取引額では過去最高となる6億2600億元(約84億5000億円)の取引額を記録した。

百度がB2Cショッピング市場に進出。一方、淘宝網はC2Bを検討

百度の運営するショッピングサイト、「百度有〓(〓は口へんに阿)」トップページ

 百度のオンラインショッピングサイト「百度有〓(〓は口へんに阿)」は、「ヤフーオークション」や「淘宝網」のサービスと同様に、C2C(個人対個人取引)モデルだ。中国では、AmazonのようなB2C(企業対個人取引)よりもこのC2Cの方がずっと大きな市場となっている。

 中国でC2Cオンラインショッピングの最大手である「淘宝網」は、「淘宝商場」というブランドでB2C市場にも進出しているが、百度も新たにB2C市場に進出。「百度有〓(〓は口へんに阿)」の1コーナーとしてB2Cコーナーを開設した。

 一方、オンラインショッピング最大手「淘宝網」の親会社であるアリババ・ホールディングスの馬云氏は、「3年から5年後の近い将来、焦点はC2CからC2B(個人対企業取引)になる」と発言。C2Bサイトの開設をにおわせた。

中国IT富豪ランキング発表。100億元以上のIT富豪が5人も

「胡潤百富」が発表した2009年IT長者ランキング

 毎年、中国国内の金持ちランキングを発表する「胡潤百富」は、2009年のIT長者ランキングを発表。トップはチャットソフトQQの創業者、馬化騰氏で資産は239億元(約3200億円)、2位は老舗ポータルサイト兼オンラインゲーム運営企業の丁磊氏で179億元、3位は百度の李彦宏氏とオンラインゲーム最大手「盛大網絡」の陳天橋氏が並び、150億元(約2000億円)となった。




関連情報

2009/11/4 13:41


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。