山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

評判を金で買った疑いでApp Storeから消えたアプリ ほか
~2012年2月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

大手ベンダーのアプリ、評判を金で買った疑いでApp Storeから消える

 2月上旬、中国大手ユーティリティベンダー「奇虎360」のアプリがApp Storeから消えた。この原因について理由はどこからも公開されていない。しかし、2月7日にAppleのサイトで評価を操作する開発者に対してAppleが警告文を出しており、App Storeにおける同社のアプリの評判が不自然なことから、「奇虎360」が評判を金で買ったことでAppleの審査を受けて登録抹消してしまったのではないかと噂されている。

 中国のマイクロブログ「微博(ウェイボー)」のフォロワー数はもとより、本家twitterのフォロワー数をも販売している中国系のサイトが多数ある。中国最大のオンラインショッピングサイト「淘宝網(Taobao)」では、評判を販売する「刷排名」の店が多数あり、1カ月で5万回以上の販売数を記録する店も(もっともその販売数すらも操作されたものかもしれない)。中国系では特に広東省の深センにこうした業者は集中しており、複数のVPNサーバーとゾンビアカウントを使いこなし一人何役もこなしたのだという。相場は1万アカウント分の高評価で単価2元(約25円)以下、サイトによっては単価1元(約13円)をきる値段で購入できるところも。

 同社は近年、チャットソフト「QQ」で有名な「騰訊(tencent)」と「我がユーティリティのほうが優れているので、入っていたら相手のソフトを消す」と大げんかしたことで(結果的に)知名度を上げている。同社は事件的話題で知名度を上げる傾向があるとも解釈できる。

Appleのランキング操作業者に対する警告文AppStoreのランキング操作「刷排名」の実情について紹介する記事


iPad商標問題、中国のネット上でも大きな話題に

 iPadの中国における商標権を巡る争いは中国でも大きく報じられている。iPadは大人だけでなく子供の学習機器としても人気の商品だけに、法的な争いについてだけでなく、最新の販売情報も頻繁に報じられた。販売停止は一部地域で起きていたが、「水貨」と呼ばれる、香港などからの正規代理店を通さない並行輸入品の流通量が増加しただけで、大きな混乱は生じなかった模様だ。

「iPad停産」を表示する価格比較サイト


2大微博サイトのひとつ、ハッシュタグを活用し差別化

 中国のマイクロブログ「微博」は、「新浪微博」と「騰訊微博」がトップグループ、その後に「捜狐微博」と「網易微博」が第2グループとして追っている情況で、いずれも微博実名制を採用するようになった。

 前述の騰訊が提供する「騰訊微博」は、微博サービスを向上すべく特定のハッシュタグに関して特集ページを続々とオープンしている。現在までのところ「モバイルeコマース(移動電商)」「モバイルヘルス(移動健康)」「個人情報保護(個人信息保護)」「モバイルオフィス(移動弁公)」「儲かるeコマース実践(盈利電商実戦営)」が作られている。

騰訊微博の特定のハッシュタグでの特集ページ


中国公安、掲示板サイトを中心とした検閲結果を発表

 2月22日、中国公安部は昨年11月よりはじめた主に著名な掲示板サイトを中心に行われた検閲の結果を発表。人気掲示板サイト「天涯社区」「百度貼〓(〓は口へんに巴)」「捜狐社区」「西祠胡同」「第一視頻新聞網」など21のサイトで「弾薬・偽札・個人情報の販売など有害情報が突出している」とし、120万の有害情報と7846のスレッドを削除し、電話番号やQQアカウントを削除、犯罪者の逮捕で対応したという。CNNICによれば2011年末における掲示板サイト利用者数は1億4469万人。


人民解放軍御用達のゲームソフトが海賊版ソフトとして流通し騒ぎに

 中国の大手オンラインゲーム開発ベンダー「巨人網絡」と、人民解放軍南京軍区が共同開発した軍事学習FPSゲーム「光栄使命」。一般向けに公開されている「民用版」と人民解放軍内の学習用と娯楽用を兼ねた非公開の「軍用版」がリリースされているが、後者の「軍用版光栄使命」の海賊版が登場した。

 海賊版登場に巨人網絡は「光栄使命軍用版は中国人民解放軍向けであり、ダウンロードリンク提供や海賊版ソフト販売は我が軍の機密保持条例に違反する」恥知らずな行為だとして非難している。

 現在のところ機密を漏らした犯人を捕まえたという報道は聞かないが、過去に中国政府が北京五輪開会式動画の海賊版に対し、徹底的に賠償金請求で対抗したことがあるだけに、今回の件についても人民解放軍や巨人網絡は海賊版を配信する個人・団体に対して、迅速で厳しい態度を取る可能性がある。

「光栄使命」は人民解放軍御用達「軍用版光栄使命」を楽しむ人民解放軍兵士


各B2Cショッピングサイトが多角化し、ほぼ同じ土俵で競争化

 淘宝網が圧倒的に強く、ひとり勝ち状態のオンラインショッピングサイト市場に切り込むべく、安心できる企業が販売するB2Cが普及していった2011年。調査サイト「易観国際(Analysys international)」の発表によれば、2011年第4四半期のB2C限定のオンラインショッピング市場規模は764億元(約9550億円)であり、特にその中でもデジタル製品が266億元(約3325億円)を占め人気となっているという。古くはラオックス買収で知られる大手家電量販店の「蘇寧電器」のショッピングサイト「易購」ほか、同じく大手家電量販店の「国美電器」のショッピングサイト「庫巴網」はこの時流に乗って成長したとしている。

 さてそんな易購では去年書籍を扱い始めたが、さらに日用品なども扱うことを蘇寧電器は発表した。また国美電器も庫巴網で、日本ではホームセンターで扱われる住宅設備や日用雑貨について販売カテゴリを拡げることを発表した。デジタル商品では易購や庫巴網よりシェアの高い、デジタル製品系B2Cショッピングサイト最大手の「京東商城」も書籍などを扱い始めたが、2月には車や電子ブックをテスト販売した。

 2月、中国政府商務部は、伝統的な販売店である百貨店のオンラインショッピング進出を推奨する通知を発表。今年ますます多くの著名小売企業がB2Cオンラインショッピングに参入するだろう。

 さまざまなサイトが同じカテゴリの商品を販売する中、各サイトで重複して販売するようになった書籍については、テナント料の高さなど維持費の高さから都市部の書店の存亡が危ぶまれていた。その危惧は的中、2月には上海の一等地にあった本屋が閉店し話題となった。


Angry Birdsのオフィシャルグッズショップが開店し話題に

 B2Cショッピングサイト最大手の「天猫(Tmall、旧淘宝商城)」には2月、今中国で最も人気のゲームのひとつ「Angry Birds」のオフィシャルグッズショップが登場。「Angry Birds」の人気を裏付けるかのようにニュースで取り上げられた。天猫ではAngry Birdsグッズについて、正規品グッズ販売店と海賊版グッズ販売店とオフィシャルショップが競争することになる。
 
 「Angry Birds」はiOS版、Android版、PC版アプリがあり、全世界で6億ダウンロードを誇る。うち中国では1億ダウンロードを記録。中国での人気を背景に、ベンダーであるフィンランドのRovio Mobile社は上海に実店舗とテーマパークを展開する予定だと発表した。

 「Angry Birds」にはいくつものエピソードがあるが、特に中国で人気があることから中秋節(日本の十五夜)をテーマにしたエピソードが昨年秋にリリースされ人気を呼んでいる。この3月7日には、日本をテーマにした「Angry Birds Seasons: Cherry Blossom」がリリースされた。中国でのコンテンツビジネスに興味がある方は、中国ユーザーの傾向やニーズを知るために、「Angry Birds」アプリを試しに利用してみてはいかがだろうか。

Angry Birdsのオフィシャルショップ


オンライン旅行予約サイト、競争が激化

 B2Cに限らず、C2Cも含めればオンラインショッピング最大のサイトはまだまだ「淘宝網(TAOBAO)」だ。その淘宝網によるオンライン旅行予約サービス「淘宝旅行」の2011年のデータが発表された。淘宝旅行での販売額は前年比で倍増となる109億元(約1363億円)で、うち73億元(約913億円)を航空券が占めた。

 なお、調査会社「iResearch」ではオンライン旅行予約サービス市場は前年比51%増の2530億元(約3兆1625億円)と予測しており、うち4.3%を「淘宝網」が占めることになる。

 また旅行商品の価格比較サイト「去〓儿(〓は口へんに那)」は、航空会社「天津航空」と提携、香港行きの格安チケットを販売しはじめた。

 オンライン旅行予約サイト市場は、以前は「e龍」と「携程旅行網」の2強で占めていたが、携程旅行網が2月に発表した決算では、利益は対前年でマイナスに。市場は拡大しているものの、大手が参入して競合が増えライバルが強力になっていることと人件費アップで苦しんでいるようだ。

去〓儿(〓は口へんに那)


中国の人気アプリ配信サイト、統計結果を発表

 Androidアプリを配信する有力サイト「機鋒網」は、同社サービスの統計データを発表した。

 2009年にサービスを開始した同サイトは、同サイトに登録されているアプリは半年前の2.3倍となる8万超、毎日平均500万ダウンロード、総アカウント数は半年前の3倍となる750万超。ダウンロードされるアプリの内訳は、ビジネスアプリが65.55%、ゲームアプリが29.56%、電子ブックその他が残りとなっている。

 人気のアプリは「手機QQ(モバイルQQ)」がトップで、以下ブラウザーの「UC瀏覧器」、QQの騰訊が提供するチャットアプリ「微信」、北京一都市だけでも18万店のレストランやショップの口コミ情報がわかる「大衆点評」、中国では許可証がないと言われ続けているが多くの人に利用される「Googleマップ」、オンラインショッピングの「淘宝」と続いた。

機鋒網でアップされるAngry Birds Seasons Cherry Blossom。好評なようだ機鋒網のアカウント数とアクティブユーザー


宅配業者に新たな実名制導入などの課題

 オンラインショッピングが元気になれば潤うのは宅配業者だ。実際沿岸部の上海などのネットショッピングが特に普及している都市はもちろん、普及に遅れをとっている内陸の都市でも、宅配業者は日増しに多く見るようになったし、また積載量が増えている。最近では1月の春節をはじめとして、大型連休にともなう一大商戦期には宅配業者が対応しきれず、大量の遅延が発生するのが恒例のニュースになっている。増加する荷物の対応に追われる中、さらに「宅配の実名制導入」という新しい課題に業者は悲鳴を上げている。

 もともと宅配の実名制度については、議論には上がっていたものの強制するような雰囲気はなく、一部地域で試行する程度だった。ところが、2月に配送依頼人が配送先に報復目当てで爆発物を仕込む事件が起こったのをきっかけに、“犯罪防止のために宅配実名制を実施すべき”という動きへと流れが変わった。

 政府からの細則が発表されない中、2月23日に真っ先に実名制採用に手を挙げたのが大手宅配業者「圓通快逓」。この圓通快逓の動きには賛否両論で「作業員の工数が倍増するので配送コストと配送時間が今までどおりできなくなるし、実名化に拒否反応を示す消費者が逃げるのではないか」という分析も。実際メディア「鳳凰網」のアンケートでは半数以上が実名制に反対している。

 また、今に始まった話ではないが、宅配業者も人材コストの高騰に悩まされている。今や上海では月5000元(約6万2500円)でトラックドライバーを雇ってもおかしくないのだとか。


結婚相手紹介サイトがハッカーを雇い競合サイトをクラック

 「世紀佳縁」をはじめとした結婚相手紹介サイトが続々と登場し競争が激化する中、こうしたサイトでも競争相手に負けじとライバルのサイトを攻撃するというニュースが報じられた。

 事件は、アラフォー女性が運営する北京の結婚相手紹介サイトがハッカーを2人雇い、北京を拠点とする別の結婚相手紹介サイトのサーバーを10回以上にわたり攻撃、サーバーを停止させたというもの。この攻撃により、ターゲットにされた競合サイトでは多くの会員が退会し、112万元(約1400万円)の損失が発生。その後「破壊計算機信息系統罪(コンピュータシステム破壊罪)」で起訴された。

 被告の女性は「同様の攻撃を受けたからやりかえしただけ」と反論、また「こうしたことは普通のビジネス競争であり、サーバーへの攻撃が犯罪だとは知らなかった」とコメントしている。



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2012/3/15 06:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。