山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

政府主導ネット世論誘導「微博問政」に批判の声、削除人を「五毛党」
~2012年9月


  本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

政府主導ネット世論誘導「微博問政」に批判の声、削除人を「五毛党」

 マイクロブログ「微博」が普及する現在、微博中心のネット世論対策として「微博問政」なる方法がとられている。これは中央政府地方政府問わず、早めにオフィシャルの微博アカウントで公式メッセージを発信し、都合の悪い情報が拡散しないようにするというもので、反日デモのときにも暴力的デモの抑制に活用された。

 中国政府系メディア「小康」が9月に発表した、メディアの信頼できる情報の発信力についての調査結果では、微博はラジオや雑誌以上、新聞並の情報発信力があると分析され、ますます微博対策が重視されてきている。

 反日機運がまだ残る9月21日、微博問政に関するフォーラム「第二届網絡問政与輿情監測高峰論壇」が貴州省貴陽で開催され、微博問政の専門家や政府関係者200人近くが一堂に会し情報を交換した。フォーラムで、深センの微博問政が素晴らしかったということで、深センの担当者は2つの賞を与えられたという。

 こうした動きに、中国のネットコントロールをよしとしないインターネットユーザーが反発。中国に都合の悪い書き込みを消す作業員を「五毛党(1つ消すと5毛=7円貰えるという噂から)」と呼ぶことから、賞授与のニュースに「伝説の五毛賞を受賞した」「ただ削除するだけなく賞まで受賞した」と揶揄した。また「ネット世論を『監測』するというが、民意を汲み取るのであり、コントロールするものではない」と批判する声も。

第二届網絡問政与輿情監測高峰論壇のニュース微博問政についてのイラスト


尖閣問題が影響か、動画共有サイトで日本のコンテンツが削除される

 9月末、中国の各動画サイトからほとんどの海賊版テレビドラマが消えた。現在理由として、日本で改正著作権法が施行され罰金が科せられたため、という分析記事が掲載されている。しかし、アニメコンテンツが残っていることや、ドラマにおいては、「日韓」カテゴリーが「韓国」カテゴリーとなり日本のカテゴリーが消えるなど、日本のドラマだけが狙い撃ちする形で削除され、視聴できなくなっている。

 一部の中国人の間で日本のコンテンツは「文化侵略」と言われながらも、アニメ「NARUTO」「ワンピース」「銀魂」を筆頭として日本のコンテンツは人気がある。日本のドラマもアニメほどではないものの、一部で人気がある。そのため日本のドラマを愛好する人々の間では混乱が生じている状況だ。もっとも、もともと配信されているのは海賊版。このため、日本側としてはむしろありがたい状況とも解釈できる。

「古い日本のドラマしか動画共有サイトに置かれていない」と嘆く日本ドラマファンのやりとり優酷(YOUKU)でも「日韓」のカテゴリーが「韓国」へと変わった


CNNIC、携帯電話でのインターネット利用実態を発表

 CNNIC(China Internet Network Information Center)は携帯電話でのブラウザー利用実態についての調査結果を発表した。それによると、インターネット利用者は、携帯電話によるインターネット利用者の71.7%にあたる2億7800万人。またOS別では、Android利用者のうち82.2%がブラウザーを利用、同様にiOSでは77.3%、Symbianでは83.7%となった。

 利用するブラウザー(複数回答可)は、「UC瀏覧器(54.1%)」「携帯電話にデフォルトであるブラウザー(47.2%)」「結合版手机QQ瀏覧器(33.2%)」「手机QQ瀏覧器(33.2%)」「Go瀏覧器(9.8%)」「Opera(6.4%)」となった。

 また、普段利用しているブラウザー数は「1個(39.7%)」「2個(31.2%)」「3個(16.6%)」「4個以上(12.5%)」となり、複数ブラウザーをインストールしているユーザーがブラウザー利用者の半数以上を占める結果となった。

 携帯電話のブラウザー利用者の利用頻度は「毎日複数回(51.2%)」が多く、続いて「2,3日に1回(16.3%)」「毎日1回(16.0%)」「ほとんど利用しない(14.3%)」「週に一度(2.2%)」となった。また巡回するお気に入りのサイト数は、「1~3(52.8%)」「4~6(17.4%)」「7~10(5.4%)」「11~14(1.2%)」「15以上(4.7%)」「ひとつもない(6.6%)」という結果に。

 ブラウザーで利用するサイトは、ジャンル別(複数回答可)では、「ニュース(61.8%)」が6割を超え他を引き離してトップとなった。続く「検索(45.6%)」「電子ブック(44.3%)」「微博(41.3%)」が4割を超える。電子ブックが検索に続く人気であるところは日本とかなり異なると言えるだろう。

 5位以下も順に挙げておこう。「音楽サイト(35.6%)」「画像サイト(30.5%)」「メール(30.3%)」「掲示板(28.5%)」「ゲーム(26.3%)」「地図サイト(24.4%)」「ECサイト(22.4%)」「動画サイト(21.4%)」「SNSサイト(19.3%)」「リンク集(16.8%)」。

 またそれとは別に「ブラウザーで電子ブックを読む(51.0%)」「ブラウザーでアプリをダウンロードする(48.5%)」「ブラウザーに付帯する天気や通話料情報などを使用する(45.0%)」という利用が多くなされており、ここでも電子ブックが高い利用率となっている点が注目される。

3G&スマートフォン利用者をOS別に分類(iResearch調べ)


3Gアカウント数、2億突破か

 9月中旬、中国政府工業和信息化部は最新の通信普及状況をまとめた統計を発表。8月末時点での携帯電話アカウント数は10億7224万となり、うち3Gのアカウント数は1億9255万となった。3Gのアカウント数は毎月800万強増えていることから、9月には2億を突破した可能性が高い。

 3Gの内訳は電信各社の発表によると、TD-SCDMA方式を採用する中国移動(China Mobile)が7214万、W-CDMA方式を採用する中国聯通(China Unicom)が6369万、CDMA 2000方式を採用する中国電信(China Telecom)が5644万。

 スマートフォンが牽引しているが、iResearchの統計によれば、スマートフォン出荷台数は2011年が7210万台、2012年は1億1250万台(見込み)。3Gユーザーが利用するスマートフォンのOSは「Android(64.2%)」「iOS(15.2%)」「Symbian(7.0%)」などとなった。

 また若い社会人を中心に利用され、男性の利用率が高く、しかし月200元(約2500円)以下の通信費で抑える3G利用者が多い。また3Gユーザーの利用用途は2Gユーザーのそれに比べ、電子メールやオンラインショッピングやオンラインバンキングなどのビジネス用途の利用率が高くなるとiResearchは分析する。

キャリア別3G利用者数の推移スマートフォン出荷台数の推移


携帯電話向けチャットアプリ「微信」ユーザー数2億を超える

 LINEのようなモバイル向けコミュニケーションサービスのサービスが中国でもいくつか台頭している。そのうち最有力の「微信」はユーザー数が9月に2億を超えた。微信は国民的チャットソフト「QQ」の「騰訊(Tencent)」がリリースしており、QQで培った友人関係がそのまま利用できることが強みとなっている。騰訊の微信の後を新興の携帯電話メーカー「小米」がリリースした「米聊」や、キャリアの中国移動がリリースした「飛信」が追うほか、同種のサービスとしては「口信」「個信」「沃友」「翼聊」などがリリースされ、混戦模様となっている。

LINEのようなモバイル向けコミュニケーションサービスの利用者推移。単位:億人(iResearch調べ)微信はWechatという名で中国国外以外へも配信している


法不在で問題続出のバーチャルマネー向け保険が登場

 騰訊のQQでのアバターやオンラインゲームで利用するバーチャルマネーや、淘宝網(TAOBAO)で使われるバーチャルマネー「支付宝」など、中国のネットユーザーにとってはバーチャルマネーは身近な存在になっている。しかし、バーチャルマネーについての法律「中国虚擬財産保護法」は草案こそ出たものの、まだ成立には至っておらず法制度が追いついていない状況だ。

 法不在の状況下、保険会社の中国平安は、騰訊と淘宝網の親会社である阿里巴巴の2社と共同で保険会社を設立し、バーチャルマネーに関する保険を販売すると発表し。現在、オンラインショッピングの詐欺の被害総額だけで308億元(約3850億円)に達しているが、バーチャルマネーの保険はあっても、いざというときの保険額が非常に少ない商品しかない。新会社の登場で安心できるインターネットが構築できるか。

バーチャルマネー保険市場に進出する3社のニュース記事


Android改造OSにGoogleが「待った!」

 阿里巴巴がAndroidをベースに開発した「阿里雲OS」に黄色信号が灯った。阿里雲OS搭載のスマートフォンは、これまで中国地場メーカーの「天語」と「ハイアール」から数機種がリリースされていた。加えてAcerが阿里雲OS搭載のスマートフォン「Cloud Mobile A800」を発売しようとしていたが、その間近にGoogleから「待った!」がかかり、同機種の発売が中止となった。その理由は、AcerがAndroidの開発・推進を目的としたアライアンスであるOHAのメンバーであるため。

 阿里雲OSはGoogleのサービスを利用しないAndroid互換OSであり、この類の中国製の脱Googleのモバイル向けOSは他にも「楽Phone」「OPhone」「沃Phone」などがある。このニュースは、中国のローカルメーカーでないと安心して作れないことを意味し、その分、中国産モバイルOSの国際展開が難しくなったといえる。

阿里雲OSは雲の字の通り、クラウド機能が特徴


アパレル系オンラインショッピングサイト「凡客」不調でリストラ

 中国を代表するアパレル系オンラインショッピングサイト「凡客誠品(Vancl)」が減速している。北京や上海など大都市で広告を積極的に投入していた同社だが、今年の夏より広告を打ち出すのを控えたほか、子会社の配送会社の拠点も26都市から6都市に減らし、しばらくは大都市での販売に注力するという。

 オンラインショッピングサイトの中では、凡客は今夏から業績不調が疑われていたが、商戦期である9月末からの中秋節・国慶節商戦では、著名サイトが軒並み労働節商戦(5月1日からのメーデー商戦)に比べて3分の2程度のアクセス数になるなど、オンラインショッピングサイト全体が不調になっていると報道する記事も出てきた。一部記事ではオンラインショッピング運営会社各社とも、様々な製品ジャンルに手を伸ばしたため、「バブルになっていた」と分析している。

 ただし「凡客」は不採算拠点を縮小する一方で、9月にはベトナムのECPAYと提携、ベトナム市場への進出も報道されている。

凡客誠品


キャビンアテンダント、転売用商品の税金を納めず懲役11年

 淘宝網を副業で運営するキャビンアテンダント(CA)が、納税しなかったとして懲役11年、50万元(約625万円)の罰金の支払いを命じられた。2010年から2011年8月までにわたり、韓国の免税店で化粧品を買っては申告せず、淘宝網でその商品を販売し、合計113万元(約1412万円)の税金の申告漏れがあったというもの。

 中国では多くの人が外国の商品を密かに携えて持ち込んでは転売していて、常態化している。その個人輸入市場規模は年100億ドルとも言われる。そのためニュースはマイクロブログ「微博」を通じて次々に転載され、また「この判決は重すぎる」「そもそも多くの人が違法だと知らない」という感想がネット上で多数見られた。

 iPhone5発売時には、やはり多くの中国本土のバイヤーが香港で購入。発売日香港のApple Storeに並んだ人の3分の1がバイヤーが並んだと言われているが、同時にこの日多数のiPhone5が香港深センの税関で差し止められたことがニュースで報じられた。

CAへの判決にネットの反応の多くが「重すぎる」との反応



関連情報

2012/10/12 06:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。